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樹木シリーズ71 クサギ

  • 葉は臭いが花は芳香・クサギ(臭木、クマツヅラ科)

     身近な山野の日当たりの良い場所に普通に生える。葉は、少し触っただけでも強い臭いを感じる。草刈りで刈ってしまうと強烈な悪臭を放つが、意外にも西日本では、若葉を山菜として利用している。真夏に咲く白い花は、甘い紅茶のような芳香を放つ。
  • 名前の由来・・・葉っぱが臭いことから、「臭木」と書く。
  • 花期・・・8~9月、高さ3~9m
  • ・・・葉は対生し、トランプのスペードのような形をしている。両面に毛があり、手触りがフサフサしている。葉柄は2~10cmと長い。枝や葉には強い悪臭がある。 
  • 若葉は山菜・・・クサギは若葉を山菜として食用にしている。6月頃、採取した葉を熱湯で塩茹でして流水にさらしてアクを抜き(灰や重曹でもOK)、油炒めや佃煮にして食べる。茹でてから乾燥すると保存もできる。西日本では「臭木菜」、長野県や静岡県では「採り菜」と呼ぶ。禅寺の労働修行でクサギが利用されたことから「ボウズクサイ」、「オボックサイ」と、お坊さんに結びつけた別名もあったという。 
  • ・・・葉の臭気は薄れ、白い花の芳香を漂わせる。 
  • ・・・葉腋から長い柄のある集散花序を出して、白い花をつける。花冠は、細長い筒状で、先は5裂して平開する。 
  • 雄しべ、雌しべ・・・雄しべは4個、雌しべ1個は長く花冠の外に突き出るが、最初は下にうなだれる。雄しべがしおれると、雌しべが起き上がって伸び始める。葯は黒紫色で丁字形につく。ガク片は卵形で、果期には美しい紅色になる。 
  • 両性花・・・自家受粉を避けるため、一つの花では雄しべが先に熟して花粉を出す。この状態を雄性期といい、開花後約1日間。雄しべが花粉を出し終わると、雌しべが成熟する。この状態を雌性期といい、約2日間。雄性期には、4本の雄しべは斜め上方に突き出しているが、1本の雌しべは垂れ下がり、雌しべの柱頭の先端は固く閉じているので花粉を受け入れることができない。
    一方、雌性期には、4本の雄しべは垂れ下がり、1本の雌しべが斜め上方に突き出して、柱頭の先端に花粉を受け入れやすくするために、二又に開いている。 
  • 虫媒花・・・枝葉や茎から発散する強い特異な臭気とは対照的に、ユリの花に似たとても良い甘い香りを漂わせ、昆虫を誘う。花蜜のある花筒の蜜腺までが最大2.5cmと長いため、大半の昆虫は蜜源まで届かない。その中で有力な虫媒花昆虫は、大型のチョウ類であるアゲハチョウの仲間で、カラスアゲハ、クロアゲハ、オナガアゲハ、モンキアゲハなど黒系のアゲハである。 
  • 果実・・・秋になると星形に五裂した赤紫色のガクの上に丸く光沢のある青紫色の果実をつける。成熟すると、すぐに鳥たちに食べられ、種子は糞ともに排出される。林床面が明るくなると、一斉に発芽し、成長してクサギの群落をつくる。 
  • 実を食べる野鳥・・・ジョウビタキ、メジロなど。 
  • 薬草・・・葉に含まれるクレロデンドリンという成分は血圧の調節作用があり、動脈硬化や高血圧予防に有効とされている。夏の葉を小枝ごと刈り採って、乾燥させ、煎液にして利用する。リュウマチや高血圧、腫れ物、痔に用いた。 
  • 害虫駆除・・・葉に含まれるクレロデンドリンは、キャベツや白菜を夜間に食害するヨトウムシの摂食阻害物質であることから、昔は、葉の煎液をヨトウムシ防除や家畜のシラミ駆除剤として利用していた。 
  • 青色染料・・・青色系統の色が出るものが少ない中で、果実の煮汁は媒染材なしに布を青く染めることができる。古くから青色の染料として利用された。 
  • その他用途・・・根皮は利尿、健胃材。沖縄では、乾燥させたクサギ材で、イカ釣りの疑似餌をつくる。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「森の花を楽しむ101のヒント」(日本森林技術協会編、東京書籍)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「教えてゲッチョ先生! 雑木林の不思議」(盛口満、ヤマケイ文庫)