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樹木シリーズ72 カキノキ

  • 秋の味覚、秋の風物詩・カキノキ(柿の木、カキノキ科)

     秋の澄んだ青空に、橙赤色のカキの実が鈴なりになる風景は、秋を代表する風物詩の一つ。これほど慣れ親しんできたカキだが、日本原産ではなく、中国揚子江流域付近が原産地と考えられている。日本には、奈良時代の頃、中国から入って来たという説が有力である。果実は、食べるだけでなく、殺菌作用のある渋柿の葉の利用や柿渋の利用、材の利用、さらには俳句の季語としてもよく使われている。砂糖のない時代は、大事な甘い食べ物だっただけに、秋田の農山村では、必ず1本植えた。しかし、近年は、収穫されないまま放置されたカキが非常に多く、クマの異常出没を誘因する果実の一つになっている。 
  • 名前の由来・・・江戸時代後期の辞典「和訓栞」に「柿は実の赤きより名を得たるにや、葉もまた紅葉す」と記されており、これから赤い実がなる「赤木(あかき)」が転じて、カキになったとする説が有力。他に、秋に紅葉する「赤い葉」と、「黄色い実」から「赤黄」が転じたという説、朝鮮語の「kam」が転じたという説などがある。 
  • 漢字「柿」・・・中国語の「柿(し)」がそのまま用いられている。
  • kaki・・・果物としてのカキが世界に広まったのは、日本から。果物のカキを示す「kaki」は、フランス語、英語にもなっている。アメリカでは、「Japanese persimmon」と呼ばれている。欧米や北米には1800年代に日本からkakiが導入された。ヨーロッパなどでは完全に熟した状態で食べるのが普通らしい。
  • 花期・・・6月、高さ20m 
  • ・・・黄緑色の雄花と雌花があるが、小さく目立たない。雌雄同株だが、栽培品種では、雄花がつかない物が多い。雌花は、4つの雌しべをもつ。深く4裂した白ないし黄白色の花冠をもち、緑色のガクも深く4裂する。ガクはそのままカキの実のヘタになる。
  • ・・・大きな卵形の葉には、強い光沢がある。これは、強い日差しで水分が蒸発しないよう、脂質(クチン)とワックスでできた厚いクチクラで覆っているためである。 
  • 紅葉・・・「柿紅葉」と呼ばれるほど美しい。鮮やかな色に色づき、しばしば目玉のような模様が現れる。 
  • 秋、老化によってクロロフィルが分解され、隠れていたカロチノイドの黄色が現れる。同時に、離層ができて転流されなくなった糖分から赤い色素アントシアンがつくられ、葉は表面、中央、下方の順に赤くなる。 
  • 樹皮・・・網目のように縦に細かく裂ける。
  • 樹形・・・樹形は丸くなるが、高く伸びる。
  • 長寿、接ぎ木だと早く実をつける・・・カキノキは長寿で、樹齢500年というものもある。結実は実生で8年前後だが、接ぎ木苗では3年程度で実をつける。
  • 栽培種は中国から・・・野生のカキノキ属は通常二倍体だが、栽培種は六倍体。日本には奈良時代以前に中国西部から伝来したと考えられている。
  • 渋柿と甘柿・・・カキの渋味の原因は、果肉に水溶性のタンニンが含まれているから。甘柿にも、タンニンが含まれているが、果実が成長するにつれて果肉からアルコールなどの揮発性物質が発生し、これによってタンニンを含む細胞が凝固、収縮、または褐変することで、タンニンが水に溶けなくなるので、渋味を感じなくなる。甘柿の果肉には、褐色の「ごま」と呼ばれる斑点模様が見られるのは、タンニンを含む細胞が褐変しているためである。渋柿には、この揮発性物質があまり発生しないため、渋く感じられる。 
  • 甘柿は日本特産・・・中国や韓国の柿のほとんどは渋柿。日本に甘柿があるのは、長い年月をかけてカキノキを選抜してきた結果、渋みのない甘柿は、13世紀頃に出現した品種で、日本固有とも言われている。 
  • 寒い地域に甘柿が栽培できない理由・・・甘柿栽培の北限は、太平洋側が宮城県沿岸、日本海側は山形県沿岸である。多くの甘柿は、耐寒性が弱いから。寒い地域で甘柿を植えると渋いカキになってしまうのは、十分な積算温度に達する前に果実が熟してしまうからだという。
  • 渋抜き・・・アルコール度数35度以上の焼酎を用いる方法が一般的で、ヘタ部分を焼酎に浸した後、新聞紙で包み、2重にしたビニル袋に入れて密閉する。5~6 日で渋みが抜けて甘くなる。今では、「柿の渋抜き専用」のアルコール度数47度の製品も発売されている。 
  • 干し柿の作り方
    1. 渋柿の枝を少しTの字に残したまま収穫する。
    2. ヘタをとらずに皮をむく
    3. ヒモでカキを結び、風通しの良い軒下などで、1ヵ月くらい陰干しにする。
    4. 出来上がるまでに1、2度吊るしたカキをもむ。渋も抜け、糖度も増して、独特の風味の「干し柿」に仕上がる。 
  • 白粉つけ・・・干しあがったカキを乾燥したワラの間に2~3日おいてから寒風にあてると白い粉がふいてきて甘みが増す。この白い粉は糖分の結晶。ワラがなければ、包装紙や習字用の紙などの間に入れて箱などに入れておいてもOK。 
  • 干し柿の記録・・・12世紀に編纂された「類聚雑用抄」には、串柿、枝柿の記述が見られることから、宮廷貴族は干し柿を菓子として食べていたと考えられている。干し柿の白い粉は純粋なブドウ糖で、中国では丹念に集めて宮廷で使われていた。
  • 薬効多し・・・カキはビタミンCを多く含み、薬効が高いことから、「カキが赤くなると、医者が青くなる」と言われた。しかし、この諺は、特に柿だけではなく、ミカンや、ユズなども、同様に使われていることから、秋は食べ物が豊富で、過ごしやすくなるので、病人が少なくなるということの意味らしい。 
  • 柿渋・・・柿渋のタンニンは有用で、皮なめしに使われた。昔から渋柿から柿渋をとり、防腐、防水、補強用として紙や糸、布、革、木材、漁網、番傘に塗布したりした。民間薬として、火傷や虫刺されなどに用いられた。松尾芭蕉の俳句「かげろうの 我が肩に立つ 紙子かな」にある「紙子」とは、和紙を貼り合わせて表面に柿渋を塗った防寒着のこと。 
  • 柿の葉寿司(奈良県吉野地方名産)・・・殺菌作用のある渋柿の葉でサバの押し寿司を包んだもの。 
  • 柿の葉茶・・・葉にはビタミンCが緑茶の約20倍、レモンの約10~20倍も含まれていることから、柿の葉茶としても利用されている。 
  • 俳句
    里ふりて柿の木もたぬ家もなし 松尾芭蕉
    柿むいて今の青空あるばかり 大木あまり
    柿落ちて犬吠ゆる奈良の横町かな 正岡子規
    母よりの用なき便り柿の秋 西山春文
    柿ひとつ空の遠きに堪へむとす 石坂洋次郎
    頬ぺたに當てなどすなり赤い柿 小林一茶
    まさかりで柿むく杣が休みかな 水田正秀
  • 10月26日は柿の日・・・正岡子規の名句「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」は殊に有名だが、この句を詠んだの日が、明治28(1895)年10月26日であることから、その日にちなんで、全国果樹研究連合会カキ部会が2005年に制定。
  • 実を食べる野鳥・・・ムクドリ、ヒヨドリ、ツグミ、シロハラ、アカラ、トラツグミ、スズメ、オナガ、カケス、キジ、カラス、アトリ、エナガ、メジロ、アオバト、アカゲラ、アオゲラ、コゲラなど。
  • 材の利用・・・わりと硬めで果樹材特有の滑らかさがある。心材の一部が黒くなっていたり、黒っぽい縞が入っている部分の材をクロガキと呼ばれて珍重された。黒色を出せる材は貴重だったことから、茶室の床柱、茶道具、工芸品などに使われてきた。
  • クマの出没を誘因するカキ・・・最近は、食べる人が少なくなり、収穫されないまま多くのカキが残されている。放置されたカキは、野鳥だけでなく、クマも大好物だから、中山間地域を中心にクマの異常出没を誘因する一つとなっている。クマの出没が恒常化している地域は、熟す前に残さず収穫するか、あるいは伐倒する必要がある。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「゛読む゛植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「木の実ノート」(いわさゆうこ、文化出版局)
  • 「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり」(山と渓谷社)
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)