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樹木シリーズ78 オオバクロモジ

  • 香り高い高級爪楊枝材・オオバクロモジ(大葉黒文字、クスノキ科)

     主に太平洋側に生えるクロモジの変種で、日本海側の多雪地帯に生える落葉低木。幹や枝が緑色をし、枝を折ると芳香があることから、和菓子の楊枝に欠かせない樹木である。芳香、殺菌力、丈夫さなど、他の木には代えがたい価値がある。葉は枝先に集中し、新しい葉が展開すると同時に黄緑色の小さな花を10個ほどつける。 
  • 生育場所・・・日当たりの良い山地、ブナ帯の森の林床。
  • 見分け方・・・クロモジとオオバクロモジは、共に樹皮が緑色で黒い斑点がある。クロモジの葉の表面は光沢があるが、オオバクロモジの葉は大きく光沢がほとんどないのが特徴である。しかし、中間型の木もあって、区別が難しい。だから、ここではブナ帯に多いオオパクロモジだけを対象にして記す。 
  • 名前の由来・・・葉が大きいことと、古くなると樹皮に地衣類が付着して黒い斑紋ができる。それが黒い文字のように見えることから、「大葉黒文字」と書く。 
  • 別名「トリキシバ」、「トリコシバ」・・・青森県では、小鳥を餅で捕る時、餅をつける止まり木にクロモジを使ったのが別名の由来。 
  • 花期 4~5月 高さ1~3m 
  • ・・・根元から多くの幹が株立ちし、枝を広げる。葉が展開すると同時に黄緑色の花が多数咲く。早春のブナ林では、マンサクに次いで早く開花する。花は、半透明な黄緑色で良く目立つ。雌雄異株。
  • 「絹の如く ふくらみ来る 黒文字の 芽の下に丸き 蕾いまだし」(土屋文明)・・・葉の脇に6枚の花被片をつけた花を咲かせる。 
  • 樹皮・・・クロモジと同じく、樹皮は緑色で黒い紋様がある。その黒い斑紋を文字に見立てたのが名前の由来。枝を折れば芳香を放つ。 
  • 焚き火とオオバクロモジ・・・オオバクロモジは水をよくはじくので、山中で火を焚く時の焚きつけに使われた。
  • ・・・長楕円形で、先は尖り互生する。クロモジより葉が大きく長さ8~12cm。表面は光沢がなく、裏面は白っぽい。 
  • 若葉とその下に咲く花は、羽子板の羽根を連想させる。 
  • 果実・・・クロモジよりやや大きく直径5~7mmの球形で、黒く熟す。中に黒褐色の種子が1個ある。 
  • 黄葉と黒く熟した果実
  • 黒く熟すと、一見サクランボと同じく美味しそうに見えるが、食用には不向き
  • クロモジの実と野鳥・・・アカハラ、オナガ、カラス、ツグミ、ヤマドリなど。
  • びんつけ油・・・白神山地の目屋マタギは、この実をつぶして「びんつけ油」(力士がマゲを結う時に使う香料油)として利用した。マタギが入山する時やマタギ小屋に長く滞在して下山する時は、髭を剃り髪をきれいにして、クロモジの実をつぶした「びんつけ油」を使った。
  • 黄葉・・・秋、鮮やかな黄色に色付く。
  • 黄葉とナメコ採り・・・ブナ帯の林床に群生するオオバクロモジが黄葉すると、ブナの倒木に群生するナメコ採りの最盛期が訪れたことを告げる。
  • クロモジの黄葉の奥にカモシカが隠れている。
  • 長生きするための戦略・・・20年もすると、古い幹の葉の量は一定になる。古い幹が枯れると、根元から新しい枝が出てくる。根株は拡がり100年も生き続けるという。高木にはまねのできない生存戦略をもっていることから、ほとんど暗い林床でも長生きできる。だからブナ帯の森の林床には、驚くほど多く繁茂している。 
  • 高級爪楊枝・・・楊枝を使う風習は、仏教の伝来とともに日本に伝わった。当初は、僧侶が歯ブラシのように使っていたが、その後、現在のような爪楊枝の使い方が広まった。リナロールやテルピネオールなどの精油を含んでいるので香りが強く、ある程度の硬さもあることから、爪楊枝の材に選ばれた。 
  • クロモジ油・・・葉には、リモネン、シネオール、リナロール、テルピネオール、カルボンなどの芳香のあるクロモジ油が多く含まれている。昔は、水蒸気蒸留したクロモジ油が生産されていた。香水や石鹸の香料として用いられた。
  • 生薬「釣樟(ちょうしょう)」・・・クロモジの根の皮を掘り取って、水でよく洗い、刻んで風通しのよい場所で陰干しにする。急性胃腸カタルや脚気、去痰、鎮咳、湿疹などに効き目があるとされている。また、クロモジの幹や枝を使った生薬「烏樟(ウショウ)」は、薬用養命酒にも使われている。
  • マイタケを包む包装材・・・山のプロは、マイタケに当たると、オオバクロモジの枝葉でツトを作り、重ねても崩れないように大事に持ち帰る。その作り方は、まず葉のついたクロモジの枝を三尺ほどの長さに数本切る。葉先側は弱いので、互い違いにする。それを×状態、あるいはマイタケを包み込むように数多く置き、その中にマイタケを入れ、折り曲げてから端と端を合わせて細ヒモで結ぶ。つまり、風呂敷で包むのと同じ感覚で、クロモジの枝で包む。
  • その他用途・・・材質が軽く強靭なため、洋傘や鎌の柄、輪かんじき、ぶり縄の棒、焚き火の焚きつけ、キノコを包む包装材など、山村の生活には欠かせない重要な樹木であった。
参 考 文 献
  • 「週刊 日本の樹木01 ブナ」(学研)
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「続゛読む゛植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし、秋田文化出版社)  
  • 「白神山地ブナ帯地域における基層文化の生態史的研究」(研究代表者・掛屋誠・弘前大学人文学部教授、平成2年3月)