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樹木シリーズ77 ヤマブキ、ヤエヤマブキ、シロヤマブキ

INDEX .ヤマブキ、ヤエヤマブキシロヤマブキ
  • 春、鮮やかな黄金色の花を咲かせるヤマブキ(山吹、バラ科)

     山地の谷川沿いなど、湿った所に普通に生えるほか、庭などに広く植えられている。鮮やかな黄色の花を咲かせ、黄金色を山吹色というほど親しまれている。昔は大判、小判を連想させてその隠語にも使われた。花弁が八重になったヤエヤマブキ、花弁が細く多いキクザキヤマブキ、葉にクリーム色の斑が入るフイリヤマブキなどの園芸品種がある。白い花を咲かせるシロヤマブキは別種。1811年、菅江真澄は秋田市金足で、ヤマブキを軒先などに吊るす風習を絵図に描いている。現在、その再現として、ヤマブキが咲く4月下旬~5月上旬頃、旧奈良家住宅の軒先にヤマブキを500本(下の写真)ほど飾っている。 
  • 名前の由来・・・古くは、「山振(やまぶり)」の字があてられ、しなやかな枝が風に揺れる様子から名付けられたとの説が有力。他に、春に咲く花が山を黄金色に染める「山春黄」と書いたものが「山吹」に変化したとか、花の色が春を代表するフキノトウに似て美しいことからなど諸説ある。
  • 山振の立ちよそいたる山清水汲みに行かめど道の知らなく(「万葉集巻二」、高市皇子)・・・ヤマブキ(山振)の花が、ほとりに美しく咲いている山の泉の水を汲みに行こうとするが、どう通って行ったらよいか、その道がわからない、という意味。
  • 花期・・・4~5月 高さ1~2m。開花は、九州南部で3月下旬、南東北以南で4月、北海道西部・北東北で5月、北海道中央部以東では6月開花となる。開花から満開まで10日から1週間の期間があるが、北東北・北海道では、開花から満開までほとんど日をおかない。 
  • ・・・枝の先に鮮やかな黄金色の花を1個開く。花弁は5個で平開し、倒卵形で先は丸くてわずかにへこみ、基部は急に細くなる。 
  • 山吹色の饅頭・・・時代劇で悪代官に賄賂として「山吹色の饅頭」の菓子箱を渡すシーンがあるように、昔は大判、小判を連想させる隠語として使われた。それほど「黄金色」の花は鮮やかである。ちなみに上小阿仁村郷土銘菓「山吹まんじゅう」という人気商品もある。
  • 春、里山にこの花が咲くと、ぱっと明るくなる。ヤマブキは、地下茎を伸ばして増え、根元から群がって生える。林の下を覆うように枝を広げて花が咲く。 
  • 自然暦・・・九州山地の椎葉村では、「ヤマブキの花が咲いたらヒエを蒔け」と言われ、ヤマブキの開花が農作業の自然暦として利用されていた。 
  • 貝原益軒「花譜」(上写真:ヤエヤマブキ)・・・「地方によって花の善悪があるのだろうか。唐にてはさほどの愛玩はないが、わが大和では愛でもてあそぶことが盛んである。古歌にも多く詠われている。樹下の陰地がよく、日当たりの良いところは栄えなくて、日に当たれば花の色は枯れて白くなる。八重咲きをよしとし、一重は劣る。拾遺集の歌に゛わがやどの八重やまぶきはひとへだにちりのこらなんはるのかたみに゛と詠めるは、散るのを惜しんだものである。山野に生じるは、一重である。また白い一重がある。黄白に彩っていてる。およそ山吹は、植えてまがきにつくる。いかにも清らかな玩びである。根元まわりに肥料として、小便を与えてもよい」 
  • ・・・卵形又は狭卵形で、表面は鮮やかな緑色。縁には不ぞろいの重鋸歯があり、葉先は尾状に長い鋭尖頭となる。 
  • 果実・・・5個の種子が星型に並ぶが、通常熟すのは1~4個。
  • シロヤマブキの実 
  • 枝は毎年脇枝を出すが、3~4年で枯れる。低コストで回転率を上げることで、個体の生産性を維持していると考えられている。緑の枝の下には、使い捨てとなった枯れ枝が折り重なっている。この古くなった茎は、定期的に間引くと、よく花が咲くようになる。
  • 山吹髄の利用・・・茎の中にある白い髄を「山吹髄」と呼び、釣りの浮きや目印、灯心の代用、玩具の竹鉄砲の弾などに利用した。また、顕微鏡で観察するめに、もろい素材を薄切りにする際のビスとして重宝された。 
  • 世界的には珍しい植物・・・日本では、北海道から九州まで広く分布しているが、国外では、中国の一部に分布するだけの珍しい植物。
  • 元禄の頃、長崎市に来ていたケンベルが初めてこの花をみて、著書にヤマブキの名を記した。その後、ツンベルグが学名をつけ、シーボルトが「日本植物誌」に美しい色彩図を描いて広く世界に紹介している。 
  • 万葉集には、19首が詠まれている。
    花咲きて実は成らずとも長き日に思ほゆるかも山吹の花
    花だけ咲いて実は成らないことから、恋が成就しないことを詠っている。だから「ヤマブキは実がならない」と思っている人が意外に多いらしい。一重のヤマブキは実がなるが、八重のヤマブキは実がならない。 
  • 菅江真澄が描いた絵図「軒の山吹」(秋田県立博物館蔵写本)・・・「秋田郡の金足の庄・・・などの村々では、3月の24日ごとに山吹の花で軒を吹く風習がある。その由緒は不明だが、とても面白い景色である。この庄を金足というのは金瀬などとでも書いたのだろうか。昔その源に鉱山があり、そこで働いていた人々がそこに住み着き『陸奥山に黄金花咲く』の例えのように、人々は山吹の黄金色の花で家ごとの軒を葺いたのであろう。」 
  • 年占いの行事・・・真澄は、家々の軒先だけでなく、小屋や厠の軒先に至るまで、丸餅をさし連ねた枯葦と山吹の花が飾られているのを見た。その翌日、雨降りでどこにも出かけられず、「軒の山吹」を見ていた。すると、カラスが羽をばたつかせて丸餅を残りなく食べた。その羽ばたきで山吹の花も残り少なくなるまで落ちた。この風習は、ヤマブキと一緒に丸餅を供えて鳥に食べさせ、その花が散れば散るほど吉兆と占った、年占いの行事として行われていた。 
  • 花言葉・・・気品、崇高、金運
  • 花言葉「金運」・・・「金運」は、谷底に落とした金貨がヤマブキの花になったという言い伝えによるとの説がある。また、ヤマブキの色が「金」を思わせることによる。
  • 俳句・・・春の季語、山吹以外に八重山吹、濃山吹、白山吹、葉山吹など
    • ほろほろと山吹散るか滝の音 芭蕉
    • 山吹や馬つながるる古地蔵 一茶
    • 山吹や井手を流るるかんなくず 蕪村
    • 山吹や小鮒入れたる桶に散る 正岡子規
ヤエヤマブキ
  • ヤエヤマブキ(八重山吹、バラ科)

     ヤマブキの八重咲の園芸品種。古くから庭などに植えられている。株立となり、周囲に多くの地下茎を出す。ヤマブキより遅れて咲き始める。雌しべは退化しているので実はつかない。
  • 室町時代の武将・太田道灌の故事・・・鷹狩りに出た道灌が雨に降られ、あばら家で蓑を借りようとしたら、若い娘が無言で山吹の一枝をさし出した。意味が分からず帰った道灌は、ある人から、こう教えられた。それは「実の」を「蓑」にかけて、蓑一つ無い貧しき身の上を恥じ、古歌で娘が伝えたのだと。それを知った道灌は、自分の無学を恥じ、歌にも志を寄せるようになっという。
  • その古歌は・・・七重八重花は咲けども山吹の 実(蓑)のひとつだになきぞ悲しき(1155)
    この古歌は、実がならない八重のヤマブキを詠ったものと言われている。
シロヤマブキ
  • シロヤマブキ(白山吹、バラ科シロヤマブキ属)

     岡山・広島県の山地に稀に自生するが、庭や公園に植えられることが多い。ヤマブキとは別種で、シロヤマブキ属の1属1種。
  • 花期・・・5月、高さ2m
  • ・・・枝先に白色の花を1個開く。花弁は4個。
  • 葉・・・対生し、卵形で先は鋭く尖り、縁に鋭い重鋸歯がある。
  • 果実・・・楕円形で、4個。黒く熟し、光沢がある。葉が落ちた後も黒く光って鳥を誘惑する。ただし、黒い実は、歯が立たないほど硬く、鳥が呑み込んでもそのまま糞として排出される。鳥をだまして種子を運ばせる戦略と考えられている。 
  • 山吹やしどろと伸びる芝の上 芥川龍之介
  • 蕎麦すする夕山吹のなつかしき 渡辺水巴
  • 山吹に渕の暗さを想いけり 高澤晶子
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社) 
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「菅江真澄 旅のまなざし」(秋田県立博物館)
  • 「資料 日本植物文化誌」(有岡利幸、八坂書房)  
  • 「季語 早引き辞典 植物編」(監修 宗田安正、学研)