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樹木シリーズ82 カラマツ

  • 美しく黄葉し、落葉するカラマツ(唐松、マツ科)

     日本に生えている針葉樹の中では、唯一落葉する木。秋には美しく黄葉する。その後、葉はパラパラと散ることから、落葉松とも呼ばれている。元々は、東北地方南部から中部地方にかけて日当たりのいい山地に自生していた。主な産地は、日光、富士山、八ヶ岳、浅間山など中部山岳地方。寒さに強く、乾燥地でも育ち、成長が速いことから、北海道や東北地方で明治以降、盛んに造林された。 
  • 名前の由来・・・中国産の五葉松に似ていることから、「唐松」と書く。漢字で書かれていると、中国原産と勘違いされることがあるので注意。自生地の地名をつけた別名富士松、日光松、落葉松などとも呼ばれている。 
  • 花期・・・5月、高さ20~30m 
  • 若葉も美しい・・・枝にコブ状の短枝が出て、その先に柔らかい針状の若葉が20~30本束になってつく。その芽吹きのやわらかな浅緑の美しさは格別である。 
  • 去年の球果が残る枝に、新しい葉が束になって芽吹く。 
  • 黄葉も美しいが、新緑もまた美しい
  • ・・・雄花は、卵形で下向きにつき、雌花より目立たないが、たくさんつく。雌花は、上向きに直立するか、やや横向きにつき、良く目立つ。受粉すると雌しべは閉じる。 
  • 球果・・・松ぼっくりは1年型。上向きのまま、その年の9~10月には黄褐色に熟す。松ぼっくりは長さ2~3cm。先が外側にそる果鱗は、お腹に翼のある種を2個ずつ抱いている。 
  • 樹皮・・・灰褐色で、細長い縦のうろこ状で剥がれる。幹は真っすぐに伸び、樹形は円錐形。 
  • 落葉松・・・種がほとんど落ちた頃に葉が色付き、松ぼっくりを枝に残して散っていく。その秋らしい風情が好まれ、落葉松と字をあてて歌に詠まれる。 
  • 秋、見事に黄葉する。カラマツの植林地が多い所では、山が黄色く染まって美しい。 
  • 天然カラマツ・・・富士山や浅間山、尾瀬、八ヶ岳などに見られる。 
  • 植林・・・明治以降、開拓による失火など幾多の山火事で、見渡す限りの原野や荒地となっていた約18,000haもの北の大地が、10年間にわたるカラマツの植林により緑の山として蘇った。先駆的植林という意味をこめ、パイロットフォレスタと呼ばれた。 
  • 第一級の陽樹・・・明るく開けた荒野のような場所で主に育つ先駆種。例えば、伐採跡地や山火事跡地、火山荒原など。カラマツの種子初産年齢は低く20年程度。種子は翼を持った小さなもので、風に乗って飛び、その一部は明るく開けた場所に辿り着く。そして速い生長をみせる。一方、何十年後にカラマツ林ができると、その林床に落ちた種は日陰に弱い陽樹だから、育ちにくい。やがて侵入してきたシラビソやコメツガ、ミズナラに駆逐される運命にある。だから、カラマツは荒地を渡り歩く先駆者に徹するほかない。 
  • 陰樹に駆逐されても生き延びられるのはなぜ・・・森の中は暗いので、陽樹よりも陰樹の方が競争力が強い。それになのに生き延びられるのは、毎年繰り返される災害など、常に大小の攪乱にさらされているからである。種の多様性は、自然災害=攪乱が大きく貢献していることも見逃してはならない。 
  • 氷河期の遺存種・・・カラマツは、寒冷で乾燥した最終氷期にはかなり繁栄していたと考えられている。現在、カラマツとチョウセンゴヨウ、ミズナラの混交林が中部山岳にわずかにみられる。この混交林は、氷河期の日本に広く分布していた森林タイプ。その後、温暖化と湿潤化に伴って、耐陰性の強いシラビソやオオシラビソ、コメツガなどに駆逐され、中部山岳のごく一部に限定的に残るだけになった。 
  • カラマツはなぜ落葉するのか・・・カラマツは日本特産種だが、高緯度地方で獲得した特質と考えられている。高緯度地方は、冬、昼の長さが極端に短いため、ほとんど光合成ができない。落葉は、高緯度地方の暗い冬に対する適応と考えられている。 
  • シカが急増している一因・・・原生的な森では、林床が暗く、シカのエサとなるササはほとんどない。カラマツ人工林の林床は、明るく、ササが繁茂しやすい。シカは、このササを食べることで増えたのも一因と言われている。 
  • 若山牧水「落葉松林の中の湯」・・・からまつの林を過ぎて/からまつをしみじみと見き/からまつはさびしかりけり/たびゆくはさびしかりけり/からまつの林を出でて/からまつの林に入りぬ/からまつの林に入りて/また細く道はつづけり・・・
  • 短 歌
    落葉松の色づくおそし浅間山すでに真白く雪降る見れば 島木赤彦
    から松も雨のけぶりも埋めざる浅間のふもと明星の池 与謝野晶子
    かへりきて家の背戸口わが袖の落葉松の葉をはらふゆふぐれ 若山牧水
  • 「日本の美林」(井原俊一)・・・「風が吹くたびに、黄金色の木々が揺れる。細かい針のような葉が、糸を引きながら落ちていく。無数の葉が空中を舞い、落ち葉で覆われた地表も波打つ。まるで桃源郷に足を踏み入れたような、うっとりする光景だった・・・単一の樹種がこれだけ植えられていても、なぜか悪い気持ちはしない。カラマツは新緑、濃淡、黄葉、落葉と季節によって姿をかえていく」
  • 木道に利用・・・尾瀬などの木道は、以前、トウヒやナラなどが使われたが、湿原は酸性が強く木道が傷みやすいことから、腐食に強いカラマツのみを利用するようになったという。
  • 材の利用・・・樹齢を重ねた天然林材は、目が細かく硬さもあり良材として建築材に重用された。しかし、人工林材は、ねじれや暴れやすく、ヤニが出やすいので、炭鉱の坑木、梱包材に使われた。近年、乾燥技術が進み、集成材や合板などの用途に広がっている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫ほか、朝倉書店)
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
  • 「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり」(平野隆久ほか、山と渓谷社)
  • 「資料 日本植物文化誌」(有岡利幸、八坂書房)