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樹木シリーズ88 タニウツギ、ヤブウツギ

INDEX タニウツギ、ヤブウツギ
  • 初夏を告げる美しい花だが、忌み嫌われるタニウツギ(谷空木、スイカズラ科)

     主に日本海側の日当たりの良い山野に普通に生える落葉低木。明るいところを好むパイオニア植物で、道路際や雪崩斜面、時に亜高山から高山帯まで広く分布している。初夏を告げる花は、小枝の先から淡紅色~紅色の美しい花をたくさん咲かせる。花の形はラッパ形で細長い。時に白花のものがあり、シロバナタニウツギと呼ばれている。秋田では、この花が咲けば人気の高いタケノコ採りシーズンがスタートする。かつては、若葉を蒸してから乾燥保存し、飢饉の際の救荒植物として利用された。雪国の美しい花だが、火事を呼ぶとも言われ、家に持ち込んだり、庭に植えることを忌み嫌う風習がある。 
  • 名前の由来・・・谷間に多く生えていることから、「谷空木」と書く。空木(うつぎ)とは、髄が消失し中空になる木を言うが、タニウツギには白い髄が詰まっている。 
  • 花 期・・・5~6月 
  • 樹形・・・下部からよく分枝して株立ちになり、高さ2~5mになる。 
  • ・・・ラッパ形の淡い紅色~紅色の花を2~3個づつつける。5つに分かれた花びらから飛び出した丸い雌しべがよく目立つ。 
  • 雄しべ、雌しべ・・・雄しべは5個。花糸は花冠の半ばまで合着し、下部には毛がある。雌しべは1個。花柱は花糸よりやや長く、先端は円盤状の柱頭がある。 
  • 花筒とマルハナバチ・・・マルハナバチの体がすっぽり入る大きさに花筒を広げる。まるでマルハナバチのサイズに合わせたかのようにピッタリ。 
  • ・・・対生し、楕円形または卵状楕円形。先端は鋭く尖り、縁に細かい鋸歯がある。葉の裏面は、全体的に白い毛が密生して白っぽく見えるが、主脈上はほとんど無毛という特長がある。
  • 果実・・・蒴果で円柱状。成熟すると先端が2裂して、細かい種子を多数出す。種子は長楕円形で直径約2mmと小さく、縁に翼がある。
  • 樹皮・・・古い枝の樹皮は灰褐色で、縦に薄く裂けて剥がれ落ちる。髄は白色。
  • 本年枝・・・紫褐色を帯び、皮目が多い。   
  • 時に亜高山から高山帯でも見掛ける・・・森吉山、神室山(上の写真)では、標高1300m前後の稜線上にタニウツギが見られる。秋田駒ヶ岳でも、新道コースで見られる。 
  • 森吉山・標高1300m付近のタニウツギ・・・低木化し、地を這うような枝先から地上すれすれの所で花が咲いていた。
  • 100を超える地方名がある・・・それだけ昔から人々と深いかかわりのある樹木。秋田では、ガザ、鰯がとれる頃に咲くからイワシバナ、ガサキ、火事花などと呼ばれている。 
  • 花暦・・・里山にタニウツギが咲き始めると、春が終わり、初夏を告げる。秋田では、タニウツギがどこにでもたくさん生えている花だけに、タケノコ採りファンにとっては、タケノコ採りシーズンの到来を告げる花暦にもなっている。 
  • パイオニア植物・・・道路際や雪崩斜面など明るいところを好むパイオニア植物。イワナ釣りで谷を歩いていると、その名のとおり、タニウツギの美しい花によくよく出会うが、特に目立つのは、毎年雪崩で攪乱されるような痩せた雪崩斜面に多く群生している。 
  • タニウツギロード・・・パイオニア植物だと実感するのは、初夏、沢沿いの林道を走るか、崩壊林道を歩けばすぐに分かる。その両サイドに、淡い紅色の花々が延々と彩り、まるで「タニウツギロード」と呼びたくなるほど大きな群落をつくっている。 
  • 石川理紀之助翁も推奨した救荒植物・・・かつては、若葉を蒸してから乾燥保存し、飢饉の際にカテ飯にして増量したり、焼餅の中身に入れたりと救荒植物として利用されていた。その使い方の詳細は、秋田県農業の神様・石川理紀之助翁の「山居成蹟」という書物に書かれている。
     それによると・・・若葉をよく干して臼でつき、米粒ほどとし、これを水に浸して蒸し、よく乾燥させる。いざ、というときには、逆にそれを煮て水気をしぼれば再び食べられるようになる。二重俵に入れて火棚や屋根裏の乾燥するところに上げておけば、何年たっても味は変わらない。 
  • 美しい花だが、縁起の悪い花・・・花は実に美しいのだが、なぜか縁起の悪い花とされている。仙北地方では、この花を家の中に入れると、火災が発生するなどと忌み嫌われている。だから「火事花」とも呼ばれている。 
  • タニウツギとトキ・・・新潟、福島、長野などでは、トキのことを「どう」と呼んでいる。タニウツギは、一年ごとに木が真っすぐに伸び、年ごとに節状になる。それが「どう」の脚に似ていることから「ドーツネ」という。脚の形ばかりでなく、新梢の色や皮の模様までドーの脚に似ていて、花の色もトキ色をしている。 
  • 花言葉・・・豊麗(豊かで美しい)
ヤブウツギ
  • 花の赤みが強いヤブウツギ(藪空木、スイカズラ科)

     山梨県以西の山地の林縁や道端など、日当たりの良い場所に生える。濃い紅色の花を一斉に咲かせる。白花を咲かせるシロバナヤブウツギの品種もある。
  • 名前の由来・・・枝が密生し、藪のようによく茂ることが名前の由来。枝や葉に毛が多いことから、別名ケウツギとも呼ばれている。
  • 花期・・・5~6月、高さ2~3m
  • ・・・漏斗状鐘形で濃い紅色の花が咲く。花冠には短毛が密生する。 
  • ・・・先端は尾状に尖り、縁には細い鋸歯がある。両面とも有毛で、特に裏面の脈上には開出毛が密生する。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし他、秋田文化出版社)
  • 「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 「フラワートレッキング 秋田駒ヶ岳」(日野東・葛西英明、無明舎出版)