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樹木シリーズ89 ノリウツギ

  • 真夏に咲くアジサイの仲間・ノリウツギ(糊空木、ユキノシタ科)

     日当たりの良い山地の林縁に生え、真夏に白い装飾花を咲かせるアジサイの仲間。北国に多く見られ、北海道、東北地方では別名サビタと呼ばれている。八幡平など温泉地周辺に見られる硫化水素に対して耐煙性が高く、しばしば大きな群落を見ることができる。内皮にヌメリがあることから、今も紙漉きや製紙用の糊に使われている。別名ノリノキ、ノリギなどと呼ばれている。昔は、若葉を茹でて干してから保存し、冬季の食料にした。また茎が中空で堅いことから、アイヌの人たちはタバコの煙管やステッキとして珍重された。 
▲エゾアジサイ ▲ノリウツギ
  • エゾアジサイとノリウツギの見分け方・・・平滑な花序のエゾアジサイは、ピンクから青と変化の多い装飾花で、土壌の肥料分やPHの値により色が変化する。ノリウツギは、白く4枚の装飾花に、花序が円錐形であることが大きな特徴である。エゾアジサイは林内の薄暗い環境を好むのに対して、ノリウツギは比較的明るい林縁を好む。 
  • 名前の由来・・・全体がウツギ(空木)に似ており、幹の皮から製紙用の糊(のり)を作ったことから、「糊空木」と書く。ウツギ(空木)とは、髄が消失し中空になった木を言う。別名ノリノキ、ノリギ、キネリ、トロロノキ、ネバリノキなど、糊にちなんだ地方名が全国で使われている。 
  • 別名サビタ・・・北海道でも別名サビタと呼ばれているが、東北地方でもサビタ、サンピタなどと呼ばれている。これは元々北海道ではなく、東北地方の呼び名であったという。材は白くて堅く、樹皮を剥いでも肌が酸化しないことから、ステッキや傘の柄、輪カンジキ、楊枝などに利用された。 
  • 花期・・・7~8月、高さ2~4m
  • ・・・枝先に円錐花序をだし、小形で5弁の両性花多数とその周囲に4枚の白色の装飾花をつけるが、果実が熟すにつれて徐々に淡い緑色から淡い紅色に変化する。。
  • ・・・対生し、卵状楕円形で、先は鋭く尖り、縁に細い鋸歯がある。長い葉柄は、赤みを帯びることが多い。
  • 果実・・・花の後、果実ができる。秋に果実が熟す頃まで装飾花は枝に残り、赤~褐色に色づく。
  • 樹皮・・・樹皮は、縦に割れて外皮が落ちる。樹皮には多量の粘液が含まれ、古くから和紙を作るときの糊の原料に使われた。 
  • 糊の原料・・・粘液の多い内皮を用いる。特に樹齢8年以上の太い枝から採れるものが白くて良質とされた。和紙製造が盛んな1940年代までは、北海道の「サビタノリ」をはじめ、各地で生産され、高知県の土佐半紙には今でもノリウツギの糊が使われている。 
  • ミドリヒョウモン・・・夏、ノリウツギやオカトラノオなどの花をよく訪れる。
  • ノリウツギと赤とんぼ
  • 適応能力が高い・・・日当たりが良く湿った肥沃地を好むが、アジサイが育たないような所でも生育できる。特に温泉地などに見られる硫化水素に対して耐煙性が高い。これはナラ類の葉の気孔数に比べて、ノリウツギの気孔数は約15%しかなく、硫黄ガスを植物体内に取り込みにくいと考えられている。(写真:八幡平、白花は全てノリウツギの大群落) 
  • ノリウツギとシーボルト・・・江戸末期、オランダ東印度会社の医師として来日したシーボルトは、ノリウツギが日本を象徴する植物の一つとして、1862年、オランダに持ち帰っている。 
  • 若葉は食用・・・昔は、若葉を茹でて干してから保存し、冬季の食料にした。戦時中は、この若葉を刻んで米と混ぜ雑炊をつくった。 
  • サビタパイプ・・・アイヌの人々は、中空であることを利用して、根元付近の材で煙管を作ったりしたが、その名残が北海道や日光などのお土産として売られている「サビタパイプ」である。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社) 
  • 「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし外、秋田文化出版社)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)