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樹木シリーズ91 モミジイチゴ、クマイチゴ、ベニバナイチゴ

INDEX モミジイチゴ、クマイチゴベニバナイチゴ
  • 野生のイチゴの中で最も美味しいモミジイチゴ(紅葉苺、バラ科)

     東日本の山野にごく普通に生え、木苺(別名キイチゴ)の中で最も美味しい。林道の脇など日の当たる所に大きな群落をつくる。春、5弁の白い花を下向きに咲かせる。6月下旬、ツキノワグマが繁殖期に入ると、黄色に熟す。ちょうどその頃、生後1歳半の子グマが夢中でキイチゴを食べている間に子別れをする。これをマタギは「イチゴ落し」と呼んでいる。生食のほか、ジャム、果実酒などに利用する。中部地方以西には、葉が細長い変種のナガバモミジイチゴが分布する。 
  • 名前の由来・・・葉の形がモミジの葉に似ていることから、「紅葉苺」と書く。
  • 別名キイチゴ・・・木本性で果実が黄色に熟すことから、「木苺」または「黄苺」と呼ばれている。 
  • 秋田の方言名・・・ゴガツエチゴ、サツキエチゴ、サルイチゴなどと呼ばれている。
  • 花期・・・4~5月、高さ1.5~2m 
  • ・・・モミジの葉に似た切れ込みがある。 
  • 茎は弓状に曲がることが多く、その茎や枝には、たくさんのトゲがある。 
  • ・・・前年の茎の葉腋に、直径約3cmの白い花を1個下向きに開く。花弁は5個で広楕円形。1個の花に複数の雌しべを持っているので、たくさんの実ができる。 
  • 雄しべ、雌しべ・・・中央に雌しべが多数集まり、その周りに葯をもった雄しべが取り囲む。 
  • 果実初期・・・雄しべは、役目が終わると落下し、中央にあった複数の雌しべの子房が膨れ、ツブツブの果実となる。 
  • 果実・・・球形で垂れ下がり、6月下旬頃、黄色に熟す。木苺の中で最も美味しい。生食のほか、ジャム、果実酒などに利用する。 
  • イチゴ落し・・・キイチゴが熟す6月下旬頃は、ツキノワグマの繁殖期に当たる。発情した雌グマは、生後1歳半の子グマが夢中でキイチゴを食べている間に、母グマがそっと離れて子別れをする。これをマタギたちは、「イチゴ落し」と呼んでいる。
  • 「山でクマに会う方法」(米田一彦、山と渓谷社)によれば、「子別れはあくまで、接近してくる雄の成獣による子グマの追い払い、あるいは雄グマと母グマがペアリングするために起こる現象である」としている。また、雄グマは、母グマが連れている子グマを襲い、共食いもすることを指摘している。これは、雄グマが自分の遺伝子を少しでも多く残そうとする行動だと言われている。
  • 造林地に優占・・・伐採による地表攪乱後に、埋土種子や動物によって散布された種子から発芽し成長する。個体が十分大きくなると、根茎より地下茎を伸ばし、その上に多数の新たな根茎を形成し、地下茎を発生させる。数年後には、地下茎で結びついた巨大なクローンを形成する。こうして造林地に卓越して優占する。森林が成立してキイチゴ群落が衰退しても、数十年にわたり、その発芽力を維持し、次の攪乱に備える。(写真:林道沿いのモミジイチゴ群落)
クマイチゴ
  • クマイチゴ(熊苺、バラ科)

     日当たりのいい山地に生え、高さ1~2mになる。5~7月、冬芽から伸びた短い枝の先に白い花が2~6個咲く。8月頃、果実は球形で赤く熟し、生食できる。 
  • 名前の由来・・・クマが出没しそうな山の中に生え、いかにもクマが食べそうなことから、「熊苺」と書く。 
  • ・・・広卵形で3~5つに裂け、裂片は尖る。縁には不揃いの鋸歯があり、質はやや厚い。モミジイチゴより大きく、表裏ともに毛が多いので、区別できる。 
ベニバナイチゴ
  • 高山に生えるベニバナイチゴ(紅花苺、バラ科)

     日本海側の多雪地帯に分布し、高山に生える。雪がいつまでも残っている沢筋や雪田に群落をつくる。背丈は1mほどの小低木で、濃い紅色の花を下向きに1個開く。果実は、8~9月頃赤く熟す。生食できるが、よほど完熟しないと食べられない。 
  • 名前の由来・・・紅色の花をつけるイチゴの意味から、「紅花苺」と書く。
  • 花期・・・6~8月 、高さ約1m
  • ・・・枝先に濃い紅色の5弁花を1個付ける。長さ3-6cmの花柄の先に付いて下に傾いて咲く。 主な花粉媒介者は、マルハナバチ。
  • ・・・3出複葉で、両面に毛がある。
  • 果実は赤く熟し、食べられる。
  • イチゴ類では異端児?・・・高標高、寒冷地という高山に生育し、キイチゴ属の特徴の一つであるトゲが一切ない。さらに他のキイチゴ類のように地上茎による無性繁殖も、地下茎によるクローン成長も顕著ではないらしい。温帯性の落葉キイチゴの特徴である1~2年での地上部の交代(基部で3~4年と比較的長い)という短期の生活サイクルもない。まさに異端児? 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「森の花を楽しむ101のヒント」(日本森林技術協会編、東京書籍)
  • 「秋田の山野草300選Ⅱ」(秋田花の会)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし外、秋田文化出版社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「山でクマに会う方法」(米田一彦、山と渓谷社)
  • 「高山植物」(木原浩、山と渓谷社)