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樹木シリーズ98 タラノキ

  • 山菜として人気が高いタラノキ(楤木、ウコギ科)

     幹は一本幹が多く、鋭いトゲに覆われている。その先端の新芽が「タラの芽」で、山菜として人気が高く「山菜の王様」などと形容されている。やや乾燥した日当たりの良い場所を好み、荒地や開墾地にいち早く根差すパイオニア植物の一つ。採る際は皮手袋がベスト。ただし採るのは最初に芽吹いた1番芽だけ。2番目以降を採ると枯れてしまうので採取厳禁。夏、白い小さな花が群がって咲き、秋には小さな黒い球形の液果をつける。山菜として栽培されているものは「メダラ」といい、葉や茎にほとんどトゲがない。この樹皮と根皮は、古くから健胃や糖尿病などの薬用(生薬名:ソウボクヒ、ソウコンビ)として用いられている。
  • 名前の由来・・・一説には、樹皮が鱈に似ているとの説や、タラヨウのように葉を引っ掻くと傷痕が黒く現れることから、タラヨウが転訛したとの説がある。古くから食べられていたために、方言名は110にも及ぶ。 
  • 花期・・・8~9月、高さ3~5m 
  • ・・・幹の先端に大きな花序を広げて、淡い緑白色の花を多数つける。遠くからでも良く目立つ。 
  • 両性花、雄しべ・・・花序の上部に両性花の小花序を、下部に雄花の小花序をつけることが多いという。両性花は、同花受粉を防ぐために、雄しべが最初に成熟して花粉を出し、その後雄しべと反り返った花弁が落ちて、花柱が5本に広がって雌しべの成熟期になる。 
  • ・・・羽状複葉がさらに羽状複葉につく2回羽状複葉。小葉は卵形で、葉先は鋭く尖る。鋸歯は不揃い。
  • 果実・・・直径約3mmの球形で、10~11月に黒く熟す。 
  • タラノキの実と野鳥・・・遠くから見ると、実の周り全体が赤く見える。鳥を引きつけるためだろうか。黒く熟すと、ムクドリ、メジロ、ヒタキ類、ツグミ類などが採食する。 
  • 幹、樹皮・・・幹は直立し、枝は少ない。その幹のほとんどが鋭いトゲに覆われている。樹皮は暗灰色、網目状の浅い裂け目ができる。鋭いトゲで覆われているので、オニノカナボウ、ヘビノボラズ、カラストマラズ、トリトマラズなどの別名がある。 
  • なぜ全身にトゲがあるのか・・・裸地に他の樹木に先駆けて生えるので、野ネズミや野ウサギに食べられないよう、トゲで全身を覆い保護するためである。
  • タラの芽(食用)・・・新芽は古くから人気のある山菜で、今では温室栽培もされている。同じ木の芽では、コシアブラの若芽も有名だが、秋田ではほとんど食べなかった。しかし、近年、コシアブラの人気も高まりつつある。 
  • 古くから食べられていた・・・平安時代中期の歌人・和泉式部は、尼のもとに、タラの芽とワラビを贈ったとの記録がある。「和漢三才図会」(1712年頃)には「あんずるに、タラノキは山谷にこれあり。頂上に葉を生ず。秋しぼみ、春生う。わかばを取り、ゆでて食うべし。ウドの香気あり」と記している。 
  • 採り方・・・軍手ではトゲが突き抜けるので、皮手袋がベスト。葉先が高い位置にある場合は、木を傷めないようカギ枝やロープを使い優しく手繰り寄せて採る。最初に芽吹いた芽だけを採取。二番目、三番目を採ると枯れてしまうので採取厳禁。 
  • 料理・・・ハカマを取り除き、生のまま天ぷらが定番。網の上で焼きながら味噌をつけて食べる味噌焼き、軽く茹でてからおひたしや胡麻和え、酢味噌和え、マヨネーズ和え、煮びたしなど。 
  • パイオニア植物の一つ・・・極端な陽樹で、日陰では育たない。伐採跡地や山火事で草木が焼けた跡、林道ののり面、崩壊地、原野などを生育地としている。他の樹木に覆われ、陽が当たらなくなると枯死する。森林が人為、あるいは自然災害で破壊された時、復旧の先兵として生育をはじめるパイオニア植物の一つ。 
  • タラノキの栽培・・・採草地・荒畑・遊休地・土手・山林などで栽培できること、粗放栽培にも向き、所要労働が少なくてすむことが特徴。また、高度な技術を要せず、老人、婦人で経営でき、一度植えれば、2年目から収穫でき3年目には成園となり、10~15年位は収穫できることから、山間部における有望な作物になっている。品種は、山梨県で選抜された卜ゲが少なく鮮やかな緑色をした「駒みどり」や、促成栽培に適した「新駒」、山形県で利用されている「蔵王系」などがある。 
  • 七草の代用・タラの木の芽・・・正月7日の七草は、雪深い秋田では入手が困難。その代用としてタラの木の芽が使われた。古来から薬用に利用されてきたタラの木の芽をいち早く食べることで、精気も取り入れようと、七草に必ず入れたと考えられている。由利本荘市三条では、6日に柳とタラノキを山からとってきて、その枝を囲炉裏で焚き、火にかざしてあぶると若返る(若木焚き)と言われた。 
  • タラノキと民俗・・・能代市浅内の「ナゴミハギ」では、2mもある二股になったトゲのあるタラノキを持って怠け者を威嚇するナマハゲ儀礼が見られる。男鹿市脇本では、小正月の晩、囲炉裏をきれいにして、その傍らに必ずトゲの鋭いタラノキを1本添えた。囲炉裏を粗末にすると火ノ神の忌避に触れることを恐れたためだという。正月の注連縄に松葉や昆布、ユズリハとともにタラノキを挟み、玄関に張る地域も多い。
  • にかほ市上郷のタラノキ習俗・・・雪中田植えの行事でキュウリに見立てたタラノキを吊るし、畑作の予祝した。また、タラノキを2つに割り、門松に添えたり、戸窓に挿したり、神棚にも備えたりした。これらの習俗は、鋭いトゲがあるタラノキには、悪霊を祓う力があると信じられていたからだという。 
  • 草木染め・・・染料として使われるが、普通に煎じては余り染まらず、鉄媒染ではオリーブ色に染まる。銅媒染では浅い緑色に染まる。 
  • 薬用・・・薬用にするのは樹皮と根皮で、ソウボクヒ(楤木皮)、ソウコンビ(楤根皮)と呼ばれている。6~8月に採取し、水洗いした後、刻んで日干しにする。煎じて服用する。健胃、利尿、糖尿病、腎臓病。胃潰瘍に用いられる。 
  • 俳句
    多羅の芽や粗忽(そこつ)に摘んで笑われし 五明
    そまの道くずれて多羅の芽ぶきにけり 川端茅舎
    楤(たら)の花ひろげて曇天つつましく 伊藤凍魚
    多羅の芽の十や二十や何峠 石田波郷
    楤(たら)の芽の仏に似たる瀬のひかり 角川源義 
  • 材の利用・・・箱、机、茶盆、下駄、杓子、マッチ軸木、経木、小細工物、和太鼓のバチなど。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「あきた風土民俗考」(齋藤壽胤、秋田魁新報社)
  • 「資料 日本植物文化誌」(有岡利幸、八坂書房)
  • 「別冊趣味の山野草 日本の山菜100」(加藤真也、栃の葉書房)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「見つけたその場でわかる山菜ガイド」(今井國勝ほか、永岡書店)