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野鳥シリーズ④ オシドリ

色彩鮮やかなオシドリ夫婦~オシドリ(カモ目カモ科)

 「日本一カラフルな水鳥」と呼ばれるオスは、秋になると、その美しい羽を使ってメスにアピールする。その名のとおり、オシドリ夫婦で有名な鳥である。日本では、北海道から沖縄まで普通に繁殖する留鳥、冬鳥。北方のものは、冬になると暖地に移動する。繁殖期、オスはメスを惹きつけるために派手な色合いになる。一方、メスは極めて地味な色である。
見分け方

 オスは、頭頂部から後頭部にかけて冠羽があり、顔の上半分は白。クチバシは赤い。三列風切(イチョウ羽)の一番内側の羽が、茶色から橙色の大きなイチョウ形をしているなど、独特の色彩で見誤ることはない。メスは、ほぼ全身が灰褐色で、目の周囲から後ろへ伸びて白い筋が目立つ。
▲地味なメス・・・目の周りに白いアイリングがあり、その線が後頭部に伸びている。胸から腹にかけて白い丸斑が多数ある。
▲繁殖期になると、オスはメスを惹きつけるために派手な色合いになる。それに比べてメスはやけに地味な色だが、抱卵中に保護色の役割を果たす。これも子孫繁栄のための戦略なのであろう。(上と下の写真:無料写真素材集より)
全長 オス48cm メス41cm 翼開長70~77cm


 常には余り鳴かないが、オスは「ケェーケェー」とか「ウィップ」と鳴く。メスは「クァッ」という低い声で鳴く。飛翔中は、「グァ」という、少し濁った声で鳴くことがある。
生活

 山間の渓流や山地の湖などに棲息。開けた水面に出ることは好まず、木陰に隠れるようにしていることが多い。良く木に止まり、木の枝の上をねぐらとする。水生昆虫なども食べるが、主に植物食で、草木の実、特にドングリを好む。人目につくところに群れで出てくるのは秋以降が多い。水辺の樹洞や地上に営巣するが、時に水から1km以上も離れた木の穴に入ることもある。
▲木の枝にとまって休むオスとメス・・・水辺の樹上を好み、天然の樹洞を巣にして卵を産む。(写真:無料写真素材集より)
▲俳句・・・鴛鴦(オシドリ)浮くや雌ややに雄に隠れがち 原 石鼎

オシドリの求愛

 オスは真夏になると、メスとそっくりの羽色に変わるが、9月頃から再び美しい羽に生まれ変わる。そして冬は、オシドリたちの求愛の季節。オスは、自慢のイチョウ羽をアピールする。この動きが求愛のしぐさで、繁殖相手を見つけようと必死。一羽のメスを巡って、喧嘩することもしばしば。オスがメスの羽づくろいをしているようにも見える行動は、オスの求愛のしぐさ。メスが求愛を受け入れると交尾が行われる。
 巣を決めてから産卵する頃までは、オスはメスと巣を近くで見守り、オシドリ夫婦を貫く。上の写真は、4月、雪深い白神山地の源流部を仲睦まじく散歩しているところ。まさにオシドリ夫婦のように見えるが、メスが卵を温め始めるとオスは去り、つがいは事実上、解消してしまう。巣箱もよく利用し、市街地の公園で繁殖した例もある。 
▲オシドリ親子、子どもは8匹

 ヒナが誕生するのは5月下旬頃。巣穴の中には、枯草で皿形の巣をつくり、自身の羽毛を敷く。卵数は7~12個、抱卵日数は28~30日ほど。生まれたヒナは、まもなく高い木の穴から飛び降りて巣立ちしなければならない。母親はヒナを穴から出るよう導くが、スパルタ教育そのもの。越冬期には、数十羽から数百羽の群れを作ることがある。
▲親の後について、倒木を乗り越えているところ。
▲泳ぎ疲れてお休み中の子どもたち
オシドリの赤ちゃんに出会った思い出
 2012年6月上旬、太平山系のイワナ沢源流・・・釣りを終えて沢を下る途中のこと。オシドリの赤ちゃん10匹に出会う。当時の記録には・・・

 「クマが沢沿いのエゾニュウを食べた痕跡が至る所に見られた。草食いで歩いたクマ道を歩いていると、泥にめり込んだクマの足跡があった。それも、先ほど歩いたばかりの真新しい足跡だった。だからクマの痕跡が気になって、沢沿いの草むらの中を注意深く観察しながら下る。すると突然、草むらから黒い物体が跳ね上がった。クマか・・・と一瞬ドキッとしたが、親子のオシドリだった。母親は下流に、赤ちゃん10匹は上流に向かって逃げた。母親が下流に向かったのは、自分に外敵を引き付けて、上流に赤ちゃんを逃がすための戦略であろう。

 逃げる赤ちゃんをしばし追い掛け観察すると・・・最初は横一線に並んで逃げたが、次第にスピードに差ができ、縦一列になっていく。先頭を走る元気の良い子もいれば、段差のある石を上れず滑り落ちる子もいた。同じ兄弟でも、走る能力に大きな差があるのは歴然だった。それでもはぐれることなく、先頭を走る子に従って逃げるのは、集団で生き抜く知恵なのだろうか。」
▲大分大きくなった子どもたち
俗説「オシドリ夫婦」

 「オシドリ夫婦」は、仲の良い夫婦の例えだが、実際には、繁殖シーズンが終わるとつがいを解消し、一年ごとにカップルが変わる。考えてみれば、種の繁栄には遺伝子の多様性が欠かせないことから、効果的な習性といえる。一生仲睦まじい「オシドリ夫婦」のイメージは、人間側の勝手な思い込み、俗説に過ぎない。
俳 句・・・俳句では冬の季語

鴛鴦の二つ並んで浮寝かな 正岡子規
鴛鴦に月のひかりのかぶさり来 阿波野青畝
天命は天にあづけて鴛鴦流る 長谷川秋子
  • 参考動画:「おしどり」 - YouTube
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
「鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)
「俳句歳時記」(角川学芸出版、角川ソフィア文庫)
写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita