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野鳥シリーズ⑰ スズメ(雀)

  • 最も身近な鳥・スズメ(スズメ目スズメ科)
     日本人にとって最も身近な鳥だが、農家にとってはコメを食い荒らす害鳥で、昔から案山子を立てたり、大きな音を鳴らしたり、見張り小屋まで建ててスズメを追い払っていた。しかし一方では、田や畑の作物に被害を与える虫を食べてくれる益鳥でもある。日本神話や古い説話集「スズメの恩返し」、千年前の「枕草子」にも出てくる。また、随筆や俳句、童謡、民話、家紋などにも用いられている。
  • スズメが激減したと言われるが・・・
     昭和の頃は、人間よりスズメの方が遥かに多かったが、最近は激減・・・隙間の多い木造家屋が減ったこと、コンバインの普及によって落ち穂が減少したこと、天敵のカラスが増えたことなどが原因とされている。土谷氏は、「スズメが減ったと言われます。確かにそのように感じますが・・・スズメの写真を撮り始めたら、意外といることに気付きました(^.^)」と嬉しそうにコメントしている。
▲電線上におびただしい数の寒スズメ
  • 見分け方
     頭が茶色で、頬に黒斑があるのが特徴。よく似ているニュウナイスズメは、頬に黒い斑がない点や腹が白っぽくきれいなことで区別できる。

  •  「チュンチュン」「チョンチョン」と鳴き、喧嘩の時には「ジュジュジュッ」と鋭く鳴く。繁殖期は、明るく、弾むように長く鳴く。
  • 生 活
     人間生活との結びつきが極めて強く、人里付近だけで繁殖する。繁殖期にはツガイだけで生活し、人家の屋根や壁の隙間に好んで営巣する。石垣の間や巣箱も利用し、イワツバメなどの巣を横取りすることもある。巣は枯れ草などで球形に作られ、横に出入り口がある。
     産卵期は2~9月。卵数は4~8個、抱卵日数約12~14日、巣立ちまで約13~14日。縄張りは、巣の周りに限られ、多くのツガイが隣接して営巣することが多い。繁殖期は昆虫類をよく捕食するが、季節が進むにつれて主に草の実を食べる。田んぼでは、稲の未熟な実をついばみ、被害を与える。
     非繁殖期には、群れで生活し、夜は、竹やぶや大木などに集団でねぐらを持つが、そこに集合するのは主に若鳥で、屋根の隙間などに単独で寝ている個体も多い。
  • 繁殖期は、子育てのために虫を好んで捕獲する。(写真:2016年5月22日、小泉潟公園)
  • 多種多様な(巣の)間隙利用(「野の鳥の生態」仁部富之助)
     「スズメは、好んで建築物の間隙を利用して巣を構える。それには日本家屋が最もかっこうで、石づくりやレンガづくりやコンクリートの建物は、さすが利用性にたけた彼らにも苦手である。
     家屋以外の橋梁、木の洞、貯木場、柴ニオなども好んで利用する。が、かわったところでは、田んぼの掘っ立て小屋、採石所の石の割れ目、石垣の隙間は言うに及ばず・・・猛禽類の大きな一隅を借りたという報告さえある。さらに営巣誘致の巣箱、農家の軒端に吊るした古俵、屋根に伏せたまま置き忘れた素焼きの植木鉢を利用したのさえあった。
     ・・・時として樹枝上に巣を営む。・・・スギとイチイでは、枝葉のこんもり茂った内部の空間で、サクラでは天狗巣病の枝の中であった。」
  • 巣の横どり(「野の鳥の生態」仁部富之助)
     「彼らは、時として他の鳥種の巣を横どりすることがある。主にムクドリ類やシジュウカラなど、やはり洞穴利用者であるが、田舎ではツバメの巣がやられることが、相当多い。産卵中または抱卵中のツバメの巣を占領する場合のやり方は残酷で、親ツバメの必死の抵抗や、脅かしなどにはとんじゃくなしに、長大なわらくずや草茎をどしどし巣の上に運び込み、巣と天井との空間を埋めて自分の物にしてしまい、その内部に、細かな雑草の茎や羽毛を集めて、巧みに産室をつくるのである。だからツバメの巣の占領は、そのまま利用するのではなくして、実は巣をつくるべき場所の乗っ取りである。」
     逆にムクドリに巣を占領されることもあり、その手口は彼らがツバメから乗っ取る時と同じ手段であるという。
  • スズメの水浴び、砂浴び・・・大事な羽が汚れたり、寄生虫がいると命取りになりかねないので水浴びや砂に穴を掘って砂浴びしたりして入念に手入れをする。(写真:無料写真素材集より)
  • スズメ追い
    鳴子引く田面の風になびきつつ波寄る暮のむら雀かな 定家卿
     鳴子とは、音でスズメを脅す装置で、引板ともいう。昔は、見張り小屋でスズメが来ないか見張っていて、スズメが田んぼに来ると縄を引いて音を立てて追い払った。その仕事は、もっぱら老人と子供の仕事であった。
  • スズメの生態と俳句
    稲雀茶の木畠や逃げ処 松尾芭蕉
     スズメは、カラスや小型のタカ、ハヤブサの仲間など、天敵が多い。だからスズメはエサ場と逃げ場がどちらもあるような水田を襲う傾向がある。松尾芭蕉は、俳句でその生態を巧みに読んでいる。
  • 小林一茶とスズメ
    われと来て遊べや親のない雀
    雀の子そこのけそこのけお馬が通る
  • 童謡「すずめの学校」
    チイチイパッパ チイパッパ/雀の学校の先生は/むちを振り振り チイパッパ
    生徒の雀は輪になって/お口をそろえて チイパッパ/まだまだいけない チイパッパ
    も一度一緒に チイパッパ/チイチイパッパ チイパッパ
  • 民話「雀孝行」
     親が亡くなる時にスズメは急いで飛んできて介抱をしたのに、ツバメはお化粧に時間がかかり、親の死に目に会えなかった。以来、神様は、親孝行の雀には五穀を食べて暮らせるようにしたが、燕には虫しか食べられないようにしたという。けれども人間側の評価は逆で、スズメは稲を食べてしまう害鳥で、ツバメは害虫を食べてくれる益鳥というのが一般的である。農耕民族の視点から見れば、ちょっとおかしな民話だと思う。
  • 寒雀、冬雀・・・冬の季語
    寒雀一斉にたち風起きる 今村洋子
    出棺待つ窪地にあそぶ冬すずめ 藤田直子
  • スズメと桜・・・繁殖期はツガイで生活しているが、上の写真のように花びらをくわえた光景を見ると、求愛をしているかのようにも見える。しかし、二匹とも花びらをくわえては同じようなことを何度も繰り返す。何をしているのだろうか。(写真:2016年4月23日撮影、高清水公園)
  • スズメと桜その1・・・桜の花びらの裏側をクチバシで摘み取る。
  • スズメと桜その2・・・口にくわえて、しばらくしてから
  • スズメと桜その3・・・花を投げ捨てる。それを何度も繰り返す。地面には、桜が散ったように花びらで一杯になっている。不思議に思い調べてみると・・・スズメは、メジロのように花の蜜を吸えないらしく、花を食いちぎって噛むようにして花の蜜を味わっているのだという。
  • 動画「スズメとサクラ 」
  • 用語解説「留鳥(りゅうちょう)・・・年間を通して同じ地域に生息し、長距離の季節移動をしない鳥。スズメやハシブトカラスなど。
  • 「漂鳥(ひょうちょう)・・・亜高山帯や山地などの環境で繁殖し、非繁殖期に平地などに移動して越冬する鳥。あるいは、北方で繁殖し、非繁殖期に南方へ局地移動して越冬する鳥。ルリビタキやアオジなど。
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
「ぱっと見分け 観察を楽しむ 野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
「野の鳥の生態」(仁部富之助、大修館書店)
「俳句歳時記」(角川学芸出版編、角川ソフィア文庫)
写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita