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野鳥シリーズ⑳ ハクガン

幻の鳥復活・ハクガン(カモ目カモ科)

 全身が白く、翼の先だけが黒いガン類。北東シベリアと北米大陸の北極圏地域で繁殖し、日本には冬鳥として飛来。かつては大群で飛来したが、一時日本への飛来個体数は絶滅したといわれた。2000年前後までは、飛来したとしても1~2羽がマガンやハクチョウ類に混ざって観察されるに過ぎなかった希少種。現在は、ハクガン復活プロジェクトの成果などで増加傾向にあり、北海道から東北、日本海側では百羽前後のまとまった群れが飛来している。環境省レッドリスト絶滅危惧1A類。
見分け方

 日本には、数少ない冬鳥として渡来し、マガン・ヒシクイ・ハクチョウ類の群中にいることが多い。全身がほぼ白一色なので、ほかのガンとは一目で識別できる。ハクチョウ類に似るが、体が小さく、首が短く、クチバシの色も異なるので容易に見分けられる。
白と黒のコントラストが美しい

 とまっている時は純白の羽色とピンク色のクチバシが目立つが、飛翔時には初列風切の黒が目立ち、白と黒のコントラストが美しい。


 エサを食べている時は、「フュッ!」、「フュイ!」、「キュィキュィ」といった可愛い声で鳴く。また「グワッ」というガンカモ特有の声も出す。
生活

 マガン・ヒシクイ・ハクチョウ類に混ざって安全な池や沼で休息し、広い水田地帯を歩きながらエサをとる。稲の落ち穂や草の葉、水生植物の根や茎などの植物質のものが主なエサで、昆虫や貝類を食べることもある。

 繁殖地では、ツンドラ地帯の水辺に営巣し、大きなコロニーをつくることもある。浅い窪地に草や蘚類で皿形の巣をつくり、自分の羽毛を敷いて3~5個の卵を産む。メスだけが22~33日間ほど抱卵する。
飛来数が激減したハクガン

 1800年代後半には、東京湾の冬景色として雪が降るように見えたと言われるほど多数が飛来していた。しかし、繁殖地と越冬地である日本での捕獲圧により、1940年代までに日本への渡来個体群は絶滅したといわれている。
1990年代、八郎潟干拓地におけるハクガン

 1992年発行の「あきた探鳥ガイド」の八郎潟干拓地の項には、「3月上旬にはヒシクイも加わって最も数が多くなる。この時期の群れには、ハクガン、サカツラガン、シジュウカラガンが1羽から数羽混じることもある。」と記され、飛来数が極めて稀な鳥であったことが分かる。
八郎潟でハクガン106羽と増加 (2013/14年ガンカモ類調査)

 日本でガン類の狩猟が禁止されて越冬地としての安全性が高まったことや、亜種シジュウカラガンでは1983年から、ハクガンでは1993年から、日米露の研究者などによる個体数回復の取り組みが始まった。その結果、近年は飛来数が増加・・・2013/14年ガンカモ類調査結果によると、八郎潟では、ハクガンが106羽、シジュウカラガン(絶滅危惧1A類)が605羽と、これまでの調査で最高を記録している。(写真:復活したシジュウカラガンとハクガン)
用語解説・・・冬鳥(ふゆどり)

 秋に北方から渡ってきて越冬し、春にかけて北方へ戻って繁殖する鳥。多くのカモ類やハクチョウ類、ツグミなど。(写真:V字編隊飛行)
▲幻の鳥「シジュウカラガンとハクガン」が一体となって飛ぶベストショット

かつては迷鳥(めいちょう)に分類されたハクガン、シジュウカラガン

 通常は渡来も通過もしないが、悪天候などで迷い込んだ鳥を「迷鳥」という。「あきた探鳥ガイド」によると、八郎潟干拓地では、ナベヅル、マナヅル、コウノトリ、クロツラヘラサギ、シロフクロウ、シロハヤブサ、シベリアオオハシシギ、ヤツガシラ、ハジロクロハラアジサシ、ハイイロウミツバメ、コグンカンドリ、ハクガン、シジュウカラガン、サカツラガンなど。

 ただし、ハクガン、シジュウカラガンは、現在、復活プロジェクトの成果で数百羽単位の大きな群れを見ることができるまでに回復した。野鳥ファンにとって、幻の鳥が大きな群れで飛来するシーンを見られるというのは、これほど嬉しいことはないであろう。
 ハクガンは、警戒心が強く、150m以上離れないと飛んでしまうという。この写真は、運よくハクガンの死角に車を置けたので、40mほどの至近距離で撮影できた一枚。ほとんど無警戒のハクガンたちが朝日を浴びて白く輝き、おまけに小さな目にキャッチアイまで入っている。上の写真は、二羽が羽ばたいたり、首を上げ始めているので、間もなく飛び立つ直前の写真である。
▲天使の舞い
▲地吹雪の中を舞うハクガン
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
「あきた探鳥ガイド」(日本野鳥の会秋田県支部編、無明舎出版)
写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita