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野鳥シリーズ22 シジュウカラガン

幻の鳥復活その2・シジュウカラガン(ガンカモ目ガンカモ科)

 絶滅寸前まで追い込まれ、もはや群れで見ることはないだろうと言われた幻の鳥、シジュウカラガン(絶滅危惧1A類)・・・1983年から個体数回復の取り組みが行われ、今では八郎潟で600羽以上が確認されている。黒っぽいガン類で、頬から喉に目立つ白斑がある。北米大陸北部で広く繁殖するカナダガンの一亜種である。
見分け方

 全身が黒っぽいマガンと同じ大きさのガンで、足が黒いことと、頬から喉に白斑があるのが特徴。
全長64cm、翼開長139cm(写真:降臨)
 カァー、カァー。
生 活

 昼間は安全な池や沼で休息し、首を背中の羽に入れて寝ていることが多い。夕方と早朝には、広い水田地帯で採餌し、地上を歩きながら、主に稲の落ち穂などの草の実を食べる。
1993年2版発行「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)によると

 「かつては東京湾などで毎冬見られたらしいが、1930年代以降は記録が途絶えている。1970年以降は、宮城県伊豆沼などに、マガンの群れに混じって1~2羽が不定期的に渡来している」と記されているとおり、極めて稀にしかお目にかかれない希少種であったことが分かる。
シジュウカラガンが絶滅寸前まで追い込まれた理由

 シジュウカラガンは、かつて日本に最も多く渡ってくるガンの一種だった。しかし20世紀の初頭、毛皮をとる目的でアカギツネやホッキョクギツネがシジュウカラガンの繁殖する多くの島に持ち込まれた。シジュウカラガンは、これらの動物に対して卵やヒナを守る術を持っていなかった。さらに渡りの途中や越冬地での狩猟圧も加わって、個体数は激減・・・1930年代以降になると日本への飛来が途絶え、絶滅寸前にまで追い込まれた。
シジュウカラガン復活事業で環境大臣賞

 復活事業は1982年、仙台市八木山動物公園が繁殖施設「ガン生態園」を開設して始まった。そこでシジュウカラガンを繁殖させた。95年から、かつての繁殖地で、かつ天敵のキツネがいないことが確認されたロシアのエカルマ島に運んで放鳥する事業を始めた。

 当初、国内最大の越冬地がある宮城県の伊豆沼・内沼などに戻ってくるのは数羽程度に過ぎなかった。その後、2008年度には49羽、2013年度には576羽、2014年度には初めて千羽の大台を超えた。千という数は、個体群を維持するのに最低限必要な目安となる数で、絶滅の危機から一歩遠ざかった事を意味する画期的な数字。この30年以上にわたって復活事業に取り組んできた功績が認められ、仙台市八木山動物公園と日本雁を保護する会が、環境省と日本鳥類保護連盟から環境大臣賞が贈られた。
▲群れで飛ぶシジュウカラガン、背景は、男鹿半島の本山。
▲シジュウカラガンは、結構歩いて移動する。

生きものと共生する農法「ふゆみずたんぼ」

  「ふゆみずたんぼ」は、一般的に水を抜いている冬の間も田んぼに水を張る農法。「冬期湛水(とうきたんすい)」とも呼ばれている。この取組みは、宮城県蕪栗沼に飛来するマガンの数が約10年間で10倍に増えて水質汚染等が懸念されたため、冬期間使用しない周辺の水田に水を張り、沼の機能を分散させようとして始まった。平成17(2005)年11月、「蕪栗沼・周辺水田」がラムサール条約湿地に登録され、世界の登録湿地名で唯一「水田」と表記され、世界的にも注目される地域となっている。

 「ふゆみずたんぼ」は、ガン、カモ、ハクチョウなど渡り鳥のねぐらや休息地の創出にも大きく貢献しているほか、生きものの働きによって土づくりや雑草、害虫の抑制効果があると言われている。「ふゆみずたんぼ」は、生き物たちと共生する農法として注目されている。
▲地吹雪の中、飛び立つシジュウカラガン
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita