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野鳥シリーズ29 ミソサザイ、カワガラス、シノリガモ

INDEX ミソサザイ、カワガラスシノリガモ
  • 尾を立て美声でさえずるミソサザイ(スズメ目ミソサザイ科)
     小さな鳥とは思えないほど大きな美声でさえずり、すばしっこい褐色の小鳥。留鳥または漂鳥として全国の平地林から山地林に棲息し、特に渓流沿いの薄暗い林を好む。春、イワナ釣りや山菜採りの最中によく出会う鳥で、あの小さな体を震わせながら、雪代の轟音に負けじとさえずっているのをよく見かける。雌雄同色。 
  • 名前の由来・・・和名のミソは「溝」、サザイは「些細」で、谷筋の細い沢に棲息する小さな鳥を意味している。
  • 見分け方・・・尾を立てた独特の体形と、全身に斑のある焦げ茶色の小鳥。生息環境や羽色がカワガラスに似ているが、カワガラスは体が大きく、斑点状の模様がないので区別できる。
  • ・・・繁殖期に入ると、比較的目立つ場所に出てきて、長くさえずり縄張りを宣言する。そのさえずりは早口で「ツピツピツピチヨチヨチヨツリリ・・・」など大変複雑である。クチバシを大きく開けて左右に首を振るような動作をし、同時に尾羽をピンと上げ、グルグル回るような動作もする。冬期は「チェッ、チェッ」という地鳴きをする。
  • 小さな声楽家・・・残雪が残る早春の渓流で、今年初のイワナ釣りをしていると、突然、瀬音を切り裂くように大きなさえずりが切り立つ谷に木霊する。よく見ると、立てた尾羽を左右に振りながら、胸を張って熱心にさえずっている。その姿から、「小さな声楽家」と呼ばれることもある。ちなみに、イギリスの作曲家ジュリアス・ベネディクトは、「ミソサザイ」という名の声楽曲をつくっている。
  • 全長11cm 翼開長16cm
  • 日本最小を競う鳥・・・日本最小のキクイタダキは全長10cmだから、ミソサザイがわずかに大きい。日本で二番目に小さい鳥といったところ。
  • 生 活
     沢沿いの林や亜高山帯の針葉樹林のように地表に凹凸があったり、蘚苔類が生えているような林を好んで棲息する。そうした場所を忙しく移動して、昆虫やクモなどを探し出してついばむ。一夫多妻で、オスは縄張りに幾つもの巣の外側を作り、複数のメスとツガイ関係を結ぶ。巣は、蘚類を主とした球形で木の根元、崖の隙間などにはめこまれるように作られ、内側はメスが完成させる。産卵期は5~8月。
  • 子育ては全て♀だけ・・・ミソサザイの♂は、巣の大枠だけをつくってメスを呼ぶ。気に入ると♀は、内装をつくって抱卵する。♀が卵を産み始めると♂は、♀に関心をもたなくなる。だから抱卵から育雛まで全て♀だけが行う。「小さな声楽家」と呼ばれるほど、あんなに熱心にラブコールする割には、意外に冷たい♂である。
  • 巣の中からクチバシを出してエサをおねだりするヒナ  
カワガラス 
  • 渓流の忍者・カワガラス(河烏、スズメ目カワガラス科)
     流れの速い渓流に棲む留鳥。イワナ釣り師にとって最も馴染み深い鳥が、カワガラスである。水面から出ている岩にとまり、尾をビクッビグッと動かし、沢沿いを一直線に飛ぶ。水中に潜り、主に水生昆虫を補食する。故に、カワガラスがいるということは、「水生昆虫が豊富」で、それを主食とするイワナの魚影も濃いことが分かる。
  • 名前の由来・・・川に生息し、全身が黒っぽいので、カワガラスと呼ばれている。ただしカラス類ではない。
  • 見分け方・・・尾が短く、全身焦げ茶色。しかし、遠目ではその名のとおり黒く見える。頭は丸く、長めの脚は銀白色。まぶたが白いので、まばたきをすると目が白色になる。雌雄同色だが、幼鳥は白斑に覆われている。
  •  (写真:太平山系・源流のイワナ釣り)・・・ブナ帯の渓流でイワナを釣っていると、渓沿いを「ビッ ビッ」と鳴きながら飛んでいくことが多い。ついついイワナ釣りに夢中になっていると、飛ぶ姿が見えず、突然竿にぶつかられて驚かされることがある。岩の上で「ジョジョチッチッピスピスジュイジュイチーチーゲシゲシ」などとさえずる。早春の頃からさえずり始める。
  • 全長22cm、翼開長32cm
  • 生 活
     年間を通して川の上流部に棲息している。水面から出ている岩にとまり、尾を上下に動かし、翼を半開きにする姿や、蛇行する沢の流れに沿って一直線に飛んでいく光景をよく見掛ける。渓流の石から石へと移動し、清流に棲息するカワゲラ、トビゲラ、カゲロウなどの水生昆虫を捕食する。流れの速い渓流に潜り、水中では羽を半開きにして泳ぐように川底を這いずり回り、石の下にいる水生昆虫を捕える。この独特の水中採餌は、カワガラスだけが行う習性である。

     水生昆虫が羽化して飛んでしまうと、捕まえることができなくなる。だから、川虫が大きく成長した羽化直前の時期が、ちょうど子育ての時期になるよう、繁殖の開始を早くしているといわれている。秋につがいで400~1100mほどの範囲を縄張りにする。侵入者があると、「ビッビッビッ」と続けて叫んで追い出したり、岩の上で翼を上下に振って見せたりする。
  • 繁殖期に入ると、滝の裏や堰堤の隙間などに、大量の水苔を集めて直径30cmもあるドーム形の巣をつくる。産卵期は2~6月、卵の数は4~5個、抱卵日数は15~16日、巣立ちまでの日数は21~23日ほど。キブシやマンサクの黄色い花が咲く頃、ヒナの巣立ちが見られる。
  • カワガラスの幼鳥
シノリガモ
  • シノリガモ(カモ目カモ科)
     冬鳥として主に北日本の海水域に渡来する海ガモ類。しかし、1976年、白神山地赤石川上流で6羽のヒナが発見され、国内で初めて繁殖が確認された。北海道、東北地方では、山間部の渓流で局地的に少数が繁殖している。現在、繁殖が確認されているのは、北海道、青森、岩手、宮城、群馬である。県版レッドデータブックでは「情報不足」の鳥類に分類されている。
     しかし、夏、太平山系の源流でも何度か目撃しているので、秋田県内でも繁殖していることは間違いないと思っていた。ついに2016年7月18日、大館市岩瀬川上流部でヒナが確認され、県内でも繁殖していることが確認された。
  • 見分け方・・・オスは、派手な色彩と複雑な模様で容易に見分けられる。頭部から胸、体上面が藍色で、額が後頭は黒く、頭部には橙色の斑がある。耳羽に円形の白斑がある。メスは、ほぼ全身がこげ茶色で地味だが、目の後ろに白い円形があるのが最大の特徴。
  • 名前の由来・・・シノリとは、朝焼けや夜明けのことで、オスの脇の鮮やかなレンガ色をそれに見立てたのが和名の由来。
  • 全長43cm 翼開長66cm
  • 「チュッチュッチュッ」「フィー」
  • 生 活・・・岩礁のある海岸を好み、海水の流れや波を使って巧みに移動しながら、頻繁に潜水して貝類、カニ類、エビ類、小魚などを捕食している。
  • 繁殖地(写真:メス、太平山系の渓流)・・・山間の渓流に棲息し、急流を巧みに泳いで水生昆虫を捕食する。白神山地では、イワナと水生昆虫の宝庫・ブナ原生林地帯の源流域で繁殖している。
  • 渓流で繁殖するシノリガモ
     親子連れ6羽のシノリガモ(上の写真)は、2003年8月13日、白神山地追良瀬川源流サカサ沢で撮影した写真である。夏の源流域に5羽のヒナを連れたメスがいるということは、ここで繁殖している証拠である。イワナが群れるブナ帯の渓流は、シノリガモの繁殖に適している。なぜなら、水清く、岩美わしく、夏涼しく、水生昆虫や藻類の宝庫・・・子育て環境として、こんな素晴らしい場所はないからである。
  • 追良瀬川源流サカサ沢を遡行している途中、上流左岸にシノリガモの親子を発見
  • 私たちのパーティに気付いた親子は、下流へと一目散に下った。
  • 秋田県内でも繁殖?(写真:夏、太平山系の渓流に棲息しているメス)
     上の写真は、2011年6月19日、太平山系の渓流で撮影したシノリガモのメス。一般的に冬鳥として見られる期間は10月~翌年の4月頃まで。初夏の6月は繁殖期だが、太平山系の渓流を繁殖地にしているシノリガモがいることが分かる。これまで太平山系の源流で、夏の繁殖期にシノリガモを何度も目撃している。もちろんオスとメスがツガイで泳ぐ姿も見ているが、風景写真を主とするカメラしか持っていないので撮影に成功したことがないだけである。
  • 岩瀬川上流部、シノリガモのヒナ確認(参考:2016年7月21日、秋田魁新報) 
    大館市の小笠原明信さんが、岩瀬川上流部でヒナの撮影に成功した。県内の渓流で繁殖が確認されたのは、野鳥ファンにとって嬉しいニュース。小笠原さんは、5月6日昼に田代岳・岩瀬川上流部で成鳥のペアを見つけ、7月18日午前9時半ころ、2羽のヒナを確認、撮影に成功した。
  • これまでの記録・・・1984年、粕毛川上流で幼鳥を目撃。1989年、岩瀬川上流部で巣と七つの卵が見つかる。1990年には、山瀬ダム上流部で、成鳥のメスとヒナ6羽が撮影されている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
  • 「ぱっと見分け 観察を楽しむ 野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
  • 「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
  • 「森の野鳥観察図鑑 鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)  
  • 写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita