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野鳥シリーズ32 ヒシクイ

ヒシの実が好きなガン・ヒシクイ(カモ目カモ科)

 ヒシクイは、マガンと並ぶ代表的なガンの仲間で、水生植物のヒシの実を好んで食べることが名前の由来。体が大きく、飛ぶ姿や鳴き交わす声にも迫力がある。だから江戸時代には、「ぬまたろう」と呼ばれた。冬鳥として日本に渡来するヒシクイは、ユーラシア大陸の亜寒帯から寒帯で広く繁殖し、北日本から日本海側の限られた池や沼に棲息する。天然記念物。
見分け方

 上の写真は、マガンとヒシクイの群れ・・・ヒシクイはマガンより一回り大きく、クチバシが黒く先端寄りに橙色の部分があり、足も鮮やかな橙色。脇には黒い横斑がある。
 (写真:ヒシクイの中にわずかにハクガンが混じる)

 マガンと混群をつくることが多いが、マガンに比べて声が太く、少し鼻にかかった「グワハン、グワハン」、「ガガガー」と独特の濁った声で鳴くので区別できる。飛翔時は「カガン、カガン」。
全長83cm 翼開長160cm
生 活

 越冬地での習性は、マガンと同じく数十羽から数百羽の群れで行動し、昼は安全な池や沼の水面に浮かんだり、氷上や岸辺に立って休息することが多い。早朝、広い水田地帯や湿地の地上を歩きながら草の実などを食べる。安全な環境であれば、昼間も採餌する。
▲ハクガンとヒシク、他にアオハクガンが混じる

 明治以降、ガンの仲間は、狩猟鳥として数が激減したことから、昭和46年、マガンとともに国の天然記念物に指定。
ヒシクイを含めた雁の俳句・・・古来より詩歌に詠われ、秋を代表する季語

 病雁の夜寒に落ちて旅寝哉 芭蕉

 晩秋の一夜、病を得て臥せっていると北へ向かう雁の通過する音が聞こえる。その中で一羽群れから外れて湖に落ちていく落雁がいる。きっと彼は病を得て飛ぶに耐えずに落ちていったものであろう。私もこうして一人病を得て旅寝の長夜を過ごしている。
 けふからは 日本の雁そ 楽に寝よ 一茶

 長い渡りを経てやってきた雁よ、今日からは日本の雁だ。安心してゆっくり寝なさいと、ガンを歓迎し慈しむような温かい視線が感じられる。
▲地吹雪に舞う

湖北より暮色の迫る雁のみち 本宮哲郎
雁よりも高きところを空といふ 今瀬剛一
かりがねの空ひろびろと使ひけり 野中亮介

初雁や双手に余る帰郷の荷 小川杜子
雁なくや夜ごとつめたき膝がしら 桂 信子
▲ハクガン、ヒシクイ、マガンの群れ
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
「日本野鳥歳時記」(大橋弘一、ナツメ社)
「俳句歳時記」(角川学芸出版編、角川ソフィア文庫)
写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita