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野鳥シリーズ33 マガン、ガン類

V字編隊を組んで飛ぶマガン(カモ目カモ科)

 冬鳥として東北地方から日本海側の湖沼、水田、湿地に渡来し、大きな群れで越冬する。宮城県伊豆沼・蕪栗沼周辺は、日本最大の越冬地。また八郎潟干拓地は、広大な穀倉地帯だけに多くの野鳥たちがやってくるが、その中でも一番多いのがマガンである。大潟村には稲刈りが終わる10月中旬頃・・・お目当てはもちろん田んぼの落ちモミである。また3月初旬、マガンの群れは北を目指して飛び立つが、早春の大潟村は北を目指すマガンの中継地・・・日本各地で越冬していたガンが大潟村に集結し、その数は数十万羽とも言われている。
見分け方

 下面の腹部には、黒く太い横斑があるが、幼鳥にはない。クチバシは、ピンクまたはオレンジ色で、成鳥では基部が白い。足は橙色。幼鳥は、褐色みが強く、クチバシは黄色みがあって、基部は白くない。


 飛びながら「カハン、カハン」と少し甲高い声で良く鳴く。上空を編隊で飛ぶ時は、ときどき鳴くだけで、飛び立つ時が一番盛んに鳴く。ねぐらの沼では、ほとんど一晩中鳴き声が聞こえる。
全長72cm 翼開長138cm
生 活

 カモ類と違って、ツガイの結びつきが強く、一方が死ぬまでツガイ関係が維持される。越冬地では、ツガイと前年、前々年産まれた数羽の幼鳥からなる家族単位で行動し、それが集まって大群をつくっている。夜は、安全な池や沼で休み、早朝は広い水田地帯などに隊列を組んで飛来し、主に稲の落ち穂やマコモの実などの植物質のエサを食べる。
質問1 なぜマガンはV字編隊で飛ぶのか?

 マガンは、繁殖地である極東ロシアのツンドラ地帯~タイガ地帯から約4,000kmも飛んで、冬でも食べ物が豊富にある場所へ移動する。その際の雁行は、統率されたようなV字型の編隊をとる。その理由は・・・
 V字編隊を作ると、前を飛ぶ鳥が生み出す気流が揚力になり、後ろにいる鳥はその分エネルギーを節約して飛ぶことができる。戦闘機の編隊と同じで、その真後ろには乱気流が発生するので、それを避けるためである。マガンは家族単位で行動することで知られ、編隊もその数家族が集まって組み、特にリーダーはいない。ただし、先頭は疲れるので、交代しながら飛ぶ。
質問2 一つの家族ではなく、数家族の大きな集団で飛ぶ理由は何か?

 大きな集団になると、ワシ・タカなどの猛禽類に襲われにくいことを経験的に知っているからだと言われている。長距離を高速飛行する鳥にとって、少しでも傷を受けることは致命的。だから、敵が現れると、密にかたまることによって、猛禽類がその中に飛び込めないように防御できるからである。
質問3 何を目印に飛ぶのか?

 ガンカモ類に限らず、渡りをする多くの鳥は、昼間は太陽、夜は星座を目印に渡ってくる。最近では、地磁気を利用していることも明らかになりつつある。特に小鳥類は、猛禽類に襲われないように夜に渡ることが多い。
質問4 マガンは田んぼで何を食べているか?

 コンバインで刈り取った水田には、1ha当たり約70kgの落ちモミがある。転作の大豆では約360kgの落ち大豆がある。だから越冬前半は落ちモミを、後半は落ち大豆を主に食べている。
 マガンの越冬には、安全なねぐらと採食場所となる田んぼが必要である。伊豆沼・内沼を含む宮城県北部には、全国に飛来するマガンの8割以上が集まっており、年々数が増えているという。
「残したい日本の音風景百選」・・・「伊豆沼・内沼のマガン」

 伊豆沼・内沼は、国内最大級のガン・カモ類の越冬地。写真は、伊豆沼の雁の飛び立ち・・・ゴォォォオー!すごい羽音が響く。「伊豆沼・内沼のマガン」の飛び立ちは、環境省の「残したい日本の音風景百選」に選定されている。
落 雁

 ガン類は、着水姿勢に入った時、翼を開いた状態で体を左右に揺らしながら、落ち葉が舞い落ちるように着水・着地する。このような行動を落雁という。
マガンの急増と一極集中がもたらす問題

 昭和46年(1971)、マガンを天然記念物に指定。狩猟を禁止し、保護に転じた。それ以来、徐々にその数は増加。特に1990年以降急激に増え、2010年には、伊豆沼、蕪栗沼など、宮城県北部で10万羽以上のガンが越冬している。この爆発的な増え方は、一見良いことづくめのように見えるが、実は困った問題が起きている。

 宮城県北部に、マガンの飛来数が全国の8割が集中、しかも年々増えている。もし水質汚染が発生すれば、マガンの群れは、一夜で全滅してしまう恐れがある。また、密集している鳥の間に、感染症が発生すれば、大きなリスクになる。さらに、マガンたちは、昼間は田んぼなどでエサを食べる。余りに多くの鳥が一か所に集中すれば、農業被害が大きくなる可能性が高い。

 そんな中、マガンの分散化を目的に、稲刈り後の田んぼに水を張る「ふゆみずたんぼ」の取り組みが、蕪栗沼周辺の農家の協力を得て進められている。さらに幾つかの市町村では、ガン、カモ、ハクチョウによる稲への農業被害を補償する条例も整備されている。しかし、それでも鳥が集まり過ぎれば、人間と農業との共生は難しくなるとの意見もある。
▲能代市「小友沼」のガンの飛び立ち

能代市小友沼・・・「中継地」の「越冬地化」

 能代市小友沼は、かつては伊豆沼にやってくるマガンが渡りの途中で立ち寄る、「中継地」であった。しかし今では、それ以上、南の地域に渡らず、そのまま「越冬」するマガンが見られるようになった。1995~96 年から個体数が増加し始め、近年では多い時で3~4 万羽ほどのマガンが越冬している。

 かつて小友沼は、真冬の平均気温が0℃を下回り、沼が凍ってしまうから、マガンたちが越冬できなかったと言われている。最近は、雪も少なく、沼も凍らなくなったため、そのまま越冬するようになったとする地球温暖化説を唱える人もいる。もう一つの説は、宮城県北部でマガンが急増したことにより採食効率が低下し、増加傾向にある宮城県北部のマガンが一部小友沼へ移動したとする分散化説がある。秋と春しか現れなかったマガンが、冬の間も棲み続けるという行動の変化は、秋田だけでなく、北海道などでも起きているという。
参 考 文 献 
「伊豆沼・内沼ハンドブック」(環境省)
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
「ぱっと見分け 観察を楽しむ 野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
写真提供 土谷諄一 参考プログ「Photo of Akita