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野鳥シリーズ44 ヤマガラ

  • 樹木の種子散布に貢献するヤマガラ(スズメ目シジュウカラ科)

     ヤマガラは、日本と朝鮮半島、台湾にしかいない留鳥。背と腹の赤茶色が目立つシジュウカラ類。エゴノキやアカマツ、ツバキ、スダジイ、イチイなど、樹木の実を樹皮の隙間や土の中などに隠して貯食する習性があり、樹木の種子散布に大きく貢献している。落葉広葉樹林や照葉樹林に生息し、冬期は平地林や市街地の公園でもよく見られる。シジュウカラやメジロ、コゲラ、エナガなどと混群を形成する。
  • 見分け方・・・背と腹が赤茶色で、他の種類と見分けるのは容易。頭上や喉は黒く、頭のてっぺんは白い羽毛の帯がある。頬や額は淡い黄色。雌雄同色。
  • 全長14cm 翼開長22cm 
  • ・・・繁殖期には「ツーツー、ピィー、ツツピー」と、ゆっくりと繰り返してさえずる。地鳴きは「ニィーニィーニィー」「ビィービィービィー」と、少し鼻にかかった声で鳴く。
  • 見つけ方・・・声を頼りに見つけるだけではない。ヤマガラが木の実を足で押さえて、クチバシで突く「コツコツ」という音で気づく場合も少なくない。木の幹を叩くキツツキ類かと思いきや、アカゲラがコノデカシワの硬い実をクチバシでハンマーのように連続して叩く音だった。
  • 生 活・・・主に林の上層で生活し、枝から枝へ移動しながら、葉の茂みにいるガの幼虫などを捕食する。秋冬には、木の実もよく食べる。大きめの虫や木の実は、枝の上に運び、足指で押さえてクチバシで突いたり、割ったりしてから食べる。年間を通してツガイで生活し、一定の行動圏からほとんど移動しない。樹洞やキツツキ類の古巣、巣箱の中に、蘚類を運び込んで巣をつくる。
  • 産卵期は3~6月。卵数は3~8個。抱卵日数は約12~14日、巣立ちまでの日数は約18~20日。
  • 給餌求愛・・・ちょっとピンボケになってしまったが、左のオスが口にくわえたミミズを右のメスにプレゼントしているところ。ツガイの愛情は深く、どちらかが死ぬまで連れ添うという。
  • ヤマガラの観察は10月以降「エゴノキの実とヤマガラ」・・・ヤマガラはエゴノキの実が大好き。だから、10月以降、身近な公園にあるエゴノキの実が鈴なりになっている場所に行けば、じっくり観察できる。最初は警戒していても、10m程度距離をとっていれば、すぐに慣れてくる。エゴノキの実をクチバシで採り、食べやすい横に水平な枝に移動して食べたり、幹の割れ目や朽木、土の中などに埋め込んで貯える習性を観察できる。
  • エゴノキの実とヤマガラその1・・・エゴノキの果実にぶら下がりながら素早く採る。
  • なぜ分散貯食するのか・・・エサの少ない厳冬期に利用するほか、翌年の繁殖期にもヒナに与えるエサとして使うためである。さらに、他の個体から採られる前にエサを確保するためである。例えば、木の実が凶作になった場合は、わずかな木の実を巡って他の鳥や動物たちとの激しい競争になる。1ヵ所に集中貯蔵すれば、自分より強い個体に奪われかねない。そのリスクを回避するために、分散貯食するのであろう。
  • エゴノキの実とヤマガラその2・・・ヤマガラがクチバシで実をくわえたところ。
  • エゴノキの実とヤマガラその3・・・エゴノキの実には、有毒なサポニンが含まれている。それが分かっているのか、ヤマガラは両足で実をはさみつけ、器用にくちばしでつついて有毒な果皮を割り、中の種子だけを取り出す。調査によれば、果皮を除くと発芽率がグーンと上がることが確認されている。ヤマガラの貯食行動は、発芽阻害の原因となる果皮を除去するという行為を伴うことから、 エゴノキの種子を散布させるだけでなく、発芽にも大きく貢献していると考えられる。
  • エゴノキの実とヤマガラその4・・・有毒な果肉の中から種子を取り出し、クチバシにくわえる。
  • エゴノキの実とヤマガラその5・・・森の方向に向かって飛び、冬から春にかけて食べる種子をあちこちに貯える。それを何度も繰り返す。もちろん貯えるだけでなく、横に水平な枝にとまって食べたりもする。
  • 貯食その1・・・エゴノキの実を樹木見本園の木の根元に埋めようとやってきたヤマガラ
  • 貯食その2・・・根元を掘って埋める。 調査によれば、比較的浅い深さ2cm未満に1個ずつ種子を貯食する。ネズミ類は深く、6cm以上の深さに貯食することがあり、ヤマガラに比べて発芽率が低いと考えられる。
  • 貯食その3・・・埋めた後、隠した場所を他の鳥たちに見られていないか、左右を確認するヤマガラ。このように地面や落葉の下などに埋め込んだ種は、雪が積もると利用できなくなる。これは恐らく、来春用であろう。
  • 貯食その4・・・冬の積雪期でも食べることができる高い幹の割れ目に貯食する。
  • 貯食その5・・・こんな所に埋め込むとは・・・最初は半枯れのサクラの幹の大きな割れ目に隠していたが、しばらく観察していると、何と折れた枝の小さな割れ目にも埋め込んだ。
  • コノデカシワの実を貯食・・・樹木見本園のコノデカシワの実は豊作。それにたくさんのヤマガラがやってきて、あちこちに貯食していた。 コノデカシワの球果は、松ぼっくりのような笠になっていて、その笠と笠との間に小さな種子がたくさん入っている。その小さな隙間からクチバシで器用に突きながら種子を取り出す。
  • コノデカシワの実をくわえて貯食場所へ急いで飛び立つ。 ヤマガラの貯食は、エゴノキ、アカマツ、ツバキ、スダジイ、イチイなど。調査では、イチイの稚樹の更新場所と、ヤマガラの貯食場所がほぼ一致しているという。ヤマガラは、貯食行動によって森づくりに大きく貢献している。
  • ヤマガラの驚異的な記憶力と種子散布・・・ヤマガラが貯食した場所を忘れるから、種子散布に貢献しているとばかり思っていた。ところが、ヤマガラの研究では98%とほぼ全て記憶していることが分かった。恐らく彼らは、自分たちの食べ物を恵んでくれる樹木を意図的に増やすために、豊作になれば食べる分以上に貯食しているのであろう。
  • ヤマガラの幼鳥・・・ヤマガラは胸からお腹にかけて赤みがあるが、幼鳥はその赤みがほとんどないので識別が難しい。でも、よく見ると頭は白黒のツートーンカラー、顔と胸に薄い赤みがあるのが分かる。
  • ヤマガラの幼鳥その2
  • ヤマガラの芸・・・ヤマガラは、人に慣れやすく賢いことから、千年を超える飼育の歴史がある。昭和の半ば頃は、全国の神社の縁日などで、ヤマガラの芸・・・小銭を受け取って賽銭箱に入れ、おみくじを引いてくるヤマガラを見ることができた。江戸時代には、糸で吊るした小桶を足とクチバシを使って器用にたぐりあげ、中に入っているエサをとる「つるべ上げ」など、たくさんの芸が行われていた。しかし、保護上の理由から、こうした野鳥と人との文化も消えてしまったのは残念である。
  • 山雀(ヤマガラ)と俳句
    山雀や榧の老木に寝にもとる  与謝野蕪村
    山雀に小さき鐘のかかりけり  高浜虚子
    山雀の輪抜しながら渡りけり  小林一茶
  • 「鳥が森をつくる」事例
    1. ナッツ型の木の実を貯食し種子散布に貢献する鳥・・・ホシガラス、カケス、ヤマガラ、ゴジュウカラなど。
    2. フルーツ型の木の実を食べ種子散布に貢献する鳥・・・果肉を食べ、中の種子は未消化のまま排出。その排出された種子には発芽能力がある。 ヒヨドリ、レンジャク類、ヒタキ類、メジロなど。
    3. 鳥媒花・・・ツバキ、梅、サクラ、桃など鳥を媒介にして受粉する花。媒介する鳥は、ヒヨドリ、メジロ、ウグイス、ウソなど。
    4. 虫を食べて木を育てる・・・春の新鮮な葉を食べるイモムシ類は、木の敵。そのイモムシ類が大発生する5~6月に鳥の子育てが集中する。それを食べてくれる鳥は、シジュウカラ、ヤマガラ、コガラ、エナガ、ゴジュウカラ、ヒヨドリ、アトリ類、スズメなど、繁殖期に入ったほとんどの鳥がヒナを育てるために大量に捕食してくれる。木にとっては、害虫を退治してくれるありがたい益鳥である。
    5. キツツキは森の番人・・・キツツキは弱っている木、枯れそうな木を選んで木に穴を開ける。弱っている木の害虫を駆除して元気にしてくれるから、「森のお医者さん」とも呼ばれている。また枯れそうな木は、分解を助長し、森林の遷移・成長に貢献することから、「森の番人」と呼ばれている。
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
「鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)
「野鳥ウォッチングガイド」(山形則男、日本文芸社)  
「鳥たちの森」(日野輝明、東海大学出版会)