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野鳥シリーズ51 カラス

INDEX ハシボソガラス ハシブトガラス ミヤマガラス
  • 車にクルミを割らせるハシボソガラス(スズメ目カラス科)

     農村に多く、細めのクチバシをしたカラス類。オニグルミの硬い実を自動車に轢かせて割らせて食べるほか、海で採った貝類を岩やコンクリートの上に落とし、割って食べるなど、知性的な行動をする。留鳥として九州以北に分布し、平地林から山地林、農耕地、公園、海岸などに数多く繁殖している。
  • 見分け方・・・ハシブトガラス(上右)に似ているが、クチバシが細く、おでことの間は段にならずなだらか。ハシブトガラスは、額に段差があり、上クチバシが太く、下向きに湾曲している。
  • 全長50cm 翼開長99cm
  • ・・・一般的に「ガーガー」と濁った声で鳴く。「カア、カア」と澄んだ声で鳴 いていたらハシブトガラス。人間の目では、オス、メスの違いは判別不能。
  • 鳴く姿勢・・・杭の先、鉄塔、電柱、枯れ木の先端など目立つ所にとまり、頭を前後におじぎをするように振る。この動作に合わせて「グワララ、グワララ」と鳴く特有の行動を行う。この時、背中と喉から胸の羽を逆立てることがある。
  • 生 活・・・屋敷林に囲まれた集落が点在する農村が典型的な生活場所。主に穀類や豆類、昆虫、クモ、動物の死体、ゴミなどを食べる。ハシブトと同じく雑食性だが、生ごみへの依存度はハシブトより低く、植物系の食材を多く食べる。食べ物を貯える習性がある。 
  • 繁殖期と縄張り・・・ツガイで縄張りを持ち、樹上に営巣する。産卵期は3~6月。卵数3~5個。抱卵日数20日程度、巣立ち日数約1ヶ月。縄張りは二重構造・・・直径80~100mほどのツガイ縄張りと、その周囲に前年産まれた子と共に守る直径500~800mの家族縄張りがある。去年の子は、両親のツガイ縄張りには入れてもらえない。 
  • 非繁殖期・・・家族を単位に大きな群れで行動し、集団のねぐらをもつ。
  • 巣づくりのために木の枝を運ぶハシボソガラス
  • 樹上の巣で抱卵中・・・開けた場所にある樹木に木の枝を組み合わせてお椀状の巣をつくる。
  • エサをねだる4匹のヒナ 
  • カラスが人を攻撃する理由・・・主に繁殖期のことでヒナを守ろうとして攻撃する。攻撃は、単独かツガイによるもので、群れで襲うことはない。ヒナにいたずらをしたり、巣より高い所から見下ろす場合、執拗に攻撃することがある。攻撃する前に、警戒、威嚇の行動をとるので、それに気付けば攻撃を回避できる。
  • 昔はハシボソガラスを食用に・・・カラスは、ハシブトとハシボソの二種類だが、もっぱら食用にされたのはハシボソカラス。不味いハシブトに比べ、おとなしく、悪臭もないらしい。特に寒カラスが美味だと記録されている。それでもカラスの肉を食べると、今も昔も恥ずかしいことらしく、隠して食べていたらしい。
  • カラスの行水・・・カラスは水浴びの時間が短いことから、ろくに洗いもせず入浴を済ませてしまうことの例え。実際は、カラスも他の鳥たちと同様、羽についた汚れや寄生虫などを取るために、水たまりに頭から突っ込んだり、体ごと水たまりに入れたりしながら入念に水浴びをする。ゴミを漁る汚いイメージとは裏腹に、意外にきれい好きである。鳥の水浴びは、病気にならないための必須行動であるから当然のことなのだが。
▲羽黒修験の開祖・蜂子皇子を祀る蜂子社(羽黒山山頂)
  • 神の使い「三足カラス」・・・三本足のカラスは、熊野修験のシンボルで、神の使いとされている。羽黒修験の開祖・蜂子皇子は、三足カラスに導かれて羽黒に入ったと言われている。また、羽黒山の名は、そのカラスの羽が黒いことに由来する。日本サッカー協会のシンボルが「三足カラス」というのも興味深い。
 

▲JFA(日本サッカー協会)のエンブレム
  • 嫌われ者の代表格であるカラスが、なぜ神の使いなのだろうか・・・昔は、人が死ぬと水葬、風葬をしていた。カラスは人が死ぬのを待っている鳥で、風葬の清掃者とも言われている。また、死者の霊は山に上ると言われる。つまり、死の世界の象徴的な鳥がカラスで、中でも三本足の特殊なカラスをシンボル化したものと考えれば、何となく分かるような気がする。 
  • その三本足のカラスは、八咫烏(やたがらす)と呼ばれ、日本神話によれば、神武天皇を大和の橿原まで案内したとされており、導きの神、太陽の化身として信仰されている。
ハシブトガラス
  • 市街地でゴミを漁るハシブトガラス(スズメ目カラス科)

     都市部に多く、市街地でゴミを漁る最も身近なカラス類。一般的にハシブトガラスは森林性で、ハシボソガラスは開けた草原などを好むと言われる。だからハシブトは、林や森の中に巣をつくる。クチバシが太く、おでことクチバシの間が段になっている。日本では、留鳥として全国に分布し、街中から奥山まで広く生息している。雌雄同色で、足を含む全身が黒色。 
  • 見分け方・・・クチバシは太く、おでことの境が段になっていること。類似種のハシボソガラスは、額がなだらかでクチバシは細いので見分けられる。ミヤマガラスは、クチバシの基部が白っぽい。 
  • 全長57cm 翼開長105cm
  • ・・・一般に「カーカーカー」と澄んだ声で鳴く。「アー、アー、アー」、あるいは「アハハ、アハハ」と、人の笑い声に似た声を出すこともある。 鳴く時の姿勢は、上の写真のように体を前に45度に保った姿勢で、声に合わせて尾を真下に下げる動作をする。
  • 生活・・・木立の点在する農村部にハシボソガラスが棲息しているのに対し、林の続いている所や市街地、都市部にと棲み分けの傾向がみられる。市街地では、ゴミを主要なエサにしており、ゴミ処理場などには特にたくさんの個体が集まる。雑食性で、動物の死体を好んで食べるほか、鳥の卵やヒナ、弱った獣を襲ったり、木の実、セミの幼虫なども食べる。
  • ハタハタのぶりこに群がるハシブトガラス・・・12月になれば、ハタハタが産卵のため大群でやってくる。その際、大量のぶりこが浜に打ち上げられる。ウミネコに負けじと群がるハシブトガラス・・・秋田ならではの食性である。
  • ハタハタのぶりこをくわえたハシブトガラス・・・この後、木の上に向かって飛び立ち、水平な枝にとまって貪り食っていた。
  • 巣づくりのために木の枝を運ぶハシブトガラス ・・・本来は森林性だが、都市の公園や神社、お寺などの森林に似た場所をうまく利用して都会に進出。
  • 繁殖期にはツガイで生活し、縄張りをもつ。松やスギなどの高木に営巣する。産卵期は3~6月。卵数3~5個。親は巣から200~400mほどの範囲で食べ物を探し、それを巣から50~100mの範囲内で貯蔵したりしている。巣立ち後も長期にわたって家族の群れで生活する。
  • 貯 食・・・ハシブト、ハシボソの共通の習性が貯食。ハシブトは、食べ物を樹木の穴などに隠す。ハシボソは、草藪、石の下などに隠す。こういう貯食の習性をもつ鳥は、隠した場所をほぼ全て憶えているほど記憶力が凄い。カラスの記憶力が優れているのは、この貯食習性にあると言われている。
  • トビとハシブトガラス・・・トビは魚類を好むことから、漁港などではカラスやウミネコたちとエサを奪い合う光景をしばしば見かける。
ミヤマガラス
  • 大群で行動するミヤマガラス(スズメ目カラス科)

     晩秋~冬の干拓地や農耕地で、日中から大群を形成する。クチバシの根元が白っぽいカラス類。ユーラシア大陸の冷温帯から亜寒帯にかけて繁殖し、日本には冬鳥として飛来する。もともとは九州地方南部に多数飛来していたが、現在は分布域を拡大し、北海道を含む全国の干拓地や農耕地に渡来する。
  • 見分け方・・・ハシボソガラスよりやや小形で、クチバシは細く尖り根元が白っぽい。ほぼ全身は黒いが、光線の加減によっては光のある青紫色に見える。額が盛り上がり、段差がついて見える。
  • 全長47cm、翼開長90cm。 
  • ・・・「グワー、グワー」「カカカッ」と、細めの声で鳴く。 
  • 生 活・・・地上では、歩いたり跳ねたりして移動し、穀類や豆類、昆虫類などを食べる。警戒心が強く、群れのうちのどれか1羽が飛び立つと、他も次々と飛び立つ。円を描くように飛翔しながら徐々に高度を上げ、乱舞しながら別の場所へ移動する
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
「森の野鳥観察図鑑 鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)
「秋田たべもの民俗誌」(太田雄治著、秋田魁新報社)