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野鳥シリーズ52 カケス

  • ドングリの森をつくるカケス(スズメ目カラス科)

     翼に青い羽をもち、カラス科とは思えないほどカラフルな鳥だが、「ジェー」というダミ声を聞けばカラス科だと分かる。ほかの鳥の声や、物音、ネコなどの鳴き真似をすることで有名。夏には山地など少し標高の高い場所で繁殖し、秋から冬にかけて里から平地へと下りてくる。秋の深まりとともに、ドングリを頻繁に貯食する光景が見られる。ミズナラやコナラの森は、生き物たちや人間にとっても恵みをもたらす大切な森だが、その森をつくった立役者がカケスだと言われている。北海道に留鳥として分布するものは、頭上から顔が黄褐色の亜種ミヤマカケスである。 
  • 見分け方・・・大型の留鳥で、紫褐色の体、鮮やかな青色のある翼、ゴマ塩模様の頭、のどは白く、目先は黒い。雌雄同色。 
  • 全長33cm 翼開長50cm
  • ・・・地鳴きは、「ジェージェー」「ジャー」と、お世辞にもきれいとは言えない。ただし、鳴きまねの名人で、猫やいろいろな鳥の鳴き声を巧みにまねる。その鳴まねでだまされそうになるが、最後に「ジェー」と、本来のダミ声を発するので見分けられる。
  • 生活・・・林道や山道を歩いていると、よくフワフワと飛ぶ姿を見掛ける。繁殖期には、ツガイで生活する。主に針葉樹の枝の上に、小枝や根で巣をつくる。産卵期は4~6月。卵数は4~8個。枝から枝へ飛び移りながら昆虫などを捕食するが、小鳥の巣から卵やヒナを捕ることもある。秋、ミズナラ、カシ類などのドングリを好んで食べる。枝上で足指を使ってドングリを押さえ、クチバシで突いて中身を出して食べる。ドングリを貯える習性がある。 
  • カケスの貯食・・・喉袋に4個ほど呑み込み、クチバシに1個、計5個ほどを持って貯食する。運んだドングリは、1粒ずつ地上の枯葉をどけて地中浅く埋め、再び枯葉をかぶせる。多いときには1日300個、1シーズンで4,000個に達するという。
  • 貯蔵場所・・・ほとんどが下生えの少ない林床。貯蔵は1ヵ所に1個づつ分散貯蔵する。カケスは地上に降りるとドングリを吐き出し、葉や枯葉の下にクチバシで押しつけ、枯葉や苔をかけて貯蔵する。
  • 森づくりの達人?・・・カケスやホシガラスでは1~数km、外国では最高20kmも運んだ例があるという。カケスがドングリを運んで、数キロ離れた所にナラ林ができた例もあるというから、カケスやホシガラスは、さしずめ「森づくりの達人」と言えそうである。
  • ミズナラのドングリ
  • ブナの実
  • ナッツ型果実の戦略・・・ミズナラやブナの実は、年によって豊凶の差が激しい。それは、貯蔵された種子を食べられずに生き残らせる戦略だと考えられている。凶作の年に散布者の密度を低く抑えておけば、豊作の年には食べ残しの確率が高まるからである。
  • ドングリとタンニン・・・ドングリの尖った上半分にはタンニンが多く含まれている。タンニンは味をまずくし、大量に食べると成長を阻害し死に至らしめる物質を持つことがある。だから動物は、主にタンニンの少ない下半分を食べているという。残った上半分さえあれば発芽能力は充分にあるらしい。
  • ドングリにとってカケスはベストパートナー・・・ネズミやリスは、ドングリを地中深く埋めることが多いので、発芽率が低い。カケスの分散貯蔵は、適当な深さに埋められるので発芽率が高い。だからドングリにとってカケスは、ベストパートナーだと言われている。
  • 群れの順位・・・食べ物が限られた場所では、木の上で順番待ちが見られることから、群れの中に順位があることが分かる。 
  • 縄張り決定に関する儀式・・・3羽から20羽ほどが集まって、頭や腰などの羽毛を逆立て、奇妙な声で鳴き交わしたり、追い合いをしたりする。これはツガイの形成や縄張りの決定などに関する儀式だと考えられている。 
  • イワナを狙ってやってきたカケス・・・イワナの腹を裂き、内臓と血あいを取り去ってザルに入れる。雪代の水は、手がかじかむほど冷たく、焚き火で暖をとっていると、カケスがやってきた。辺りを見回し、警戒しながら調理用のイワナに近付いた。
  • カケスがイワナを襲う決定的瞬間・・・カケスがイワナを食う。これには驚いた。 しかし、イワナが大きすぎて口にくわえることができない。何度も挑戦するものの全てダメ。魚の場合は、体長の半分以下のサイズまで丸呑みにできると言われる。このカケスの場合、イワナのサイズとほぼ同じくらいの体長しかない。 とうとう諦めて姿を消した。恐らく1年魚程度の小イワナなら食ったに違いない。
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
「鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)
「日本野鳥歳時記」(大橋弘一、ナツメ社)
「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
「野鳥 ポケット図鑑」(藤本和典、主婦の友社)
「鳥たちの森」(日野輝明、東海大学出版会)