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野鳥シリーズ61 ホシガラス

  • 森づくりの達人・ホシガラス(スズメ目カラス科)

     ホシガラスは、高山の森に棲むカラスの仲間で、全身に白い斑点がたくさんある。その模様が満天の星空に似ていることから、「星ガラス」と名付けられた。その素敵な名前にあやかって各種ボランティア団体の名前にも採用されている。例えば、南八幡平地区パークボランティア連絡会「ホシガラスの会」、「NPO法人富士山の森を守るホシガラスの会」などがある。
     ホシガラスは、ハイマツやトウヒなどの針葉樹の実を好むが、ブナやミズナラなどの落葉広葉樹の実も大好きで、秋には貯食行動が頻繁にみられる。特にハイマツの種子散布は、ホシガラスがほぼ全てを担っている。さらに、山崩れで森が失われた場所にも貯食を繰り返し、森を再生する鳥としても知られる。だから、「森づくりの達人」と呼びたくなる鳥である。
  • 写真提供ブログ:「Digital一眼で撮る野鳥Blog
  • TOP画像にホシガラスを配置・・・「モリエールあきた」のTOP画像(上の画像)の右上側・赤い点線の枠内に配置されている鳥がホシガラス。「鳥が森をつくる」代表種がホシガラスであることから、「森づくり」を象徴する鳥として配置している。なお、この画像は八幡平に生息するホシガラス。
  • 秋田県内でホシガラスが見られる山・・・八幡平、森吉山、田代岳、乳頭山、秋田駒ヶ岳、和賀山塊、栗駒山など。
  • 見分け方・・・背、胸、腹の白い斑点が星屑のように目立つのが特徴。雌雄同色で、頭部はチョコレート色、クチバシは黒く、がっしりしていて鋭く尖っている。
  • 飛ぶと下尾筒と尾の先の白が目立つ。
  • ・・・「ガァー、ガァー」と、しわがれたような鳴き声を聞けば、カケスと同じくカラスの仲間だと分かる。警戒時は「ガッガッガッ」、繁殖期は「フィルル、フィルル」「フォイー、フォイー」などと低い声で鳴くことがある。
  • 全長35cm 翼開長59cm
  • 生 活・・・亜高山~高山帯の針葉樹林を主な生活場所とし、昆虫や針葉樹の種子などを食べる。秋には、ハイマツ帯によく現れ、松ぼっくりを岩の上に運んで突き、種子をほじくり出して食べる。実の殻が固すぎると、足の間に抱え、鋭く尖ったクチバシをノミのように使って割って種子をとりだす。また、冬から来春の繁殖期のエサとしてハイマツの種子を土の中や木の洞に貯食するほか、ブナ帯の森にも現れ、ドングリなどの木の実を喉袋にたくさん入れて貯食する。その一部が利用されずに残った種子が芽を出し、自分たちの子孫が利用する森づくりに貢献している。
  • 繁殖期(上左の写真は幼鳥)・・・雪の深い3月下旬頃から営巣をはじめ、高木の枝上にダケカンバの小枝などで巣をつくる。卵数は2~4個。雌雄ともに抱卵、給餌を行う。抱卵日数約18日、巣立ち日数約23日。その後2~3ヶ月間は、親の元にとどまって、厳しい環境で生き抜くために必須の貯食の仕方を学ぶというから凄い。 
  • ハイマツの大群落とホシガラス・・・八幡平や和賀山塊の沢々を登り詰め山頂に向かうと、密生した笹藪とハイマツ群落が行く手を阻み、それを突破するのに悪戦苦闘したことがある。沢登りの人たちに「魔のヤブ漕ぎ」と称されるほどのハイマツの大群落は、どのようにして分布を拡げたのだろうか。ハイマツは、背丈が低いから、風による散布には向かない。だから動物散布に適応したナッツ型の種子をもっている。その動物の代表は、英語でナッツ・クラッカーと呼ばれるホシガラスである。
  • 北海道アポイ岳調査・・・ハイマツの種子を貯食するホシガラスの割合は、ヤマガラ、ゴジュウカラ、エゾリス・シマリスなどの競争相手を大きく引き離し、何と96%を占めていた。その決め手は、飛翔による高い移動能力に加えて、一度に平均して140個ものハイマツ種子を大きな喉袋に貯め込むことができるからである。
  • 北米西部山岳地帯に生息するハイイロホシガラスの観察結果(Tomback、1982)
     毎年、32,000個ものマツの種子を貯食。その1ヵ所当たりの貯食個数は平均3.7個、ということは貯食場所は8,600ヵ所以上に及ぶ。他の動物にとられた分を差し引いても、種子は大量に残り、発芽する。マツの種子は、長距離分散型貯食によって、ハイイロホシガラスのエサとなる食べ物も増えるから、両者には共生関係があり、これは「共進化」の結果だとしている。
  • カケスとホシガラスの貯食方法の違い・・・カケスは、ドングリを一つ一つ違う場所に隠すのに対して、ホシガラスは、数個をまとめて地中に埋める習性がある。しかし、ハイマツは、ドングリと違って地上子葉性で、地中に埋められることに適応していないらしい。ところが1個の子葉では持ち上がらない土も、複数の子葉が力を合わせることで地上に顔を出すことができるという。これも「共進化」の結果なのだろうか。
  • 驚異的な記憶力・・・1951年の観察結果では、ホシガラスがツノハシバミの実を1ヵ所当たり15~20個ずつ隠した後、積雪の下から実際に実を掘り当てた割合は86%に達したという。貯食した場所が、積雪の下に埋もれてしまうと、眼も臭覚も通用しないから、ホシガラスの記憶力だけを頼りに掘り当てたことになる。他の動物に横取りされた分を考慮すれば、驚異的な記憶力である。
  • 富士山のホシガラス・・・富士山にはハイマツが生育していないのにホシガラスが周年にわたって生息している。調査結果によれば、山地帯から亜高山帯に点在しているゴヨウマツ(ヒメコマツ)の種子を2~10kmも離れた場所に貯食していることが明らかになった。その貯食行動の見られた場所では、ゴヨウマツの稚樹が多数発見された。近くにはゴヨウマツの繁殖個体がないため、これらの稚樹はホシガラスの貯食行動がゴヨウマツの分布拡大に役立っていることを示している。
  • ハイマツの種子を美味しそうに食べるホシガラス。ホシガラスは、マツの実が不作で食糧不足が起こると一斉に生息域を離れることがあるらしい。
  • 水を飲むホシガラス。野鳥は、一般に警戒心が強いが、ホシガラスは、人を恐れず、興味をもって近づいてくるようなタイプに属する。森づくりの達人で、かつ人懐っこい鳥となれば、会の名前に使われるのもよく分かる。
  • スイスマツとホシガラス・・・アルプスに生息するホシガラスは、主にスイスマツの種子が好物で、これを貯食する。昔、中部ヨーロッパのアルプス山脈では、人間によりスイスマツが広範囲で伐採されたが、ホシガラスの驚異的な貯食によってマツの群落が再生したという。日本だけでなく、世界中のホシガラスが「森づくりの達人」として活躍している。素晴らしい!
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
  • 「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
  • 「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
  • 「鳥たちの森」(日野輝明、東海大学出版会)
  • 「あきた探鳥ガイド」(日本野鳥の会秋田県支部編、無明舎出版)
  • 写真提供ブログ:「Digital一眼で撮る野鳥Blog