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野鳥シリーズ68 トラツグミ

  • 夜な夜な寂しげな声で鳴くトラツグミ(スズメ目ヒタキ科)
     山釣りで焚火を囲みキャンプしていると、暗闇から口笛に似た「フィー、フィー」と寂しげな声を何度も聞いたことがある。その声の主が野鳥のトラツグミだったとは、最近知って驚いた。それもそのはず、昔は得体の知れない妖怪の声だと思われていた。その正体は、独特の虎斑(とらふ)模様をしている日本最大のツグミ類。本州から九州では留鳥、北海道では夏鳥。平地から山地の林で繁殖し、薄暗い場所を好む傾向がある。冬季は公園林でも見られる。雑食性で、主にミミズや昆虫類を捕食するほか、植物の実も食べる。奄美大島など一部の島では、トラツグミの亜種オオトラツグミ(天然記念物)が棲息している。 
  • 写真提供:髙久 健氏 参考ブログ「ケンさん探鳥記
  • 特徴・・・頭部から体上面、尾羽は全体に黄色みの強い褐色で、黒いうろこ状の模様がある。頭頂では細かく、体上面では粗い。体下面は白く、黒い三日月形の斑がある。目は大きく、虹彩は黒い。足は肉色で、クチバシは黒褐色。 
  • 雌雄同色で、♂と♀の識別は難しい。虎斑模様は、自然の中では保護色で、なかなか肉眼だけで見つけるのは難しい。
  • 名前の由来・・・全身が虎斑模様をしているツグミ類であることから。
  • 全長 30cm 
  • トラツグミはかつて「鵺(ぬえ)」と呼ばれた・・・1981年に公開された映画「悪霊島」(原作・横溝正史)の「鵺(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい」というキャッチコピー以来、特に有名になった。 
  • 妖怪「鵺(ぬえ)」伝説・・・平安時代末期、毎夜、丑三つ時になると、御所は黒雲に覆われ、「ヒョー、ヒョー」という不気味な鳴き声がする。帝は、得体の知れない鳴き声を聞く度、全身が震え、うなされるようになった。都人はその声の主を「鵺(ぬえ)」と呼んで気味悪がった。鬼退治で有名な源頼政が、鳴き声を頼りに矢を放った。近づいてみると、頭はサル、胴体はタヌキ、手足はトラ、尾はヘビのような妖怪であった。その声は鵺(ぬえ)のようだったことから、鵺(ぬえ)=妖怪というイメージが定着していった。 
  • ・・・暗闇の中、「チィーン」あるいは「フィー」という不気味な口笛のような音で、長い間を開けて鳴く。ときに、高い音と低い音が交互に繰り返されるので、雄と雌が鳴き合っているとか、雄同士がなわばりを争って鳴き合っているとも言われている。 
  • 現代でもお騒がせな鳥・・・1970年代半ば、UFOブームがあった時代、夜な夜な山林から聞こえてくる音が話題になった。マスコミは、宇宙船がどこか山峡に着陸して発信音を出しているのではないかと、連日報道した。そう言えばうちの村でも、うちの村でも、と不安が高まった。1週間ほどすると、ようやくその正体が明かされた。
     さらに、ある女子大の寮の周りでは、夜中に口笛を吹いている不謹慎な者がいるとの通報で、警官が出動したという話もある。トラツグミは、全国の山林に普通にいるから、昔の妖怪から、現代のUFO、不審者と間違われるなど、古今を問わず実にお騒がせな鳥である。
  • 生息地・・・丘陵から低い山地の暗い広葉樹林。
  • 食性・・・主に地上付近で行動し、頭を左右に振り、クチバシで落葉をはねのけてミミズや昆虫などの小動物を捕食する。育雛期になると、クチバシ一杯に多数のミミズをくわえて巣に運ぶ姿が観察されている。エサが少なくなる冬場は木の実などを食べる。 
  • 繁殖期・・・主に夜間、口笛のような声でさえずる。細いがよく通る声で遠くまで聞こえる。しかし方向感に乏しく、どこで鳴いているのか全く分からない。
  • 産卵期 4~7月。卵数 3~5個。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
  • 「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
  • 「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
  • 「鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)    
  • 写真提供:髙久 健氏 参考ブログ「ケンさん探鳥記