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野鳥シリーズ75 サシバ

  • 里山を代表するタカ・サシバ(差羽、タカ科)
     東南アジアから夏鳥として渡来し、秋田・岩手以南の里山で繁殖する。ハシブトガラスよりやや小さいタカの仲間で、里山の生態系の上位に位置している。ということは、サシバが生息していれば、生き物の多様性が高く、里山環境が良好であることを意味している。秋になると、各地で大規模な渡りの様子が観察される。俳句の世界では、「鷹渡る」という秋の季語になっている。近年、里地里山の荒廃が進むにつれて生息分布が縮小し、絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。
  • 写真提供:髙久 健氏 ブログ「ケンさん探鳥記
  • 特徴・・・クチバシが黄色く先が黒い。喉は白く中央に黒い縦線がある。尾羽には下から見ると焦げ茶色の帯模様がある。(写真は♀) 
  • ♂と♀の違い・・・♀は目の上に白い眉斑が目立つ。お腹から胸の全体がより白っぽいことで区別できる。♂は頭がやや灰色で、胸は茶色。 (写真は♂)
  • 名前の由来・・・鎌倉時代からサシバと呼ばれていたが、「真っすぐに飛ぶ鳥」、越冬地を目指して「一直線に飛ぶ」姿から、「差羽・刺羽」と書くとか、あるいは奈良時代の儀式用の団扇である「さしば」が、この鳥の尾羽で作られていたことに由来する説など諸説ある。 
  • 全長 ♂47cm、♀51cm 
  • 鳴き声・・・「ピックィー」とよく鳴く。この特徴的な鳴き声から「ピックイダカ」と呼ぶ地方もあるという。 
  • 生息環境・・・特に谷津田などの田んぼと雑木林がモザイクのように入り組んだ典型的な里山環境で繁殖する。
  • 食性・・・ヘビやトカゲ、カエル、トノサマバッタやアブラゼミ、ヤママユの幼虫などの昆虫のほか、ネズミや小鳥、アメリカザリガニやサワガニなどを捕まえることもある。 
  • 待ち伏せ型の狩り・・・見晴らしの良い木の枝などの高みから地上を見張り、獲物を見つけると飛び下りて足指の爪で捕まえる。時には、地上に下りて探すこともあるが、見つからないと再び見晴らしの良い場所に止まり獲物を探す。 
  • 田んぼの畔を利用・・・サシバは、田んぼの畔で多くの獲物を捕らえる。だから田んぼの周りの草刈りを行うと、その場所を狩りに利用するとの報告もある。 
  • 営巣・・・林内のマツやスギの大木の高くて目立たない枝上に枯枝を積み重ねて巣を作る。大きさは直径70cmほど。5月頃、2~4卵を産む。鶏の卵よりやや小さく、薄い灰色で、わずかに斑模様がある。  
  • 抱卵・・・主に♀が卵を温める。その日数は約30日。
  • 子育て・・・ヒナのエサの多くは♂が捕ってくる。♀は巣に残り、ヒナの世話をする。ヒナが大きくなり、たくさん食べるようになると、♀もエサを捕りに出かける。巣立ちまでの日数約35日。6月下旬~7月上旬に巣を離れ始める。その後も2週間程度は、巣の近くで親からエサをもらう。(写真は幼鳥)
  • 渡り・・・秋になると大きな群れをつくり、沖縄本島や宮古島などの南西諸島を経由して東南アジアに移動する。南西諸島で越冬するものもいる。
  • タカ柱・・・9月下旬~10月中旬、渡りのルート上にある山間部の峠などでは、群れが谷間から上昇気流に乗って上昇し、しばしばタカ柱を見ることができる。こうして羽ばたくことなく滑空しながら移動する。これを繰り返すことでエネルギーを節約しながら遠くまで渡ることができる。多い時には、1日に数百から数千羽の大群になる。
  • 減少の原因・・・耕作放棄地の増大、里山の荒廃、ほ場整備による乾田化など。
  • サシバのすめる森づくり・・・巣を作ることができるアカマツ・スギの針葉樹やヤママユのいるコナラなどの広葉樹林と、主食であるカエルがすむ田んぼをセットで保全することが必要である。放置された人工林の間伐やコナラなどの広葉樹が混じる森、あるいは一定の面積を皆伐しアカマツや広葉樹が生育する林に変える取り組みなどが行われている。また同時に放棄された田んぼの復田を行い、見晴らしの良い場所にサシバの止まり木を設置する取り組みも行われている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
  • 「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
  • 「野鳥観察図鑑」(杉坂学、成美堂出版)
  • 「日本野鳥歳時記」(大橋弘一、ナツメ社)
  • 「絶滅危惧の野鳥事典」(川上洋一、東京堂出版)
  • 「春を告げる里山の武者 サシバ」(トヨタ自動車生きものノートシリーズ)
  • 写真提供:髙久 健氏 ブログ「ケンさん探鳥記