本文へスキップ

野鳥シリーズ80 アオバト

  • 海に飛来し、海水を飲むアオバト(緑鳩、ハト科)
     山地の森林に生息し、全身が緑色のハト。♂は緑色に赤紫色が目立つ。夏から秋にかけて海岸に群れで飛来し、海水を飲む行動が知られている。留鳥または漂鳥として北海道から九州に分布し、東北地方以北の個体は冬季に南下する。群れで行動することが多く、落葉広葉樹の実を好んで食べる。だから白神山地や森吉山、八幡平などブナ帯の落葉広葉樹林帯に生息している。白神山地の谷沿いで野営していた時、森の奥からあの不思議な鳴き声を何度も聞いたことがある。その声の主が分からず、気味悪い思いをしたことが思い出される。森の中では、緑色の体色が葉っぱに同化し、なかなか見つけるのが難しい。それだけ樹上生活に適応したハトと言える。
  • 写真提供:髙久 健氏 ブログ「ケンさん探鳥記
  • 特徴・・・全体に緑色のハトで、ズアカアオバトに似ているが、腹部が白いこと、♂はブドウ色が混じる点で区別できる。 
  • 名前の由来・・・緑色をしたハトであることから、「緑鳩」と書いて「アオバト」と呼ぶ。緑を「アオ」と呼ぶのは、奈良時代や平安時代には色を表す形容詞が、白、赤、青、黒の4つしかなかった。だから、緑色は青に分類されていたからである。 
  • 全長 33cm 
  • ・・・「ワァーオー、オワーオー、ワー」などと、物悲しげな声で鳴く。聞く人によっては、小さな子供あるいは捨て子の泣き声だとか、笛の音などと勘違いする人もいるくらい、鳥とは思えない不思議な声で鳴く。だから東北では、様々な民話や伝説に登場している。 
  • アオバトの民話
     昔々、ある長者の家に働き者の牧童がいた。朝早く山に馬を連れて行き、夕方には長者の屋敷に帰ってくるという真面目な仕事ぶりが際立っていた。しかし、ある日のこと。「アオ」と呼ぶ青毛の馬が見えなくなってしまった。「アオ」は、長者がとても大切にしていた馬だったので、牧童は狂ったように「アオー、アオー・・・」と叫びながら探し回った。身体は傷だらけ。そのうち責任感の強かった牧童は力尽きて倒れてしまった。彼の魂は魔王鳥になって「アオー、アオー・・・」と今でも探し続けている。 
  • 「遠野物語」52話に記されたアオバト伝説
     馬追鳥(うまおいどり)はホトトギスに似て少し大きく、羽の色は赤に茶を帯び、肩には馬の綱のようなる縞あり。胸のあたりにクツゴコのようなるかたあり。これもある長者が家の奉公人、山へ馬を放しに行き、家に帰らんとするに一匹不足せり。夜通しこれを求めあるきしがついにこの鳥となる。アーホー、アーホーと啼くは此地方にて野に居る馬を追う声なり。年により馬追鳥里に来て啼くことあるは飢饉の前兆なり。深山には常に住みて啼く声を聞くなり。 
  • 食性・・・主に樹上で採餌し、ナラ類やカシ類などのドングリ、ヤマザクラやキイチゴ類、ナナカマドなどの液果を好んで食べ、木の新芽を食べることもある。固い実や種子は、胃でつぶして消化することができる。 
  • 営巣、産卵、育ヒナ・・・繁殖期はツガイで生活し、樹上で営巣する。産卵期は6月頃、2個の卵を産む。巣の発見例は少なく、繁殖生態について不明な点が多い。 
  • ピジョンミルク・・・他のハト類と同じく、ピジョンミルクで子育てをする。ヒナに合わせたエサを調達する必要がなく、親が食べられるエサが十分にあれば、時期を選ばずに子育てできる。だから繁殖力は高い。 
  • 群れで海水を飲む珍しい生態・・・海岸に群れで飛来して海水を飲むことが知られている。数十羽から時に500羽以上の群れが報告されている。アオバトにとっては、ナトリウムが含まれていれば必ずしも海水でくなくても良いらしく、温泉・鉱泉の湯や食品工場の排水、時には堆肥工場の排水を飲むことも報告されている。これらの行動には、ナトリウムを補給する目的があるからであろうが、生理的な意味はよく分かっていないらしい。 
  • 口をつけたまま海水を飲む・・・鳥が水を飲む時は、一般にクチバシで水をすくい取り、頭を上げて流し込む。ところがアオバトは、海岸の岩場の窪地や波打ち際に溜まった海水を、クチバシをつけたまま、ゴクゴクと飲む。 
  • 命がけで海水を飲む・・・海面に浮かぶことが不得意なアオバトにとって、打ち寄せる波が容赦なく襲う場所は、波にさらわれて命を落とすことさえある。なのに決死の覚悟で海水を飲まなければならない理由は何なのか、ぜひ知りたいものである。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
  • 「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
  • 「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
  • 「日本野鳥歳時記」(大橋弘一、ナツメ社)
  • 「ちくま日本文学全集 柳田国男」(筑摩書房)
  • 「自然科学のとびら/アオバトの不思議」(加藤ゆき学芸員) 
  • 写真提供:髙久 健氏 ブログ「ケンさん探鳥記