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 昔からきのこ採りの対象は、美味しく大量に採れるのが条件である。その条件を満たすキノコの一つが、ブナハリタケである。ブナの枯れ木、倒木に重なりあって生える。地元では、スギに生える白いキノコをスギカノカと呼ぶように、ブナに生える白いキノコをブナカノカと呼ぶ。とにかく収穫量が多く、古くから食用キノコとして重宝されてきた。
発生時期

 9月~10月、ブナの倒木や枯れ木などに発生する。ブナ林のキノコの中では、最も香りが強く、真っ白で発見しやすい。折り重なるように大発生するので、一箇所見つけと、食いきれないほど採取できる。一箇所で数十キロの収穫をあげることも珍しくない。
 傘は扇型から半円形、白色のち黄色を帯びる。傘の裏は、その名のとおり、短い針が密生している。最も湿気を好むキノコで、ブナ林の沢沿いの風倒木にびっしり折り重なるように群生する。一箇所で大量に採れるが、水分が多く重いので、山村の人たちは、帰りに採って水をよく絞って運んだ。
 イワナ釣りでは、釣りの最中にブナハリタケの群生に出会うことも少なくない。サワモダシやナメコ、ムキタケと同じく、沢筋の湿った倒木を好むきのこである。
 ブナの老木には、夏に巨大なトンビマイタケ、秋にブナハリタケを大発生させる。ブナハリタケは、立ち枯れの根元から発生し、年ごとに木の上に上がって群生する。
採取のコツ

 手で採取すると、ゴミや泥がつき、後の処理が大変である。ナイフで丁寧に切り取るのが採取のコツである。雨の日以外でも水分を多量に含んでいるので、両手で絞り出す。一時的に縮むが、スポンジのようにすぐ元の形に戻る。繊維質で丈夫なキノコである。
保存法

 ブナハリタケにはキノコバエが集まるので、下ごしらえとして薄い塩水につけ虫出しする。生のまま冷蔵する場合は、一週間程度を目安に新聞紙に包みフリーザーパックに入れて冷蔵する。山村では、熱湯で茹でてから冷まし、大きな樽に塩蔵する。その他瓶詰、冷凍保存など。

きのこの塩漬け

 種類ごとに分けて大鍋でさっと湯がき、ザルにあげて水を切り、冷めたら一斗樽に塩を少し多めにふって漬け込む。一回漬けるごとに熊笹の葉を並べて仕切りをつけ、これを繰り返して樽一杯に漬ける。最後に重石をして、水を入れる。蓋が塩水で隠れるようにすれば空気を遮って腐敗を防ぐことができる。
ブナハリタケ料理

 やや甘いような独特の香りがあるが、キノコ自体の旨味はそれほどない。特有の香りが気になる人は、一度茹でこぼすか、塩蔵してから調理する。油を使って熱を加えると、独特の香りとコクを引き出すことができる。味噌汁、油炒め、天ぷら、炊き込みご飯、鍋物など。

油炒め・・・油で炒め、醤油・酒で味付けする。酢を入れてもさっぱりして美味しい。野菜を入れてもよい。
野菜との煮付け・・・人参、サトイモ、ゴボウ、こんにゃく、大根、鶏肉、ブナハリタケを入れ、酒・みりん・醤油で煮含める。

天ぷら・・・小麦粉をまぶし、さらに天ぷらの衣をつけて揚げる。
左:ブナカノカの煮付け・・・秋田では、秋の収穫の頃の料理として欠かせない食材。

 汚れを落としたブナカノカを食べやすい大きさにさく。厚手の鍋にサラダ油をひいて熱し、ブナカノカ、千切りにしたニンジン、ゴボウ、油揚げを入れて炒める。醤油と酒少々で味をととのえ、汁がなくなるまで煮詰める。最後にあらかじめ茹でておいたササギを加え、ひとまぜする。

右:タケノコとブナカノカの煮付け・・・塩蔵したものを田植えの頃の料理として使う。

 1.ブナカノカを塩抜きし、沸騰した湯でさっと煮る。2.タケノコは、沸騰した湯で5~6分茹で、水にさらしておく。3.鍋に豚肉を入れ、2のゆで汁と酒を加えて炒める。4.いったん鍋から豚肉をあげ、醤油で味をととのえ、コンニャク、ブナカノカ、タケノコを入れ、再び豚肉を加えて中火で煮る。味がしみたら最後にニンジンをいれ、数分煮立てる。・・・ミズ(ウワバミソウ)やアイコ(ミヤマイラクサ)などの山菜を加えると青味が出て料理が引き立つ。(「阿仁川流域の郷土料理」モリトピア選書9)
ブナハリタケの薬効

血圧降下作用、血糖値降下作用・・・ブナハリタケエキスに含まれているイソロイシンチロシンは、血圧降下作用がある。インスリン抵抗性が改善され、糖尿病の進行を抑える作用がある。
脳機能改善、発ガンプロセス抑制作用

ブナ帯のキノコ採りのコツ
▲エノキタケ ▲ヒラタケ ▲ウスヒラタケ
▲キクラゲ ▲トンビマイタケ ▲マイタケ
▲シイタケ ▲ヤマブシタケ ▲マスタケ
▲ナラタケ ▲クリタケ ▲ヌメリスギタケ
▲ナメコ ▲ムキタケ ▲エゾハリタケ

 ブナに生える食用キノコは、トンビマイタケ、ブナハリタケ、ブナシメジ、ナメコ、ムキタケ、サワモダシ(ナラタケ)など。ミズナラには、マイタケ、シイタケ、クリタケ、ヤマブシタケ、マスタケ、ヌメリスギタケなど。

 ブナ帯のキノコは、同じブナの倒木でも、生えるキノコ木を巧みに「棲み分け」している(稀に混生あり)。ゆえに採取データは、マイタケ木、ナラタケ木、ナメコ木、混生木などと、生えるキノコの名称を付けて頭にインプットしておくことが肝要である。

 また、そのデータが一定量に達すれば、種類別に歩く最適ルートを図面に落とすことができる。その最適ルートに従って歩けば、目的のキノコを効率的に採取できる。しかし、キノコ木も数年経てば朽ち果て、目的のキノコも生えなくなる。

 従って、最適ルートを歩く際に、新たなキノコ木のデータを更新していく必要がある。また、気温や降水量を調べ、山を数多く歩けば、キノコの発生時期や量を予測できる。キノコ採りを楽しむコツは、これらを繰り返すことに尽きるように思う。
ブナハリタケ写真館
「丸太小屋」(「天声人語 自然編」辰濃和男、朝日新聞社)

 遠藤ケイ(イラストレーター)はいう。「都会生活というのはひどく無機的で、生活のすべてが他人まかせになっている。そういうことにいや気がさしてきて、何から何まで自分でつくっていく生活がしたい、つまり有機的な生活がしたい、もう一度、汗を流し体でものを考えてみたいと思って・・・」

 森林には人間回復のための豊穣な泉がある。
 「有機的な生活」とか、「汗を流し体でものを考えてみたい」・・・ブナ・ミズナラ林のキノコ採りは、まさに「人間回復のための豊穣の泉」を採り、「何から何までつくって」食す行為でもある。だから楽しい。
「ふるさと」(「天声人語 自然編」辰濃和男、朝日新聞社)

 映画「ふるさと」では・・・なかばぼけた老人が、ひい孫のような少年を連れて幽寂の渓谷に入り、釣りの極意を伝授しながら倒れる。・・・死ぬ直前、老人は少年のわきでつぶやく。

 「山はな、話し相手がおらずとも、ちっとも寂しゅうはないんじゃ、木や花がな、みんな生きとるから、そういうもんが山にはいっぱいあるから、一人でいてもちっとも寂しゅうないんじゃ」

参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本のきのこ」(山と渓谷社)
「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)
「阿仁川流域の郷土料理」(モリトピア選書9)
「キノコ狩りガイドブック」(伊沢正名、川嶋健市共著、永岡書店)
「きのこの見分け方」(大海秀典他、講談社)
「家庭でできるキノコづくり」(大貫敬二著、農文協)
「天声人語 自然編」(辰濃和男、朝日新聞社)
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