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  • ブナの森でキノコの王様と言えば、ミズナラの大木の根元に生えるマイタケである。味も香りも良くお金になるので、山のプロが採るキノコの代表である。これに当たると、舞い踊って喜ぶことから「舞茸」になったと言われる。きのこ採りのプロでさえ、マイタケだけは別格で「見つけた」とは言わずに「当たった」という。
  • 上の写真は、巨樹の根元にどっしり座っているようなマイタケ3株である。こんな状態を「スワリ」という。右のマイタケは巨大で、一株5kgほどの大物である。
  • 上の写真は、全て一本のミズナラから採取したマイタケで、小さな株も含めて14株、総重量は約20kgである。山のプロに聞けば、そんなのは序の口で、一本の木から最高は40kg以上がほとんど、最大は何と70~80kgも採った人がいるという。
     ブナ・ミズナラ林を代表するキノコの王様は、想像することさえ困難なほど、その恵みのパワーは桁違いに凄い。もし素人が40kg以上のマイタケに当たったとすれば、舞い踊るどころが腰を抜かすに違いない。
マイタケが生える「キノコ木」・ミズナラ
  • ブナ科の落葉高木。葉がギザギザのノコギリ歯をもつ独特の形をしている。樹皮は黒褐色を帯び、縦に不規則な裂け目がある。山地に生え、大きいものは高さ35mにもなる。ブナより遥かに寿命が長く、巨木になる。別名「オオナラ」とも言う。果実はドングリとなり、リスやクマなどの餌となる。
  • ブナとミズナラは混生する木だが、性格は全く異なる。ブナは陰樹、ミズナラは陽樹と言われる。陰樹とは、暗くてもゆっくり成長を続けられる樹木で、その代表がブナである。ミズナラは、親木が大きく成長すると、いくら種を落としても足下が暗く、すぐに枯れてしまう。だから多くのミズナラ林は、ブナ林にとって代わられる傾向にあるという。
  • 白神山地や八幡平、太平山系などでは、標高が高くなるとササが出現する。ササに強いのは陰樹のブナだから、ミズナラは少ないことが分かる。また、暗い沢沿いや谷筋には、サワグルミ、ブナ、トチ、カツラ、イタヤカエデなどが生える。
  • ミズナラは、どんな場所に生えているのか・・・マイタケが生えるミズナラは、標高が余り高くなく、日当たりの良い脇尾根筋~急斜面の崖地に生えることが多い。「標高400m~800mを主体」に、山を立体的に歩き、どんな場所にどんな樹木が生えているのかを体で学ぶことが、マイタケ採りの第一歩である。
  • マイタケが生えるミズナラは、100本に1本程度の確率と言われている。だから、データをもたない初心者がやみくもにミズナラの巨木を探し歩いても、当たる確率はゼロに近い。たまに当たってもマグレ当たりに過ぎない。
  • 山を数多く歩き、マイタケが生えるキノコ木のデータを蓄積しないことには、当たる確率は高くならない。しかも、何度も危険な崖地を上ったり下ったりしなければならない。それだけにマイタケは、プロにふさわしいきのこの筆頭と言える。
  • スズメバチとクマに注意・・・ミズナラの根元が空洞になっているところによくスズメバチが大きな巣をつくっていることがある。そういう場合は、例えマイタケが生えていても近づいてはいけない。さらには、スズメバチの蜂の子や昆虫類、ドングリを食べにミズナラ周辺を徘徊するクマもいるので、クマ被害防止対策は必須である。
     つまり、マイタケ採りには、危険な崖地、スズメバチ、クマ・・・といくつものハードルがあり、素人が簡単に採れるきのこではない点に留意願いたい。
  • マイタケ採りのプロは、数十年にわたってマイタケを収穫できるミズナラ大木を「キノコ木」と呼ぶ。キノコ木は、生木(立木)が最も多く、次いで伐根、倒木、立枯木など。一般に一箇所に数g~数kgの株が2~4株発生する。時には10数株もみられることがある。
  • 方言・・・メエダケ、マエダケ(全県)、アワビタケ(仙北・平鹿)、ヤマアワビ(平鹿)
  • ナラノキイシとは・・・マイタケが生える山を判別するには、ミズナラだけでなく、岩石の種類も決め手になるという。上右の写真は、マイタケ銀座で知られる太平山系の花崗閃緑岩。この石を「ナラノキイシ」と呼び、マイタケ採りに欠かせない重要な石だという。簡単に言えば、上左の写真のように花崗閃緑岩を抱くミズナラにマイタケが生えるということ。
  • マイタケは、白系、茶系、黒系の3種類
  • 白系・・・シロマイタケ、ワセマイタケ、シロフなどと呼ぶ(写真:4キロほどの大株)
  • 早出タイプで、9月上旬~9月下旬まで発生。茎は長く枝は分岐が多い。大きな株や特大株が多数発生する傾向があり、全体で数十kgに達するものもある。ただし、容積の割には軽い。歯切れが悪く、他系統のマイタケよりも食味が劣ると言われる。
  • 茶系・・・チャマイタケ、アメイロマイタケ、チャフ、ナカデなどと呼ぶ
  • 中出タイプで、9月中旬前半~10月上旬前半まで。白系マイタケより数日遅れて発生する。葉はやや長く充実、枝は比較的分岐する。肉質は白系より厚く、舌触りは滑らかな良質の食感で、サックサックと歯切れがよく食味は良好である。他系統のマイタケより大型で、株数も多い。
  • 黒系・・・クロマイタケ、ビロードマイタケ、クロフ、シモフリマイタケなどと呼ぶ
  • 遅出タイプで、マイタケシーズン最盛期の9月中旬後半~10月上旬後半に発生。他系統のマイタケより遅く、霜の降る頃に発生する。葉は小葉で茎は短く充実、枝は分岐が少ない。一箇所で十数株も発生することがある。形が良く、容積の割りに重
  • 3種の中では最上級の品質で、市場性が高い。霜降る頃にみられるマイタケは、「シモフリマイタケ、シモフ、シモフサ」などと呼び、最上級品である。
  • 最上級の黒マイタケが、ミズナラの根元を取り囲む・・・「大当たり」
  • 奇妙な形のマイタケ・・・色は茶系と黒系の中間系。開ききった傘は、肉厚で重いのか、一様に下に垂れ下がったような奇妙な形をしている。一瞬、旬を過ぎたマイタケのように見えたが、茎も傘もしっかりしていて、マイタケ特有の香りは満点であった。よくよく考えてみると、天然マイタケはキノコ木によって千差万別。マイタケも、遺伝子の多様性に富んでいることを実感する。
  • 傘の大きいマイタケは、天ぷらに最適だ。
  • マイタケの生育過程と呼び名
  • マメ・・・豆のように可愛い原基が現れ、マイタケ採りの人たちの目に見えるようになった状態
  • サワリ・・・マメから8日程度経過し、採るか採るまいか、触りたくなるような若いマイタケ
  • マイタケ採りのマナー・注意点その1・・・小さいマメは採らない。マイタケは雑菌に弱い。幼菌の周りをウロウロしたり、息をかけたり、触ったりすれば、雑菌によって成長が止まり腐ってしまう。だから出番の木の周りを何度も歩いたり、幼菌に息をかけたり触ったりしないこと。
  • 黒系のマメからサワリの株が大量に発生したキノコ木・・・採るか、採るまいか、悩んでしまう。1週間もおけば、最高の株に成長するはず。しかし、このキノコ木が激戦区にあるとすれば、誰かに採られる確率が高い。それでも採らずにガマンできる人はプロの人格を持つマイタケマンと言えるであろう。
  • サカリ・・・サワリから8日ほど成長し、あたかも働き盛りに見える状態
  • スワリ・・・森に座りながら次の世代に子孫繁栄のため、より多くの胞子を飛散している大株状態
  • ナガレ・・・スワリから6日ほど経過して、傘からほとんど胞子を落とし、悪臭が漂いキノコバエ等が飛来し、傘の肉が落ちる状態
  • マイタケ採りのマナー・注意点その2・・・腐ったマイタケをそのままにしておくと、根は死滅菌に覆われ、発生が2~3年ほど遅れるという。だから腐ったものは、できるだけ根から離して捨てること
  • 発生の周期・・・佐々木仁八郎さんの観察記録によると・・・マメからサワリを採取したキノコ木は1~3年。サワリからサカリ3~5株採取したキノコ木は3~5年。サカリからスワリ6~8株採取したキノコ木は6~8年間隔で発生する。また、サワリ、サカリ、スワリを10株以上も採取したキノコ木は10年以上経過しないと再発生しない。
  • 個人的意見 ・・・私が採取しているキノコ木によれば、毎年出る木もあれば、数年休んでもわずかしか出ない木もある。大量に発生したと思ったら、翌年、寿命尽きて倒れたりする場合もある。同じ木にマイタケが生える期間は、一説によれば50年、あるいは70~80年と長い。だから、毎年発生するような元気な木もあれば、古木になって菌糸の量が少なくなった木、倒れる前の狂い咲き、その年の天候など様々で、発生周期を一概に決めつけることはできないように思う。
  • 採り方・・・両手で上又は下から起こすように採る。マイタケには、「刃物を使うと翌年から出ない」という言い伝えがある。だから、ブナやイタヤカエデなどの枝のさきをノミのように平に削った「ツクシ」を使う。
  • マイタケは、木の根の洞穴に生えることも多いが、そんな時マイタケの根の当たりに見当をつけてツクシを差込み、感覚をつかんで株全体を起こして根から壊さず切り取る。こうしないと商品価値がなくなる。
  • 「刃物を使うと翌年からマイタケが出ない」との言い伝え・・・あるマイタケのプロによれば、それは迷信に過ぎないという。これまで30年近く刃物を使っているが、何ら変わらないと断言する。それを信じて、私たちは素手だけでは採れない倒木の根や穴に生えたマイタケは刃物を使って採っている。
  • マイタケの形を崩さないように持ち帰るには、どうすればよいか・・・山のプロは、オオバクロモジの枝葉でツトを作り、重ねても崩れないように大事に持ち帰る。最近は、通気性の良い大きな背負い籠を用いる人が多い。プロは、二段、三段になっても押し潰されないように、背負い籠に棒を差し込み独自の細工をしている人もいる。
  • ツトの作り方・・・葉のついたクロモジの枝を三尺ほどの長さに数本切る。葉先側は弱いので、互い違いにする。それを×状態、あるいはマイタケを包み込むように数多く置き、その中にマイタケを入れ、折り曲げてから端と端を合わせて細ヒモで結ぶ。つまり、風呂敷で包むのと同じ感覚で、クロモジの枝で包む。
  • 素人向きにオススメなのは絹・綿の風呂敷・・・最近市販されているビニール製の薄い風呂敷は×。絹の厚手の風呂敷に入れ、きっちり結べば、その上に重ねても崩れない。ただし、風呂敷を雨に濡らしてしまうと重くなるので注意。日帰り用の小さなザックは、大きな株が入らないので×。60リットル前後の大きなザックが良い。
  • ビニール袋に入れると蒸れる。あらかじめ、穴をあけておけばOK。
  • 後処理及び保存法
  • 新聞紙又はブルーシートを敷いた上に、本日の獲物を並べる。壊れたクズや形が崩れた株から処理する。根の石突はナイフで切り取り、株全体の泥やゴミを取り除く。
  • 調理しやすいサイズに縦に裂き、直径30cmのザルに入れる。水洗いすると味が落ちるので、水洗いはしない。茎に付着した泥は、ナイフで丁寧に削り落とす。
  • 冷凍保存法・・・水洗いせず、料理別に小分けしてフリーザーバックに入れる。空気を抜き密封してから冷凍保存する。こうすれば1年間美味しく食べられる。ただし、冷凍期間が1年を過ぎると、急激に劣化するので1年以内に消費することが肝要である。
  • マイタケ天日干し・・・マイタケは、天日干しにすると、味も香りも凝縮され、旨味が増す究極の保存法である。しかし、天気が良くないとできないのに加え、手間暇がかかるのが難点。
  • マイタケ料理
  • 天ぷら
  • マイタケ酒(焼きマイタケに熱燗を入れる)
  • お吸い物
  • マイタケパスタ
  • マイタケご飯
  • マイタケ鍋
  • 秋田名物「きりたんぽ」
  • 天ぷら、炊き込みご飯、鍋物、土瓶蒸し、お吸い物、味噌汁、佃煮、茶碗蒸し、炭火焼・ホイール焼き、マイタケ酒、酒蒸し大根おろし和えなど。特に秋田の郷土料理「きりたんぽ」「だまこもち」に欠かせない天然キノコの筆頭である。
  • マイタケの薬効・・・マイタケはサルノコシカケ科のキノコで、多くの薬効成分を持っている。その薬効のパワーは、さすが「キノコの王者」と、思わず合点するほど高い。薬学的に証明されている薬効は・・・
抗がん作用・・・ガン細胞の増殖を防ぐ作用がある。マイタケに含まれるグルガンは、腸を刺激し老廃物の排出を促すため、大腸ガンの予防になる。
抗エイズ作用・・・グルガンという多糖類は、エイズウィルスの働きを抑制する
成人病予防・・・ビタミンD2を豊富に含み、血中のコレステロールを除去して血行を良くし、動脈硬化などを予防する
老化防止、気力充実・・・ビタミンB2が豊富で、皮膚や爪、髪などの老化を防ぐ。また、イライラの原因はビタミンB2不足からくると言われているが、そのビタミンB2は野菜類の約2倍も豊富。  
骨を丈夫に、貧血予防に・・・ビタミンD2は、カルシウムやリンの吸収を促進。鉄分も豊富で貧血を防ぐ。
血圧安定・・・ナイアシンは野菜類の約9倍も含み、血圧を安定させ、胃腸障害を解消する働きがある
ダイエット効果大・・・マイタケに含まれる多糖類をMD-フラクションと呼ぶ。この成分は、動物実験で食べ物の脂肪吸収を抑える効果があることが判明・・・つまり、体重と血液中の脂肪分を大幅に減らす効果がある。
  • これらの薬効は、スーパーで一般に販売されている栽培物でも同様の効果があると言われている。しかし、体に良い薬は、天然物から摂取するほど理にかなったものはない。森と水の恵み・天然マイタケを食べて健康に・・・。   
参 考 文 献
「秋田太平山地のマイタケ」(佐々木仁八郎著、秋田中央印刷株)
 生態測定調査と採取活動30年間の記録
「山渓カラー名鑑 日本のきのこ」(山と渓谷社)
「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)