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 ブナの森の黄葉が峰から谷に向かって走り始めると、ナメコが一斉に顔を出し始める。ブナ林の黄葉と折り重なるようにびっしり生えたナメコの山・・・ブナの森の豊かさを実感するには、黄葉とナメコ採りを同時に楽しむのが一番だと思う。
  • コダシを下げて錦繍に衣替えしたブナの森を彷徨う。上を見上げれば全山黄葉した絶景、下を見れば、「ブナ林の宝石・ナメコ」の山また山・・・黄葉のナメコ採りは、誰だって病みつきになるであろう。
  • ナメコは、主にブナの倒木、枯れ幹、切株に群生する。地方名は、ヌイド、ナメラッコ。漢字を当てると「滑子」。ナメコと言えば、傘の開かない栽培物の印象が強く、傘が開いたナメコは旬を過ぎたように錯覚しがちだが、野生のナメコは、傘が開いたものがボリュームもあり、ナメコ採りの本命である。
  • 豆粒のような幼菌。数日経てば、食べ頃の幼菌になる。
  • 幼菌は、傘裏にヒダを包む被膜に覆われている。傘が開くと、被膜も破れる。
▲傘が開いた成菌(旬) ▲胞子で濃い褐色になった老菌
  • 発生時期・・・ナメコは一旦発生し始めると木を変えながら、1ヶ月にもわたって次々と現れてくるのが大きな特徴である。発生時期は、10月中旬~11月中旬の一ヶ月程度。発生のピークは、谷のブナ林が黄葉する10月下旬から落葉する11月上旬とほぼ一定している。だからナメコの発生時期は、比較的予測しやすい。
  • 天然ナメコが生える条件
    1. 雪崩や雨水で移動しないような安定した林床・緩斜面、急斜面と緩斜面の境界線、沢筋などのブナの風倒木
    2. 湿度がやや高く、風通し・排水ともに良好で、明るいブナ林であること。
    3. 気温は15度前後以下で、一般に黄葉の季節と晩秋~初冬にかけて生える
       この1~3全ての条件を満たさないと、ナメコの大群生には当たらない。要は、里地里山近くの雑木林ではなく、奥地のブナ原生林地帯がポイントになる。つまり、ブナ林を代表する天然ナメコは、山を熟知した健脚向きのキノコと言える。
ナメコの最高の旬は、右端の傘が七~八分開きのものである。
  • ナメコを探すコツ
     ナメコ採りは、ひたすら沢筋周辺の湿っぽい風倒木を探すことに尽きる。ナメコが生える10月下旬ともなれば、地面を覆い尽くしていた草むらも倒れ、灌木類も葉を落とすから、ナメコが生える倒木を発見しやすくなる。
     ただし、採取量は、ナメコが生える倒木のデータをどれだけ持っているかで決まる。だから、同じ沢に何度も通い、ナメコが生えるキノコ木のデータを蓄積していくことが大当たりへの近道である。
     一定量、データを集めたら、概略の位置を地図に落とし、ナメコ採りルートを作れば、最短ルートで最大の成果を得ることができるようになる。風倒木は、倒れてから三年目以降が狙い目。天候は快晴が続いた後ではなく、雨が降った二、三日後が最高の条件と言われる。
  • ナメコは被写体としても一級品
     黄葉の季節・・・苔むしたブナの倒木に重なり合うように生えたナメコの造形美は、何度見ても美しい。時々、ナメコの傘に光が射し込むと、「炎立つ」ような輝きを放つ。ナメコの傘には、落葉が降り積もり、粘液をたっぷり含んだ雫が傘の周辺部から滴り落ちる。
     ヌメリ、色艶、造形美・・・いずれをとっても涎が出そうなほど美味しそうに見える。しかも、その造形美は一つとして同じものがなく、被写体としての魅力は無限大である。ちなみにナメコは、「ブナ林の宝石」とも呼ばれている。
  • 採り方のコツ
     手でむしり採ると、倒木を傷つけるだけでなく、泥汚れまで持ち帰ることになり、後の処理が大変なので×。倒木を傷つけないよう、ナイフや山刀、カッターナイフで切り取る効率的に採取するにはザルが便利。ザルを下にして、ナメコを株ごとザルに切り落とす。この方式だと、泥が付きやすいナメコを地面に落とすことなく短時間に採取できる。
  • 初冬の干しナメコ
     すっかり落葉した初冬になると、ナメコはヌメリを失い乾燥した干しナメコのような状態となる。開いた傘は波打ち、傘の縁は乾ききってシワシワになっている。一瞬、これがナメコか・・・と疑うほど変形している。しかし、干しナメコは、虫もつかず、腐ることもない。
     天然の冷蔵庫の中に長期保存しているのと同じ。ヌメリを失った干しナメコを水に浸せば、ナメコ特有のヌメリは復活する。味も全く変わらない。
  • 後処理と保存法
     ナメコは、現場で幼菌と成菌に分けて袋に入れ背負うのがベスト。ごちゃまぜにして家に持ち帰った場合は、一回目の荒洗いで幼菌と成菌に選別する。二度目の洗いで細かい泥や枯葉、苔類を完全に洗い落とす。それでも幼菌の傘と茎の隙間に入ったゴミなどはとれない物もある。それは別のザルに入れ、最後に頑固な汚れのナメコは、一つ一つ流水で洗い流せば綺麗にとれる
  • 幼菌、成菌別に分け、料理に使う量を小分けにしてフリーザーパックに入れ冷凍保存する。長期保存あるいは贈答用には、幼菌を主体に缶詰加工する。
▲大根おろし和え ▲成菌を使ったナメコの味噌汁
▲納豆汁 ▲ナメコの松前漬け
  • ナメコ料理・・・ナメコ汁、納豆汁、いものこ汁、おろし和え、三杯酢、ワサビ醤油、鍋物、麺類の具、佃煮、網焼き、天ぷら、松前漬け、卵とじなど。特に秋田の郷土料理では、納豆汁、いものこ汁、稲庭うどんの具として欠かせない。
  • ナメコの味噌汁・・・天然のナメコは傘の開いたナメコを使う。新鮮なうちにあっさりした味噌汁にするだけで、キノコの旨味が十分味わえる。簡単かつ美味。
  • 開きナメコの網焼き・・・炭火で焼き、醤油をつけて食べる。これは絶品である。
  • 天ぷら・・・よく水気をとり小麦粉、天ぷらの衣をつけて揚げる。塩をふりかけ食べると美味い。
  • 天然ナメコのおろし和え・・・ナメコの幼菌を熱湯でさっと湯がいた後、冷やして水を切る。大根おろしは、細い根元側をすりおろし、ザルに入れて水を切る。茹でたオクラとシラスを入れると、さらに美味しくなる。これをポン酢等で和えると、出来上がり。
ナメコ写真館
  • 「ブナ帯のキノコの王者のようなナメコは、人々の好みに合っている上に・・・もともとナメコがブナの倒木に多く発生したことを思えば、やはりブナ帯のキノコの代表は、これに尽きると言えるであろう。」(「ブナの森と生きる」北村昌美、PHP選書048)
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本のきのこ」(山と渓谷社)
「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)
「キノコ狩りガイドブック」(伊沢正名、川嶋健市共著、永岡書店)
「きのこの見分け方」(大海秀典他、講談社)