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モリエールあきた

 秋田では人気が高い夏のキノコの代表で、トビダケ、トンビダケ、ブナマイタケなどと呼ばれている。真夏の暑い最中、むせ返るような藪をかき分けて探すのは重労働だが、その分、巨大な群生に当たると感激は最高潮に達する。

 天然のトンビマイタケは、市場に出回る量が少なく値段が高い。しかも、奥山のブナ林でないと採れないからプロ向きのきのこである。また、きのこの王様・マイタケより発生量が多く、一カ所で最大100kg以上にもなる。担げないほどの巨大な群生に遭遇すれば、誰しもブナ林の底しれぬパワーに圧倒されるに違いない。
▲数百年ブナの根周りにトンビマイタケが生える

 トンビマイタケが生えるブナ林の斜面・・・日当たりが良く通気性の良い所に生える。標高はおよそ400m~800mの範囲が多い。
 大型の傘を広げた姿が翼を広げたトンビに似ていることから「トンビマイタケ」と呼ばれている。この巨大なきのこを珍重するのは、秋田県と山形県・・・その他の県ではほとんど食べないらしい。
▲倒れたブナの根元にも生える

 トンビマイタケは、ブナの木に生える。ただし、若い木や腐れ木には寄生しない。老木、生木・立ち枯れの木・倒木・折れ木・切株、地中に埋もれた木などに発生する。木が腐れ中が空洞になったような老木は、最後の狂い咲きで大量発生するという。
 ブナの根の周りはもちろん、長く地中を這う根の遥か先にも巨大な株が連なって発生する。ブナの老木一カ所で数十キロ~百キロもの群生は、ミズナラに大発生するマイタケをも凌ぐパワーである。初めてトンビマイタケの大群生に当たった時は、「母なる森・ブナ」のパワーに心底驚かされた。

 当時の記録によると・・・「幹の中間から枝分かれしたブナの幹が一本折れた巨樹が目にとまった。森の主のような風格を持った老齢木を撮ろうと近づいた。巨木の周囲は、異様なキノコ独特の香りが漂っていた。苔生したブナの根元を覗く。

 何と、トンビマイタケの巨大な株の群れではないか・・・私も柴ちゃんも、こんな巨大なキノコの株は見たことがない。二人とも、しばし声を失った。」
トンビマイタケの特徴

 枝分かれした一枚一枚の傘片は桁違いに広くデカイ。一株は手の平サイズから最大で大人がすっぽり隠れるほど巨大になる。食べ頃は、径20~25cm、傘の厚さが1cmぐらいが旬である。肉は白く次第に黒変し、肉質はやや弾力がある。
 姿・形の美しいキノコだが、一度手に触れたり、物に接触すると、真っ白なヒダが右写真のように真っ黒に変色する。これはトンビマイタケの特徴で、別に味に問題はない。このキノコは、若くても繊維質が強いのが最大の特徴である。
発生時期

 8月上旬から9月上旬、ピークはお盆の頃で、別名ナツマイタケ、ドヨウマイタケなどと呼ばれている。昔から「日照りトビダケ」と言われ、雨の少ない年ほどトンビマイタケの発生は多いと言われる。
腐った老菌

 若いものの肉質は白色で軟らかいが、次第に褐色をおびるとともに肉質も硬くなり、食用に適さなくなる。黄葉の頃、ナメコ採りでブナ林に入ると、トンビマイタケの腐った老菌に出会うことも少なくない。それはトンビマイタケが生える貴重なキノコ木・・・逃さず記憶しておけば、当たる確率が高くなる。

 ちなみに腐った老菌は、マイタケと同じく木から離して捨てる。そうしないと発生が2~3年遅れる。つまり腐らせないで採れば、それだけ翌年以降もよく生えるということ。
採り方

 外すときは素手で採るが、手の平が黒くなる。根に張り付いたものは、ナタやナイフで取る。プロは、商品価値を第一に考え、できるだけ黒くならないように慎重に採り、一株づつ新聞紙に包み、特製の籠にトビダケが重ならないように詰め込む。素人は、多少黒くなっても味に問題がないので、そんなに神経質になることはないだろう。

 一度に背負えないほどの大群生に当たった場合は、無理をせず、その場にデポして後日回収する。その際の注意点は、陽に当たると黒くなるので、日陰に隠しておくことを忘れずに。
料理

 トンビマイタケは茹でると黒くなるので、その汁を捨てて水洗いした後絞って調理する。多少硬くなったものでも、「さきいか」のように縦に裂き片栗粉をまぶして油で揚げると酒の肴になる。また、縦に裂くと硬くて歯切れが悪いような場合は直角に包丁を入れ、なるべく薄く切るのが調理のコツである。

 炊き込みご飯、佃煮、味噌漬け、味噌汁、お吸い物、炒め物、天ぷら、けんちん汁、鍋物(トンビマイタケ入りきりたんぽ鍋)、煮物など。

トンビマイタケの栽培とレシピ(秋田県山本地域振興局)
白岩トンビマイタケ祭(秋田県仙北市白岩)
薬効

 古くから糖尿病や大腸がん予防、誘発大腸発癌の抑制に効果がある言われている。秋田では、体に良い薬効があるから、乾かしてお茶代わりに飲んでいる。
保存

 老菌は茹でて塩漬けにし、戻したものを味噌漬けにする。冷凍・瓶詰・缶詰め・塩漬け・味噌漬け。天日で乾燥させて干しトンビマイタケとして保存し、お茶代わりに飲む。また秋田では、乾燥した成菌をキリタンポの出汁としてよく利用する。
トンビマイタケ採りで忘れてはならない携行品

 防虫ネット、虫よけスプレー、熱中症にならないよう飲み物は多めに持つ、新聞紙、タオル、軍手、ナタ又はナイフ、チョコレート・大福餅など甘い物、オニギリ・パン、予備食、雨具、クマ避け鈴、クマ撃退スプレー、コップ、ビニール袋、救急絆創膏など。車の中には、着替え一式、クーラーに冷えた飲み物。
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本のきのこ」(山と渓谷社)
「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)

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