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  平成26年10月11日~12日、「鳥海山伝承芸能の祭典」がにかほ市で開催された。
 「霊峰鳥海に舞う こころ一つに 守り紡ぐ」をテーマとし、先人たちの熱き心と強い意志のもとに守り継がれてきた全国の民俗芸能が、霊峰鳥海山に集い、地域の文化遺産として伝承者の技と刻まれてきた歴史を全国に発信することを目的としている。(引用:パンフレット横山忠長にかほ市長あいさつから)

 天気に恵まれた10月11日は、奈曽の白瀑を抱く金峰神社境内 郷土文化保存伝習館 特設ステージに、200名を超える観客が集まった。
   
 出演団体は、にかほ市から7団体、県内4団体、県外から11団体が参加し、2日間に渡りにかほ市象潟体育館とこの地で伝統の舞いが披露された。このうち、金峰神社で披露されたにかほ市の鳥海山小滝舞楽保存会の「御宝頭の舞(ごほうとうのまい)」と「小滝のチョウクライロ舞(こたきのちょうくらいろまい)」について紹介する。
 
 御宝頭の舞(ごほうとうのまい)

 
御宝頭の舞は、毎年1月2日の小滝集落巡幸、1月7日の金峰神社7日堂祭、6月第2土曜日に行われる金峰神社例大祭、12月20日前後の日曜日の当番渡しの祭に奉納される。6月第2土曜日に行われる金峰神社例大祭では、次に述べる「小滝のチョウクライロ舞」に先立って、土舞台(チョウクライロ山)を祓い清めるために御宝頭の舞が奉納されている。

 当日、解説を行った齊藤壽胤氏によると、「雅楽の獅子舞の流れを汲むもので、宮中ではなくなったものがこの地域に残っていたもの。チョウクライロ舞と両方が残されていたのは奇跡に近い」とのこと。 
   
 神事が行われた後、獅子の中に二人が入って舞う。 
   
 太鼓、笛、鉦に合わせ、時に激しく、時に優雅に舞う。 
   
 
 舞の途中、神主から刀が献げられ、口にくわえて舞う。鞘から刀を抜き豪快に舞う。このことから刀獅子、男獅子などともいわれる。 
 
 チョウクライロ舞

 平成16年2月6日に国の重要無形民俗文化財に指定された「小滝のチョウクライロ舞」は、毎年6月第2土曜日に行われる金峰神社例大祭で同神社境内にある土舞台、別称チョウクライロ山で奉納される。

 この奉納の由来をパンフレットを元に我流に理解し昔物語風に説明と、「むかしむかし鳥海山に手長足長という悪鬼が住民を苦しめていたそうな。住民を救うため、その時の天皇様が慈覚大師に悪鬼退治を命じたんだって。大師はこの地に赴き、21日間護摩密法を修行祈願し、法力でついに手長足長を退治したんだってョ。その時、陵王(りょうおう)・納曽利(なそり)の面を造り、石段と土舞台を築き、厭舞(えんぶ)を奏して八講祭を行い、神恩に感謝のお祭りをしたそうな。その時の舞がチョウクライロ舞といわれたんだと。」(パンフレットには年代や時の天皇の名前も記載されています。)

 「チョウクライロ」とは、「民俗文化を継ぐ」(秋田魁新報連載記事)によると、「長(ちょう)久(く)生(ら)容(いろ)」からきていて、長く久しく生きる容(すがた)の意味で、延命長寿を願うものとされるそうだ。 
   
 陵王(左)と納曽利、慈覚大師が悪鬼・手長足長を退治した際、八講祭を開くため制作されたものといわれている。何の材質かなと望遠レンズで覗いてみると木で制作されたお面であった。
 舞は7つの演目で構成されており、この日は全ての舞が上演された。 
 
 九舎(くしゃ)の舞

  注連縄(しめなわ)を張り巡らせた舞台で、青年2人が狩衣を着け、陵王と納曽利の面をつけて、笏拍子(しゃくびょうし)を手にしたものが囃す唱詞(となえことば)にあわせてゆっくり舞う。東西南北に二度ずつ繰り返し舞っているように観たが、間違えていないだろうか。五穀豊穣を願う舞。
   
 
 荒金(あらがね)の舞

 青年一人が狩衣姿で陵王の面をつけ、舞台に貼られた注連縄を薙刀っで切り離す。その後舞に入る。世の中の平和を願う舞。 
   
 
 小児(ちご)の舞

  6人の男児が花笠をかぶり、鞨鼓(かっこ)と呼ぶ小さな太鼓を腰に下げ、ササラをすりながら舞う。「無欲・無私」の子どもの清浄さと花笠による清浄さを表現し、延命長寿を願う舞という。
 唱え文句が「チョウクライロ」と唱えることから、この舞いをしてチョウクライロ舞と言われることもあり、代表的な舞である。
   
  化粧を施し、脇差しをさして登場。左手の男の子は鞨鼓を腰に下げ、右手の男の子はササラをすってゆっくり進む。
 
 太平楽(たいへいらく)の舞

  これも子どもたちの舞い。花笠をとった4人が舞う。「天下を治めるには、まず自分の行いを正しくし、次に家庭をととのえ、次に国家を治め、そして天下を平和にすべきである。」というさまを舞う。人倫を尊ぶ舞。
   
 
 祖父祖母(そふそぼ)の舞


 これも子どもの舞。子ども二人がお面を付けて舞う。いざなぎ・いざなみの国生みを表す舞。夫婦和合が万物生成の根元と教える舞。

   
 
 瓊矛(ぬほこ)の舞

 納曽利のお面を付けた青年一人、御神木を神官より受け取って舞う。国造りの舞。     
   
 
 閻浮(えんぶ)の舞

 はじめ男役として陵王の面を付けて舞い、次の人は女役として納曽利の面を付けて舞う。 我国を治め万国を豊潤幸福にする舞。   
   
  陵王の面を着け笏を持って舞う。
   
  次に納曽利の面を着け扇を持って舞う。
 
  にかほ市からは7つの伝統芸能が披露されたが、このうちの幾つかの伝統芸能では伝えられてきた全ての演目を継承していくことが困難となっているほか、途絶えた演目もある。農山村地域では、過疎化・高齢化が進み、地域社会の崩壊も危惧されている中で、伝承されてきた文化が今後も継承されていくのだろうかという危惧を持つ。

 しかし、県内各地には今回の出演団体以外にも地域独特の伝統芸能が息づいている。地域に継承されている芸能や文化にふれたくて遠くから訪れる人々も多いと聞いているし、この行事にあわせて帰郷する人もいる。伝統芸能は、この地で生まれ生活をした人々の脳裏にしっかり焼き付いているし、愛着と誇りを持っているのだろう。地域の人々がこういった気持ちを持ち続けられたなら、この文化は廃れることはない。

 地域に継承されてきた伝統芸能を守り続けるということは大変なことだが、農山村社会の維持や活性化に結びつくのは間違いない。   
参 考 文 献 
「鳥海山伝承芸能の祭典」(第29期国民文化祭パンフレット)秋田県にかほ市
「金峰神社と舞楽」ホームページ(鳥海山小滝舞楽保存会)
「国指定文化財等データベース Weblio辞典」