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 2014年10月11日~13日、華道フェスティバル野外展が秋田市千秋公園本丸で、室内展・第72回県綜合いけばな展は18日~26日、秋田市にぎわい交流館AUで開催された。「華道(いけばな)」は、仏前に花を供える「供華(くげ)」に始まり、約600年の歴史をもつ伝統文化である。
▲「寿ぎ」安藤草楓・・・ウメモドキ、イチイ、ユリ ▲「祝いの秋」今野稔・・・カサブランカリリー、ツゲ、ホウキグサ等 ▲「恋をした秋」寺田美恵子・・・カシワ、ダリア、カスミソウ
いけばな(華道)とは

 「いけばな」とは、自然の草木を材料として、花器の上に、自然とは異なる別の小さな造形物をつくりだし、鑑賞する芸術のこと。「華道」とも呼ばれている。華道には、「いけばな」よりも求道的な意味合いが強く、さまざまな流派がある。「いける」とは、草の花、木の花を花器に取り合わせ、生理的、芸術的な生命を新しく蘇らせることをいう。
▲「立華」新田光風・・・石化杉、石化柳、リンドウなど ▲「此処から」苅安清祥・・・ツバキ、ネズ、ストレッチャー ▲「岳暮れる」上村周峯・・・フジツル、ツルウメモドキ、ユリなど
いけばな(華道)のルーツ

 いけばなが誕生するのは室町時代。そのルーツの一つは、仏様に供えられる花・供花(くげ)である。仏前に花や香などを供え、飾る方法は仏教伝来とともに伝えられた。もう一つの大きな要素は、神前に常磐木を捧げ、そこに神が依り来ることを願った依代の影響が大きいといわれている。

 今でも榊の枝でお祓いしたり、お正月に門松を飾る。常緑樹は、永遠性があり、ここに神が宿るという依代信仰もあわせもっていた。だから、いけばなの花材には、草本類の花や葉だけでなく、その骨格をなす木の枝や蔓、流木が多く使われている。華道フェスティバルの展示を見ていると、日本の自然(森)、日本人の自然観から生まれた文化であることがよく分かる。
▲いけばなや茶道、庭園など多様な文化が花開いた東山文化「銀閣寺」  
いけばなの歴史概観

 室町時代には、床や書院に瓶花を置いて鑑賞することが普及した。この頃は草木の自然の姿のままに挿した「なげいれ花」が主であった。15世紀頃には、七夕の催しに花を立てることが盛んになり、その名手が池坊専慶である。

 たて花は、2~3本の草木からなるシンプルないけばなで、主となる花材を中心に立てることを重視し、従となる花材を添える構成になっている。銀閣寺・東山文化(室町時代中期)を築いた義政は、いけばなと茶道の発展に大きな役割を果たした。
▲天龍寺の床の間といけばな ▲「京のいけばな展2011(下鴨神社)」

 17世紀末になると、一般住宅にも床の間が普及し、手軽な「なげいれ花」が人気となる。スター的存在であった二代池坊専好の活躍を機に立花が大流行した。18世紀中頃には、いけばなは町人の遊芸として大衆化していった。その頃から遠州、宏動流、古流、松月堂古流、壬生流などの流派が生まれ、今日まで継承されている。

 江戸時代後期には、煎茶のサロンとその席にいけられた瓶花が、江戸の文人たちに好まれ、文人花として発展。近代には、女性教育にも取り入れられ、いけばなは日常生活に定着していった。
▲「京のいけばな展2011(下鴨神社)」
 戦後、1960年~65年、高度経済成長とともに、会社のクラブ活動などでいけばなを習う女性が増え、町の花屋さんが設けているいけば教室も盛況を呈し、空前のいけばなブームとなった。

 1970年代以降、若手のいけばな人の中から、流派の枠を超えて、グループ展や野外展が各地で数多く催されるようになった。そして、花器といういけばなの枠を離れ、自然と人間とをつなぐものとして植物を位置づけるようとする・・・いけばとは何かを再考しようとする動きも出始めた。

 昭和33年、ブリュッセルで万国博覧会が開催された。その日本館で行われた「イケバナ」のパフォーマンスは、多くの人々を引き付けた。「イケバナ」=「花の芸術」は世界的に注目を集め、いけばなの国際団体も設立された。今では、全世界50数ヵ国、会員数7600名を数えるまでに発展。「いけばな」は国際的に通用する言葉となった。
▲田中理笙・・・ヒバ ▲「秋の彩り」村井凌雲・・・ソナレ、コチョウラン ▲鎌田雅甫・・・コマユミ、ササリンドウ 
稽古歌に学ぶ

 「挿花(いけばな)稽古百首」は、江戸時代の花人が、和歌仕立ての31文字に書き連ねた稽古の手引書である。その内容をみれば、森のクラフトやリース、観賞用山野草などにも相通じるものがある。その中から、10首を紹介する。

花一種 二種か三種に かぎるべし 秋草はまた 五種もいけるべき

 いけばなは、一種か二種、もしくは三種ぐらいでいけるべき。ただし秋草のように姿が弱々しく色の淡いものは、五種類も、時には七種類もいけ合わせることがある。桜、牡丹、かきつばた、蓮、菊、水仙などは、古くから「一色もの」として賞美されてきた。
▲「集う」小松秀穂園・・・ウメモドキ、クリスタルブランカなど  ▲「なごりの秋」簗取睦洋・・・ハイビスカス、ワックスフラワーなど ▲三浦草悦・・・石化柳、モンステラ、オンシジューム、ユリ
勢いを 花にも葉にも 第一に うつむく花を 嫌うべきなり

 いけばなは、枝葉にも花にも、弾むような勢いがあることが第一。それとは反対に、うつむく花を嫌う。
▲黒澤豊恵・・・カキ、ドラセナソング、セローム、テンナンショウ ▲杉村月郊・・・ウメ、ダリア、ブルーファンタジー ▲「未来にむかって」脇葉月・・・マツ、グミ、フィロデンドロンなど
木も草も 高い低いに 長みじか その姿をぞ たがえべからず

 草木には、植物個々の性質や特色、形態といった自然の出生があり、それを尊重していけることを非常に大切にしている。だから、長いもの、短いもの、高く立ち伸びるもの、低く集約するものがあったりするが、その草木の姿を違わないようにいけることが大切である。
▲梁川桜和 ▲石和田あや ▲三浦瑞瞳 
同じ色 左右へつかう ことなかれ 茎をいくらも ならべべからず

 同じ色を左右へ使うことは、対象になり過ぎておもしろくない。また、茎をたくさん並べて使ってはいけない。
▲斉藤鶴宝 ▲寺邑桃翔 ▲荒川才華 
すくなくも さびし多きも うるさけれ ただ繁からず 風情あるべし

 花材の少なすぎるのも寂しい。反対に多過ぎるのもうるさく閉口だ。ほどよい草木が多からず少なからず、溶け合い調和し合ってこそ、風情が美しく発揮される。
▲野呂翠亭 ▲永井玉蕉 ▲草薙翠豊 
なにごとも 自慢はならぬ ものと知れ また上上の あるものぞかし

 何事も自慢は見苦しいので、してはならないものと心得ておくべきである。テクニックでもアイデアでも、上には上があることを知っておくべきである。
▲松崎京翠 ▲佐々木清可  
業(わざ)ばかり よくても風雅 なき人は 花を知らざる 人というべし

 テクニックばかり上手でも、風流心のない人は、いけばなを知っている人とは言えない。技術より、人を感動させる花をいけてこそ、いけばなを知った人といえる。
▲「出会い」清栄流 ▲「夢と希望」五明流 ▲「秋の昔日」桜月流
三方の よきは上手の 手ぎわなり せめて二方は よくもあれかし

 いけばなは正面から観賞するのが原則だが、手際のいい人の花は、三方から見ても鑑賞に耐えられる。せめて二方からでも見られるようにいけたいもの。
▲「羽後の花嫁道中」和風古流
▲「あ~秋ですね~」の一部、専正池坊 ▲「奏」小原流仙台支部青年部

花により その日その日の 出来不出来 気もちによって あるはずのこと

 花をいける場合、日によって出来、不出来がある。材料の良し悪しもあれば、気持ちの具合によることもある。出来、不出来の波がないようにすることが大事である。 
▲「城址に捧ぐ」花芸安達流
陰陽は 自然の花に そなわれと ただ第一の こととこそ知れ

 「陰陽」とは、相反する性質をもつ二つの「気」のことで、例えば、春秋、南北、昼夜、男女、紅白など、いけばなも陰陽の調和によって成立する。四季折々の材料の中から陰陽を取り合わせて、季節の「気」を美しくあらわすことが第一である。
花材・・・木もの、草もの、蔓もの

 常緑樹や落葉樹、花を賞美する木、葉を賞美する木、実を賞美する木など、色々あるが、総称して「木もの」という。これに対し、草本類を「草もの」という。竹や山吹、萩などのように、木とも草とも見えるようなものを「通用もの」と呼んできたという。ただし、こうした呼び名は、植物学上の分類とは異なるので注意が必要である。

 曲線のもつ表情を生かし、花形の動感を表現する花材として、アケビ、キウイ、ツルウメモドキなど、蔓状の花材を「蔓もの」という。
木の花材の例

 ネコヤナギ、梅、マンサク、トサミズキ、アカシア、椿、コブシ、モクレン、れんぎょう、キイチゴ、ガクアジサイ、ユキヤナギ、桜、ハナミズキ、コデマリ、ヤマブキ、ツツジ、バイカウツギ、アジサイ、イタヤカエデ、ナナカマド、ナツハゼ、フヨウ、ハギ、ムラサキシキブ、ツルウメモドキ、サンキライ、ウメモドキ、モミジ、サザンカ、センリョウ、ナンテンなど
 大切に人を迎える「もてなしの花」、想いを表現する「創造の花」、心を見つめる「静寂の花」、人を繋ぐ「絆の花」、大自然や生命を尊ぶ「祈りの花」・・・それらすべてが「いけばな」だと記されていた(「京のいけばな展」のパンフレットより)。いけばな(華道)は、600年の歴史があるだけに、奥が深い。
参 考 文 献
「生け花入門」(主婦の友社)
「四季 いけばな入門」(講談社)
「四季 花の事典 和花・洋花・野の花を楽しむ」(講談社)
秋田さきがけ「第72回県綜合いけばな展 上・中・下」