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昆虫シリーズ⑤ クマバチ、その他ハナバチの仲間

  • 見かけによらずおとなしいクマバチ(ミツバチ科)

     ブンブンと大きな羽音を立ててホバリングするハチがクマバチ。体長約23mmと大型で、ずんぐりした体形。黒色で、胸は黄色の毛に覆われているハネは黒色でやや紫色味がある繁殖期のオスは、縄張りをつくり、ホバリングしている姿をよく見かける。巣は、長いものだと30cmにもなる。卵のそばに、幼虫の食べ物となる花粉だんごを置く。羽化後も母子が同居する(亜社会性)。花の外側から穴を開けて蜜を吸う盗蜜行動もよく観察される。(写真:ハマナス) 
クマバチ
  • 名前の由来・・・クマをイメージさせるような体型・色・毛をしているのが由来。各地の方言で「クマンバチ」とも呼ばれている。「クマンバチ」とは、一般的に大型のスズメバチの別名だが、スズメバチ同様怖そうなイメージが先行して方言に使われているのだろう。ブンブン怖そうな音を立てて飛んでいるオスには、針がなく、例え素手でつかんでも刺される心配はない。メスには針があるが、ミツバチよりずっとおとなしく、ほとんど刺されることはない。
  • ♂と♀の見分け方・・・正面の頭を見て識別する。上左の写真が♂、上右の写真が♀である。♂の複眼は丸くて大きく、複眼の間が黄白色。♀の複眼は細長く、間は黒い。
  • クマバチは、サクラの咲く頃、越冬から目覚める
  • 食性・・・花の蜜と花粉。下向きの花も得意。(写真:ドウダンツツジ)
  • 口吻が短い・・・蜜を吸う口吻が短いので、蜜まで届かない花に対しては、頑丈な首と太い口吻を使って花の根元に穴を開け、蜜だけを得る盗蜜行動もよく見られる。
  • 盗蜜・・・アベリアとキササゲの花の根元に穴を開け盗蜜するクマバチ
  • 花木によく訪花・・・トチノキやフジ、ニセアカシア、ウワミズザクラ、キササゲ、サラサウツギ、ドウダンツツジ、エゴノキ、ハシドイ、バラ、アジサイ、ハマナス、イボタノキ、ナツツバキ、ネムノキ、ノリウツギなど樹木の花によく訪花する。(写真:トチノキ)
  • ネムノキ
  • ニセアカシア、ウワミズザクラ
  • イボタノキ、ハマナス 
  • ノリウツギ、バラ
  • サラサウツギ、ドウダンツツジ
  • イヌエンジュ、ハシドイ
  • ナツツバキ、エゴノキ
  • もちろん野草の花にも訪花・・・シロツメクサ、ムラサキサギゴケ、コスモス、菜の花、ハスなど。 (写真:ムラサキサギゴケ、シロツメクサ、ハス)
  • フジとクマバチ・・・フジの花はとても固い構造で蜜を守っている。大きなクマバチが花に止まって蜜を飲もうとすると、初めて固い花弁が開いて隠れていた花柱とヤクが現れる。クマバチはフジの花から蜜をもらい、フジの花はクマバチの胸と腹に花粉をつけて受粉を助けてもらう。フジはクマバチを花粉媒介のパートナーとして特に選んでいると言われている。 
  • 低空ホバリング・・・クマバチは、地上2mくらいの高さで「ホバリング」しているのをよく見かける。これは、オスが交尾のためにナワバリに近づくメスを待つための行動。ナワバリに近づいてくるものがあれば、追跡してメスかどうか確認する習性がある。写真を撮ろうと近づくと、オスが近づいてくる。その大きな羽音は、スズメバチの羽音に似ているので最初は恐怖を覚えたが、オスには針がないので刺されることはない。クマバチはきわめて温厚なハチである。 
  • 亜社会性・・・初夏、メスが太い枯れ枝や木造家屋の垂木などに細長い巣穴を掘る。蜜と花粉の団子を幼虫1匹分ずつ丸めて産卵して間仕切りをする。このため、1つの巣穴には、1列に複数の個室が並んでいる。その夏のうちに羽化する子供は、まだ性的に未成熟で、しばらく巣に残って親から花粉などを貰う。こうした母子の同居は、通常の単独性のハナバチには見られない行動で、「亜社会性」と呼ばれている。これは、ミツバチやマルハナバチなどにみられる高度な真社会性への中間段階を示すものと考えられている。また、同じ枯れ木に複数が集まって営巣することもある。 
外来種・タイワンタケクマバチ
  • 外来種・タイワンタケクマバチ・・・2006年、愛知県と岐阜県で初めて発見以降、本州中部を中心に急速に分布域を拡大し、今では関東地方から近畿地方にかけて侵入、定着が危惧されている。クマバチとの識別点は、全身が黒く、胸部の毛が全くないように見えるほど目立たない点である。
  • タイワンタケクマバチの影響・・・在来種のクマバチとの競合や、竹に営巣するので竹を利用する農業・建築業への影響、本種に付着して移入したダニが在来ダニを遺伝的に攪乱する可能性が指摘されている。
ニッポンヒゲナガハナバチ
  • ニッポンヒゲナガハナバチ・・・体長12~14mm。♂は触角が長く、シロスジヒゲナガハナバチに似ているが、腹は全体により毛深い。(写真:セイヨウタンポポ)
  • ♀は触覚が短い。(写真:シロツメクサ、イワカガミ)
  • ニッポンヒゲナガハナバチとシロスジヒゲナガハナバチの見分け方
    厳密に見分けるには、前ハネの肘室が本種は3個、シロスジでは2個になることで識別できる。
  • 春から初夏に見られる。県内では、シロスジヒゲナガハナバチと思って撮影しても、前ハネで確認すれば全てニッポンヒゲナガハナバチであった。恐らく秋田では、シロスジヒゲナガハナバチは稀な存在だと思われる。 (写真:ツツジ)
  • シロスジヒゲナガハナバチより出現時期が少し早く、レンゲやフジなどのマメ科の花を好むが、タンポポや菜の花、ヒメオドリコソウ、ツツジ、トチノキ、イボタノキなどにも飛んでくる。高山では、イワカガミやヒナザクラなどに訪花する。地中に単独営巣する。(写真:ヒメオドリコソウ、トチノキ、イボタノキ)  
小型ハナバチの仲間
  • 小型ハナバチの仲間・・・ヒメハナバチ科、コハナバチ科、ムカシハナバチ科、ケアシハナバチ科、ハキリバチ科は、いずれも小さく似た種が多いが、識別しようにも文献が極めて少ない。素人が写真だけで同定するのは極めて困難。ゆえに、ここでは名前を同定せずに、小型ハナバチの仲間として一括掲載する。 (写真:ハマナス)  
  • ハルジオン
  • ヒメジョオン、ブタナ 
  • コデマリ、アセビ
  • カタバミ、アラゲハンゴンソウ 
  • ヒョウタンボク、ツツジ
  • ジシバリ、タンポポ 
  • ハシドイ、モミジイチゴ  
  • ハナニガナ、キバナイカリソウ 
  • ツバキ、 コトネアスター
外来種による影響
  • 養蜂・農作物の受粉用に導入された外来種による影響
    1. ヨーロッパとアフリカを生息域にしているセイヨウミツバチは、養蜂のため、世界中に持ち出され、現在では、元々ミツバチがいなかった地域でも外来種として定着している。
    2. ヨーロッパとその周辺に生息しているセイヨウオオマルハナバチは、1980年代の後半に農作物の受粉用に家畜化されて以来、日本を含めたアジアの各地域、オーストラリア、南米大陸など世界中に輸出され、野生化している
    3. これら外来種が定着した地域では、在来のハナバチ種の減少やハナバチ類の種数の減少が数多く報告されている。
    4. さらに在来のミツバチやマルハナバチがいなかった地域では、外来種が、在来の植物よりも外来の植物種を好んで訪花する傾向が報告されている。
    5. 近年、農作物の受粉のために使用されるセイヨウミツバチの需要が増え、そのコロニーは、国や地域を越えてやり取りされている。
    6. その結果、野生の送粉者が減り、養蜂種ばかりに世界の食糧生産を依存するとどうなるのだろうか。グローバル化に伴う世界規模での病原体や寄生生物のまん延、その他原因不明の理由で養蜂種に被害が出れば、多くの種類の農作物が影響を受けることになると危惧されている。
  • 新型コロナと文明「パンデミックの責任は人類」・・・動物由来感染症研究の第一人者・ピーター・ダスザックさん(さきがけ2021年3月8日)

     今回の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の責任を負うべき生物種はただ一つ、われわれ人類だ。
     大規模な森林破壊、野放図な農畜産業の拡大、インフラ建設や鉱物採取、野生生物の捕獲と取引といった人間活動が、新型コロナのような動物由来感染症のパンデミックを引き起こす原因であると、科学は明確に示している。・・・
     今世紀に入って以降だけでSARSやMERS、鳥インフルエンザ、ジカウイルス感染症など動物由来感染症まん延の例が増え、加速している。
     新型コロナの次のパンデミックはすぐそこに来ている・・・
     われわれの日常生活の中に「パンデミックを招く消費」があることを認識する必要がある。ブッシュミートと呼ばれる熱帯林地帯での野生動物肉の消費が好例だが、先進国の人々の消費にも、森林を破壊して生産させる肉や農畜産物、パーム油などパンデミックを招く消費が多く存在している。
     何げなく着ている毛皮のコートを生産するために中国などで動物を大量に飼育していることが、動物由来感染症のリスクであることを知る人は少ないだろう。
     日本や米国は、エキゾチックペットと呼ばれる海外の珍しい動物を大量に生きたまま輸入している。多くが人工繁殖よりも低価格の野生の個体であるため、感染症のリスクは大きい・・・
     動物由来感染症のまん延防止には、人間、家畜、野生生物という三つの健康を一つのものとして考えて守る「ワンヘルス」のアプローチが重要なのだが、多くの国において、この三つは別々の政府機関が担当し、互いの協力関係は不十分だ。ワンヘルス実現のために省庁横断的なタスクフォースを設けている国があるが、すべての政府がこのような努力を始めるべきだ・・・
     森林破壊、野放図な農畜産業の拡大、野生生物の取引などを減らすことが次のパンデミックの防止につながる。コストはかかるが、そのリターンは大きい・・・
     各国のロックダウンによって、深刻だった大気汚染が軽減され、イタリア・ベネチアの運河の水はきれいになった。野生生物が戻ってきたことが報告され、海岸で人間に邪魔されなくなったため、ウミガメの産卵数が過去最大を記録した場所もある。人々は良好な環境やきれいな空気がいかにいいものであるか、持続可能性がいかに重要であるかを認識したはずだ。
     社会や経済を根本から変えることは容易ではないが、そこに希望を見いだしたい。
参 考 文 献
  • 「ハチハンドブック」(文一総合出版) 
  • 「受粉にまつわる生態学 花と昆虫のしたたかで素敵な関係」(石井博、ベレ出版)
  • 「日本の昆虫1400」(文一総合出版) 
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)    
  • 「ヤマケイポケットガイド⑩ 野山の昆虫」(今森光彦、山と渓谷社)