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昆虫シリーズ⑥ 花が大好きなハナアブの仲間

  • ハエ目昆虫は、2枚のハネを持つ昆虫で、ハエやアブ、蚊、カガンボなどの仲間。花を訪れるハエ目昆虫は、種類も個体数も非常に多く、ハチ目に次いで重要な送粉グループである。その中でも、花の咲く里山や高山のお花畑によく見られるのがハナアブの仲間で、蜜や花粉を採餌するために花にやってくるハエ目の代表種である。訪花に特化したグループで、そのほとんどが花を訪れる習性をもっている。(写真:ナミハナアブとゴマナ)
  • ハチに擬態した模様が美しく、採餌の様子や空中でのホバリングする仕草がとても可愛い。メスは、卵をつくるため、タンパク質を多く含む花粉を採餌する。オスは、花蜜を採餌するためと、メスとの出会いを求めて花にやってくる。(写真:キヒゲアシブトハナアブとコデマリ)
  • ハナアブとミツバチの見分け方
    1. ミツバチの触覚は、ハナアブに比べて長い
    2. ハナアブの眼は、ハエと似ていて大きい。ミツバチの眼は、アリに似ている。
    3. ハナアブのハネは2枚、ミツバチは4枚。
    4. ミツバチは、蜜を吸うための舌が長く先が尖っている。ハナアブは、口の先が短く、花粉や蜜をなめる作りになっている。
    5. ミツバチは、後ろ足に黄色い固まりになった花粉をつけていることがある。この花粉の固まりは、アブの脚には見られない。
  • ハチのふりをするハナアブ(写真:オオヒゲナガハナアブとマルバシモツケ)・・・ハナアブの仲間は、ミツバチやスズメバチ、アシナガバチに姿が似ている者がたくさんある。例えばオオヒゲナガハナアブは、後ろから見るとスズメバチにそっくり。さらに飛び方までハチそっくりである。他のものに様子や姿を似せることを「擬態」という。
  • 前から見ると、眼が大きく、触角が短いのでアブの仲間だと分かる。 
  • ハチモドキハナアブ(写真:コデマリ) ・・・ドロバチの仲間に擬態している。平地から低山に見られる。触角が長く黒色で、腰の部分が細くくびれ、腹部に2本の黄色い帯がある。花のほか雑木林の樹液に来る。 
  • ハナアブは、なぜハチに似ているのか?(写真:ナミハナアブと菜の花)
    ハナアブには、敵から身を守るための針がない。そこで、毒針があるハチに姿を似せることで、敵は怖いハチだと思って襲ってこないので、身を守ることができるからである。 
  • ハナアブが利用する花の特徴
    1. 形状は放射相対で皿状か椀状。
    2. 葯や柱頭、蜜腺が露出している。
    3. 花の色は、黄色か白色、薄い緑色のこともある。
    4. 日中に開花する。
    5. 香りは比較的弱めのものが多い。
▲ミヤマトウキ ▲チングルマ
▲トウゲブキ ▲ヤマブキショウマ
▲ヤマハハコ ▲菜の花
  • 高山のお花畑にハナアブの仲間が意外に多い
    (写真:コバイケイソウの花に群がるハナアブ/八幡平)
    1. 高山帯やツンドラなどの寒冷地域では、ハチ目をしのぎ最も多く見られる。
    2. 湿原のような湿生環境も、送粉者群集に占めるハエ目の割合が多い場所だと言われている。その理由は、ハエ目昆虫には幼虫時代に水中や泥中で過ごすものが比較的多いことが関係していると考えられる。 
主なハナアブの仲間
  • ナミハナアブ(ハナアブ)・・・成虫は、平地から高山帯の花まで、最もよく見られる。中形でやや太めのハナアブ。腹部は暗褐色で黄褐色の毛があり、ハネ中央の前半は暗色となる。腹部は黒色で、橙黄色の斑紋があるが、変異が多い。ハエの仲間で、蜜をなめるのに適した口をもつ。幼虫は、水生で落葉や魚の死体などの腐敗有機物を採食する。幼虫の体には長い呼吸管があるので「オナガウジ」と呼ばれている。北日本を除いて成虫で越冬するため、厳寒期以外は一年中見られる。
  • 左が♀、右が♂。♀は♂より大きい。 
  • シマハナアブ・・・胸部に灰白色の帯が2本、腹部に白い縞模様と黒色部が目立ち、1対の黄褐色の三角斑があるのが特徴。メスは左右の複眼が離れている。オスはナミハナアブに似ていて、左右の複眼がくっつている。リンゴやナシの授粉に利用されている。 
  • アシブトハナアブ・・・平地から亜高山帯で見られる。胸背の2本の縦縞が特徴。脚は黒く、ももの部分が太い。幼虫はナミハナアブと同じように水生で、「オナガウジ」型である。
  • オオハナアブ・・・黒い体型は太めで、腹部の太い赤黄色の帯が目立つ。複眼には模様がある。幼虫は水中で育ち、成虫は平地から亜高山帯の湿地に咲く花でよく見られる。 
  • ベッコウハナアブ・・・全身に黄橙色の毛が生えていて、マルハナバチに似ている大きなアブ。ハネの中央部に黒い斑紋がある。幼虫は、スズメバチ類の巣に依存して育つ。ハチの幼虫のエサの残りや捨てられた幼虫、サナギなどを食べて育つ。平地から亜高山帯で見られる。 
  • ホシメハナアブ・・・星を散りばめたような複眼が特徴。
  • ホソヒラタアブ・・・平地から高山帯まで見られる。ヒラタアブ類では、最も普通に見られる種。季節によって腹部の斑紋が変わる。ヒラタアブの仲間は、飛翔の名手。空中でヘリコプターのように静止飛行ができる。成虫は花粉の媒介、幼虫はアブラムシを食べてくれるので、園芸家には喜ばれる益虫だ。 
  • ヒメヒラタアブ・・・全国に分布し、一年中見られる。平地から高山までよく見られる普通種。人家の庭などでも見られ、ホバリングしながら花から花へ吸蜜しながら飛び回る。幼虫はアブラムシを捕食する。 
  • ヒメヒラタアブは、交尾しながら空中でホバリングできる凄技をもっている。草の上で交尾するより安全なのであろう。 
  • フタホシヒラタアブ・・・腹部の黄色い紋が左右二つに分かれているのが特徴。
  • キヒゲアシブトハナアブ・・・環境の良好な湿地に見られる。
  • キヒゲアシブトハナアブの交尾
  • キベリヒラタアブ・・・腹部は黄黒の縞模様、胸部側部に黄帯がある。主に山地で見られ、いろいろな花を訪れる。
  • クロハナアブの仲間・・・丘陵から山地に見られる、中形のハナアブの一種。体色は黒一色がほとんど。クロハナアブ属は58種と多いが、図鑑では1~6種と少なく、種の同定が困難なためクロハナアブの仲間とした。
  • クロヒラタアブ
  • ニトベハラボソツリアブ
  • ビロードツリアブ・・・一見、アブの仲間とは思えないほど異質な姿をしたハナアブの中。北海道から九州まで広く分布し、春一番に見かける昆虫の一つ。3~6月、平地から亜高山で花の蜜、花粉などに集まる。幼虫は、ヒメハナバチ科の幼虫に寄生して育つ。
  • サクラ、ヒナザクラ
  • 名前の由来・・・ホバリングして蜜を吸う姿が、まるで見えない糸で吊り下げられているように見えることから。
  • イワウチワ、イワカガミ・・・口吻が長いので、蜜が深い所にある筒状の花から吸蜜するのが得意。
  • 検証コロナ新時代 寄稿「繰り返されてきた物語」生物学者・福岡伸一(秋田さきがけ2021年4月30日)

     ・・・切り札となるはずのワクチン接種が世界中で進められる一方、新手の問題が起きつつある。変異株の出現だ。
     E484KやN501Yといった変異株の名称にはちゃんとした意味がある。ウイルスはスパイクタンパク質という突起を持つ。これはアミノ酸が連結してできたもの。変異株では、484番目、もしくは501番目のアミノ酸が、それぞれE(グルタミン酸)からK(リジン)に、N(アスパラギン)からY(チロシン)に置き換わっている、ということを示す。
     スパイクタンパク質は、ウイルスが宿主の細胞に接着するときの足がかりとなり、またワクチンも、このタンパク質に対する抗体の産生を促すよう設計されている。抗体がスパイクタンパク質に結合すると、細胞への接着をブロックできる。
     ところが、E484Kは、抗体を跳ね返すような変異であり、N501Yは、細胞に接着する力が強まる変異であることが分かってきた。つまりウイルスは、攻撃をかわしつつ、より効率よく感染するタイプに変化したことになる。
     あたかも人間側のもくろみの裏側を読んで、ウイルスが意図的に変身したかのようだが、もちろんウイルスには意図も意思もない。ただただ浮遊するまま、たまたま取り付いた宿主細胞の中で自己複製を行う。
     コロナウイルスの自己複製の単位は遺伝RNAである。複製を繰り返す際、ときに書き間違いが起きる。このRNA上の書き間違いがスパイクタンパク質のアミノ酸配列に反映され、変異体が生じる
     書き間違え自体は、RNAのあらゆる場所で全く無作為に起こり得る。では一体なぜ、E484KやN501Yのような、合目的な変異が起きるのか。実は、人間の側がそれを選びとっているからである。あらゆるタイプのウイルス変異体が、日々、世界中で出現している。そこにワクチンが網をかけるから、それをすり抜けるような変異体が選抜される。あるいは、宿主により素早く取り付き、より早く複製できる変異体が、より拡散のチャンスを得る。
     つまり、ウイルスにとって感染者の増加は壮大な進化の実験場となり、ワクチンは自然淘汰の促進剤となりうる。変異株に対しては改良型ワクチンが製造される見込みだが、抗生物質と耐性菌のようないたちごっこになりかねない。押せば押し返し、沈めようとすれば浮かび上がる。これが自然という動的平衡の理である
     とはいえ希望がないわけではない。私たちの生命もまた自然である。身体に備わった免疫系は最高最良のワクチンであり、ウイルスを多面的に制御して、せめぎあいのバランスを探ろうとする。これがウイルスと共生ということであり、過去、幾度となく病原体と人類の間で繰り返されてきた動的平衡の物語でもある。問題は、物語が落ち着くまで、常に長い時間を要するということである。
参 考 文 献
  • 「受粉にまつわる生態学 花と昆虫のしたたかで素敵な関係」(石井博、ベレ出版)
  • 「日本の昆虫1400」(文一総合出版)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研) 
  • 「ヤマケイポケットガイド⑩ 野山の昆虫」(今森光彦、山と渓谷社)