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昆虫シリーズ⑪ 毒のあるチョウ「警告色」

  • 毒のあるチョウはなぜ美しいのか?・・・「警告色」
     長距離の渡りをすることで世界的に有名なオオカバマダラは、黒とオレンジ色の美しい色のハネをもっている。このチョウには毒がある。毒は、幼虫時代に食べた植物に含まれる成分が成虫になっても体内にたまったものである。
     オオカバマダラを食べたことがない鳥が、食物として捕らえ、口にくわえて食べる。しばらくすると、羽毛が逆立ち、吐き気やけいれんに苦しみ、やがて吐き出してしまう。そういう経験をした鳥は、二度と見向きもしなくなったという報告例がある。
     鳥は、オオカバマダラを色と模様で認識し、食べてはいけないチョウとして学習し、見向きもしなくなる。チョウにとって、派手な色と模様は、鳥などの天敵に対して、自分が危険であることを示す「警告色」だと考えられている。
  • 毒チョウINDEX・・・アサギマダラジャコウアゲハ参考:オオカバマダラ 参考2:カバマダラ
日本の毒チョウ①・・・アサギマダラ
  • 日本では南西諸島から北海道南部まで見られる。何年にもわたるマーキング調査の結果によると、日本に飛来するアサギマダラは、春に南西諸島や台湾などの暖かい地域から飛んできて日本の夏を高地で過ごし、世代交代しながら、秋には南に移動していることがわかったという。 
  • 名前の由来・・・和名「浅葱(あさぎ)」色とは、ごく薄い藍色の古称。薄い藍色で、斑模様のあるチョウに由来。 
  • 食草・・・幼虫(上の写真)は、ガガイモ科のキジョラン、カモメヅル、イケマ、サクラランなどを食草とし、卵は食草の葉裏に産みつけられる。これらの植物は、どれも毒性の強いアルカロイドを含む。アサギマダラはこれらのアルカロイドを取りこむことで毒化し、敵から身を守っている。 
  • 警告色・・・アサギマダラは幼虫・蛹・成虫とどれも鮮やかな体色をしているが、これは毒を持っていることを敵に知らせる「警告色」と考えられている。 
  • 分布・・・日本全土で、5月~11月、標高の高い山地(写真:森吉山)に多く見られる。 
  • 性標(せいひょう)・・・オスとメスの区別はつけにくいが、オスの後ろバネの下にメスにはない黒斑の「性標」という部分がある。ここにお尻の先から出す独特の匂いをつけている。この匂いのサインでメスを誘う。 
  • アサギマダラが群れる理由
     成虫のオスがよく集まるヒヨドリバナやフジバカマ、スナビキソウなどには、ピロリジジンアルカロイド(PA)が含まれる。そのPAを体内に取り入れる理由は、2つある。
    1. PAは鳥などの捕食者にとって毒になる物質。それを体内に取り入れ蓄積することによって、捕食者から身を守ることができるからである。
    2. オスは、PAから性フェロモンを作り出す重要な役割がある。オスは、交尾の前に、腹部の先にあるブラシ状の器官とハネの袋状の部分から性フェロモンを出してメスを誘う。
      だからアサギマダラは、PAを含む植物に群れるのである。
  • 渡り・・・秋になると日本から南西諸島や台湾へ移動する。逆に初夏から夏にかけて、北上することもある。時に数千キロの移動を行うことがある。 
日本の毒チョウ②・・・ジャコウアゲハ
  • オスは艶のない黒色。
  • メスは色が薄く、黄灰色~暗灰色。
  • 名前の由来・・・オスの腹端から麝香(じゃこう)のような匂いをさせるアゲハチョウに由来。 
  • 食草・・・幼虫は、ウマノスズクサという毒のある草を食べ、体内に毒を蓄積する。この毒は成虫になっても体内に残り、ジャコウアゲハを食べた捕食者は中毒をおこすと考えられている。 
  • 保護色にならない幼虫・・・毒をもつことで、幼虫の体色は保護色の緑色になることはない。それでもカマキリやハチに襲われることはない。成虫は、ゆっくり飛翔しても、鳥に食べられることもない。 
  • 擬態・・・毒をもつジャコウアゲハ類に擬態して身を守る昆虫は、クロアゲハ(上左写真)、オナガアゲハ(右上写真)、アゲハモドキなど。このような擬態をベイツ型擬態と呼ぶ。 
  • ジャコウアゲハの北限は秋田県…能代市、鷹巣町内(太田・糠沢地区の2ヶ所)の米代川堤防で生育が確認されている。 
  • ジャコウアゲハの一生
    1. 春、暖かくなるとサナギで越冬したジャコウアゲハが羽化する。初めに羽化するのはオス。
    2. 交尾・・・オスは高い空を飛んで、メスを探す。交尾時間は長い。
    3. 産卵・・・食草の葉の裏に卵を産む。ウマノスズクサがたくさんあると、1枚の葉に1個産卵する。少ないと10個以上産卵することもある。一回に20~30個産卵する。
    4. 卵は白色で、表面には黄色や橙色の毒成分がついている。だから他の虫などに食べられることはなく、寄生されることも少ない。
    5. 幼虫は、黒・茶・白・赤の色をしている。ウマノスズクサをたくさん食べながら成長し、5回脱皮を繰り返してサナギになる。
  • ジャコウアゲハのサナギ「お菊虫」・・・サナギをよく見ると、まるで口紅を塗った赤い口のようなものがある。その女性が、後ろ手に縛られているような姿から、昔話の怪談「皿屋敷」に出てくる亡霊を連想し、「お菊虫」と呼ばれている。志賀直哉の「暗夜行路」に「お菊虫」の記述がある。サナギになって7日~14日ほどで羽化する。  
参考:オオカバマダラ
  • 渡りの蝶「オオカバマダラ」
     主に北アメリカのカナダ南部から南アメリカ北部にかけて分布し、渡りのチョウとして有名。南の暖かい越冬地で冬を過ごし、春になると北に向けて移動を始める。この大移動は、幼虫のエサを食べ尽くさないためであると考えられているが、いまだはっきりとした結論は出ていないという。 3000kmにも及ぶ長距離の渡りをするにもかかわらず、天敵である鳥の害がないのは、自ら毒を持ち危険であることを示す「警告色」のお陰である。  
  • 名前の由来・・・大きな樺色(赤みのある橙色)で、斑模様のあるチョウに由来。 
  • 食草・・・幼虫はトウダイグサ科のトウワタの葉を食べることによって、トウワタのもつアルカロイドを体内に蓄えて毒化する。この毒は蛹や成虫も持ち続けている。メスは700個もの卵を産む。 
  • 近年、北アメリカでは、トウワタが生えていた土地が農地にされ、オオカバマダラが生き残るのは、ますます難しくなっているという。そこでアメリカやカナダでは、庭にトウワタを植えてオオカバマダラを救う活動が行われている。
  • サナギ・・・腹部の先を葉や茎、枯れ枝などにつけてぶら下げる。 
  • オオカバマダラは幼虫から成虫まで鮮やかな体色をしているが、これは捕食者に毒を持っていることを知らせる警告色と考えられている。 
  • 擬態・・・カバイロイチモンジ (Viceroy、Limenitis archippus)など、 オオカバマダラのハネ色に似せた擬態(ベイツ型擬態)をすることで身を守るチョウも知られている。また、分布域の南部では同属の他のチョウと分布が重なるため、ミューラー型擬態も起こっている。 
  • 大移動・・・メキシコの越冬地では、数え切れないほどのオオカバマダラに覆われたモミの木がある。木の幹や枝にくっついて冬を越している。ここはチョウのための自然保護区で、世界自然遺産にも登録されている。しかし、アメリカ西海岸ロサンゼルス近郊の大規模な越冬地は、保護区にできないので、オオカバマダラの数が激減しているという。
参考2:カバマダラ
  • 北上する毒チョウ・カバマダラ
     2013年、秋田市寺内のフジバカマに来た毒チョウ・カバマダラが撮影されている。この年は、秋田市で9個体が確認されている。かつては南西諸島南部のみに土着していたが、分布が徐々に北上している。これは食草の植栽と温暖化の影響と言われている。飛翔能力が高く、台風の目などに乗って移動し、よく本州や四国で記録される。
  • 食草・・・トウワタ、フウセントウワタなど
参 考 文 献
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(日本チョウ類保全協会編、誠文堂新光社)
  • 「大自然の不思議 昆虫の生態図鑑」(学研) 
  • 「昆虫のすごい瞬間図鑑」(石井誠、誠文堂新光社)
  • 「池上彰のニュースに登場する世界の環境問題⑥ 動物の多様性」(さ・え・ら書房)