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昆虫シリーズ⑫ 樹液に集まるチョウの仲間その1

  • 昼間の樹液に集まるチョウの仲間
     樹液は、クヌギ、コナラ、ミズナラ、クリなどの幹に昆虫などが傷つけた所から出る。ボクトウガというガの幼虫は、樹液に集まる昆虫を食べるために木を内部から傷つけて樹液を出す。シロスジカミキリの幼虫は、木の内部を食べて育ち、羽化する時にできた穴からも樹液が出る。そこにスズメバチが集まってきて、樹液の出ている傷口をかじって、樹液が止まらないようにする。糖分を大量に含んだ樹液が発酵して甘酸っぱい匂いを放つようになると、オオムラサキやルリタテハ、ゴマダラチョウ、サトキマダラヒカゲなどのタテハチョウの仲間のほか、ガの仲間やカナブン、カミキリムシ、カブトムシ、クワガタなど様々な昆虫たちが集まってくる。
  • INDEX・・・オオムラサキルリタテハ
  • オオムラサキの写真提供:左合 直(さごう ただし)氏 HP「蝶の生態写真
オオムラサキ
  • 樹液を好む国蝶・オオムラサキ
     「花と蝶」とは言うものの、花にはほとんど興味がなく、もっぱら樹液に集まるチョウがいる。その代表がオオムラサキだ。全国に広く分布し、大型で力強く飛び色鮮やかなことから、1957年、日本昆虫学会で、日本の国蝶に選定している。幼虫は、エノキ、エゾエノキの葉を食べて育ち、成虫になるとコナラやミズナラ、クリなどの樹液を好んで吸う。これらの樹木がバランスよく配置された森でなければ生息しない。秋田での分布は奥羽山麓沿いに点在している。6月中旬から8月頃にかけて、丘陵地を中心にオオムラサキの優雅な姿をみることができる。全国的に里山の荒廃が進むにつれて減少していることから、環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されている。 
  • ♂の特徴
    1. 大型で、オスの表は青紫色に輝き美しい。中央部に白斑が目立ち、その外側に黄白色の斑列が並ぶ。
    2. 裏は、淡い黄色から銀白色。北では黄色が主となる。後ハネの内縁近くのハネ脈は直線的だが、♀では湾曲する。
  • 日本のタテハチョウ科の中では最大の大きさ・・・ハネを広げると♂は約10cm、♀は大きく約12cmもあるが、表ハネは茶色で地味である。
  • 名前の由来・・・大きな紫色のチョウという意味で、「大紫(おおむらさき)」と書く。
  • 幼虫の食樹・・・エノキ、エゾエノキ 
  • 産卵、孵化・・・8月、食樹の葉や枝の先に産みつける。卵から孵化した幼虫は、まず自分の卵の殻を全部食べる。
  • その後、食樹の葉を食べて成長する。2齢幼虫になると、角が現れる。身を守る唯一の武器に見えるが、動作が遅く余り役に立たないらしい。通常4齢幼虫で食樹の根元の落葉に張り付いて越冬する。
  • 越冬型幼虫・・・幼虫の背中には、対になった突起が4列並んでいる。3列と少なければゴマダラチョウの幼虫である。
  • 翌春、食樹の新芽伸長とともに休眠からさめ、木に登り、柔らかい葉を食べて急激に成長する。樹上で蛹化し、6~7月に成虫となる。  
  • 成虫の食性・・・主にクヌギ、クリ、コナラ、ミズナラなどの樹液を吸うほか、腐った果実や動物の排泄物などの汁なども吸う。
  • 1日の行動・・・午前8時頃から活動が始まり、午前中は比較的低い所を飛び、次第に数を増やして午前10時頃にピークに達する。摂食活動は午前中に多く見られる。陽射しが強くなる昼頃から午後2時頃まで、一時個体数は減るが、その後再び数を増やす。
  • 午後は、木の梢などの高所を活発に飛翔する。
  • ハネを開いてスズメバチとにらみあうオオムラサキ・・・大好きな樹液のエサ場では、スズメバチなど他の昆虫を羽で蹴散らしながら樹液を吸う。
  • 樹液を見つけ吸い始めるまでは、ハネの開閉を繰り返すが、落ち着いて吸い出すと開かなくなる。だから、ハネを開いた瞬間を撮影するチャンスは意外に少ない。
  • 集団吸水・・・この写真から、吸水するのは♂のみであることが分かる。この行動には、花の蜜を吸うような水分・エネルギー補給とは別の意味がある。♂たちは、延々と水を吸い上げては、すぐにオシッコとして排出する。これにより、精子生産に必要なミネラルを補給していると考えられている。だからチョウ類では、基本的にオスだけが吸水に集まるのである。
  • オオムラサキが棲む里山の雑木林・・・かつて里山林では、農家の人たちが堆肥にするために落葉をかき集めたり、薪や炭にするためにクヌギ、コナラなどを伐採してきた。毎年伐採する場所を変え、15年ほどのサイクルで最初の伐採地に戻るような管理をしていた。このように人の手入れが行き届いた里山林には、美しい草花が咲き、樹液が溢れる幹にはオオムラサキをはじめ、多様な昆虫たちが集まってきた。
  • 近年、開発や人の手が入らなくなった里山林の荒廃が進むにつれて、全国的に減少傾向にあるといわれている。オオムラサキは日本の国蝶で、里地里山再生のシンボルとして、各地で保全活動が行われている。
ルリタテハ
  • 樹液を好み、瑠璃色の帯が美しいルリタテハ
     樹液を好み、木の幹に止まっていることが多い。ハネを閉じると、樹皮や枯葉に似た保護色で見つけにくい。ハネを広げると、暗い中で瑠璃色に輝く帯が美しい。オスは、縄張りを張る性質があり、木の葉や岩石の上など見晴らしの良い場所でハネを広げて止まり、他のオスが接近すると激しく追いたてる。成虫で越冬し、早春にはキタテハやアカタテハなどと共にいち早く飛び始める。ハネを広げた長さ50~65mm。 
  • 名前の由来・・・ハネを広げると、表に瑠璃色の美しい帯が入っていることが、名前の由来。 
  • ハネ裏は保護色・・・ハネを立てると、樹皮や枯葉にそっくり。
  • 上の写真・・・何匹のルリタテハがいるか、分かるかな?。正解は3匹。
  • 樹液を吸う際、ハネを閉じると、どこにいるのか分からなくなるほどカモフラージュが凄い。
  • 遠くから眺めると・・・ハネを閉じている場合は、その存在すら分からない。しかし、ハネを広げると、瑠璃色に輝く帯があるので、ルリタテハだとはっきり分かる。
  • 幼虫の食草・食樹・・・サルトリイバラやホトトギス、オニユリ、ヤマユリ、サツマサンキライなどのユリ科植物。幼虫期は、食草・食樹の葉裏で生活する。地色は紫黒色で、無毒の黄白色のトゲ状突起が計68本もある。 
  • 成虫の食性・・・クヌギ、コナラ、ミズナラ、ヤナギなどの樹液のほか、落果の汁を吸う。樹液を吸いながら、ハネを開いたり閉じたりを繰り返す。越冬後は、アセビ、キブシなどの花を訪れる。
  • 樹木見本園のミズナラの樹液で観察・・・ルリタテハは、最強のスズメバチがやってくると簡単に追い払われる。しかし、遠くには逃げず、近くの落葉の上に着地して休む。光りを浴びると、瑠璃色は美しく輝く。スズメバチがいなくなると、すかさず樹液の場所に戻って樹液を吸う。それを繰り返して腹を満たす。
参 考 文 献
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(日本チョウ類保全協会、誠文堂新光社)
  • 「舞え オオムラサキ」(金子敦、信濃書籍出版センター) 
  • 「ふるさとの虫ある記 連載4」(成田弘)
  • 「子供に教えたい、ムシの探し方・観察のし方」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「別冊太陽 昆虫のすごい世界」(平凡社)
  • 写真提供:左合 直(さごう ただし)氏 HP「蝶の生態写真