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昆虫シリーズ⑭ シロチョウの仲間その1

  • モンシロチョウの特徴とスジグロシロチョウとの見分け方
    1. 表は白色で黒斑があり、裏は白色~やや黄色みを帯びる白色。ハネ脈は黒色とならない。
    2. スジグロシロチョウは、斑紋の特徴やハネ脈に黒い筋がある点で識別できる。
    3. 花の蜜を吸う場合、ハネを閉じている場合が多い。その際、スジグロシロチョウの春型はハネ裏脈の黒色がはっきりしているが、夏型のオスは不鮮明で区別が難しい。後ハネの付け根部分にある黄色の紋の形状で見分けると簡単である。
  • INDEX モンシロチョウ、スジグロシロチョウ
モンシロチョウ
  • どこでも普通に見られるモンシロチョウ(シロチョウ科)

     モンシロチョウは、九州では2月下旬、関東では3月末、秋田では4月中旬頃に姿を現す。ということは、春の訪れとともに発生するチョウと言える。日中、キャベツ畑など農地周辺を活発に飛翔し、菜の花やタンポポ、ネギ、ヒメジョオンなどの花を訪れる。モンシロチョウは、北半球に広く分布しているが、キャベツ栽培とともに生息分布を拡大したのではないかと言われている。農家にとっては、幼虫がキャベツの葉を食い荒らす害虫として嫌われている。だからキャベツを大規模に栽培している畑では、モンシロチョウを見ることがほとんどない。農薬が使われているからだ。最近は、農薬を使わずにキャベツの害虫であるモンシロチョウの幼虫を退治する方法として、幼虫に寄生するアオムシコマユバチを使う農法もある。
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄)・・・にくい青虫
     ボクの家は農家だから、田んぼばかりでなく畑もあり、さまざまな野菜をつくっていた。キャベツもその一つで、六月の始め頃に苗を植えつけ、秋には丸々とした玉になったところを収穫するのである。
     ところが゛このキャベツに、毎年おびただしい青虫が発生するのである。青虫とはいわゆるモンシロチョウの幼虫のことで、モンシロチョウはキャベツ畑を飛びかい、キャベツの葉裏に卵を生みつける。その卵からかえったのが青虫で、かえりたての頃は黒い小さな虫だが、キャベツの葉を食べながらどんどん大きくなり、体色もしだいに緑色に変化するので、青虫というわけである。
     青虫は成長し、やがてサナギに変身し、羽化してモンシロチョウになるのだが、問題は青虫である。なにしろせっかく植えたキャベツの葉を食ってしまうのだから、農家にとってはにっくき害虫というわけである・・・
     ではどうしたか。一匹一匹指でつぶしたのである。それがボクの毎朝飯前の仕事であった・・・青虫めは朝のうちはすべて葉の裏側にひっついている。だからキャベツの葉を一枚一枚めくりながらつぶすのである。
     緑の葉に緑色の虫だから、ときには見逃すこともある・・・青虫は食うのが仕事だから、ちょっとの手抜きが、たちまちキャベツの葉を穴だらけにしてしまうのである。本当に頭にくる。しかしつぶしてもつぶしても次々に卵からかえるので、まったく息をつく暇がない。それも、よりによってキャベツばかりである。
     「なんでキャベツばかりにたかるんだ!! 草ならそのヘンにいくらでも生えているじゃないか!!」 とうとうボクはかんしゃくを起こしてそう叫んでいた。この叫びが「食草」の発見だった。
  • オスとメスの見分け方・・・オスは付け根の黒っぽい所が狭いが、メスは付け根の黒っぽい所が広い点で見分けられる。 
  • 名前の由来・・・中国語の「菜粉蝶」は,菜に来るシロチョウという意味。平安時代は「てふ」「てふてふ」、江戸時代は中国の漢字をそのまま使った「粉蝶(シロチョウ又はフンチョウ)」と呼ばれていた。明治時代になって「紋のあるシロチョウ」と言う意味からモンシロチョウと名付けられた。 
  • 食草・・・キャベツ、ブロッコリー、アブラナ、ショカッサイ、イヌガラシ、タネツケバナなど(アブラナ科) 
  • モンシロチョウは、南アメリカを除いて世界中にいる。そのモンシロチョウの遺伝子調査によれば、ヨーロッパで生まれ、世界へ広がったという。また日本には、人間が暮らし始める前の1000万年前からいたことが分かった。 
  • モンシロチョウのストローの長さ・・・16mmほどで、タンポポやアブラナ、ヒメジョオンなど、よく訪れる花の蜜を吸いやすい長さになっている。 
  • モンシロチョウは、新しいメスを求めて飛ぶ
    1. モンシロチョウの幼虫は、アブラナ科の植物の葉を食べて育ち、その近くでサナギになる。だからそうした食草のある所に新しいメスが見つかる可能性が高い。特にキャベツ畑では、たくさんのモンシロチョウが育つから、性的に動機づけられたモンシロチョウのオスは、キャベツ畑に集まってくる。
    2. 夏の朝の時間帯・・・オスたちは、花には目もくれず、ひたすらメスを探して飛び回る。オスは、交尾の時間帯が終わると、たいていのオスとメスは交尾を済ませ、自分の子孫を残せる状態になっている。すると、オスたちは、空腹を覚え、花の蜜を求めるようになる。 
  • モンシロチョウのオスは、どうやってメスを見つけるの
    1. モンシロチョウのオスは、メスが羽化するキャベツやハクサイなどの畑の上をジグザグに飛び回る。その際、オスはハネの色を目標にメスを探す。キャベツにオスが止まっていても近づくことはない。
    2. シロチョウの仲間には、似ているものが多く区別しにくいように見える。しかし、彼らは間違うことがない。その秘密は紫外線が見えるからだ。メスのハネは紫外線を反射するので白く際立って見えるらしい。
  • 交尾・・・オスは、サナギからチョウになったばかりのメスを見逃さず、すかさず交尾のために近づく。うまくメスに出会えたオスは、お尻にあるカギにメスをしっかりと引っ掛けて交尾する。オスの精子がメスの卵の中に入ると命が宿る。 
  • 交尾が終わったメスは、幼虫の食べ物になるアブラナ科植物を探す。見つけると前脚の先でたたいて確かめ、卵を産み始める。 
  • 1齢幼虫は、卵の殻を食べ終えると、葉をかじり始める。幼虫は4回脱皮して大きくなる。5齢が終齢幼虫。 
  • 天敵・・・幼虫が食べた穴だらけのキャベツをよく見ると、キャベツの色に擬態したカマキリが潜んでいた。モンシロチョウは、鳥やカマキリ、トンボ、スズメバチなど天敵も多い。
  • サナギ・・・葉の上についたサナギは、葉の色に似ている。この中で、成虫の体のもとが育つ。
  • 秋にサナギになれば、どこで越冬するのだろうか。よく見ると、木の枝にサナギがついている。そのサナギの中で寒い冬を越し、春一番に羽化する。
  • サナギで越冬する理由・・・昆虫の先祖は、地球が熱帯のように暖かい時代に生まれた。だから大昔の昆虫は、寒さをしのぐ必要がなかった。やがて寒い時代になると、寒さを凌ぐためにサナギという形態をとる虫が出現した。サナギは、硬い殻に包まれているので寒さを凌ぎやすい構造になっている。だからチョウは、サナギで越冬するものが多い。
  • 羽化・・・サナギになって13日目。サナギの背中が割れて、モンシロチョウのの頭と脚、触角、丸めたハネが出てくる。 
  • 成虫・・・羽化が始まって約6分。卵からおよそ1ヶ月でハネをもつ成虫になる。ハネがかたまるまで待ち、やがて飛び立つ。 
  • 成虫の寿命は、わずか10日ほど。その短い間にオスとメスが出会い、命が受け継がれていく。 
  • モンシロチョウは特に害敵が多い
    1. モンシロチョウのメスは、一生で300個もの卵を産む。しかし生き残って子孫を残すのは、わずか平均2頭に過ぎない。
    2. 卵の一部は、寄生バチやダニに食べられる。幼虫の時期は卵の時期よりも長く、体も大きく目立つ。そのため鳥や昆虫などの敵も増える。無事に幼虫の時期を終えるのは1/3以下。
    3. サナギになる前の時期は、ほとんど動けないので寄生バチに狙われる。やっと成虫になっても、活動範囲が広がるので、オオカマキリやハナグモ、オニヤンマなどに捕食される。
  • キャベツ、ハクサイ、大根などのアブラナ科植物は、大部分の昆虫に有毒である。しかし、モンシロチョウなどの幾つかの昆虫は、この毒を克服し、逆に自身の摂食行動を誘発する物質として利用している。ただしその物質は、モンシロチョウが食べると、ほかの物質と混じって寄生蜂を呼ぶ物質となる。 
  • 小さな敵の方が怖ろしい・・・人間にとってクマやオオカミといった大きな敵よりも、目に見えないばい菌やウイルスの方が怖ろしい。コレラやペスト、天然痘、スペイン風邪、最近の新型コロナウイルスでもたくさんの人が命を落とした。昆虫の場合も、虫を食べる鳥や小動物よりも怖ろしいのが、寄生バチやウイルスである。
  • モンシロチョウの天敵・寄生バチ・・・アオムシサムライコマユバチの母親バチは、モンシロチョウの幼虫を見つけると、その体に注射するように卵を産みつける。寄生バチの幼虫は、モンシロチョウの幼虫の体の中で、体液を吸って育つ。チョウの幼虫は、獲物が死なないようにしながら、新鮮な体液をたっぷり吸って育つ。モンシロチョウの幼虫が十分育って、そろそろサナギになろうとする頃、小さなハチの幼虫が皮を破ってたくさん外に出てくる。これが寄生バチだ。やがてチョウの幼虫は、寄生バチに徹底的に利用された後、死んでしまうほかない。季節によっては、モンシロチョウの幼虫の大半が、寄生バチにやられてしまうことも少なくない。だからチョウにとっては、鳥なんかより、小さな寄生バチの方が怖ろしい敵である。
スジグロシロチョウ
  • 山地に多く見られるスジグロシロチョウ(シロチョウ科)

     モンシロチョウが人家近くに多いのに対し、スジグロシロチョウは山地に多い傾向がある。実際、林道沿いや渓流沿いで見かけるシロチョウは、ほとんど本種である。平地から山地の森林の林縁部や渓流沿いのほか、都市近郊の公園や荒地にも広く見られる。日中、草地などを緩やかに飛翔し、タンポポ類、アザミ類、ヒヨドリバナなどの花を訪れる。オスは、吸水性が強く、時に吸水集団をつくる。
  • 名前の由来・・・ハネ脈に黒い筋がある白いチョウだから。
  • 食草・・・ヒロハコンロンソウ、タネツケバナ、ヤマハタザオ、イヌガラシ、アブラナ、ワサビ、ショカッサイなど(アブラナ科)。
  • 春早くから発生する。4月から9月頃まで見られ、春型は夏型に比べると小さく黒色がかなり発達する。
  • 夏型オスの表・・・ハネ裏の脈に黒い線がなく不鮮明。ハネの表を見れば脈に黒い線がある。
  • 夏型オスの裏・・・ハネを完全に閉じると、モンシロチョウとの区別が難しい場合は、後ハネの付け根部分にある黄色の紋の形状で見分ける。
  • ソバ畑で求愛する♂(左上)・・・♀が尾を上げているのは、猛烈に拒否するポーズ。
  • オトコエシの花に群れるスジグロシロチョウ・・・こうした場面では、盛んに♂が♀に求愛するシーンが見られる。
  • イタドリ、オトコエシの吸蜜
  • シドケの吸蜜
  • ミゾソバ、カタバミの吸蜜  
  • ニラの吸蜜
  • タンポポの吸蜜
参 考 文 献
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社)
  • 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「梅津一史の発見あきたの昆虫①」(秋田魁新報)
  • 「ふるさとの虫ある記」(成田 弘)
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「動物と人間の世界認識 イリュージョンなしに世界は見えない」(日高敏隆、筑摩書房)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「ぜんぶ わかる!モンシロチョウ」(新開孝、ポプラ社)
  • 「蝶と私 羽後町の蝶を中心に」(福嶋信治)
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄、講談社文庫)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)