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昆虫シリーズ⑯ ヒョウモンチョウの仲間

  •  ヒョウモンチョウ(豹紋蝶)の表のハネは、オレンジ色で豹のような紋がある。そんなヒョウモンチョウの仲間は、6月から7月にかけて現れ、夏の花の蜜を吸いに来る。そしてまもなく姿を消す。赤トンボと同じく、涼しい山地に避暑にいく習性があるからだ。また幼虫は、スミレの葉を食べて育つ。だからメスは林の中を飛び回ってスミレの生えているところを探す。目的のスミレを見つけても、その葉に卵を産みつけることは決してしない。というのも、スミレの葉が間もなく枯れてしまうことを知っているからだ。だからメスは、スミレがある近くの木の幹や石に卵を産む。春になると、卵からかえった幼虫は、スミレの新芽まで歩いて行って、その葉を食べて育つ。 (写真:オトコエシとメスグロヒョウモン♂)
  • INDEX メスグロヒョウモンミドリヒョウモンオオウラギンスジヒョウモンサトウラギンヒョウモン・ヤマウラギンヒョウモンツマグロヒョウモンクモガタヒョウモン 
メスグロヒョウモン
  • 形態的特徴、オスとメスの見分け方
    1. オスとメスの体色が極端に異なる点が本種の特徴。メスは一見、オオイチモンジに似ているので注意が必要。表は、黒色に白斑があり、光沢のある青紫色に輝く。後ハネの中央部に白の幅広い帯がある。
    2. オスは、オレンジと黒斑の典型的なヒョウ柄模様で、3本の太い性標が目立つ。裏の後ハネには、白い帯が1本で不明瞭。
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄)・・・メスグロヒョウモン(写真:マサキと♀)
     蝶には当然のことながら雌雄があるわけだが・・・なかにはどう見てもこれが同種のオスとメスとは信じられない種類もいる。メスグロヒョウモンがそれだった。ヒョウモンとは字を当てれば豹紋なわけで、まさに豹のごとくオレンジっぽい黄色に黒い斑紋の蝶である。ところがメスグロヒョウモンは、その名が示すようにメスが黒いのである。いや黒といっても無地ではなく、黒地に白い斑点をちりばめていて、まったくヒョウモンというイメージではない。むしろイチモンジチョウやコミスジチョウの親類といった感じである。
     で、このメスグロヒョウモンのメスを採集したときは、ボクはてっきり新種の蝶を発見したとばかりに喜んだ。図鑑を調べても該当するものがなかったからである。そのはずである。ボクはその紋様から、まさかこれがヒョウモンの仲間であるなんて、まったく考えなかったので、ヒョウモンのページを開かなかったのである。だからそれがメスであるとことを知ったときにはガックリだった。 
  • 名前の由来・・・が黒いヒョウモンチョウであることから。 
  • 生息環境・・・平地から山地の樹林及びその周囲。丘陵地~低山地が分布の中心で、山地の林道でも個体数が多い。 (写真:オトコエシと♂)
  • 食草・・・タチツボスミレなどの各種スミレ科植物。
  • クヌギの樹幹部に産卵する♀(クリプトン樹木見本園) ・・・産卵は食草のスミレ科植物ではなく、スミレ類が咲く近くの立木の樹幹部に産卵する。卵又は初齢幼虫で越冬する。
  • 成虫は年1回。夏の暑い時期は活動を停止し夏眠するため、飛び回るのは初夏と秋。卵又は若齢幼虫で越冬。(写真:リョウブと♂)
  • 訪花植物・・・オトコエシ、リョウブ、樹木見本園ではアベリア、ハシドイ、サラサウツギ、マサキなど。(写真:ハシドイと♂)
ミドリヒョウモン
  • 特徴、オスとメスの見分け方
    1. 表は橙色と黒斑のヒョウ柄模様で、裏の後ハネが緑がかって見える。ただし光の角度で緑色をしていない場合もあるので注意が必要。緑色よりも3本の白い帯が入っているのが大きな特徴。
    2. オスの表には、太い性標が4本あるが、メスにはない。メスの前ハネの先の方には、白色の三角斑があるが、オスにはない。メスの方が緑みが強く、暗く沈んでいるように見える。
  • 名前の由来・・・ハネの裏側が緑がかっていて、ハネの表がオレンジと黒斑のヒョウ柄模様をしたチョウであることから。山地では個体数が多い。 (写真:ハシドイと♀)
  • ♀の表は緑色を帯びた橙色、稀に暗灰緑色を帯びた個体もいる。
  • 生息環境・・・平地~山地の樹林及びその周囲。丘陵地の雑木林や山地の林道などでは多数の個体が見られる。(写真:ミゾソバと♀)
  • 食草・・・タチツボスミレ、オオタチツボスミレなどの各種スミレ科植物。(写真:♂)
  • イボタノキとミドリヒョウモン♂
  • 訪花植物・・・日中、林縁や林道を敏速に飛翔し、ヒヨドリバナやアザミ類、ミゾソバなど、高山ではコバイケイソウなどの花を訪れる。クリプトン樹木見本園では、ムクゲやハシドイ、イボタノキ、アベリアなどの花で観察されている。(写真:コバイケイソウと♂、ムクゲと♂) 
  • アベリアと♀
  • 求愛・・・右の♂が左の♀に求愛
  • メスは、食草に産卵するのではなく、カツラ、マツ類などの樹木の太い幹や樹冠部に産卵する。年1回発生。成虫は7月頃に出現。1齢幼虫で越冬。(写真:♂と♀) 
  • 春、スミレ類が芽吹くと、幼虫が自ら樹木の根元付近にあるスミレ類を探し、その若葉を食べて育つ。サナギは、スミレからかなり離れた太い枯れ枝の下や樹幹の下部の窪みで見られる。(写真:ミズナラの幹に産卵する♀)
オオウラギンスジヒョウモン
  • 特徴、オスとメスの見分け方
    1. オスは、オレンジと黒斑の典型的なヒョウ柄模様で、3本の太い性標が目立つ。裏の後ハネには、白い帯が1本。
    2. メスは、前ハネの先の方に白色の三角斑がある。裏の後ハネの外半部がオスよりも濃色。
  • 名前の由来・・・大型のヒョウモンチョウで、羽の裏側に銀色の筋があることから。秋田には、絶滅危惧Ⅱ類のウラギンスジヒョウモンも生息している。羽後町では、平地の野原や空き地に多く見られるという。(写真:アラゲハンゴンソウと♂)
  • 生息環境・・・主に山地の樹林地周囲の草原。 (写真:ノリウツギ)
  • 食草・・・タチツボスミレ、フモトスミレなどのスミレ科植物。森林性で、林間の草原などやや小規模な草原にも生息。
  • ノリウツギと♂
  • アザミ類、オカトラノオ、ヒヨドリバナなどの花を訪れる。吸水性はやや低い。秋には低地に移動する個体も多く、都市近郊で見かけることもある。(写真:♀)
  • 森林性のため、絶滅危惧Ⅱ類のウラギンスジヒョウモンに比べて減少傾向はみられず、むしろ草原から森林へと変化することで増加している地域もある。
サトウラギンヒョウモン・ヤマウラギンヒョウモン
  • 形態的特徴、オスとメスの見分け方
    1. オスは、オレンジと黒斑のヒョウ柄模様で、2本の太い性標が目立つ。オス、メスともに裏の後ハネ前縁には、銀白斑が5個並ぶ。裏の後ハネ全体が濃緑色の傾向。
    2. メスには性標がない。裏はオスよりも銀白斑が大きく、地色も濃色。
  • サトウラギンヒョウモンとヤマウラギンヒョウモンの見分けは困難
    1. 「フィールドガイド 日本のチョウ」によれば、両種の区別は極めて難しく、より確実な同定には性標上の発香鱗や交尾器の検鏡などの総合的な判断が必要とされる、とある。まして写真だけで判定することは不可能なことから、ここでは区別しない。
    2. 名前のとおり、サトウラギンヒョウモンは低標高、ヤマウラギンヒョウモンは高標高の傾向があると言われている。高山のイワカガミ(上の写真:八幡平)やコバイケイソウなどを吸蜜している種は、ヤマウラギンヒョウモンと推測。
  • 名前の由来・・・ハネの裏側に銀白色に見える斑模様を持つヒョウモンチョウで、里に生息する種をサトウラギンヒョウモン、山に生息する種をヤマウラギンヒョウモンと名付けられた。 (写真:イボタノキ)
  • 生息環境・・・山地の自然草原、採草地、農地周辺、河川堤防などに生息。 (写真:アベリアと♀) 
  • 食草・・・スミレ、タチツボスミレなどのスミレ科植物。 (写真:サンジャクバーベナと♂) 
  • 日中、草原上を敏速に飛翔し、アザミ類やオカトラノオなどの花を訪れる。オスは地面で吸水も行う。(写真:サラサウツギ、ノアザミ、ブタナ、トウネズミモチ) 
  • 成虫は、盛夏に高標高地への移動や夏眠した後、秋に産卵する。これはヒョウモンチョウ類によく見られる習性と言われている。(写真:八幡平のコバイケイソウとヤマウラギンヒョウモン♂) 
ツマグロヒョウモン
  •  ツマグロヒョウモンは、もともと南のチョウだが、温暖化とともに著しく北上している種で、秋田でも「迷チョウ」として毎年のように見つかっているという。2017年秋には、秋田市内で多数飛んでいる場所が見つかり、幼虫も発見されている。幼虫は、庭に植えられたパンジーやビオラを好んで食べることから、温暖な住宅地で越冬するのではないかと言われている。ヒョウモンチョウの仲間は年に1回しか発生しないが、本種は暖かければ何回でも発生する。(写真:♀)
  • 形態的特徴、オスとメスの見分け方 (写真:♂と♀)
    1. オスの表は、ヒョウ柄の模様で、黒色部が少ない。後ハネの外縁に黒帯が目立つ。
    2. メスは青色光沢のある黒色で中心に白斑がある。毒チョウのカバマダラに擬態している。 
  • 名前の由来・・・メスのハネの端(ツマ)が黒いヒョウモンチョウであることから。(写真:♀)
  • 生息環境・・・人家周辺、都市公園、農地などに見られ、特にパンジーの植栽に伴って都市部で多い。
  • 食草・・・パンジー、ビオラ、ニオイスミレなどのスミレ科の栽培種を好む。在来種ではタチツボスミレ、スミレなど。幼虫で越冬するが、冬でも葉を食べるため、スミレの仲間の葉がないと死んでしまう。
  • 日中、低い場所を比較的緩やかに飛翔し、各種の花を訪れる。オスは、見晴らしの良い場所で占有行動をとる。 (写真:♂)
クモガタヒョウモン
  • 形態的特徴、オスとメスの見分け方
    1. 表は、ヒョウ柄の模様で、後ハネ全体に黒斑がある。オスの性標は1本が目立つ。裏の後ハネは、灰色を帯びた黄緑色で、雲状にぼやけた模様があり、前縁に小さな白斑がある。
    2. メスは全体的に暗く、基部付近が緑みを帯びた暗色。
  • 食草は、タチツボスミレ、オオタチツボスミレ、ミヤマスミレなどのスミレ科植物。 渓流や林道に沿った林縁部、疎林などでよく見られる。アザミ類やオカトラノオなどの花を訪れる。丘陵地では、里山の荒廃や植林によって減少傾向にある。
  • 交尾・・・右が♂、左が♀
参 考 文 献
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社)
  • 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「蝶と私 羽後町の蝶を中心に」(福嶋信治)
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄、講談社文庫)
  • 「昆虫学ってなに?」(日高敏隆、青土社)