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昆虫シリーズ⑱ タテハチョウの仲間その2

  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄)・・・1頭のサカハチチョウ
     ボクが昆虫採集に興味をもつようになったのは小学校三年生から・・・畑仕事の手伝いで裏山の登り口にさしかかった時だった・・・フッと眼の前をよぎった影が、山路にせり出して咲くイワシ花(タニウツギ)にとまった。蝶だった。両羽を広げて三センチ足らず。羽の色は赤みの強い茶色地に黒い斑紋が複雑に入り組んで美しい。初めて見る蝶だった・・・
     呼吸を整えながら慎重に捕虫網を差しのべた・・・パタパタ。網の中にたしかな羽音。やった!!その夜は興奮で眠れなかった・・・「何という名前の蝶だろう」・・・翌日、ボクはさっそくその蝶を学校へ持っていった。
     「珍しい蝶だね」と川越先生が、さっそく図書室にボクを連れて行き、ぶ厚い図鑑を開いて調べてくれた・・・その名は「サカハチチョウ」
     北海道、本州、四国、九州の主に山地に生息する。この一頭のチョウがボクを蝶の虜にし、捕虫網を振りまわして駆けまわる少年にしてしまった。
  • INDEX サカハチチョウ、キタテハシータテハヒオドシチョウ
サカハチチョウ
  • サカハチチョウの特徴・・・春型と夏型では、同じチョウとは思えないほど斑紋の色が違う。その名のとおり、夏型は黒地に逆八文字の白帯がはっきりしている。
  • 春型・・・黒色と橙色を主とした斑紋がある。裏は赤褐色で、複雑な黄色の線が走る。
  • 夏型・・・黒色で中央に白い帯がある。
  • ハネの裏・・・春型は赤褐色で、黄白色の帯がある。夏型は、表と同様、白い帯が目立つ。近似種はいないので識別は容易。 
  • 名前の由来・・・夏型のハネに八をひっくり返したような白い模様があることから、「逆八蝶」。 
  • 生息環境・・・低山地~山地の林縁の草地。林道や渓流、登山道などで見られる。
  • 食草・・・コアカソ、クサコアカソ、エゾイラクサ、ホソバイラクサなど。 
  • 日中、やや低い位置を小刻みに羽ばたかせながら飛翔し、地面や草の上によく止まる。ウツギ類やシシウド、オカトラノオなどの花を訪れるほか、吸水したり、動物の排泄物に集まる。 
  • 植林により明るい環境が減少しているほか、ニホンジカの食害によって個体数が減少している。 
キタテハ
  • キタテハの特徴・・・表は橙色で、黒い斑紋が広がる。黒い斑紋の中に青色の小斑点がある。裏は枯葉に擬態したような褐色を基調とした色。裏ハネ中央部に白いC字模様がある。メスは色が淡い傾向がある。 
  • 名前の由来・・・ハネを立てて止まるタテハチョウの仲間で、黄色っぽいことから。 
  • 生息環境・・・主に平地~低山地のカナムグラがよく生える草地。人家や公園、荒地、墓地などの明るい草地の空間や河川の堤防、鉄道の土手、農地脇などに見られる。 
  • 食草・・・カナムグラ、カラハナソウ、ホソバイラクサなど。
  • 葉の上によく止まる。 
  • ヒメジョオン、オカトラノオなどの花を訪れるほか、樹液、腐果などにも集まる。
  • ニラの花とキタテハ
  • ソバ畑で花蜜を吸うキタテハ
シータテハ
  • シータテハの特徴・・・表は、赤褐色で黒い斑紋がある。ハネの切れ込みが大きい。夏型はハネの切れ込みが少なく、色も淡い。秋型はハネの切れ込みが深く、地色も濃くなる。後ハネ裏面に白いCの字模様がある。キタテハやエルタテハにね似たような紋様がある。シータテハは山地の方に多いガ、キタテハは川岸などの平地に多い。
  • 名前の由来・・・ハネの裏側に白いCの字模様があるタテハチョウであることから。
  • 生息環境・・・低山地から山地の落葉針葉樹林及び周辺の草地。夏型は7~8月、秋型は8~9月に出現。成虫で越冬する。 
  • 食草・・・ハルニレ、アキニレ、エノキ、コアカソ、カラハナソウなど。 
  • 日中、樹林の林縁部を羽ばたきと滑空を交えながら飛翔し、路上や樹上など止まる。ヒヨドリバナやアザミ類などの花を訪れるほか、路上で吸水したり、樹液や腐果にも集まる。
ヒオドシチョウ
  • ヒオドシチョウの特徴・・・表はオレンジ色に大きな黒い斑紋と、青色の縁取りがあるのが特徴。
  • 成虫で越冬するため、4月頃、春の陽だまりで休んでいる個体はハネが痛み、オレンジ色も淡く、青色の縁取りも不鮮明である。5月上旬頃、エノキの枝の先端に産卵する。飼育記録によれば、百匹くらいの幼虫が孵化し、6月中旬に羽化したという。成虫の期間は約1年と寿命の長いチョウである。
  • 名前の由来・・・赤い糸でつづられた「緋縅(ひおどし)の鎧」の色に似ていることから、「緋縅蝶」と書く。
  • 生息環境・・・主に丘陵地から山地の落葉針葉樹林。丘陵地の雑木林に多い。
  • 食草・・・エノキ、ハルニレ、エゾヤナギ、シロヤナギ、シダレヤナギなど。 
  • 樹液によく集まる。越冬後は、山頂や稜線でよく見られ、オスは見晴らしの良い場所で占有行動をとる。春先はサクラ類やウメ類などの花を訪れる。
参 考 文 献
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社)
  • 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「蝶と私 羽後町の蝶を中心に」(福嶋信治)
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄、講談社文庫)