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昆虫シリーズ⑲ タテハチョウの仲間その3

  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄)・・・夢にまで描き求めたクジャクチョウ
     クジャクチョウ。この蝶ほどボクの心を魅了した蝶はない。タテハ科の蝶であるが、その名のとおりクジャクの紋様を両羽根に染めぬいた優雅な蝶だ。しかし、その優雅な姿とは裏腹に、警戒心が強く、そしてすばしこい。しかも数が少なく、めったにお目にかかれないので、これを標本箱に加えるまでにはかなりの時間を必要とした・・・
     野イチゴをほうばっていて、にわかに便意を催したボクは・・・近くの草ムラに飛びこみ、ズボンを下ろしてしゃがんだ。野糞である・・・
     フッと目の前を黒い影がよぎった。そしてその影が、ボクがしゃがんでる三メートル先の崖の上にとまった。それがクジャクチョウだった。夢にまで描き求めていたクジャクチョウが目の前の岩にとまって、二、三度羽根をとじたり拡げたりしながら、やがてその紋様をひけらかすように、ゆったりと開いて動かなくなった。
     千載一遇のチャンスとはこのことであった・・・(しかし捕獲に失敗)この失敗が後々功を奏した。クジャクチョウはもちろん花にもとまるが、赤土の岩や岩場を好む習性があるのではないだろうかと考えたボクは、ついにこの崖でクジャクチョウを得たのである。しかし、それは翌年のことであった。
  • INDEX クジャクチョウスミナガシアカタテハヒメアカタテハテングチョウ
クジャクチョウ
  • 害鳥除け目玉模様・・・4枚の赤いハネには、それぞれ大きな目玉模様がある。特に後ハネには、瑠璃色に輝く孔雀状の斑紋がある。この目玉模様は、鳥類などの天敵から身を守る効果があると考えられている。田畑などで害鳥除けに目玉模様をつけた鳥よけ用の風船があるが、これは昆虫たちの目玉模様から生まれたものである。
  • ハネの裏は「擬態」・・・黒色で、わずかに模様がある。ハネを閉じると枯れ葉や樹皮との見分けがつきにくい擬態となる。
  • 名前の由来・・・ハネの表側に、孔雀の羽に似たカラフルな孔雀状の目玉模様があることから。
  • 亜種名「geisha」・・・クジャクチョウはヨーロッパからアジアまで分布するが、日本のクジャクチョウは亜種とされ、geisaa(芸者)という学名がつけられた。その名の由来は、鮮やかなハネの模様を着飾った芸者にたとえたもの。 
  • 生息環境・・・低山地~山地の農地周辺、樹林の林間や林縁など。成虫は移動性が強く、高山に飛来する。成虫で越冬するため、早春に野山で観察できる。 
  • 食草・・・カラハナソウ(山ホップ)、ホップ、ホソバイラクサ、エゾイラクサなど。
  • 卵は食草の葉裏に、ビラミット状に100~200個かためて産み付ける。年2回発生。
  • 日中、低い場所を敏速に飛翔し、ヨツバヒヨドリやアザミ類などの花を訪れるほか、腐果や汗に集まったり、吸水を行う。オスは、路上や岩上、葉上に止まり、占有行動をとる。
  • 高山では、コバイケイソウ、トウゲブキ、ノアザミなどの花を訪れる。  
スミナガシ
  • 特徴・・・表は青緑色の光沢があり、外縁を中心に「く」の字型の白斑が目立つ。後ハネの中央付近に青斑が見られる。「墨流し」という和名が示すとおり、日本人好みのチョウで、マニアにも人気が高い。裏は暗色で、前ハネの中央部から外縁に細い白斑が目立つ。♂♀の違いは小さく、外見による判別は難しい。
  • スミナガシの写真提供:左合 直(さごう ただし)氏 HP「蝶の生態写真  
  • 赤いストロー・・・好んで樹液に集まり、特徴的な赤いストロー(口吻)を伸ばして樹液を吸ったり、地面で吸水したりする。 
  • 名前の由来・・・黒っぽい中に複雑な模様があるハネを「墨流し」で作った模様にたとえたもの。 
  • 生息環境・・・平地~山地の良好な広葉樹林。食草のアワブキは、沢沿いに多い。 
  • 食草・・・アワブキ、ミヤマハハソ、ヤマビワ、ナンバンアワブキなど。 
  • 行動・・・日中、樹液や獣糞、ミミズなどの死骸に好んで集まるほか、地面で吸水する性質も強い。夕方に山頂や尾根部に集まり、見晴らしの良い場所で占有行動をとる習性がある。 
アカタテハ
  • ハネの表・・・黒色に鮮やかな赤色~赤桃色の帯模様がある。前ハネ頂部付近に白斑がある。 
  • ハネの裏・・・前ハネは表と似るが、後ハネは、暗褐色に淡い色の線が縦横に広がる特徴的な模様がある。 
  • 名前の由来・・・赤い帯模様があるタテハチョウであることから。 
  • 生息環境・・・平地~山地の明るい草地。林縁の草地、農地周辺、河川堤防、路傍など小規模な草地でも発生する。都市部でも普通に見られ、個体数も多い。 
  • 食草・・・カラムシ、イラクサ、ホソバイラクサ、ナンバンカラムシなど。 
  • タンポポ類、アザミ類、アベリア、リョウブなどの花を訪れるほか、樹液や腐果にもよく集まる。オスは、山頂部などに集まり、占有行動をとる。 
ヒメアカタテハ
  • アカタテハとの識別・・・本種のハネの表は、白枠内にも黒い斑紋があるが、アカタテハにはない。ハネの裏は明るく眼状紋も鮮明だが、アカタテハは暗く眼状紋も不鮮明。 
  • 名前の由来・・・小さく、赤いタテハチョウであることから。 
  • 生息環境・・・平地~山地の明るい草地。農地周辺、河川堤防、墓地、山地草原でも見られる。秋になるにつれて個体数が増加し、寒冷地にも進出する。
  • 食草・・・ハハコグサ、ヨモギ、ゴボウ、カラムシなど。 
  • タンポポ類やアザミ類、バッケ、菜の花、コスモス、アベリアなどの花を訪れる。オスは路上や山頂で占有行動をとる。
テングチョウ
  • 特徴・・・表は、黒褐色に橙色の斑紋と前ハネの頂部近くに小白斑がある。前ハネの外縁前方部が突出している。裏は、褐色の枯葉模様。 
  • 名前の由来・・・頭の先が長く突き出ている様が、天狗の鼻を連想させることから。
  • ♂ハネの裏側・・・木の葉に擬態しているような地味な茶色をしている。葉脈のような線も明瞭。
  • ♀ハネの裏側・・・地色が赤みを帯び、中央の暗色条の線が目立つ。
  • 生息環境等・・・都市近郊の公園や神社から雑木林、自然林にかけて広く見られる。都市部の生息地は、まとまった樹林がある場所に限られる。森林では、河川や渓流、林縁部など食草の多い場所が好まれる。各種花や樹液などを訪れる。羽化直後は吸水活動を盛んに行うため、路上の湿った場所に集団で見られる。
  • 食草・・・エノキ、エゾエノキ、クワノハエノキなど。
  • 幼虫は、腹側が茶色のものが多く見られるが、緑色(上の写真)のものもいる。円筒形でシロチョウ科の幼虫に似ている。 
参 考 文 献
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社)
  • 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
  • 「蝶と私 羽後町の蝶を中心に」(福嶋信治)
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄、講談社文庫)
  • 写真提供:左合 直氏 HP「蝶の生態写真 (スミナガシ)