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昆虫シリーズ⑳ シジミチョウの仲間その1

ベニシジミ
  • 美しいチョウだがマニアに人気がないベニシジミ

     小型だが、白や黄色の花にハネを開いて止まると、大変美しいチョウである。特に春と秋遅くに出てくるベニシジミは、紅色が明るく、黒い部分が少ないので美しい。ところが素人には人気があるが、チョウマニアには人気がないという。なぜなら、小型で個体数も多く、どこにでもいる普通種だかららしい。それだけに網で追い回されることもないから、幸せなチョウという人もいる。 
  • 名前の由来・・・紅色のハネをもつシジミチョウであることから。シジミは、大きさや形がシジミ貝に似ているから。 
  • 夏型・・・橙赤色部は減少し、黒色化する。全体的に色がくすんでいる。 
  • 生息環境・・・平地~山地の路傍、原野、畑地、川岸の土手、堤などの広範な草地に見られる。草地があれば、都市公園や都市部の荒地にも見られる。 
  • 食草・・・スイバ、ギシギシ、ヒメスイバなど
  • 日中、低い場所を活発に飛翔し、草上や地上などによく静止する。タンポポ類、シロツメクサ、ヒメジョオンなどの花を訪れる。 
ルリシジミ
  • ルリシジミの特徴・・・オスの表のハネは、美しい青色をしている。前ハネ外縁の黒帯は狭く、後ハネは細い線状の外縁線となる。メスの表のハネは、白青色で黒い縁が広い。
  • メス・・・全体的に地味。黒縁が広く、中は白青色。
  • ・・・白色~暗灰色で、黒斑が散らばる。
  • 名前の由来・・・瑠璃色のシジミチョウであることから。
  • 食草・・・フジ、クズ、ヤマハギ、クララ、ミズキ、イタドリ、オオイタドリなどを主に利用する。その他、バラ科、シソ科など多くの種類を利用する。 
  • イタドリのツボミに産卵する♀・・・なぜ花のツボミに産卵するのか。イタドリの葉・茎にはシュウ酸が多量に含まれているので、摂食には適さないらしい。イタドリの場合、幼虫は花穂だけ食べるという。
  • 生息環境・・・平地~山地の樹林やその周辺、農地、河川、公園など食草のある様々な環境に見られる。幼虫がツボミや花を主に利用するため、春はフジやミズキなど、初夏はクララなど、夏から秋はハギ類やクズなどを食草として利用し、季節的に発生場所を変える。 
  • ユキヤナギ、フジ、クララ、ハギ類などの花を訪れるほか、オスは路上で吸水することが多い。 
ツバメシジミ
  • ツバメシジミの特徴・・・オスの表は青紫色、メスは黒褐色。後ハネ裏面には、尾状突起とオレンジ色の紋がある。日中、草原上を活発に飛翔し、各種の花を訪れる。オスは、地面で吸水もする。 
  • メス・・・黒褐色で、青白鱗が散布する場合がある。後ハネに橙色の斑紋がある。
  • 名前の由来・・・後ハネの尾状突起が、鳥のツバメの尾のように見えるシジミチョウの仲間であることから。 
  • 生息環境・・・平地から山地の丈の低い草地。公園や農地、河川堤防、牧草地、採草地など様々な環境に見られる。 
  • 食草・・・レンゲソウ、シロツメクサ、カラスノエンドウ、ヤマハギ、コマツナギなどのマメ科植物。
  • 交尾
ヤマトシジミ
  • ヤマトシジミの特徴・・・オスの表は白みを帯びた青色、メスは青色部が狭く黒っぽい。裏は白色~暗無灰色で、全体に小さな黒点が並ぶ。都市部で最もよく見られるチョウの一つで、カタバミ、シロツメクサなどの花を訪れる。本種は、秋田県が北限であったが、近年、分布が北上し、青森県でも確認されている。
  • 名前の由来・・・日本(ヤマト)に広く分布するシジミチョウの仲間であることから。
  • 生息環境・・・平地~低山地の人為的な環境に広く見られ、人家や石垣、荒地などカタバミが少しでも生える空間があれば、どこでも発生する。
  • 食草・・・カタバミ
     食草のカタバミは、背丈の高い草むらの中では育たない。だから草刈りが行われる公園や道端、農地周りの草原などに多い。つまり、ヤマトシジミにとっては、人の手が加わることによって、実に都合の良い環境をつくってもらっていることになる。だから「日本で一番多いチョウ」とも言われるほど多く生息しているのである。
ウラナミシジミ
  • ウラナミシジミの特徴・・・ハネ裏は、白と茶のさざ波模様で美しい。後ハネには、長い尾状突起がある。オスの表は淡い紫色、メスは暗色部が広い。越冬できるのは、温暖な地域に限られるが、8月下旬頃には個体数が急激に増加して、秋には北海道でも見られる。
  • 名前の由来・・・ハネ裏に白と茶の波状の斑紋をもつシジミチョウの仲間であることから。
  • 生息環境・・・平地~丘陵地むのマメ科植物の生える農地。秋にはマメ科の野生種の見られる路傍や荒地、伐採地などで見られる。
  • 食草・・・エンドウ、ダイズ、インゲンなどマメ科の栽培種を好むほか、クズ、ハギ類のマメ科野生種も利用する。
コツバメ
  • コツバメの特徴・・・裏は、濃い茶褐色で、落葉や樹木に擬態しているのであろう。成虫は、春にだけ見られる地味なシジミチョウ。太陽光と垂直になるように体を傾けて日光浴をする。
  • 名前の由来・・・ツバメシジミのような尾状突起はないが、黒っぽく飛翔がツバメのように敏速に飛ぶシジミチョウの仲間であることから。
  • 生息環境・・・主に丘陵地~山地の落葉広葉樹林の低木林。渓谷沿いや樹林の林縁、林内の陽だまりなど、明るい場所で見られる。
  • 食草・・・アセビ、ヤマツツジ、ガマズミ、ボケ、ユキヤナギ、アカショウマなど。
トラフシジミ
  • トラフシジミの特徴・・・春型の裏は、濃い茶色に白のストライプがはっきりしているが、夏型(上の写真)は模様がはっきりしない。山地の明るい林縁や渓谷、灌木が茂る草原などに主に生息するほか、公園や人家でも見られる。食草は、フジ、クズ、ウツギ、ノイバラ、ナツハゼ、ミズキなど。
ミヤマカラスシジミ
  • ミヤマカラスシジミの特徴・・・裏中央の白線が外縁とほぼ平行に走り、後ハネの端に橙色の斑紋と円形の黒点列がある。低山地~山地の食草(コバノクロウメモドキ、クロツバラなど)が生える樹林や草原で見られる。かつては農地周辺の低木林などでも個体数が多かったが、開発や管理放棄によって減少傾向にあり、絶滅した所も少なくない。
クロシジミとオオクロアリの共棲関係
  • クロシジミの特徴・・・その名のとおり、メスは暗褐色。アブラムシがつくクヌギ、コナラ、ススキなどに産卵、幼虫はアブラムシの甘露を食物とした後、孵化後10日ほどでクロオオアリの巣に運ばれ、アリにより給餌される。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・クロシジミとクロオオアリの驚くべき共棲関係
     クロシジミは初夏の頃現れる小さな地味なシジミチョウだが、この蝶の母親はナラ、クヌギなどにいるアリマキ(アブラムシ)のそばに卵をうみつける。卵からかえった幼虫は蟻のようにアリマキの分泌液をなめて成長する。そして三齢になると、ふしぎなことが起きる。それまでクロシジミの幼虫を無視してアリマキを訪れていたオオクロアリが、急に蝶の幼虫をくわえ、地下の棲家へと連れてゆく。けっして食物にするためではなく、オオクロアリは蝶の幼虫に口移しに餌を与え養ってやるのだ。その代償として蟻たちは蝶の幼虫の分泌する甘い蜜をなめとる。クロシジミの幼虫はこうして育ってゆき、冬を越し、翌年の初夏蛹となり、羽化すると蟻の巣を這い出してから翅をのばす。しかし雑木林の梢あたりを舞いとんでいる彼女らを見ても、あの蝶が幼虫時代を蟻の巣ですごしたとは誰が想像するだろう。
参 考 文 献
  • 「フィールドガイド 日本のチョウ」(誠文堂新光社)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)