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昆虫シリーズ㉔ 昆虫の王様「カブトムシ」

  • 今も昔も子どもたちに大人気のカブトムシ
     カブトムシは「昆虫の王様」と呼ばれ、クワガタムシと並び人気の高い大型の甲虫である。夏、里山のクヌギやコナラなどの樹液に集まり、オスとメスが出合って交尾する。メスは、腐葉土の中に潜り込み、直径4mmほどの丸い卵を産む。幼虫は越冬し、翌年6月頃、サナギになった後、約2週間後に羽化し、ハネが固まると地上に出る。卵→幼虫→サナギ→成虫へと完全変態する。もともとは本州、四国、九州に分布。現在、北海道と沖縄にも移入され、広く分布。似た種に小形のコカブトムシ、琉球列島に棲むサイカブトがいる。 
  • 生息場所・・・里山の落葉広葉樹の二次林に多い。市街地の緑地公園にも生息。成虫は、クヌギ、コナラ、ミズナラ、クリ、水辺のヤナギなど、特定の樹液に集まる。
  • 樹液酒場・・・樹液が発酵すると、アルコール臭を放ち、その匂いに誘われてカブトムシやクワガタ、スズメバチ、カナブン、カミキリムシ、オオムラサキやルリタテハなど森林性のチョウや蛾など、枚挙に暇がないほど多種多様な昆虫たちが集まってくる。だから「樹液酒場」と呼ばれている。
  • 参考動画:樹液に集まってきたクワガタ対スズメバチ対カブトムシ | NHK for School
  • 樹液を出す犯人は?・・・シロスジカミキリ(写真:シロスジカミキリの産卵)とボクトウガの幼虫である。
  • シロスジカミキリ・・・♀は、どんぐりの木の幹を丸くかじり、1個の卵を産む。横に移動して次々と産卵、木の幹を回るように産卵の跡が並ぶ。またシロスジカミキリの幼虫は、木の内部を食べながら育つ。その痕跡がまるで鉄砲で打ち抜かれたように見えるので、別名「テッポウムシ」と呼ばれている。成虫になると、樹皮を食い破って外に出てくる。その時に開けた穴から、樹液が流れ出てくるようになる。
  • 参考動画:シロスジカミキリの産卵 - YouTube
  • ボクトウガの幼虫と樹液(ボクトウガ科)・・・ボクトウガの幼虫は、樹皮の下にトンネルを掘って潜み、木の中をかじって樹液を出し、その樹液に集まる昆虫を捕食する。体長60mm前後。北海道から九州まで生息。
  • カブトムシとクワガタは親戚か・・・共に頭に大きな武器を持ち、樹液に集まるなど、生態的・形態的な共通点が多いが、答えは「NO」である。カブトムシはコガネムシ科であるが、クワガタムシはクワガタムシ科に分類される。 
  • 参考動画:クワガタ対カブトムシ | NHK for School
  • 体の長さ・・・オス27~75mm、メス33~55mmと個体差が大きい。 
  • 成虫の寿命・・・屋内の飼育だと2ヶ月くらい生きるが、野外だと一週間程度と意外に短い。気候にもよるが、6~7月の蒸し暑く風の無い夜に一斉に飛び立ち、9月中には全て死亡する。 
  • 身近な昆虫・・・幼虫は、自然の朽木よりも、材木を切ったあとのオガクズや枝を捨ててある場所、キノコの原木栽培に使ったホダ木の捨ててある場所、堆肥が積んである場所などで多く見つかる。
  • カブトムシを採集するには・・・里山の雑木林や河川敷、都市公園など。
  • 成虫が発生する時期・・・北海道・東北は、7月下旬~8月上旬頃。関東は、7月中旬~7月下旬頃。 
  • 成虫の活動時間帯・・・カブトムシが現れるのは、夜。暗くなってすぐの頃が活動を始める時間で、樹液の周りで羽音がすることもある。最も多くなる時間帯は深夜0時~2時頃の間。最近は、里山周辺にクマの出没が極めて多く、夜の昆虫観察はクマ対策が必須である。
  • 日中は・・・カブトムシが休んでいる場所は、葉が生い茂った枝の間、草むらの中、枯葉の下、樹液が出ている木の根元など、暗くて涼しい場所に好んでいる。  
  • 日中でも観察採集のチャンスはある・・・7月の後半以降、羽化したカブトムシやクワガタムシ、カミキリムシなどの甲虫類たちが増え始めると、夜の樹液酒場は常に満席状態となる。場所取りで敗れたカブトムシたちは、勝者が消え去った後の朝方、時には日中までも樹液酒場にとどまるようになる。そんな時は、日中でも、樹液に群がるカブトムシを観察採集する絶好のチャンスである。(写真:日中、ミズナラの樹液を吸うルリタテハとカブトムシ♀/樹木見本園、2021年8月4日)
カブトムシの一生
  • 夏、交尾・・・樹液の周りで、お気に入りの相手を見つけると、オスは交尾器をメスのお腹に差し込んで交尾する。交尾を終えたメスは、1~2週間ほどしたら、腐葉土や朽木の下に卵を産む。
  • 参考動画:秋のカブトムシの活動 | NHK for School
  • 産卵・・・メスは土に5mmほどの穴をあけ、1つずつ、合計20~30個ほどの卵を産む。卵の直径は約2~3mm。生まれたばかりの卵は白色で楕円形。徐々に茶色くなり、形も丸くなる。数日ほどで倍近くに膨らむ。
  • 孵化・初令幼虫・・・約2週間で卵が孵化し、幼虫が出てくる。この時期の幼虫を初令幼虫と呼ぶ。
  • 2令幼虫・・・1週間~10日すると、脱皮し2令幼虫になる。体長は約12~20mmで、頭部はだんだん濃い褐色になる。
  • 3令幼虫・・・さらに約3週間経つと、2度目の脱皮をし、3令幼虫になる。体長は約40mm。成虫にはない大アゴを使って、腐葉土などをモリモリ食べる。体長80~120mmほどに成長する。頭部には触覚が生えているが、目はない。
  • 前蛹(ぜんよう)・・・次の年の6月頃、幼虫は自らの体から分泌液を使って、土の中に縦長に丸い形の部屋を作る。これを蛹室(ようしつ)という。この中でサナギになるための準備をする。幼虫は、やがて皮膚がシワシワになって動かなくなる。この状態を前蛹と呼ぶ。
  • 蛹化(ようか)・サナギ・・・幼虫が3度目の脱皮をしてサナギになる。このことを蛹化と呼ぶ。オスには、頭部と胸部に2本の角ができる。時間が経つにつれてオレンジ色に変化し、だんだんかたくなってくる。
  • 成虫・・・約3週間ほど経つと、サナギは皮を脱ぎ、成虫になる。これを羽化と呼ぶ。羽化直後は、前ハネが白くやわらかいが、時間が経つとクリーム色に変化する。1日ほどでオレンジ色になり、その後黒褐色や赤褐色に変化し、完全な成虫となる。
  • ハネが固まる直前のカブトムシ
  • カブトムシの羽化不全・・・ハネがグチャグチャになって飛べないなどの奇形状態で土の中から出てくることを羽化不全という。その主な原因は、サナギが入る空洞「蛹室(ようしつ)」にある。例えば、土を交換する時、あるいは様子を見るために、蛹室の天井部を掘って蛹室を壊したりすれば、羽化不全を起こす確率が高くなるという。だからサナギになる前の5月以降は、そっとしておくことがポイント。
    1. 幼虫を密に入れないこと
    2. 適度な湿り気を保つこと
    3. 蛹室を壊すような行為は慎むこと
    4. 飼育ケースに衝撃を与えないこと
  • カブトムシを捕まえやすいエサ・・・カブトムシは、匂いを頼りに飛んでくる。好きな匂いの一つが、発酵させたものが入っているアルコール。 (写真:バナナトラップに群がるカブトムシ)
    1. バナナトラップの材料・・・バナナ、焼酎25度、ドライイースト、砂糖、カルピス原液、収穫ネット、30Lごみ袋
    2. 皮つきのまま切ったバナナを網袋に入れ、数個作ったものを透明なゴミ袋に入れる
    3. ゴミ袋の中に、焼酎・砂糖・ドライイースト・カルピス原液を入れよくかき混ぜる
    4. 温かい場所に2~3日置いて発酵させてから、コナラ、ミズナラ、クヌギの木に吊るす。
  • バナナトラップにきたミヤマクワガタ
  • バナナトラップにきたミヤマカミキリとカブトムシ
  • 動画:バナナトラップに群がるカブトムシ、ミヤマクワガタ、ミヤマカミキリ
  • 動画:バナナトラップに群がるミヤマカミキリ、カブトムシ等
カブトムシQ&A
① カブトムシの幼虫は、何を食べているのか
  1. 落葉広葉樹林の落ち葉が積もって土のようになったものを腐葉土と言う。メスは、この腐葉土に潜り込み卵を産む。メスはそのまま死んでしまうが、卵は2週間ほどで孵化する。孵化した幼虫は、腐葉土をたくさん食べて育つ。皮を脱ぎ、大きくなって冬を越す。
  2. 春、腐葉土をさらに食べて大きくなる。ここで成虫の大きさが決まる。
  • ② カブトムシの幼虫の天敵は?
    1. 幼虫の天敵は、アリやモグラ、イタチ、蛇など。イノシシも堆肥などを掘り返して食べる。
    2. 成虫の天敵は、カラス、タヌキ、ハクビシンなど
  • ③ カブトムシの成虫は、なぜ樹液にくるのか
    1. カブトムシの成虫の食べ物は樹液だから。樹液の甘酸っぱい匂いがすると、離れた所からも触角を動かして匂いをかぎとる。そしてどこから匂いがしてくるかを探って飛んでいく。
    2. カブトムシの口は、ブラシのようになっていて、樹液にひたし、しみ込ませてなめる。
  • ④ なぜカブトムシのオスには角があるのか
    1. 樹液には、色々な虫たちが集まる。邪魔な虫を角で追い払うため。
    2. メスと結婚したいときは、他のオスと戦う。その際、角を相手の腹の下に入れ突き上げる。そのまま放り投げることもある。
    3. ただし、カブトムシの研究例では、オス同士が戦う前に角を突きつけ合い、互いの長さを確認する。そして戦わずして勝負が決まる場合が多いという。「生き物の行動には無駄がない」と考えれば、できるだけ無駄な戦いを避けているのも頷ける。
    4. 最近の研究では、角を大きくすることで、タヌキやカラスに食べられるリスクが無視できないほど上昇するとの報告もある。
  • ⑤ なぜカブトムシのメスには角がないのか
     オスのように戦う必要がないというだけではない。メスは、腐葉土に潜り込んで卵を産む。その際、メスに角があれば、邪魔になって腐葉土の中に潜り込むことができない。つまり、角がないのは、卵を産もうと腐葉土にたやすく潜るためである。
  • ⑥ なぜ大きいカブトムシと小さいカブトムシがいるのか (上の写真は全て♂)
    1. 小さなオスは3~4cmほどしかなく、大きなオスは7cmを超えるほど。大小の変異が大きいのは、幼虫の時にどれだけ栄養を取り、大きくなれるかで決まると言われている。つまり、栄養のある腐葉土をたくさん食べると大きくなり、逆に栄養の少ない腐葉土では大きくなれない。なお、成虫になると成長しない。
    2. 大きいオスと小さいオスとでは、戦わずとも勝負は決まる。
  • ⑦ 小さいカブトムシは、負けてばかりで良いことはないのか
    1. 小さな成虫でも良いことはある。体が小さいとケンカには負けるが、その分目立たないので、天敵のフクロウやカラス、タヌキなどに見つかりにくく、生き延びることができる。
    2. カブトムシの研究によれば、小さなオスは、大きなオスのまだ活動しない早い時間帯から樹液に現れ、できるだけ負け戦をしないように行動する。さらに早く来たメスと交尾するほか、闇夜に乗じて交尾したりもするという。こうして遺伝子の多様性が保たれているのである。
    3. 一方、大きなオスは、エサ場をとりやすいが、目立つので天敵に見つかりやすい。さらに大きなオスほど、戦う機会が増え、体力は消耗するし、大ケガでもすれば、生活にも支障をきたすリスクが高い。
世界最大のカブトムシ「ヘラクレスオオカブト」
  • 世界には、1500種を超えるカブトムシがいる。その中で最大のカブトムシは、ヘラクレスオオカブトである。体の最大の長さは18cm以上。
  • 名前の由来・・・ギリシャ神話最大の英雄ヘラクレスに由来する。その風格から「カブトムシの王様」と呼ばれている。中央アメリカから南アメリカの熱帯の雲霧林に断続的に分布する。
  • オスの角は体長のほぼ半分もの長さがあり、最強と名高いコーカサスオオカブトでも本種には勝てないと言われている。
  • 主な活動時間帯は夜で、高木の樹液や果実に集まる。幼虫期は最長2年、成虫の寿命は最長1年半ほどと長い。
その他世界のカブトムシ3種
  • コーカサスオオカブト・・・東南アジア原産でケンカが強いことで有名。長く伸びる3本の角が武器で、アジア最大のカブトムシ。もちろんメスには角がない。体長40~130mm。
  • アトラスオオカブト・・・長い角が3本あるコーカサスオオカブトの仲間で、気性が荒い。東南アジア原産。体長50~110mm。
  • ゾウカブト・・・メキシコ~コロンビアに生息し、世界で一番重いカブトムシ。体長50~120mm。
参 考 文 献
  • 「新ポケット版学研の図鑑 昆虫」(学研)
  • 「身近な虫の鑑札図鑑 虫のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)
  • 「なぜ?の図鑑 昆虫」(学研)
  • 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「森林インストラクター入門」(全国林業改良普及協会)
  • 「デジタルカメラで昆虫観察」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「NHK子ども科学電話相談 昆虫スペシャル!」(NHK出版)
  • 「子供の科学 カブトムシ&クワガタ百科」(安藤゛アン゛誠起、成文堂新光社)
  • 「わたしのカブトムシ研究」(小島渉、さ・え・ら書房)