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昆虫シリーズ㉖ 熊よりも怖いスズメバチ

  • 樹液に集まる最も危険な昆虫・スズメバチ
     スズメバチは、世界に約70種、日本には16種が生息している。カブトムシやクワガタを目的にクヌギ、コナラ、ミズナラなどの樹液の出る樹木の周辺を観察していると、よく見かけるのがスズメバチである。中でも世界最大のオオスズメバチは、威嚇性、攻撃性、毒性が非常に強く、秋になると、他のスズメバチのコロニーを襲ったりする。しかし、オオスズメバチは、市街地では暮らせないという弱点がある。キイロスズメバチとコガタスズメバチが市街地で繁殖している理由は、天敵のオオスズメバチがいないからだと言われている。スズメバチによる刺傷事故は、オオスズメバチとキイロスズメバチによるものが最も多い。厚生労働省の調査によれば、全国で毎年20人前後がスズメバチに刺されて死亡している。
  • INDEX オオスズメバチキイロスズメバチコガタスズメバチクロスズメバチチャイロスズメバチヒメスズメバチモンスズメバチヤドリスズメバチ
  • 名前の由来・・・まるで鳥の雀(スズメ)ぐらい大きな蜂という意味から「雀蜂(スズメバチ)」になったと言われている。その他、巣がスズメの模様に似ているからとの説もある。 
  • 主なスズメバチの外見上の特徴と見分け方
    1. オオスズメバチ・・・尾の先が黄色で、腹の二本目の縞(しま)が極めて細い。多くは30mm以上と大型。春に見られる女王バチは40mm前後もある。
  1. コガタスズメバチ・・・尾の先が黄色で、オオスズメバチに似ているが二本目の縞が太く、オオスズメバチより小型。
  1. ヒメスズメバチ・・・尾の先が黒色
  1. キイロスズメバチ・・・肩と背の後方、足が黄色で、全体も黄色っぽい。まばらな金毛がある。
  1. モンスズメバチ・・・黒っぽく、腹の縞が波状なのが特徴。
  1. チャイロスズメバチ・・・小型で、全身がほぼ黒い。
  1. クロスズメバチ・・・小型で、白と黒の縞模様。
  • スズメバチの寿命・・・女王バチ1年、働きバチ(メス)10~20日、夏の終わりから秋に生まれるオスバチ15~25日。 
  • 食性・・・幼虫のエサは、成虫の働き蜂が森林の樹木や公園樹、街路樹、植木などにつくイモムシのほか、アブやハエ、セミ、バッタ、小形のハチなど、様々な昆虫を狩って肉団子にして巣に持ち帰ってくる。成虫は、幼虫が出す栄養液や樹液、花の蜜、熟した果実、アブラムシの甘露などをなめて栄養を補給する。 
  • ヤブガラシの花蜜が大好き・・・身近な道端や空き地などに普通に生えているヤブガラシは、ヤブを覆って枯らしてしまうほど生育が旺盛である。夏に咲く花は、スズメバチの短い舌でも蜜がなめられるような形をしている。だからスズメバチを観察しようとすれば、ヤブガラシの花を探すのが一番だ。ただし、刺されないように遠くから望遠レンズで撮影することが肝要だ。 
  • スズメバチの一年
     秋に生まれたメスバチ(新女王バチ)は、朽ち木の中などで越冬する。その際、ほとんどが1匹で越冬する。
  • 5月頃、女王バチ1匹で新しい巣を作り始める。
  • 巣作り開始から40日ぐらいすると、最初の働きバチが羽化する。
  • 7~8月、働きバチの数が増え、巣もどんどん大きくなる。 
  • 8~10月、夏の終わりから秋口にかけて、巣は最盛期を迎える。オスバチと、翌年の新女王になるメスバチがたくさん生まれる。巣にとって最も重要な出産・生育の時期は、働き蜂も非常に巣を警戒する。故にスズメバチの一年の中で最も危険な時期である。この巣は、翌年使わないので廃棄される。
  • メスバチだけが朽ち木の中などで越冬する。それを毎年繰り返す。 
  • スズメバチの巣は、超高性能な建築物
    1. 巣の材料は、木の繊維。鋭いアゴで木の繊維をかみ砕き、それを唾液と混ぜ合わせ巣の壁を作る。和紙そっくりの材質で軽く、とても丈夫にできている。働きバチは、色々な材料を持ってくるので、壁の色が縞模様になる。
    2. 幼虫のはいる巣房(すぼう)という小部屋の入り口は六角形で、それが規則的に並び、中で育つ幼虫にとって棲み心地の良い環境。その「ハニカム構造」は、空間を無駄なく利用し、強度も抜群なだけに、身近な建材や飛行機、宇宙船にまで採用されている。
    3. さらにスズメバチの場合、木の上に巣を作る種は、層状に並んだ巣房の全体を雨風から守る外皮で覆う。二重の壁に覆われた快適な巣を作る
    4. マンションに例えれば、「鉄筋コンクリートの新築マンション、エアコン完備、耐震クリアー、防虫対策済み、ガードマン付き」などと言われている。だからスズメバチは「天才建築家」とも呼ばれている。 
  • 驚きの非常食・・・梅雨の頃、長雨が続くと昆虫を狩るのが難しくなる。エサが不足すると、非常食として自分が大事に育てている幼虫を引き抜き、肉団子にして他の幼虫に与える。ミツバチがハチミツを貯め込んでおくように、スズメバチは非常食用に幼虫を多めに育てておくのである。 
オオスズメバチ
  • 大型で最強のオオスズメバチ・・・ 体長4cm以上にもなる世界最大のスズメバチで、攻撃性、毒性ともに極めて強い。さらに警戒心も強く、巣からある程度の距離に近づくと、カチカチと大アゴを鳴らして威嚇する。人にもひるまず襲ってくるほど攻撃性が高い。ただし、人に襲い掛かるのは、自分の身を守る時や巣を攻撃されそうになった時だけである。本種は8~9月に最も活性化する。毒針に刺されると、激痛が走り、命にかかわることもある。
  • ・・・土中や木の根、樹洞など閉鎖空間に作るが、目線より高い場所にはつくらない。巣は巨大になる。 巣に気付かず踏み倒して刺される被害が多いので注意。
  • 体長・・・30~45mm。
  • 幼虫のエサ・・・コガネムシ、カミキリムシ、カメムシ、大型のクモ、イモムシ、ミツバチ、他種のスズメバチを襲い、その肉団子を巣の幼虫のエサとする。肉食のカマキリなども襲う。
  • 成虫は、樹液を好む・・・マイタケ採りの際、ミズナラの大木の根際に集まって樹液を吸う大集団を見たことがある。秋が近づくと、樹液が出る木が減ってくるので、樹液の出る希少なエサ場を独占しようとする個体が増えてくる。 
  • オオスズメバチのケンカ・・・樹液が出ているコナラの大木にカナブンやサトキマダラヒカゲ・ヤマキマダラヒカゲが集まっていた。その上にはスズメバチが飛んでいた。樹液に集まる昆虫を撮影していると、突然、2匹のスズメバチが争いながら落ちてきた。地面に落ちた2匹のスズメバチは、お互いに絡まったままケンカをしていた。この近くに複数の巣があるのだろうか。 
  • オオスズメバチの大掛かりな侵略戦争・・・秋になると、オスバチとメスバチの幼虫を育てるため、他のスズメバチやミツバチの巣を襲う。世界最大のオオスズメバチは、圧倒的な強さをもつ。相手を皆殺しにして、幼虫やサナギを略奪するという。 
  • 戦いが終わった巣の下には、敵味方合わせて相当な死骸が散乱している。オオスズメバチ側の死骸は、戦いに参加した半数にのぼることもある。オオスズメバチは、そんな死骸を敵味方関係なく、肉団子にして巣に持ち帰り利用する。昆虫の世界は、とてもドライで無駄がない。 
  • オオスズメバチVSニホンミツバチ
     ニホンミツバチは、蜂球をつくることで、コロニーを襲撃してくるオオスズメバチと闘うことができる。自分より大きなカマキリやセミをも噛み切る最強のオオスズメバチが巣に侵入すると、一斉に飛び掛かって団子状(蜂球)になる。その数は180~300匹に及ぶ。胸の筋肉を震わせて熱を出し、内部の温度は45~47℃にもなる。この蜂球熱で、獰猛なオオスズメバチを蒸し殺すという必殺技がある。
キイロスズメバチ
  • 気性が荒いキイロスズメバチ・・・全体的にオレンジ色味の強い黄色。飛んでいる時は、濃い黄色一色に見える。都市部や人家に近い環境に多く、攻撃性はかなり強い。ハチによる刺傷事故が最も多いスズメバチの一つ。人との距離が近づきすぎる場所にある巣は、なるべく早い時期に駆除するのが良いとされている。
  • 体長・・・18~24mm。 
  • ・・・樹木の枝、樹木・地面の空洞、屋根裏、軒下、床下など、開放空間から閉鎖空間まで、色々なところに作る。貝殻を重ねたようなまだら模様のついた丸型。
  • 最大級の巣をつくる・・・規模は、スズメバチの中で最大級で、働きバチが千匹を超えることも珍しくない。テニスボールぐらいからバスケットボールを超える大きさまで発達し、時に直径1mを超えることもある。 
  • 営巣場所が手狭になると広い空間に巣を作り直すこともある。その引っ越し率は7割を超えるとも言われるほど多い。 
  • 幼虫のエサ・・・ハエ、アブ、他種のハチなど小型の昆虫や小型のクモ、専門食を持たない何でも屋。
  • 天敵のオオスズメバチが少ない都市部で急増している。 
コガタスズメバチ
  • 都市部で急増しているコガタスズメバチ・・・人里近い環境に多く、都市部でも見られる。斑紋パターンはオオスズメバチとほとんど同じだが、はるかに小型。上から見た頭の形が全く異なる。
  • 初期の巣・・・写真は、樹木見本園のボケの木に作った初期の巣。木の枝や軒下など開けた場所にトックリをひっくり返したような非常に特徴的な巣をつくる。その後、まだら模様のついたラグビーボールのような形に成長する。キイロスズメバチのように巣の引っ越しをすることはない。
  • 成長したボール状の巣・・・働きバチが羽化し始めると、何層ものまだら模様をしたボール状の巣に成長する。巣の直径は、20~30cmと、スズメバチの巣の中では小さめ。
  • 幼虫のエサ・・・ハエ、アブ、他種のハチなど小型の昆虫や小型のクモ、専門食を持たない何でも屋(写真:駆除されたコガタスズメバチの成虫と幼虫) 
  • 成虫は、樹液やアブラムシ、カイガラムシなどの甘露に集まる。また花の蜜周りにもやってくるが、その目的は蜜が目的というよりも、ほとんど蜜を舐めに来る他の昆虫を狩るためだと言われている。
クロスズメバチ
  • クロスズメバチ・・・体は全体に黒色で、白色の斑紋を有す。営巣は、土中や樹洞、稀にワラの中。しばしば樹液や花を訪れる。クロスズメバチの仲間は、長野県や岐阜県などでは食用とする習慣があるため、9~10月にかけて発達期から成熟期の巣が人間によって掘り取られることが多い。真綿などの目印のついた肉団子を働きバチにくわえさせ、巣に帰るハチを追い掛ける姿は秋の風物詩とも言われている。
  • 巨大な巣をつくる
     春になると、越冬したクロスズメバチの女王は、巣づくりに適した、ネズミやモグラなどがあけた廃道や自然空洞を探して、地中に巣をつくる。そして巣づくりと産卵を続けながら、狩りと育児も行う。初夏になると、働きバチたちが次々と羽化する。狩りや幼虫の世話、巣づくりを働きバチに任せ、女王は産卵に専念する。以降、働きバチが急速に増え、巣も拡張される。秋に巣は最大になり、直径10~30cm、巣盤は、5枚から12枚、重さは1~3キロにもなる。
     そして、まずオスバチが羽化し、次いで新女王となるメスバチが羽化する。初冬には巣を離れて、交尾を行う。交尾後、オスバチは死に、メスバチは越冬する。エサが少なくなる晩秋から、女王や働きバチが次々と死んでいく。こうして巣は空っぽとなって捨てられる。
  • 食用「ハチの子」・・・詳細は、「昆虫シリーズ67 昆虫食」を参照。
  • 採取時期・・・ハチの活動が活発になる9月から10月。
  • ハチ追い・・・肉を用いてクロスズメバチを誘き寄せて餌付けした後、ハチに真綿などで目印をつけた肉塊をくわえさせ、巣に戻るハチの後を追いかけて巣を発見する方法。これらの技術には熟練が必要。このハチ追いには、餌付け、見張り、追いかけを行う上で4、5人のメンバーで行うのが一般的。多い場合には、一日で10巣以上確保できることもあるという。
  • 飼い巣・・・春から夏にかけて、まだ小さい巣を採取して家庭で飼育し、大きく育てる方法。小さな巣は、木箱や古樽などの中にもみ殻や砂を敷き、巣を入れて巣造りを再生させる。10巣以上まとめて飼育したり、魚や肉をエサとして与えてより大きな巣を造らせるなど、自然採取より安定した量の確保が可能。ただし、採集する際、女王バチはもちろんのこと、働きバチもできるだけ多く採取する必要がある。またスズメバチやアリなどの天敵から守る手間もかかることから、かなり難しい。
チャイロスズメバチ
  • 他のハチの巣を襲い乗っ取るチャイロスズメバチ・・・日本産スズメバチの中では、極めて特異な色彩パターンをもつ。頭部から胸部にかけて赤褐色で、胸部は黒色。女王は、キイロスズメバチやモンスズメバチの巣に侵入して、女王を殺して巣を乗っ取り、その働きバチの労働で自身の幼虫を育てさせる。初期の巣では、両者の働きバチが混在する。攻撃性が強く、巣の周辺に近づいただけで数匹から10数匹の集団で次々に攻撃してくる。分布は局地的で一般に個体数は少ない。
  • 社会寄生・・・チャイロスズメバチとモンスズメバチ
     巣づくりや子育てなどの労働を他の生き物に頼ることを社会寄生と言う。
     モンスズメバチの女王は、冬眠から覚め、夏の初めになると、一人で巣をつくり卵を産み始める。卵が孵化すると、食べ物を運んで幼虫を育てる。この頃、冬眠から覚めたチャイロスズメバチの女王は、モンスズメバチの巣を襲う。チャイロスズメバチの女王の体は、相手の毒針が刺さらないほど硬い。襲った相手の女王を殺し、巣を乗っ取る。チャイロスズメバチの女王は、前の女王の幼虫が羽化して働きバチになるのを待つ。羽化した働きバチは、チャイロスズメバチの女王を自分たちの女王だと思い、一生懸命働いて巣を広げ、新しい女王の幼虫を育てる。次第にチャイロスズメバチの働きバチが増え、ついにはチャイロスズメバチだけになる。
ヒメスズメバチ
  • ヒメスズメバチ・・・オオスズメバチに似ているが、全体的に細長く、「尻黒」と呼ばれることがあるように腹部の尾端2節が黒いことで区別できる。本種は、アシナガバチ類の巣を襲い、その幼虫やサナギを引き抜いて体液を吸い、幼虫に与える特異な生活史をもつスズメバチ。このため、営巣期間はアシナガバチ類の生活史と同調していて、アシナガバチ類の終齢幼虫がサナギになる6月から生殖虫の生産が終了する9月までの約3カ月の短期営巣種である。スズメバチの中では、営巣規模が小さく、働きバチの総数も最大で数十匹を超えることはない。攻撃性は弱い。
  • ミズナラの樹液を吸うヒメスズメバチ・・・樹液に集まるスズメバチを遠くから眺めていると、オオスズメバチとヒメスズメバチは、判別ができないほど大きさや形がよく似ている。写真を撮った後、拡大してみて、尾の先が黒いことを確認して初めてヒメスズメバチだと分かるほど似ている。上の写真は、左がオオスズメバチ、右がヒメスズメバチ。
  • ヤブガラシの花蜜にもよくやってくる
モンスズメバチ
  • モンスズメバチ・・・黄色と黒の縞が波打ったような模様があるのが特徴。腹部の先端は黄色。
  • スズメバチの中では、最も遅い時間帯に活動し、日没から午後9時を過ぎても活動が見られる。営巣空間が狭くなると、巣の周辺に引っ越しを行う習性がある。セミ類を好んで狩りの対象にするため、生態系の豊かな森林ほど生息密度が高い。  
  • 木の洞や屋根裏、石の下などに巣をつくる。 
  • 樹液によくやってくる。
ヤドリスズメバチ
  • ヤドリスズメバチ・・・ツヤクロスズメバチに労働寄生するため、働きバチは産しない。ヨーロッパでは,鳥類のカッコウが本種と類似した生態をもつことから「カッコウバチ」と呼ばれている。女王の飛び方は、寄主そっくりで俊敏性にやや欠ける。 
  • スズメバチの天敵・・・鳥のハチクマ(上の写真)やモズ、ツキノワグマ、クモ、オニヤンマ、オオカマキリ、スズメバチに寄生するネジレバネ・エゾカギバラバチ、巣に寄生するベッコウハナアブ、越冬中の女王バチに寄生するセンチュウ、冬虫夏草の仲間・スズメバチダケなど、意外に多い。 
参 考 文 献
  • 「超危険 スズメバチLIFE」(丸沢 丸、講談社)
  • 「新ポケット版学研の図鑑 昆虫」(学研)
  • 「身近な虫の鑑札図鑑 虫のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)
  • 「なぜ?の図鑑 昆虫」(学研)
  • 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「くらべてわかる昆虫」(永幡嘉之・奥山清市、山と渓谷社)
  • 「虫の顔」(石井誠、八坂書房)
  • 「森林レクリエーションでのスズメバチ刺傷事故を防ぐために」(森林総合研究所)
  • 「日本の真社会性ハチ 全種・全亜種生態図鑑」(高見澤今朝雄、信濃毎日新聞社)
  • 「生き物のちえ3 寄生する生き物の話」(伊藤年一、Gakken) 
  • 「中部地方におけるクロスズメバチ食慣行とその地域差」(人文知理第41巻第3号、野中健一)