本文へスキップ

昆虫シリーズ㉗ スズメバチQ&A

  • ① スズメバチは、なぜ派手な黄色と黒の縞模様をしているのか?
  • ・・・あえて目立ちやすい体色を持つことで、毒針をもっているぞと、捕食者へ警告を発して自分の安全を確保していると考えられている。
  • スズメバチの警告色を踏切に利用・・・黄色と黒の組み合わせは、ヒトにも本能的に危ないと思われていることから、踏切の配色にも利用されている。 
  • ② 毒針を持たないアブの仲間も、同じような黄色と黒の縞模様があるのはなぜ?
  • ・・・アブの仲間は、スズメバチの「危険だ」という警戒色を真似て「自分は危ないよ」と、鳥などの捕食者にアピールし、食べられないようにしている。このことを「擬態」と呼ぶ。
  • ハチへの「擬態」は、全く別種であるカミキリムシでも見られる。 
  • ③ 働きバチが毒針をもつ理由は何か?
  • ・・・ハチの巣は、他の動物にとってエサの宝庫。一方、巣の中にいる幼虫には、手も足もなく、敵から逃げることもできない。働きバチは、そうした外敵から幼虫を守るために、毒針という強力な防御兵器を進化によって発達させてきたと言われている。
  • 毒針はメスだけ。オスには毒針なし。 
  • 参考:スズメバチの毒針は2分割構造
     スズメバチの毒針を顕微鏡で拡大すると2分割構造(上右写真)になっている。「刺針(ししん)」という硬くて細い管と、ノコギリ状の刃を持つ一対の「尖針(せんしん)」が背中合わせに並んで収まっている。刺針の先端が触れた瞬間に尖針が飛び出し、交互に相手の皮膚を切り裂きながら奥へ進み、深く突き刺して刺針から毒を大量に注入する。年間20人前後が刺されて死亡している。だから「クマより怖いスズメバチ」とも呼ばれている。 
  • ④ スズメバチは、一度人を刺したら死ぬのか?
  • ・・・ミツバチは、一度人を刺すと毒針が体からちぎれ、やがて死んでしまう。しかし、スズメバチは、人を刺しても毒針が抜けることはない。だから、死なずに何度でも刺すことができる。 
  • ⑤ スズメバチは、いつ頃危ないか?
  • ・・・夏から秋にかけて、働きバチがどんどん増え、外敵に対する攻撃性が高くなることから、危険性も大きくなる。故にハチに刺される事故は、8~9月に集中している。
  • 10月以降になると、オスバチや働きバチより体の大きな新女王バチが増えてくるが、これらには外敵に対する攻撃性はほとんどない。ただし、ハチの種や地域によっては、10月以降も働きバチが活発に活動することがあるので油断は禁物。 
 
  • ⑥ ハチがそばに寄ってきたら?
  • ・・・スズメバチは、外敵が巣に近づくと「これ以上近づくな!」と警告する行動をとる。例えば、相手の周りをしつこく飛ぶ。あるいは空中で停止したり、アゴをかみ合わせて「カチカチ」という音を立てる。こういう時は、強く手ではらったり、急いで逃げたりしないこと。スズメバチは、攻撃するもの、動くものに反応する。だからあくまで姿勢を低くし、動かないで、ハチが飛び去るのを待つことに尽きる。 
  • ⑦ スズメバチの巣があるのを知らずに、踏んだり揺らしてしまい襲われたら?
  • ・・・ハチが追い掛ける距離は、最も危険なオオスズメバチでも80mくらいと言われている。逃げる時は、手を振ったりはらったりすることは避け、低い姿勢をとりながら逃げる。できれば100m以上離れる。 
  • ⑧ ハチに刺されたら
  • ・・・市販されているポイゾンリムーバー(上の写真)を使って、毒を取り除く。小型軽量なので、ポケットに入れて携帯するのがベスト
  • 薬・・・腫れや痛みがひどい時は、ステロイド軟こうを塗ったり、抗ヒスタミン剤を服用する。 
  • ⑨ スズメバチに刺され、意識を失うアナフィラキシーショックが出たら
  • ・・・アナフィラキシーショックによる死亡例の多くは、刺されてから1時間以内に死亡が起きている。全身症状が出た場合は、一刻も早く病院で応急手当を受けることが必須。すぐに救急車を呼ぶなど助けを求めること。 
  • ⑩ 万一に備えて、スズメバチ対策は?
    1. 長袖、長ズボンの着用
    2. 白や黄色の服装、帽子を着用・・・スズメバチは、黒いものに対して真っ先に向かってくる。黒系のものは避けるべき。明るい色の服装や帽子は、良く目立つので、遭難時にも役立つ。
    3. 化粧品や香水の使用を避ける・・・化粧品や清涼飲料などに含まれる匂いの中に、スズメバチに攻撃行動をもたらす警報フェロモンの成分が含まれていることが最近分かった。
    4. 毒を取り除くポイゾンリムーバーを携帯する
    5. 殺虫スプレーを携帯・・・多数のハチが攻撃してきた時、殺虫スプレーが手元にあれば、被害を最小限に食い止めることができる。一般によく使われる虫除けスプレーや虫除けクリームは、刺すハチに対して全く役に立たない。
 
  • ⑪ スズメバチに2回以上刺されると、命にかかわるという話は本当ですか?
  • ・・・ほとんどの人は、刺される回数に応じて命にかかわる危険が大きくなることはない。ただし、ハチ毒アレルギー体質の人は、毒が体内に入る回数が増えるに従って反応が強くなると言われている。アレルギーにはいくつかの型があり、最も激しいⅠ型では、最悪の場合アナフィラキシーショックが起こり、命にかかわることがある。 
  • ⑫ ハチ毒アレルギー体質かどうかを調べるには?
  • ・・・これまでスズメバチに刺されたことがある人は、アレルギー科の医師に相談すれば、検査によって抗体の有無を調べることができる。
  • 最近では、ラスト法がよく行われる。血液を少量採取して、ハチ毒に対する抗体の量を測定するもの。ただし、この検査で抗体値が高くても、必ずしも強いアレルギー反応を示すとは限らない。逆に抗体値が低くても重大な全身反応を示す症例が知られている。この検査は、ハチに刺された直後だと正しい結果が得られないので、1か月以上時間をおいてから、検査を実施する。 
  • オオスズメバチVSニホンミツバチ・・・ニホンミツバチは、大木の樹洞などに営巣するが、オオスズメバチがその巣を襲うことがある。どちらが勝つだろうか?
  • 自分より大きなカマキリやセミをも噛み切る最強のオオスズメバチが巣に侵入すると、一斉に飛び掛かって団子状(蜂球)になる。その数は180~300匹に及ぶ。胸の筋肉を震わせて熱を出し、内部の温度は45~47℃にもなる。この蜂球熱で、獰猛なオオスズメバチを蒸し殺すという必殺技をもっている。だから野生の世界でも、絶滅せずに生き残っている。
  • オオスズメバチVSセイヨウミツバチはどうか?
     セイヨウミツバチは、在来のニホンミツバチのような必殺技がないから、オオスズメバチの集団攻撃を受けると全滅してしまう。
    だから逃げ出したセイヨウミツバチが自然環境下で定着できない大きな理由にもなっている。
  • ⑬ スズメバチは、日本一の殺人生物と言われているが、何か良いことをしているのか?
    1. 人間に嫌われているハエやアブ、カメムシ、ウンカなどを捕食してくれる。さらに農作物を食い荒らす大型のコガネムシも捕食する。
    2. 松枯れの原因となるマツノザイセンチュウを運ぶマツノマダラカミキリを捕食してくれる。松枯れ病を防ぐ頼もしい昆虫でもある。
    3. 外来種セイヨウミツバチが過度に増え過ぎると、在来のハナバチ類への悪影響が懸念されるが、天敵であるオオスズメバチの存在は、それを抑制するプラスの効果をもたらしている。
    4. クロスズメバチは、お茶の葉を食べるシャクトリムシやハマキムシの幼虫などの害虫を捕食してくれる。 
  • スズメバチ用ハチトラップの設置
     危険なスズメバチは、カブトムシやクワガタムシが大好きな樹液にやってくる。それを防ぐには・・・秋に生まれた新女王バチは、朽ち木の中などで越冬し、5月頃、女王バチ1匹で新しい巣を作り始める。その前に女王バチを退治するために設置。
    1. 1.5~2リットルの空のペットボトルの上部に1.5cm角の四角い穴を、カッターナイフで開ける。この穴は、スズメバチが入ったら出られないようにつくるのがコツ。
    2. ペットボトルに焼酎と酢、砂糖を3対1対1で割ったものを、底から10cmくらいの深さまで流し込む。
    3. ペットボトルの口にビニールのヒモを取れないように固く結わえる。
    4. スズメバチが出そうな場所にハチトラップを吊り下げる。
    5. しばらくすると、発酵し、酸っぱい発酵臭が漂い始める。スズメバチはこの匂いが大好き。スズメバチは、上部に開けた穴からペットボトルの中に入り、ポチャンと落ちて溺れ死ぬ。
参 考 文 献
  • 「超危険 スズメバチLIFE」(丸沢 丸、講談社)
  • 「新ポケット版学研の図鑑 昆虫」(学研)
  • 「身近な虫の鑑札図鑑 虫のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)
  • 「なぜ?の図鑑 昆虫」(学研)
  • 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「森林レクリエーションでのスズメバチ刺傷事故を防ぐために」(森林総合研究所)