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昆虫シリーズ㉙ セミの仲間

  • 木の幹で鳴き、季節の変化を告げるセミの仲間
     日本に生息するセミは35種、そのうち秋田県内には10種が生息している。古くから和歌や俳句にも詠まれ、日本人にとって季節の変化を告げる虫の代表格である。その一番手は、広葉樹林で5月末からミョウキン、ミョウキン、ケケケ・・・と鳴くエゾハルゼミ。6月末からは、ニイニイゼミがチーと低音で鳴き、早朝から夕方の薄暗くなった頃には、ヒグラシがカナ、カナ、カナと鳴き始める。7~9月の最盛期になると、ジィーと暑苦しく鳴くアブラゼミやミン、ミン、ミンと甲高い声で鳴くミンミンゼミ、ツクツクオーシと鳴くツクツクボウシ、広葉樹と針葉樹の混じった混交林ではギィーと鳴くエゾゼミ、ジーと鳴くコエゾゼミ、より標高の高い所ではジーと鳴くアカエゾゼミなどが次々と登場する。最後は、標高の低い山あいの林の中でチッチッチッと鳴くチッチゼミが登場して、セミの仲間の一年が終わる。 
  • INDEX アブラゼミエゾハルゼミニイニイゼミヒグラシミンミンゼミツクツクボウシエゾゼミコエゾゼミクマゼミ冬虫夏草「セミタケ」、セミヤドリガとセミ
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・セミの話
     盛夏、太陽がカンシャクを起してじりじりと地上に照りつけ、人間たちがへたばってしまうころ、蝉たちは意気さかんにわめきたてる。セミの成虫の生きている期間はごく短く、せいぜい十数日ということだ。それゆえにこそ彼らはあんなに鳴きたてるのであろうか。それにしても鳴くこと鳴くこと、ジイジイジイ、ミーンミンミン、よくもあれだけ鳴きわめけるものである。短命だから鳴きたてるのか、あまりにも鳴きわめくから短命なのか、わかったものではない。
  • 成虫の寿命・・・約2週間と短い。この短い期間に、オスが鳴いてメスを呼び寄せ、交尾する。メスは、枯れ枝にとまって産卵する。 
  • 目は5つ・・・顔の両サイドに大きな複眼が2つ、頭に小さな単眼が3つある。セミは昼間に活動するから、目がよく見える。だから木に止まっているセミを捕まえようとしても、さっと逃げられてしまう。 
  • 鳴くのはオスだけ・・・セミの仲間は、オスがメスを呼ぶために、大きな声で鳴く。オスは、他のオスたちと声を合わせて鳴き、遠くにいるメスも近くに呼ぼうとする。 
  • オスとメスの見分け方
    1. オス・・・後ろ足の後ろには、大きな「腹弁(ふくべん)」があり、その中にある膜を震わせて、鳴き声を出す。歌の節やメロディー、複雑な鳴き方は、腹を巧みに動かすことによって奏でる。
  1. メス・・・腹弁は小さく、産卵の時に木に穴をあける産卵管がある。後ろ足の付け根あたりには耳がある。メスは、この耳でオスの鳴き声を聞き、しっかりした声で鳴いているオスのところへ飛んでいって交尾する。やがてメスは、枯れ枝や樹皮に産卵管を突き刺して卵を産みつける。 
  • かの有名なファーブル先生も間違えることがある・・・その昔、昆虫記で有名なファーブルは、疑問をもった。もしオスのセミが鳴き声でメスを呼ぶとしたら、彼らは耳が聞こえているはず。ところがセミには、耳らしいものが見当たらない。彼は、村のお祭りに使う大砲を借りてきてズドンとぶっぱなしてみたが、セミたちは一向に気にもせず、鳴き続けた。ファーブルは、セミたちは耳が聞こえず、ただ楽しいから鳴いていると結論付けた。残念ながらこれは間違いであった。生き物には、聞き取れる音の範囲がある。大砲の音は、セミの聞き取れる範囲に含まれていないから、聞き取れなかっただけである。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・求婚の競演
     雄のセミは雌をよぶために凄じい勢いで鳴きたてる。ファーブルはこのことに疑問を抱いた。なぜなら鳴いている雄のそばに雌がやってきたのを見たことがなかったからである。彼はセミがつんぼであることを証明するため、沢山のセミが鳴いている広場で大砲をぶっ放したが、セミたちは平気で唄いつづけた。しかし、これはセミに聴覚がないことの証明にはならない。われわれの耳とは波長のちがう音を感ずるので、大砲の音には平気でも、クマゼミの雌は、その雄のシャアシャアという優雅ならざる声をやはり「神の声」ときいているのかもしれない。
     一匹のツクツクホウシが鳴いているとき、そのそばにいる別のツクツクホウシは合唱せずに、シューウというような妙な鳴き方をすることがある。蝉の研究家加藤正世氏は、これは他の個体が雌をよんでいるのを妨害するためだろうと解釈している。やはり蝉の音楽の根本は求婚の競演にちがいないのだ。 
  • セミの交尾・・・♂の本鳴きに惹かれた♀が飛来する。それに気付いた♂は、ピッチの速い誘い鳴きに変えて♀に少しずつ近づく。♀の傍まで近づくと、♂は前脚で♀のハネの端に触れる。これが交尾を促す合図。この時、♀が嫌がって逃げることが多い。♀が拒否しなかった場合、♂は♀の体やハネに触れながら、体の向きを反転させる。そして、互いに逆方向に向いた形で交尾が行われる。♂と♀が尾部を要とするV字形に位置して交尾する種もいる。
  • セミは、なぜ木の枯れ枝に卵を産むのか?・・・生きている枝に産むと、木の方がそれに反応してヤニを分泌する。そうしたらセミの卵は殺されてしまう。だからメスは、必ず枯れ枝を探してそこに産卵しなければならない。 
  • 長い幼虫期間・・・種類によって異なるが、2年~7年と大きな差がある。孵化した1齢幼虫は、地面に下りて土の中に潜る。そして木の根から汁を吸って成長し、脱皮を繰り返す。5齢幼虫まで大きくなると、いよいよ羽化する。 
  • 幼虫期間が長いのはなぜ?・・・小枝の上で卵からかえったセミの幼虫は、地上に落ちて土に潜り込む。土に潜り込んだ幼虫は、木の根を探して汁を吸う。その木の汁の栄養価は、木の葉に遠く及ばず、極めて低い。だからセミの幼虫は、育つのに何年もかかるというわけ。 
  • アブラゼミの羽化・・・地中から這い出した幼虫は、近くの木まで歩いて幹を登り、場所を決めると、足の爪でしっかりと体を固定する。しばらくすると、背中が縦に割れ、中から飴細工のような白い成虫の体が出てくる。頭と胸、足、ハネが抜けると反り返ってしばらく休む。足が十分に硬くなると、腹筋運動のように起き上がって腹を抜く。抜け殻にぶら下がり、次第にハネを伸ばしてゆく。初め薄い白から緑色をしていた体は、ゆっくりと本来の色へと変化していき、翌朝には飛んで行ってしまう。羽化に要する時間は約2時間。 
  • 樹液を吸うジュース食、オシッコは頻繁・・・成虫は、噛むための口がない。針のような長い口を持ち、硬い木でも平気で突き通し、樹液を吸う。その成分のほとんどは水だから、たくさん飲まないと十分な栄養が得られない。そのため、いつも食事中に余計な水分を、オシッコとして頻繁に排出する。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・十七年蝉
     北米には「十七年蝉」と呼ばれるセミがいる。幼虫が地中に十七年生活するので、そのためこの蝉は十七年に一ぺんしか姿を現わさない。といっても十七年ゼミにはいろんなタイプがあり、そのどれかがそんなに間隔をおかず出現するのだが、ある年、十七年目の奴と十三年目に現われる奴との発生がたまたまかちあったものだから、そのやかましさは言語に絶したという。
     ギリシャの詩人アナクレオンは蝉の音楽を「神のごとき声」と称したが、彼は鼓膜がどうかしていたのか、とびぬけの音痴であったにちがいない。私のもっとも愛好するのはクセナークスの次の一句である。
     蝉の生涯は幸いなるかな
     彼らは声なき妻を有すればなり
アブラゼミ
  • 夏、暑苦しいほど鳴くアブラゼミ
     都市公園から神社、街路樹、果樹園、雑木林など様々な場所で見られる。成虫は、7月~9月上旬くらいまで多く発生する。人家や公園の樹木、街路樹など人の暮らしに近い場所に多い。午前中はやや不活発で、午後は日没後にかけて集団でよく鳴く。鳴き声は、「ジー…」「ジジジジジ…」あるいは「ジリジリジリ…」と暑苦しいほど鳴く。北海道から九州まで広く分布。 
  • 特徴・・・褐色の不透明なハネをもつ大型のセミ。体長50~60mm。 
  • 名前の由来・・・鳴き声が、昼下がりの暑さを増幅するような響きがあり、「油で揚げるような」鳴き声であることに由来する。 
  • 好きな樹木・・・成虫はサクラ、ケヤキ、モミ、ナシ、リンゴなどに多い。成虫も幼虫もこれらの木に口先を差しこんで樹液を吸う。果樹栽培では、害虫として扱われることがある。
エゾハルゼミ
  • ブナ帯の森でいち早く鳴くエゾハルゼミ
     北海道から九州まで広く分布する。秋田では、5月末から梅雨の頃、ブナ帯の森から聞こえてくるセミの声は、エゾハルゼミと思って間違いなし。集団発生し、夏に林全体がセミの合唱域と化す。良く晴れた日は、午前中の早い時期から鳴き始め、夕方、日没近くまで鳴き続ける。「ミョウキン、ミョウキン、ケケケ・・・」と鳴く。 
  • 特徴・・・透明なハネ、頭部・胸部は緑色をおびた褐色で黒色の斑紋がある。腹部は黄褐色。体長は、オス40~44mm、メス38~42mm。 
  • 名前の由来・・・北の地域に多く、春一番に鳴くセミであることから。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・エゾハルゼミ
     エゾハルゼミは六月ころから鳴きだすが、内地では山地にだけいる。その声はミョーキン、ミョーキン、ギギギ、というおよそ変ちくりんなもので、地方によってミョーキンゼミ、あるいはミョーケンゼミなどという俗名がある。 
ニイニイゼミ
  • 松尾芭蕉の名句をうんだニイニイゼミ
     アブラゼミに先駆けて「チー…ジー…」と繰り返し高い音で鳴く。松尾芭蕉の有名な句「しずかさや岩にしみいる蝉の声」は、本種とされている。市街地から果樹園、雑木林、山地などに広く生息する。 
  • 特徴・・・アブラゼミと同じく不透明なハネをもつ。他のセミに比べて体型は丸っこく、横幅が広い。体長32~40mm。 
  • 名前の由来・・・鳴き声が「ニイニイ」と聞こえることに由来する。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ニイニイゼミ
     うっとうしい梅雨空がつづき、その雲がひらきさえすればもう初夏がくるはずだのに、それがなかなか開かない。そのうちやっと雲の一部がきれ、そこからさわやかな水色の空が覗いている。見るまに輝かしい光がながれこぼれてくる。もう夏なのだ。そんなとき、ふと気づくとどこからかジーという低い沁みいるような蝉の声が伝わってくる。これがニイニイゼミで、意外に分布がひろく、日本全土から朝鮮、台湾、中国からマレー、ボルネオにまでおよんでいる。芭蕉の「しづかさや岩にしみ入る蝉のこゑ」の蝉はむろんこのニイニイゼミをさしたものであろう。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・斎藤茂吉と小宮豊隆の論争・要約
     歌人斎藤茂吉は、芭蕉が詠んたセミはアブラゼミだろうと書いた。これに対して小宮豊隆は反論。第一に、「しづかさや」とか「岩にしみいる」という句は威勢のよいアブラゼミにふさわしくない。第二に、芭蕉が出羽立石寺に行ったのは七月の初め頃で、まだアブラゼミの鳴かない季節であることを指摘した。ところが茂吉は、論戦となるとゼッタイに後ろを見せぬ男であったから、このときも決して承服しはしなかった。
     彼はわざわざ立石寺の蝉を調査し、ニイニイゼミとアブラゼミ双方の声を確認したが、これは八月三日のことで役には立たない。翌年現地の人から便りがあって七月初めにアブラゼミが鳴くこともあることが知らされた。茂吉は勢いたち、その翌年、七月四日の夜東京をたち、立石寺の蝉をきこうとやってきた。ところが大雨が降って蝉の声などただのひとつも聞えなかった。その八月に彼が山形へ行ったとき、彼の前には待望の立石寺の蝉の標本が並べられた。大部分はニイニイゼミだったが、嬉しいことにアブラゼミの姿もあった。ところが茂吉はアブラゼミ説を主張することはしなかった。
     おそらく茂吉氏は豊隆氏からニイニイゼミと指摘されたとき、内心シマッタとも思ったのではあるまいか。しかし生来の負けずぎらいが、手間ひまをかけた蝉の調査となって現われたのかもしれない。調査しているうちに興奮がさめてきて、自分の論拠が主観的でありすぎたことに気づいたものであろう。 
ヒグラシ
  • ヒグラシ
     神社や寺の木立、山地のスギやヒノキなどの針葉樹林で良く見られる。強い陽射しの時には鳴かず、朝早くと、夕暮れ時に、「カナカナ」と寂しそうな声で鳴く。曇りの日や深い森の中では、一日中鳴く。名前の由来は、夕方の日暮れ時に鳴くことから「日を暮れさせるもの」の意味から。北海道~九州に分布。7~8月に活動。体長41~50mm。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ヒグラシ
     この蝉は朝夕のうすぐらいころに鳴く。最盛期には、昼にも鳴く。曇ってきたとき、夕立ちの前にも鳴く。いささかのかげりが好きらしい。その声は涼しく、哀調をおびて、日本人の感傷癖にぴったりする。 
  • 「絵本真葛が原」ヒグラシ(茅蜩)・・・右の木の間にセミが2匹描かれている。サナギは、夕暮れ前に土から出てきて木に登り始め、夜にかけて羽化する。
ミンミンゼミ
  • ミンミンゼミ
     夏を代表するセミの一つ。「ミーン、ミンミンミンミーン」と鳴く鳴き声から名前がついた。街路樹や公園に植えられた木が大きくなるに従い、都市部でもうるさいほど鳴くようになった。午前中から午後にかけて鳴く。緑色から黒っぽいもの、黄色っぽいものなど変異に富む。7~9月に活動。体長33~36mm。 
ツクツクボウシ
  • ツクツクボウシ
     夏の一番暑い時期に現れ、日が沈んだ直後に最も盛んに鳴く。その名のとおり、「ツクツクホーシ」と鳴く。しばらく鳴いては別の木に移る。警戒心が強く動きも素早いので、クマゼミやアブラゼミに比べて捕獲が難しい。幼虫期間は1~2年。北海道~九州に分布。7~10月に活動。体長40~47mm。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ツクツクボウシ、チッチゼミ
     ツクツクホウシがせわしなく鳴きだすと、まぎれもない秋の気配が漂ってくる。これで蝉の季節は終りになるのだろうか。いや、チッチゼミがいる。秋口から十月の末ころまで、山地の樹上でチッチッチッとかぼそく鳴いている。まるでササキリの類でも鳴いているようだ。ゆすってやると飛びたつが、うっかりすると大きなアブくらいに見すごしてしまう。とにかくいろんな声で鳴きたてた蝉界の末尾をしめくくるのにふさわしい種類といえる。 
エゾゼミ
  • エゾゼミ
     名前の由来は、北海道や東北では、平地で普通に見られることから。逆さに止まって鳴くことが多く、背中の模様がMに見える。よく晴れた午前中を中心に「ギーギー」という鳴き声は美しくない。ヒグラシやエゾハルゼミと同じく森林性のセミである。 
  • 大形のセミ・・・体長60~68mm
  • エゾゼミとコエゾゼミの見分け方・・・逆M模様の上にある黄色い線に注目。その線が左右で切れているのがコエゾゼミ、切れていないのがエゾゼミである。
  • アカマツを好み、スギの植林にも見られる。
コエゾゼミ
  • コエゾゼミ
     北日本では平地で見られ、7月上旬から8月末に現れる。針葉樹を主に好むエゾゼミと異なり樹種の好き嫌いはあまりなく、ブナ、ミズナラ、エゾマツ、シラカバ、ナナカマドといったさまざまな樹木に、頭を下にして逆さに止まり、「ジー」と鳴く。北海道、本州、四国に分布。7~8月に活動。
  • ブナ帯の渓流に生息するイワナの胃袋から出てきたコエゾゼミ。
クマゼミ
  • クマゼミ・・・関東以西に生息し、北日本には生息しない。西日本では、最もポピュラーなセミで、街路樹や公園の木に多く、群れることがある。朝の早い時間から鳴き始め、主に午前中に活発に活動する。午後は、あまり動かずじっとしていることがお多い。
  • セミたちの苦労・・・日本のクマゼミは、ワシワシワシーと一節鳴き終えると、オスは慌ただしく飛び立って他の木に移る。それを追い掛けるメスも大変だ。なぜ頻繁に移動するのだろうか。そもそも鳴くということは、自分の居場所を敵に知らせていることにもなる。だから同じ場所に留まっていると命が危ないので、一鳴きしたら早々と場所を変えなければならないのだ。とにかく虫たちは大変だ。
冬虫夏草「セミタケ」
  • 伝説の漢方薬、冬虫夏草「セミタケ」・・・菌類の攻撃を受け、死に至ってしまった昆虫の体から、キノコが発生することがある。これを「冬虫夏草」と呼ぶ。この名の由来は冬は虫で動きまわり、夏に至れば草(きのこ)に変わるとの発想によるもの。中国では、冬虫夏草が古来より不老不死、強精強壮の漢方薬として重用されてきた。日本に分布するセミタケは、小児のひきつけ、咳、のどの腫れ、眼疾、免疫力の賦活、制ガンに効果があるとされている。種の名前は、主に餌食となった昆虫に基づいて、セミタケ、ハチタケ、アリタケ、サナギタケなどと呼ばれている。キノコの形態は、こん棒状やたんぽ状で高さ10cm未満の細長いものが多く、一見キノコとは思えないような形をしている。地上などに発生したキノコを丁寧に掘ると、餌食となった昆虫などにしっかりとつながっていることが確認できる。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・冬虫夏草
     蝉の成虫に寄生するセミヤドリガのことは先に書いたが、地中にいる幼虫に寄生する植物がある。イザリアという菌類で、セミばかりでなくさまざまな昆虫にもとりつく。セミにとっつくのはセミタケで、蝉の幼虫の頭のほうからキノコのようなものがのびて地上へでる。昔から「冬虫夏草」とよばれ、不思議なものの一つとされていた。地上には植物らしきものが生え、それを掘ってゆくと虫の姿となる。冬には虫で夏には草になるのであろうと考えられていた。
    むかし中国では「冬虫夏草」を乾燥して薬用とした。肺の 病い、腎臓の病い、その他いろんな病気に効くのだそうである。もっともその姿はいかにも珍で、幽玄の気さえ漂っているから、病人たちも仰天して癒ってしまったのかもしれぬ。
セミヤドリガとセミ
  • セミヤドリガとセミ
     セミヤドリガの幼虫は、ヒグラシのお腹に潜り込んで、その血を吸って生きている。一匹だけでなく3、4匹もついていることがある。この幼虫は、1~4齢までは赤茶色をしている。5齢になると、体中が白い綿のような毛に被われる。充分に血を吸って育つと、セミから離れ、糸を出して、木の幹などに繭をつくる。セミの命は10日ほどと短いので、急いで大きくなる。
     繭の中でサナギになると、一週間ほどで羽化して成虫になる。成虫はメスばかりで、オスは滅多に見られない。オスと交尾することなく、メスだけで卵を産む。卵は小さく薄黄色をしていて、1個ずつ木の皮の下などに産んでいく。幼虫の時、セミから十分に血を吸って大きく育ったものは、千個ぐらいの卵を産む。早くにセミから離れたものは、10個ぐらいしか産まないという。
     翌年、木の上で孵化した1齢幼虫は、スマートで素早く動くことができる。幼虫は、セミが飛んできた時の振動を感じて、セミにとりつく。2齢幼虫になると、動く必要がないので、ずんぐりと太った体になる。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・セミヤドリガ
     ヒグラシにはおもしろい寄生昆虫がつく。セミヤドリガという小さな黒褐色の蛾がそれで、その幼虫はヒグラシの腹部にくっついている。ほかのセミにもつくが、ほとんどがヒグラシということだ。私は子供のころそういうヒグラシを見つけたが、当時はセミにカビが生えたのだろうと思っていた。幼虫は大きくなるとまっ白な綿のような糸を分泌するから、寄生されたヒグラシはすぐ見わけることができる。セミの親の生涯は短いから、セミヤドリガの幼虫も相当のスピードで成長するらしい。蝉の体液を吸って成長し、成熟すると蝉から離れて繭をつくり蛾となる。そのほかダニの一種がヒグラシにはよくたかっている。こんな生血をすする連中がいるために、ヒグラシはあんな哀れっぽい声で鳴くのであろうか。そのほかヒグラシは直翅目の一種であるヤブキリによく樹上でおそわれたりもする。キリギリスの類であるヤブキリが蝉を食うことは意外に思えようが、もっと姿と声音やさしいウマオイも実は肉食性なのである。
参 考 文 献
  • 「昆虫学ってなに?」(日高敏隆、青土社)
  • 「自然図鑑」(さとうち藍ほか、福音館書店)
  • 「昆虫博士入門」(山崎秀雄、全国農村教育協会)
  • 「身近な虫の観察図鑑 虫の私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)
  • 「別冊太陽 昆虫のすごい世界」(平凡社)
  • 「鳴き声から調べる昆虫図鑑」(高嶋清明、文一総合出版)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「生き物のちえ3 寄生する生き物の話」(伊藤年一、Gakken)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「ふるさとの虫ある記6」(成田弘)
  • 「ヤマケイポケットガイド⑩ 野山の昆虫」(今森光彦、山と渓谷社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)  
  • 「大江戸虫図鑑」(西田知己、東京堂出版)