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昆虫シリーズ33 トンボの仲間その4

  • カワトンボの仲間
     イトトンボに似ているが、もっと大きなトンボで、川に生息している。北海道から九州まで生息しているのはニホンカワトンボ、本州から九州まで生息しているのがアオハダトンボ、ハグロトンボ、沖縄のみに生息するのがリュウキュウハグロトンボ。また、長い体に物差しの目盛りのような線がある仲間にモノサシトンボ、飛翔力が強いヤンマの仲間にギンヤンマ、クロスジギンヤンマ、オオルリボシヤンマなどがある。
  • INDEX ニホンカワトンボ、ミヤマカワトンボハグロトンボアオハダトンボモノサシトンボギンヤンマクロスジギンヤンマオオルリボシヤンマ 
ニホンカワトンボ
  • ニホンカワトンボ(カワトンボ科)
     平地から丘陵地の近くに樹林のある抽水植物や沈水植物の繁茂する清流に見られる。川で見られる大きめのトンボで、ハネが大きくヒラヒラと飛ぶ。アサヒナカワトンボとごく近縁で、種間雑種も見られるという。東日本の個体群は、従来ヒガシカワトンボ、中部日本以西はオオカワトンボと呼ばれていた。日本固有種。(写真:ハネが無色透明タイプ)
  • 見分け方・・・橙色系のハネをもつ個体は、ミヤマカワトンボに似ているが、本種は小形で、ハネ端近くの幅広い濃褐色紋を欠くことで識別できる。 
  • ・・・ハネがオレンジ色タイプ、淡いオレンジ色タイプ、無色透明タイプの3型がある。ただし東日本では、オレンジ色と無色透明の2型である。いずれも成熟すると腹部全面に白粉を吹く。縁紋は赤褐色。地域や個体による変異が激しく分類が難しいと言われている。 
  • 無色透明タイプ♂
  • ・・・ハネが淡いオレンジ色タイプと無色透明タイプの2型。ただし東日本では無色透明タイプのみが見られる縁紋は白い。 
  • 名前の由来・・・川の流れに生息し、ほとんど水辺を離れないことに由来する。
  • 成熟♂(左上が♂)は、水辺の植物や石に止まって縄張りを占有し、近づく♂を激しく追い払う。♀が現れると、目の前でホバリングして求愛した後、連結して交尾する。 
  • 交尾・・・交尾時間は1~2分と短い。♀は単独で朽木などに産卵する。♂は近くに静止して警護し、一度に複数の♀を警護することもある。 
ミヤマカワトンボ
  • ミヤマカワトンボ(カワトンボ科)
     春~夏、丘陵から山の渓流周辺で見られる。大形で、ハネは赤茶色で、ハネ端近くに幅広い1条の濃色帯がある。川から離れることはなく、♂、♀とも水辺の岩などに止まっていることが多い。止まる時はハネを閉じる。国内の種では、アオハダトンボに近縁。国内の均翅亜目の中で最大の種。日本固有種。 
  • 見分け方・・・ハネ端近くに明瞭な褐色帯があり、大形である点で識別できる。 
  • 名前の由来・・・深山の川を飛ぶトンボであることから。 
  • ・・・国内のトンボの中では例外的に縁紋が存在しない。♂♀ともにハネは赤褐色で、後ハネに濃い褐色斑がある。体は緑色味がある。全長65~80mm。 
  • ・・・体は銅色を帯びる。ハネに白い偽縁紋がある。全長63~77mm。 
  • ♀は長時間潜水産卵・・・水中に潜って1時間以上産卵できる。♀のハネの表面には細かい毛が密生しており、空気の膜をつくることで水中でも呼吸できると考えられている。こうした細かい毛は潜水産卵を頻繁に行う種ほど多い傾向がある。 
  • 成熟♂は、水辺の石などの上に止まって縄張りをもち、♀が現れると求愛行動を経て交尾する。個体数が多い所では、稀に♂同士が連結するハプニングも起こる。 
ハグロトンボ
  • ハグロトンボ(カワトンボ科)
     夏~秋、用水路や小川、大きな川の下流部などで見られる。未成熟個体は、川の近くの薄暗い林の中で過ごすが、川から離れた家の庭にやって来ることがある。その名のとおり、ハネは真っ黒。国内トンボの中では例外的に縁紋が存在しない。河川改修を行うと激減することが多い。 
  • ♂の腹部には光沢があるが、♀は光らない。アオハダトンボに似ているが、♂はハネが群青色に輝くことはない。♀には白い斑紋がないので区別できる。 
  • 名前の由来・・・ハネが黒いからとの説と、昔、結婚した女の人が歯を染めていた「お歯黒」説などがある。 
  • ・・・腹部は光沢のある緑色。ハネが一様に黒褐色で光沢がない。全面57~68mm。 
  • ・・・腹部は黒褐色で光沢がない。全長54~66mm。 
  • ♂と♀がとも近くにいて、一緒に行動していることが多い。 
  • 成熟♂・・・川辺の植物や石に静止して縄張り占有する。気温の高い日は、時折ハネをパッと開く。 
  • 成熟した♂は、盛んにハネを広げ、腹部先端を上に上げて求愛活動をする。 
  • 交尾・・・♂は、♀を発見すると、♀の前でホバリングや水面にハネをつけるアピールを行い、♀が拒否しなければ連結して交尾する。交尾は数分間で終わる。♀は単独で水中に沈んだ植物組織内に産卵する。その間、♂は近くに止まって警護する。集団産卵や潜水産卵も見られる。 
アオハダトンボ
  • アオハダトンボ(カワトンボ科)
     河川とその周辺の草原、林などで見られる。水生植物の多いきれいな小川にしか生息しないことから、環境指標としても利用されることもある。ハグロトンボに似ているが、本種の♂はハネに金属緑色の光沢があり、♀は白い偽縁紋がある点で識別できる。全国各地で見られるが、産地は局限され、四国には分布していない。準絶滅危惧種。(写真出展:ウィキメディア・コモンズ)
  • ・・・ハネ全面が青藍色に輝き、体は全体的に金属的な光沢を持った青緑色。ハネの前べりが青く光ることも特徴の一つ。ハネの色は構造色で、角度によっては群青色に輝く。縁紋はない。(写真出展:ウィキメディア・コモンズ)
モノサシトンボ
  • モノサシトンボ(モノサシトンボ科)
     初夏~秋、木立に囲まれた池や沼で見られる。流れの緩やかな河川で見られることもある。未成熟個体の足は赤いが、成熟すると白く目立つ。腹部にモノサシのように等間隔に青白い模様がある。グンバイトンボに似ているが、♂の脚に軍配状のものがないので識別できる。本種とオオモノサシトンボは、DNA解析では明瞭な差が見られないという。 
  • ・・・脚のスネ節は白く、やや拡がる。黒地をベースに、成熟すると体斑が水色になる。腹部第9・10節が青白い。全長39~50mm。
  • ・・・黄緑色になるが、水色の個体もいる。全長38~51mm。
  • 名前の由来・・・黒い腹部に青白い模様が等間隔についている様が「物差し」に見えることから。
  • 成熟♂・・・水辺の植物に静止して縄張りをもつ。時折、パトロール飛翔して♀を探す。他の♂が近づくと飛び立って追い払う。
  • 交尾・・・♂は♀と連結し、周囲の植物に止まって交尾する。交尾は午前中によく見られる。交尾後、連結したまま水面付近の植物に産卵する。その際、♂は直立姿勢で警護することが多い。♀の単独産卵も行う。
ギンヤンマ
  • ギンヤンマ(ヤンマ科)
     4月末から11月頃まで日本全国の池沼、河川の淀み、人工池などで見られる。ハネを広げると10cm以上もある大型のヤンマの仲間で、各地で最も普通に見られる。4枚のハネをバラバラに動かすことで、空中に静止したり、急旋回するなど飛翔能力が高い。いざ捕まえようとするとなかなか手ごわい。最も簡単な捕獲法は、♀で♂を釣る方法。♂♀がつながって産卵にやってきたところを狙う。後ろの♀を捕獲し、糸で結んで飛ばせば、♂が連結して離さないので、オモシロイように♂が釣れるらしい。
  • ・・・腹部第2・3節に水色の斑紋と、その下が銀白色。♂♀ともに複眼は黄緑色、脚の腿節は赤褐色。全長67~83mm。
  • ・・・前が♂で後が♀。♀は斑紋が黄緑色のものが多いが、♂のような水色の個体も見られる。ハネは濃く煙り、老熟個体で著しい。全長65~84mm。
  • 名前の由来・・・腹部の3節目の下部が銀白色なっていることから。
  • 成熟♂・・・池沼の上で飛び縄張り占有し、時々ホバリングする。他の♂が侵入すると、激しく追い払う。朝夕の薄暮時には、摂食飛翔を行う。
  • 交尾・・・♂が♀を見つけると、交尾して付近の植物に静止する。♂が前、♀が後ろ。
  • 産卵・・・交尾後、♂は他の♂に♀をとられないよう連結したまま水面に飛来し、浮葉植物の葉や浮いた枯死植物などに産卵する。♀単独での産卵も行う。
  • 羽化したギンヤンマ・・・幼虫期間は3~8カ月程度、1年1~多世代。幼虫で越冬する。八重山諸島では、1年中成虫が見られる。
クロスジギンヤンマ
  • クロスジギンヤンマ(ヤンマ科)
     ギンヤンマと並び最も普通に見られるヤンマ科の一種。平地から丘陵地の周囲に樹林のある池沼で見られる。浮葉植物の繁茂する環境を好む。ギンヤンマと異なり、銀白色斑はなく、連結産卵も通常は行わない。個体数が多いと、しばしば♂同士の争いが起きる。♀は、単独で水面付近の植物に産卵する。 
  • ・・・♂♀とも胸部側面に2本の黒条がある。腹部の斑紋が青く前後に分かれる。ギンヤンマのような銀白色斑はない。尾部下付属器はやや長い。脚の腿節は黒色。
  • ・・・腹部の地色は黒、斑紋は緑色の個体が多いが、♂のような青色の個体も見られる。 
オオルリボシヤンマ
  • オオルリボシヤンマ(ヤンマ科)
     平地から山地の周囲に樹林のある抽水植物や浮葉植物の繁茂する池沼などで見られる。高山の池塘でも見られる。♂は♀が水辺に現れると執拗に追い、しばしば1頭の♀に何頭もの♂が追従するが、連結に至ることは稀である。(画像出典:ウィキメディア・コモンズ)
  • ・・・成熟すると斑紋が青くなる。♂♀とも腹部の体節の前端に環状の斑紋がある。全長76~94mm。
  • ・・・♀は単独で水面付近の朽木や抽水植物の組織内に産卵する。緑色と青色の2型がある。全長76~93mm。 
参 考 文 献
  • 「日本のトンボ 改訂版」(尾園暁ほか、文一総合出版)
  • 「トンボ入門」(新井裕、どうぶつ社)
  • 「日本の昆虫1400」(槐真史、文一総合出版)
  • 「フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)