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昆虫シリーズ34 トンボの仲間その5

  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・オニヤンマ
     一番大きなトンボはなんといってもオニヤンマであろう。おなじみの黒と黄色のだんだら模様の奴で、いつも自分の領分と思っている一定した道筋を飛んでゆく。アゲハチョウの類にも蝶道というものがあって、おおむね定まったコースを飛んだりするが、オニヤンマは殊に著しい。山道を歩いていると、オニヤンマが低く路上をとんでゆき、またくるりと反転して引き返してくる。
     子供の頃、よくこの習性を利用してオニヤンマを採った。谷間のほそい渓流の上に待っていると、流れに沿ってオニヤンマがやってくる。網なんか持たず、これをザルでおさえるのである・・・うまく捕まえたときの、あのすばらしい力強いばさばさという翅の感触は未だに手に残っている。 
オニヤンマ
  • オニヤンマ(オニヤンマ科)
     初夏~秋口に見られ、体長10cm余りもある日本最大のトンボ。黒地に黒い斑紋がある。成熟オスは、林道や谷川を直線的に行ったり来たりして飛ぶことが多い。小さな流れのある場所では、時々空中に静止して、産卵にやって来る♀を探す。オニヤンマが産卵するのは、幅数十cmの細い水路の場合が多い。木の枝にぶら下がって休む。 
  • 名前の由来・・・怖い顔つきと黄色と黒の斑模様から虎の皮のフンドシを締めた鬼を連想して名づけられたと言われている。確かに腹部背面の黄色と黒の斑模様を眺めていると、鬼の形相あるいは歌舞伎役者の顔のようにも見える。 
  • 見分け方・・・サナエトンボの仲間などに似ているが、左右の複眼が♂♀とも緑色で1点だけで接する点で区別できる。 
  • 羽化直後の複眼は灰褐色・・・複眼は成長過程で灰褐色から緑色に変化する。 
  • ♂♀とも黄色と黒の縞模様。腹部の黄斑は環状で等間隔に並ぶ。全長80~103mm。 
  • ・・・産卵弁は長大で、腹部末端から突き出る。♀は日本最大で、全長11cmを超える個体もいる。全長91~114mm。
  • 成熟♂は、夏の朝夕を中心に、木陰の多い細流に沿って長距離を往復飛翔しながら♀を探す。川沿いの林道上などでもよくパトロールする。秋になると、日向をよく飛ぶようになる。  
  • 交尾・・・♂は、♀を見つけると、その後方で数秒ホバリングした後、つかみかかって連結し、樹上へ連れ去って交尾する。交尾は2時間以上に及ぶ。 
  • 産卵・・・♀は単独で産卵に適した浅い場所で体を立ててホバリングする。次いで上下動を繰り返し、産卵弁を水中の砂泥底に突き立てて産卵する。 
  • オニヤンマの眼は、止まっているものがほとんど見えない。しかし、動くものをとらえる動体視力が優れている。だから飛んでいる昆虫を追い掛けて、空中で捕らえることができる。 
  • 参考動画:庭のオニヤンマ/海野和男 - YouTube
オオヤマトンボ
  • オオヤマトンボ(ヤマトンボ科)
     正面から見ると黄色条は2本ある。コヤマトンボよりひと回り大きい。平地から丘陵地にかけての水面の開けた池沼や湖、河川の淀みなどで見られる。♂は開放的な水面を岸に沿ってパトロール飛翔し、♀を発見すると飛び掛かって連結し、空中で交尾態となって水辺を離れ、樹上の枝に静止する。♀は単独で水面の広い範囲を飛びながら打水産卵を行う。幼虫期間は2~3年。全国に広く分布するが、北海道では産地が限られる。 
  • ・・・♂♀とも顔面に2本の黄色条がある。頭部と胸部が金属光沢のある青緑色で、黄色の条斑をもち、腹部第7節の黄斑が目立つ。ハネはほぼ無斑だが、先端が煙る個体もいる。全長78~88mm。
  • ・・・ハネはほぼ無斑だが、先端の1/2程度が橙褐色になる個体や全体が褐色に煙る個体もいる。全長79~92mm。 
オナガサナエ
  • オナガサナエ(サナエトンボ科)
     オス腹端の尾部付属器が長いのが特徴。丘陵地の樹林に囲まれた河川周辺で見られる。河川で羽化した成虫は、近在の林などへ移動し、産卵時に再び戻る。日本固有種。富山県や石川県では、長らく記録が途絶えていたが、近年生息地の発見が相次いでいるという。 
  • ・・・♂♀と正面の黄斑が逆「ハ」の字状で中央に斑点がある。側面に黄斑が並び、第7節が特に目立つ。尾部付属器は上下とも黒くて長大。複眼は青緑色。全長58~66mm。
  • ♀・・・眉毛は白い。胸部の黒条は太くて2本が融合している。全長55~62mm。 
  • 成熟♂・・・特に朝夕、川辺の石に止まって縄張りを占有し、時折飛び立って周囲を巡回する。産卵に訪れた♀を見つけると突進して捕獲し、空中で交尾態となって水辺から離れた木の枝に止まる。
コオニヤンマ
  • コオニヤンマ(サナエトンボ科)
     初夏~秋口、丘陵地の小川や川で見られ、湖で見かけることもある。サナエトンボ科の中では最大の種。黄色と黒の斑紋をもつ大型のトンボで、体の割に頭が小さい。飛び立ってもすぐに静止する。全長♂81~93mm、♀75~90mm。
  • 見分け方・・・本種はよくオニヤンマと間違えられるが、左右の裸眼が離れていることと、胸部背面に黄色の「M字型」の模様がある点で識別できる。 
  • 第二の特徴・・・体が大きい割には頭部が小さく、後ろ脚が長い。後頭後縁が平たく盛り上がり、1対の三角形状の突起となることも本種の特徴。 
  • 成熟♂・・・川辺の石などに止まって縄張り占有し、♀が現れるとつかみかかって連結し、樹上に連れ去って交尾する。♀は、主に午後、浅い瀬を訪れ、ホバリングしながら間欠的に打水して放卵する。 
ウチワヤンマ
  • ウチワヤンマ(サナエトンボ科)
     腹部の先の下にウチワ状の突起があるので区別しやすい。6本の脚の大部分が黄色をしているのも特徴。夏に大きな池や湖で見られる大型のトンボ。本州から九州にかけて広く分布するが、近畿地方など減少している地域もあるという。幼虫は、深い所にいるので採集や観察は難しいと言われている。
  • 特徴・・・♂♀とも腹部第8節の側縁がウチワ状に広がる。その中に黄斑がある。
  • 獲物を捕らえたウチワヤンマ
  • 成熟♂・・・水辺から突き出た棒や杭などに乗っかるように止まり縄張り占有する。交尾は岸辺の植物などに静止して行う。♀は単独でホバリングしながら、腹部で浮遊物を間欠的に打ちながら産卵する。
ムカシヤンマ
  • ムカシヤンマ(ムカシヤンマ科)
     丘陵地から山地の周囲に樹林のある湿地や水が浸みだす斜面などに見られる。動きが緩慢で、日当りの良い木の幹などに、ハネを広げたまま張り付いた格好で止まることが多い。幼虫は、低山地の水がしみ出すような湿った斜面や、コケの下などに穴を掘ってすむ。日本固有種。本州と九州に広く分布するが、四国や千葉県には分布しない。 
  • 見分け方・・・一見、オニヤンマや大きなサナエトンボのように見えるが、複眼は黒褐色で、左右の複眼は離れていることで区別できる。 
  • 第二の特徴・・・♂♀とも複眼は黒褐色で、腹部に小さな黄色の斑紋がある。 
  • 成熟♂・・・地面や植物に止まって縄張りを持ち、♀が近づくと樹上に連れ去り、空中で移精してから枝などに止まる。しばらくしてから飛び立ち、空中で交尾態となって樹幹や葉の上に止まる。交尾は1時間以上続く。♀は主に朝夕、水のしみ出る斜面や湿地の土や苔の間に産卵する。 
ダビドサナエ
  • ダビドサナエ(サナエトンボ科)
     丘陵地の樹林に囲まれた川の上中流域で見られる。本州から九州にかけて広く分布し、小形のサナエトンボの仲間では比較的よく見られる。日本固有種。全長♂43~51mm、♀40~47mm。
  • 見分け方・・・クロサナエやモイワサナエと似ているが、♂の尾部上付属器の形状や頭部複眼に沿った隆起が直線状であること、頭部大顎側面や前脚基節に黄斑をもつことで区別される。
  • ハネ胸前面の黄条は逆「ハ」の字型。胸部側面の黒条は2本だが、1本は消失傾向の個体も見られる。
  • ・・・♂と違い、腹部の黄斑が特徴的である。産卵期以外は、水際から少し離れた林縁などにいることが多い。
  • 成熟♂・・・水辺に静止して♀が来るのを待つ。♀が現れると飛び掛かって連結し、周囲の植物に止まる。交尾後、♀は単独で水際の丈の低い草地や苔の生えた石の上に卵を一粒ずつばらまき産卵する。
ヤマサナエ
  • ヤマサナエ(サナエトンボ科)
     胸側に2本の黒条がある中型のサナエトンボ。丘陵や山に生息し、細流付近の林縁で見られることが多い。葉の上などに止まって静止することも多い。大型の昆虫も捕食する。産卵は、♀単独で、浅い流れの上でホバリングしながら卵塊をつくって打水放卵する。日本固有種。東北地方では産地が限られ、地域によっては減少しているという。全長♂62~72mm、♀64~73mm。
  • 特徴・・・♂♀とも胸部の2本の黒条が目立つ。♂の上付属器と下付属器はほぼ同じ長さであることが特徴。♀の産卵弁は突出しない。成熟♂は、川岸の抽水植物や地面に止まって縄張り占有する。
モイワサナエ
  • モイワサナエ(サナエトンボ科)
     東日本では、丘陵地の樹林に囲まれた川の上中流域で見られる。成熟♂は、水辺に止まって縄張り占有し、♀が現れるとただちに連結して、周辺の葉の上などに静止する。産卵は♀単独で、水際の丈の低い草地の上などでホバリングしながら、卵をばらまく。日本固有種。全長♂42~49mm、♀36~46mm。
参 考 文 献
  • 「日本のトンボ 改訂版」(尾園暁ほか、文一総合出版)
  • 「トンボ入門」(新井裕、どうぶつ社)
  • 「日本の昆虫1400」(槐真史、文一総合出版)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)