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昆虫シリーズ40 アリの仲間

  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・アリから学べ!
     もっとも多くこの世に行われている蟻についての見解は、その完璧ともいえる共同社会を強調し、人間社会と比較することであろう。もし彼らがさらに進化し、形や力を増したならば、未来の地球を支配するのはおそらく蟻たちであるにちがいない・・・まず私たちは蟻の不思議な生活を知る必要があろう。やはりそこには一度は覗いてみるべきものがあるのだから。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・オスとメスの結婚
     普通の働き蟻には翅がない。しかし新しく生まれてくる雌と雄、新郎新婦にはちゃんと翅があり、吉日に飛び立つ。彼らの結婚式は、クロナガアリは春、クロオオアリは初夏、トゲアリは秋というように種類によって季節がきまっている・・・
     結婚をすますと雄はたわいもなく死んでしまう。どうも昆虫の世界では、雄のほうがちっぽけの能無しで、ひどいのになると雌から食べられてしまったりするが、案外人間の社会でもこれと似たようなことが行われてもいるのだ。蟻の雌は、いや女王は-事実彼女は女王と呼ぶだけのことをやってのける。 
  • 女王アリ・・・アリは、女王アリを頂点に、多いもので数千匹の働きアリ♀がコロニーをつくり社会生活する。コロニーは、1匹の女王アリから始まる。新しく誕生した女王アリにはハネがあり、交尾期になると巣を飛び出て空中で♂と交尾した後、ハネを落とす。 ♂は交尾を終えると死んでしまう。
  • ハネをもつクロクサアリ♀
  • 産卵と子育て・・・結婚飛行で交尾を終えた女王アリは、10~20個の卵を産む。卵は、カビなどの雑菌から守るため、毎日丁寧になめて清潔に保つ。2週間ほど経つと、卵から幼虫が孵化する。女王アリは、体内に蓄えた栄養を吐き戻しによる口移しで幼虫に与えて子育てをする。
     成長した幼虫は、口から糸を吐いて繭を作ってサナギになり、産卵から1.5カ月ほど経つと働きアリが羽化する。この間、女王は何も食べずに子育てをする。やがて、働きアリが育つと産卵に専念するようになり、そのほかの仕事は働きアリが担うようになる。
  • 働きアリ・・・♀の働きアリは、ハネや生殖器官などは退化している。それぞれ育児をするもの、縄張りを守るもの、エサを集めるもの、新しいエサを探しに出るものなど、それぞれきっちり分業している。働きアリの中でも、特に体が大きく頭部が発達した兵隊アリは、主に防衛の仕事を担う。働きアリは、情報伝達のためにフェロモンを分泌し、その匂いでエサの場所や敵の存在などを仲間に知らせる。
  • クロヤマアリ・・・クロオオアリよりふた回り小さい。体色は黒色で、腹と胸の間が大きくくびれていて、その間に小さい出でっぱりがある。乾いた日当たりのよい開けた地面に巣を作っていることが多く、畑や公園などでよく見られる。羽アリは6~8月頃に飛び出す。体長4~6mm。北海道から九州まで広く分布。
  • クロヤマアリの巣作り・・・アリの巣を観察していると、忙しそうに何度も繰り返し巣の中から土を運び出す姿を見ることができる。よく見ると、運び出した土を巣の外に捨てる時に、捨てた土を2本の前脚で叩いて崩れ落ちないように固めているのを観察できる。これはせっかく運び出した土が、再び崩れて巣の中に入ってこないようにしているのである。 
  • 協力してエサを運ぶクロヤマアリ
     森林公園や道端などで見かける黒いアリは、クロヤマアリかクロオオアリだ。共に雑食で、虫の死体から穀物、花の蜜まで何でも食べる。クロヤマアリは、小さく腹部の光沢が強い。エサを見つけると、たくさんの働きアリが群がってきて、力を合わせて運んでいく。 
  • アリはどんな方法でエサを集めるのか・・・アリは、幼虫や仲間の働きアリに与えるために、エサを巣に運び込む。エサを見つけた働きアリは、単独又は仲間と共同で巣に持ち帰る。樹液の場合は、腹部にあるソノウにためて運ぶ。固形のエサの場合は、大アゴでくわえて運ぶか、引っ張る。
    1. 大きなエサは、仲間を呼んで多数の力で運ぶ。
  1. 大きなクロオオアリは、大きなエサを単独か少数で運ぶ・・・上の写真のとおり、クロオオアリが大きな蛾を単独で運ぶ光景には、心底驚かされる。
  • 道しるべフェロモンとアリの行列
     アリは、道を歩きながら、お尻の先を時々チョンと地面につけて、道しるべになる、記憶のための物質を出す。これを「道しるべフェロモン」と呼ぶ。エサが大きい場合や量が多い場合、アリは、この「道しるべフェロモン」の匂いを利用して、巣の仲間を動員し、エサを運ぶ。「 道しるべフェロモン」は、揮発性の物質で、その匂いは1分半くらいしか持続しない。しかし、道しるべを辿る仲間も分泌するので、数が多くなるほど匂いは強まり、最後にはアリの行列ができあがる。 
  • アミメアリの行列・・・アミメアリには女王アリがおらず、決まった巣もない。働きアリが働きアリを産み、石や倒木の下などに野営の巣を作り、頻繁にその場所を変える。上のような行列は、引っ越の時に見られる。
  • クロクサアリ・・・体長は4~5mmと小さく、体色は艶のある黒色。樹木根部の空洞に営巣することが多い。特にアブラムシが分泌する蜜を好む。6~7月、多くの羽蟻が現れ、結婚飛行を行う。
  • 長い行列をつくるクロクサアリ
     プラタナスの根元の空洞に巣を作っていたクロクサアリ。巣穴からエサ場まで数十メートルもの行列をつくる。クサアリの仲間は、指でつまむとサンショウの匂いがする。  
  • アメイロケアリの巣を乗っ取る・・・乗っ取りに成功した巣では、黄色いアメイロケアリと黒いクロクサアリが一緒に暮らす。アメイロケアリの働きアリが寿命で死ぬ頃には、クロクサアリだけの巣になる。これを「一時的社会寄生」と呼ぶ。
  • 冬に活動するクロナガアリ・・・本種は、草の実を専門に集める収穫アリで、晩秋から早春の時期しか働かない。他のアリが活動している時期は、巣穴を完全にふさいで地中生活をしている。巣は、地中深く垂直に延び、最大5mにも達する。体長約5mm。本州から九州に分布。(写真出典:urasimaru)
  • 大きなアゴで草の実をもぎとり、巣に運ぶ。草の実は、1年中気候変動が少ない冷蔵庫のような巣の中で、次の年まで新鮮さを保つと言われている。(写真出典:urasimaru)
  • 道しるべフェロモンを使わないクロオオアリ
     大型のクロオオアリは、小型のアリでよく見られるような行列はつくらない。単独で運べない大きなエサがある場合は、巣に戻って、仲間の働きアリの頭を触角で叩くようにしながら、分泌物を放出する。そうすると相手のアリは興奮状態になり、やがて背後に回って後ろについて歩くようになる。こうして仲間を後ろに従えたアリは、巣から出る。クロオオアリは、視覚によって場所を記憶する。その記憶を頼りにエサのあった場所をめざす。こうして大きなエサでも複数の力を合わせて運ぶことができる。
  • クロオオアリ
     庭や公園などの日当たりの良い地面に開いた巣の出入り口から、忙しく出入りしている光景をよく目にする。地中の巣には、1匹の女王アリとその子どもの働きアリが千匹以上にもなる大家族が住み、まるで迷路のようになっている。巣の中には、卵や幼虫の部屋、食べ物を蓄える部屋などがある。女王アリは、専用の部屋で卵を産み続ける。働きアリは全て♀で、食べ物を捜し歩き、巣を守り、子どもと女王アリの世話をする。春の限られた時期だけ、女王と交尾するための♂が生まれて、その専用の部屋もある。 
  1. 結婚飛行・・・5~6月、気温と湿度が高い日の夕方、ハネのある新女王と♂アリは巣を出て飛び立ち、交尾する。
  2. 産卵と子育て・・・交尾を終えると、新女王はハネを落とし、穴を掘って巣穴をつくる。最初は10~20個ほどの卵を産み、働きアリを育てる。その年の秋に、働きアリは50匹ほどになる。
  3. 越冬・・・幼虫は成長をとめて越冬する。その間、女王は卵を産まない。
  4. 2年目・・・春に産まれた卵が成虫になると100匹ほどの巣になる。秋には、100~200匹ほどの集団になる。
  5. 6~7年経つと・・・女王が卵を産み続け数千匹になると、ハネをもった♂アリと新女王が現れる。 
  • 好蟻性(こうぎせい)昆虫
     アリは、同じ種でも別の家族と出会うとケンカになる。これは家族ごとに体の匂いが違っているから。アリの目は、ほとんど見えないので、視力よりも臭覚に頼って暮らしている。もしも、同じ匂いがすれば、例え姿形が違っても仲間だと思い込んでしまう。この弱点を利用してアリの巣に入り込む昆虫を好蟻性(こうぎせい)昆虫と呼ばれている。中でもアリの巣に居候し、盗み食いする代表がアリヅカコオロギである。 (サトアリヅカコオロギ/写真提供:木野村恭一氏 HP「岐阜のアリ
  • アリヅカコオロギ・・・体長3~5mm程度の小さなコオロギで、ハネは退化し、暗くて狭いアリの巣の生活に特化している。ハネがないので鳴くこともない。アリヅカコオロギは、アリの匂いを体にまとうことでアリを騙して、巣の中でアリが集めた食べ物を盗む。さらに進化した種は、アリのエサの受け渡し信号をまねて、アリに直接エサをねだる。ただし、種によっては、アリの巣の中にいながら、アリとの接触をできるだけ避け、隙を見てアリのエサを横取りするものもいるという。(サトアリヅカコオロギ/写真提供:木野村恭一氏 HP「岐阜のアリ) 
  • 参考動画:アリヅカコオロギの動き/taku shimada - YouTube
  • クロオオアリとクロシジミ(参考動画:クロシジミの幼虫/taku shimada - YouTube)
     クロシジミというチョウの若い幼虫は、アブラムシの甘露を食べて育つ。ある程度育つと、自分自身が体から甘露を出し始め、そのクロシジミの幼虫を気に入ったかのように、アリが巣に連れ込んでしまう。連れ込まれた幼虫は、アリの匂いを体にまとうことで、アリから口移しでエサをもらったり、体の掃除までしてもらって暮らす。これでは持ちつ持たれつの関係どころか、シジミチョウばかりが得をする大詐欺師ということになる。
  • 森林性のムネアカオオアリ
     都市公園から里山の雑木林、白神山地のようなブナ原生林まで広く見られ、クロオオアリと並んで日本最大のアリ。その名のとおり、胸が赤い。地中ではなく、ブナなどの老齢木の朽木に巣をつくる。特に国の天然記念物・クマゲラの大好物。ムネアカオオアリの天敵は、トゲアリで、巣に侵入して、巣を乗っ取る。
  • 体長・・・働きアリ8~12mm、女王アリ16~17mm
  • クリプトン樹木見本園では、ミズナラの樹液にたくさん集まっている。
  • ムネアカオオアリの天敵・トゲアリ
     一見、ムネアカオオアリに似ているが、赤い胸に良く目立つがトゲ状の突起がある。この3対の鋭いトゲは、釣り針状で、指に刺さると引っ掛かってとれない。このトゲは、鳥の捕食に対する防御のためと考えられている。
  • 太い樹木の洞を巣に利用・・・トゲアリは、植物相が豊かな雑木林で、かつある程度樹齢を経た木の洞などを生活場所として好む。そうした大木が少なくなるにつれて、トゲアリも減少していることから、環境省では絶滅危惧Ⅱ類に指定している。 
  • イモムシを運ぶトゲアリ 
  • 防御のためのトゲ実験・・・ニホンアマガエルの実験では、捕らえたトゲアリをすぐに吐き出そうとし、再び捕食しようとしなかった。一方、トゲを除去して与えると、吐き出すことなく摂食したという。天敵に対して、トゲは防御用として機能していることが実験で明らかになっている。 
  • トゲアリの巨大な群れ・・・豊かな雑木林が残っている高尾山(秋田市雄和)で撮影。 
  • 巣を乗っ取るトゲアリ・・・クリプトン樹木見本園には、オニグルミの大木があるが、その幹の洞にムネアカオオアリの大きな巣があった。ところが、いつの間にかトゲアリの巣になっていた。トゲアリは、どのようにして他の巣を乗っ取るのだろうか。
  • ハネがあるのがトゲアリ♂
  • 交尾を終えた女王アリは、クロオオアリやムネアカオオアリの巣を襲撃する。巣に入り込むと、働きアリにかみつき、馬乗りになって数日離れない。そうしてムネアカオオアリの匂いをまとった女王アリは、ムネアカオオアリの女王が入る奥の部屋まで侵入する。そして、女王の首元にかみつき殺す時に、その女王の匂いを獲得する。こうして単独クーデターに成功したトゲアリの女王は、ムネアカオオアリの女王になりすまして、働きアリたちに世話をさせるようにふるまう。そして女王は、産卵に専念し、最終的にトゲアリの巣に取って代わる。トゲアリは、驚くほど巧妙な戦略をもっている割には、絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。それは、他のアリの巣を乗っ取る成功率は、あまり高くないからだと言われている。
  • 参考動画:シジミチョウの幼虫から蜜をもらうトゲアリ/海野和男 - YouTube
  • 奴隷狩りするサムライアリ・・・・・・一見クロヤマアリに似ているが、大きなアゴが鎌状になっているので、容易に区別できる。奴隷狩りを行うアリとして有名。大アゴは鋭くとがっているので、卵や幼虫、サナギの世話、食べ物の運搬などができない。だからクロヤマアリの巣を襲って、働きアリを奴隷として働かせる習性がある。日本各地に分布し、主に草地や裸地に生息する。 (写真出典:ウィキメディア・コモンズ)
  • どうやってクロヤマアリの巣を乗っ取るのか?
     交尾を済ませた新女王は、上イラストのようにクロヤマアリの巣に侵入する。その際、クロヤマアリが嫌がる物質を出しているためか、働きアリたちは新女王の邪魔をしないという。巣の中に侵入した新女王は、クロヤマアリの女王と闘った後、殺す。その際、新女王の体表にクロヤマアリ女王の匂いがつく。
  • クロヤマアリの働きアリたちは、けんかに勝った新女王を自分の女王と思い、世話したり、産んだ卵や幼虫の世話をする。まさにクーデターを起こしてクロヤマアリ社会の女王の座についたようなものである。
  • クロヤマアリの巣を襲う・・・サムライアリは、大アゴが大きく、鎌状になっているので、自分たちの卵や幼虫、サナギの世話、食べ物の運搬ができない。一方、巣の中の奴隷・クロヤマアリは、やがて死んで、数が減ってくる。すると、何もしないでブラブラしていたサムライアリの働きアリは、新たにクロヤマアリの巣を襲い、サナギや幼虫を自分の巣に持ち帰る。それが成虫になると、新たな奴隷として使う。サムライアリ独特の先の尖った鎌状の大アゴは、奴隷狩りをするための武器であった。
  • 参考動画:恐怖!サムライアリの奴隷狩り【アリのひみつ大図鑑】/BS11 - YouTube
  • 成功率は低い?・・・こうした高等戦略を持っているにもかかわらず、サムライアリの巣は非常に少ないという。それだけ成功率が低いということだろう。もし奴隷の働きアリよりも、寄生者が増え過ぎると、最終的には共倒れするしかないからだろう。
  • 農業をするハキリアリ
     中南米に生息するハキリアリは、草木に上って、鋭いアゴで葉を切り取り、地中にある巣穴へ運び込む。まるで葉を収穫して食べているように見えるが、実は直接食べるためではない。巣に運び込んだ葉を、さらに小さく切り刻み、そこに菌を植えつけて栽培し、その栽培した菌糸を食料にしているのだ。人間も食料にするためにキノコ栽培をするが、ハキリアリは人間が行うより遥か昔から農業を行ってきたのである。
  • 参考動画:【もはや知的生命体!?】40mの巨木が丸裸に…!?農業や軍事も行うハキリアリの巣には巨大な女王アリがいた…【どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU】 - YouTube
  • ハキリアリの仲間・・・北アメリカ東岸から中央アメリカ、南アメリカまで約100種が知られている。何万という働きアリが、植物の葉を切り取り、巣に持ち帰り、そこに菌を植えつける。栄養に富んだ菌は、主に幼虫のエサとなるが、働きアリも食べ、普段食べている植物の汁では補いきれない栄養源となっている。(写真:切り取った葉を運ぶハキリアリの行列)
  • 菌園は、地下に作られるが、その土の中は雑菌で溢れている。そこに菌を植えつけるとカビやバクテリアなどで壊滅状態になってしまう。ところが、ハキリアリの胸部には、特別な共生バクテリアが付着しており、それが余計な微生物の成長を抑える抗生物質を分泌する。その抗生物質は、共生菌には影響を与えないので、驚くほど効率的な栽培を行うことができる。
  • 昆虫は、人間より先に農業を行っていたばかりでなく、最も効率的な栽培方法までも編み出していたのである。さらにハキリアリは、菌をより良い環境で栽培するため、古くなった葉は捨てて、こまめに新しい葉と交換する。ハキリアリとキノコは、共生関係を続けながら、共進化したきた。
  • 一子相伝の菌・・・ハキリアリの新女王は、自分が生まれた巣の菌園から、菌糸の束を口の付近にある袋に入れ外に飛び立つ。交尾したメスアリは、羽を切り落とし、地面に穴を掘る。袋から菌糸を取り出し、自分の糞に植えつけ、菌園の栽培を最初から開始する。それは親が育てた菌を先祖代々受け継ぐことから、「一子相伝の菌」と言われている。
  • 糞に植えた菌が成長すると、新女王はその近くに卵を産み、孵化した幼虫はその菌を食べて育つ。働きアリが誕生すると、それらが外に出て、葉を切り出すようになる。 
  • 多摩動物公園ハキリアリ飼育観察より
    1. 巣の中には、女王アリ、オスアリ、働きアリの3種。
    2. 女王アリは、群れに1匹。体長は20mm、腹は丸い卵形。
    3. 頭の大きい働きアリ・・・兵アリと呼ばれ、体長約16mm。葉は切らず、歩き回って巣の警戒に当たる。
    4. 中型の働きアリ・・・葉を切る働きアリ。体長8~13mm。大アゴを使って切り取るが、中脚や後ろ脚をコンパスのように使って、丸く切り取る。働きアリの頭がハート形に大きいのは、アゴを動かす筋肉が発達しているからである。
    5. 小型の働きアリ・・・体長3mm。主に巣の中にいて、切り取られた葉をさらに小さくかじりとり、分泌物を混ぜてペースト状にして、菌のための畑を作ったり、菌の胞子を収穫して幼虫に与えたりしている。
    6. ハキリアリは、たくさんの葉を刈り取る、という事実を目の当たりにして、原産地では大害虫になるはずだと思ったという。
    7. ゴミは巣の外へ。そのゴミを調べると、アリの死体や菌の食べかすなど。
    8. 育てている菌は、アリタケというキノコ
    9. ハキリアリは、他の菌などの外敵からアリタケを守っている。アリは、アリタケの胞子から大切な栄養分である糖分をもらっている。
    10. 畑は、噛み砕いた葉で小さなお椀のように作られ、それが積み重ねられて、フワフワしたスポンジのような形になる。そこに菌糸が植えられる。初めは薄緑色だが、菌糸がはびこると灰白色から白い菌糸に覆われる。そして所々に胞子ができると、働きアリが収穫する。アリの巣は、キノコ農園でもあり、幼虫や卵、サナギは、菌の畑のあちこちに散らばっている。
    11. 導入して3年後には、アリの数は数万匹に増えたという。
  • キノコシロアリの仲間・・・朽ち木や枯れ草を食べ、その糞に菌糸を植えつけ、菌園という畑を作る。キノコシロアリは、その菌糸を食べ、朽ち木などからは得られないタンパク質を得る。こうした昆虫による栽培農業は、人間が農業を始めるより桁違いに古い、およそ八千年前から行っていたという。アフリカからアジア一帯に生息し、日本では八重山諸島に自然分布。 
  • 昆虫界の大建築「シロアリ塚」
     シロアリは、アリとはまったく異なるゴキブリの仲間だが、アリのように女王シロアリを中心としたコロニーを形成し、コロニーには数百から数百万の個体が生息する。熱帯と亜熱帯を中心に3千種ほどが知られている。家屋を食い荒らす害虫として嫌われているが、多くは森林や草原など、人間社会とは離れた場所で暮らしている。彼らは、「アリ塚」と呼ばれる巣をつくり上げる。中には高さ5mにもなる塔のような巨大なアリ塚や変わった形のアリ塚など、観光地の名物になっているものもある。そのどれもが体長1cmにも満たない小さなシロアリたちが、土と唾液を混ぜて固めるなどして、何年もかけてつくり上げたものである。アリ塚の地下には、さらに大きな巣が広がっていて、時には何百万匹にもなる大家族が暮らしている。 
  • アフリカのアリ塚・・・塚の表面には、たくさんの小さな穴が開いている。だからいつも新鮮な空気が巣の中に流れ込む。地下水で湿った土からは、水分が蒸発する時の気化熱によって、巣の中の温度が下がる。外の気温が高くても、巣の中は自然のエアコンが働いているので快適に過ごすことができるスグレモノである。 
  • 助け合うアリとアブラムシ
     アブラムシは、植物の汁を吸い、そこから必要な養分を吸収するが、植物の汁には必要以上の糖分が含まれていて、それをオシッコとして排泄する。そのオシッコは「甘露」と呼ばれるほど糖分のほかアミノ酸などの栄養分も豊富。それを求めてアリが集まってくる。
  • アリとアブラムシの共生関係
     働きアリが触覚でアブラムシを触ると、アブラムシは木や草の汁を吸って貯めていた汁を、お尻から出す。その甘露をなめとってエサにする。その代わり、アブラムシの天敵であるテントウムシやクモ、ハナアブの幼虫やアブラムシに卵を産む小さなハチなどから守るために保護を行う。アリとアブラムシは、持ちつ持たれつの共生関係にある。ただし、アリはアブラムシが増えすぎると、間引きして、それをエサにしてしまうこともあるという。 
  • 花とアリ
     花蜜を吸うアリは、一部の植物種にとって重要な送粉者となっている。しかし、多くの植物種にとって、アリは盗蜜者と考えられている。アリの体表は、細菌や真菌を殺す物質で覆われていて、これが花粉も殺してしまうからである。そればかりではなく、アリは多くの昆虫が嫌がる存在なので、一般的な訪花者の多くは、アリがいる花を避けてしまうことが観察されている。つまり、アリはただの花蜜泥棒という以上に、送粉者を追い払ってしまう厄介な存在だと言われている。
  • アリを避けるための進化例・・・花茎やガク、苞など、花の基部にある器官がネバネバしていたり、毛やトゲで覆われていたりする植物種があるのは、恐らくアリの訪花を防ぐために進化したと考えられている。
  • アリに種を運んでもらうスミレ
     春に咲くスミレは、アリを使って種を遠くへ運ばせる。スミレの種は、大きな鞘のようなものに詰まっている。熟すと鞘が三つに割れて、種がはじき出されるように周りに飛んでいく。地上に落ちた種は、獲物を探して歩いているアリに見つけられる。その種には、アリの大好物である栄養豊富な白いもの(エライオソーム)がついている。体の大きいクロヤマアリなどは、一匹で運ぶが、小さいアリは仲間を呼んで協力して巣に運ぶ。
     巣に持ち帰ったアリは、白い部分だけを咬み取って、仲間や幼虫に分けてやる。残りの種は巣の外にゴミとして捨てられる。こうしてスミレの種が落ちた所より遠い所に運ばれ、アリの巣の近くで芽を出す。スミレは、長い年月をかけて、アリの好きなものを作り出し、それを種にしっかりつけることで、アリに確実に種を運んでもらうよう進化していった。このようにアリに種を運んで散布してもらう植物種は、世界で90種、2800種ほどが知られているという。 
  • アリに種を運んでもらうカタクリ(参考動画:カタクリの戦略/種を運ぶアリ - YouTube)
     カタクリの種子にも、アリが好むエライオソーム(脂肪酸)が付属している。アリは、丸ごと巣に持ち帰り、エライオソームだけ食べて、種子は巣の近くに捨てることで生育地を拡大していく。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・経験遺伝を持たない、たった一つの遺伝形式
     蟻たちはすばらしい分業をもつが、それはそれぞれの身体に応じてはじめから規定されている。人類のように習得の結果ではない・・・もっとも重要なことは、彼らがただ一つの遺伝形式、生殖細胞による一般生物の遺伝形式しか持っておらず、人類のようにもう一つの遺伝形式、経験遺伝という奇蹟的な武器をもっていないことだ。彼らはそのため三千万年来、同じ生活を一世代ごとに新しくくりかえしている・・・彼らはずっと昔に彼らの可能な最高水準にまで達してしまったと言ってよい。 
参 考 文 献
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「別冊太陽 昆虫のすごい世界」(平凡社)
  • 「美を知る89 トゲアリ・釣り針状の腹柄節」(県立博物館学芸主事・藤田由美)
  • 「キノコを育てるアリ ハキリアリのふしぎなくらし」(多摩動物公園ハキリアリ飼育展示グループ、 新日本出版社)
  • 「ともに進化する動物と植物の話」(伊藤年一、Gakken)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
  • 「ぜんぶわかる!アリ」(島田拓、ポプラ社)
  • 「昆虫学者の目のツケドコロ」(井出竜也、ベレ出版) 
  • 参考HP「岐阜のアリ