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昆虫シリーズ43 アブラムシとテントウムシ

  • ナスの葉を食害するアブラムシとニジュウヤホシテントウ類
アブラムシ
  • 恐るべき農業害虫・アブラムシ
     アブラムシは、日本に約600種、うち200種ほどが農業の害虫扱いされている。体長はわずか1mmほどの小さな虫だが、農業では大きな被害をもたらす害虫として恐れられている。その理由は、作物を病気にするウイルスの運び屋になるからである。針のような口にウイルスがくっつき、別の作物の汁を吸うことで、ウイルスがどんどん広がる。病気になった作物は、育ちが悪かったり、枯れたりして収穫が期待できなくなる。トマトやミカンなどでは「すす病」も起こす。これは、アブラムシのオシッコによって起きる病気で、果実が真っ黒になって食べられなくなる。
  • 普段見るアブラムシは、ほとんどがメス。メスだけで、お尻から幼虫が出てきて、どんどん増えていく。メスは卵ではなく、自分によく似た幼虫を直接産む。生まれた幼虫も、親と同じように針のような口で汁を吸い始めるので、被害がどんどん広がる。わずか1カ月の間に、1匹のアブラムシが15,000匹に増えるという研究データがある。農家にとっては、恐るべき害虫である。 
  • アブラムシの語源・・・江戸時代、ハギに寄生するアブラムシを数匹手ですりつぶすと、指先がベトベトする。それを頭につける油として塗ってテカテカに光らせる子供の遊びがあったことに由来する。 
  • 兵隊アブラムシ・・・植物の汁を吸う一般的な個体のほか、兵隊アブラムシがいる。兵隊アブラムシは、通常の個体よりも脱皮の回数が少なく体が大きい。前脚、中脚ががっしりしていて、外敵を脚で挟み込んだり、口や頭部の突起を突き刺して攻撃する。最も手ごわい相手は、テントウムシやヒラタアブ、クサカゲロウの仲間である。敵は、硬い甲をもつものや偽装して近づくもの、忍び寄るものなど、様々な戦略で攻めてくる。だから、何とか1頭でも多く生き残ればという程度の防衛しかできないようだ。 
  • 別名アリマキ・・・アリがアブラムシのお尻を触角で叩いて合図をし、甘い汁を出させて吸っている。その様子を、アリがアブラムシを牧場で飼っていることに例えたことに由来する。英語でも「アントカウ(アリのめ牛)=牛の乳しぼり」という。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・アリマキ(アブラムシ)
     クサカゲロウの幼虫・・・の食物は木の芽にたかるアブラムシ(アリマキ)だ・・・園芸家から目のカタキにされるアリマキは、あまりに小粒で柔らかく、これといった武器を持たぬから、まるでほかの虫たちの食糧倉庫のようなものだ。いろんな昆虫がこれを食べる。わずかに蟻たちが乳しぼりのために彼らを保護し、彼ら自身は数の力によって種属を保っている。あらゆる草木の若枝にびっしりとたかって、園芸家にますます腹を立てさせる・・・
     クサカゲロウの幼虫はどんどんアリマキの汁を吸う。そして餌食となったアリマキの死骸をどっさり背中の上に背負っている。これは鳥などにやられぬための擬装であるらしい。一匹の幼虫は毎日百匹くらいのアリマキを食べる・・・ 
  • アリとアブラムシ・・・持ちつ持たれつの共生関係
    アブラムシは、植物の汁を吸い、そこから必要な養分を吸収するが、植物の汁には必要以上の糖分が含まれていて、それをオシッコとして排泄する。そのオシッコは「甘露」と呼ばれるほど糖分のほかアミノ酸などの栄養分も豊富。それを求めてアリが集まってくる。
  • 働きアリが触覚でアブラムシを触ると、アブラムシは木や草の汁を吸って貯めていた汁を、お尻から出す。アリは、この甘い汁をもらう代わりに、アブラムシの天敵であるテントウムシやクモ、ハナアブの幼虫やアブラムシに卵を産む小さなハチなどから守るために保護を行う。アリとアブラムシは、持ちつ持たれつの共生関係にある。
  • 共生関係とはいっても、平等に利益を享受しているわけではない。アブラムシが増えすぎると、アリは間引きするために、アブラムシをエサにしてしまうこともある。 
  • 参考動画:昆虫と植物 前編・クロオオアリとアブラムシなど/海野和男 - YouTube
  • ハネのあるアブラムシ・・・暖かく安定した気候の時は、ハネがない♀しかいない。これらの♀は交尾をしないで単為生殖によって卵を産む。しかし、気温が下がったり、環境が悪化したりすると、ハネの生えた♂と♀の成虫が現れる。ハネのあるアブラムシは、飛翔して別の草木に移り、そこで新たなコロニーをつくることができる。 
  • ユキムシ(トドノネワタアブラムシ)・・・晩秋、白いロウ物質をまとった成虫が、フワフワ飛ぶので「ユキムシ」と呼ばれている。東北・北海道では、初雪の降る少し前に現れることが多く、冬の訪れを告げる風物詩とも言われている。同じく「雪虫」と呼ばれる水生昆虫は、セッケイカワゲラ。(写真出典:ウィキメディア・コモンズ)
テントウムシ
  • 益虫・テントウムシ
     ナナホシテントウやアカホシテントウなどは、害虫のアブラムシを食べてくれる。またシロホシテントウやキイロテントウなどは植物のウドンコ病の原因となる菌類を食べてくれるので、人間にとって益虫である。欧米では、幸せを呼ぶ虫として人気が高い。農薬を使わずに、テントウムシの力を借りてアブラムシを退治する農法を「天敵農法」と呼んでいる。ただしニジュウホシテントウの仲間は、ナス科の植物を食べる害虫として知られている。 
  • テントウムシの語源・・・テントウムシを指に乗せると、上へ上へと上り、指先まで来ると、ブーンと飛び立つ。このように太陽(天道)に向かって飛んでいくから、漢字で「天道虫」と書く。 
  • テントウムシの派手な色は「警告色」・・・テントウムシは、敵に襲われると脚の関節から黄色い液体を分泌する。この液体は、有毒なアルカロイドを含む苦さが特徴で、鳥などが口に入れると吐き出してしまう。この虫の派手な色は、自分たちを食べても苦いということを天敵に知らせる警告色だと考えられている。 
  • ナミテントウの斑紋は様々・・・黒いハネに赤い斑紋が2つあるものが一番多いが、上の写真のように異なる斑紋同士で交尾している。いずれもナミテントウである。
  • 赤い斑紋が2つ、4つあるもの、あるいはたくさんあるものなど同じ種類とは思えないほど見た目が違う。斑紋は遺伝子で決まり、中間の型が出ることもある。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ナミテントウの個体変異と人間の多様性
     テントウムシにも種類が多いが、一番ありふれたナミテントウは個体変異の好例で、同じ種類でありながらさまざまな斑紋の変化がある。なにしろ黄色の翅鞘に黒斑があるものから始まって、ついには無地のもの、黒地に二つの黄斑のあるものと千差万別だ。初心者はいろんなナミテントウを捕らえ、何種ものテントウムシを集めたと思いこむが実は同一種なのである。もっとも、巨大な宇宙生物がいて人間の標本をこしらえたとしたら、やはりこれと同じことになろう。ましてや女性の衣類をも彼らは皮膚と思いこむだろうから、ずいぶん沢山の珍種を集めたと特異になるかもしれない。そうでなくても、頭髪、皮膚、マナコの色に至るまで、同じホモ・サピエンスでありながら、人間という奴は実に多様だ。その習性まで調べていったら、宇宙生物のファーブルもきっと音をあげるに違いない。なにしろ禅をくむかと思うとドドンパを踊り、電子計算機で商品の名をきめるかと思うとオミクジをひいて結婚したりするのだから。 
  • 産卵・・・10~30個の卵を並べて産卵する。
  • 幼虫、サナギ
  • 羽化
  • 幼虫も肉食・・・アブラムシは、植物の汁を吸って大きくなる。そのアブラムシをテントウムシの幼虫が食べる。小さな幼虫は、アブラムシを食べて大きくなるにつれて食べる量も増える。多い時は、1日で100匹近くも食べる。農家にとっては、親も子も素晴らしい益虫である。(写真:幼虫とアブラムシ)
  • アブラムシを食べる幼虫
  • 集団越冬・・・秋の終わりから冬の初め、ナミテントウは越冬場所に飛来し、集団をつくる。そして翌年の春まで、集団で越冬する。越冬場所は、南向けの崖、大きな岩、電柱、白い壁などに飛んでくる。その後、岩の隙間、樹木の割れ目など、暗い所に潜り込む。その数、数十~数千頭の越冬集団をつくる。一方、ナナホシテントウは、ナミテントウのような大きな集団はつくらず、数頭集まって、ススキの根元や落葉の下などで越冬する。 
  • 集団越冬する目的は・・・集団になることで熱や湿気が逃げにくく、冬の寒さや乾燥をやわらげる効果があると考えられている。だから個体数の多い集団ほど、越冬後に生き残っている率が高いという。また、越冬初期よりも、越冬が終わった時の方が交尾している割合が高いという調査結果が出ている。これらのことから、集団越冬する目的は、生存のためと交尾の機会を得ることだと考えられている。 
  • 参考動画:テントウムシの大移動/海野和男 - YouTube
  • ナナホシテントウ
     ナナホシテントウは、赤いハネに7つの黒い水玉模様がある。成長が早く、春から初夏と秋にかけて3~4回世代を繰り返す。夏の暑さが苦手で、草の間などに潜り込んで暑さを避ける習性がある。秋になると再び活動をはじめ、11月頃に羽化すると、成虫で越冬する。幼虫も成虫もアブラムシを食べる。メスは、アブラムシのいる植物に卵をたくさん産みつける。幼虫と成虫は、強く噛むと嫌な匂いのする黄色い汁を出すことから、鳥が嫌がって食べないと言われている。 
  • 農家の強い味方「天敵農法」・・・幼虫も成虫もアブラムシ類を食べるが、成虫なら1日で数十匹のアブラムシを食べる。無農薬栽培をしている農家の中には、ナナホシテントウやナミテントウを畑に放してアブラムシを退治する「天敵農法」が行われている。
  • ナナホシテントウの交尾
  • 畑作物を食い荒らすニジュウヤホシテントウ類・・・アブラムシを食べずに、もっぱらナスやトマト、ジャガイモの葉を食害し、薄く透けた帯にハシゴが架かっているような、あるいはキャタピラが走ったような痕がつく。体に白い産毛が生え、その名のとおり、背中の星の数は28個ある。別名テントウムシダマシとも呼ばれている。 
  • 葉を食害中
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・害虫のニジュウヤホシテントウ
     テントウムシの親虫も幼虫も、打ち合わせたようにアリマキの殺戮者である。従ってテントウムシは人間にとって益虫だが、例外としてニジュウヤホシテントウの幼虫はナスの葉っぱを食べてしまうから害虫とされる。本当に草食のやさしい存在なのに、人間たちは天道虫のくせにけしからんというので、わざわざテントウムシダマシなぞという別名までくっつけている。 
  • カメノコテントウ・・・赤と黒の亀の甲状の模様が特徴的なテントウムシ。広葉樹林や河畔林などで見られ、オニグルミなどのクルミハムシやドロノキハムシの幼虫を食べる。 
  • ヒメカメノコテントウ・・・道ばたのヨモギなどの草むらに多く、アブラムシを食べる。3~11月に現れる。全国に分布。体長3~5mm。
  • キイロテントウ・・・庭木にも見られ、ウドンコ病菌を食べる。4~10月に現れる。本州から沖縄まで分布。体長4~5mm。
  • シロジュウシホシテントウ・・・黄褐色に黄白色の紋があるのが基本型。黒地に黄白色の紋がある暗色型、赤地に黒紋の紅型の3タイプがある。5~7月に現れる。北海道から九州まで分布。体長4.4~6mm。
  • ムーアシロホシテントウ・・・前胸背板の白紋は4つ。タケの葉に見られる。3~11月に現れる。北海道から九州まで分布。体長4~5mm。
  • トホシテントウ・・・ずんぐりとした体形で、赤からオレンジ色に大きな10個の黒紋が目立つ。成虫、幼虫ともにアマチャヅルなどカラスウリ類の葉を食べる。
  • 北海道から九州まで分布。体長5~8mm。
  • ヨツボシテントウダマシ・・・成虫、幼虫ともキノコや腐った野菜くずを食べる。本州以南に分布。体長4~5mm。
参 考 文 献
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「NHK子ども科学電話相談 昆虫スペシャル!」(NHK出版)
  • 「野菜を守れ! テントウムシ大作戦」(谷本雄治、汐文社)
  • 「別冊太陽 昆虫のとんでもない世界」(平凡社)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「4億年を生き抜いた昆虫」(岡島秀治、KKベストセラーズ)     
  • 「くらべてわかる昆虫」(永幡嘉之・奥山清市、山と渓谷社)
  • 「くらべてわかる甲虫」(阿部浩志ほか、山と渓谷社)