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昆虫シリーズ44 ハンミョウ

  • カラフルで美しい肉食昆虫・ハンミョウ
     ハンミョウは、鮮やかで美しいが、牙が長く鋭い。いかにも肉食昆虫といった恐ろしい顔をしている。アリやワラジムシなどの小さな昆虫を捕まえて食べる。こうした目立つ色の昆虫は、「警告色」といって毒を持つものが多い。かつて、ハンミョウは毒虫だと思われてきたが、実は毒がない。一方、ツチハンミョウは、地味な色だが、強い毒がある。畑などに多いのは、ニワハンミョウである。
  • 英語では「タイガービートル」・・・「虎のように猛々しい虫」という意味。小さな虫たちが、この虫の牙にくわえられると、たちまちズタズタに裂かれて、ボロ布みたいになってしまう。
  • ハンミョウ(ナミハンミョウ)
     青色や赤色、緑色の光沢が美しい体に、長い脚、発達した大アゴをもつ。成虫、幼虫共に肉食で、アリなどの小動物を捕食する。人間が近づくと、飛んで少し先に逃げる習性から、「ミチオシエ」「ミチシルベ」という異名をもつ。
  • 体長 18~23mm。
  • ♂の特徴・・・肩(前ハネの角)に白い部分があるのが♂。大あごの大部分が白いのが♂。
  • ♀の特徴・・・肩に白い部分がない。大あごの半分以上は着色され、白い部分が輪のように一周しない。
  • 生息地・・・平地から低山の林道、裸地、河原などに生息する。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ハンミョウ
     盛夏の日ざかり、山路を歩いてゆくと足元からフワッと飛び立ってむこうの土の上におりる虫がある。金色、赤紫色、群青にかがやく毒々しいまでに極彩色の甲虫だ。近づくとまたフワッととびたち、遠くの方で人の近づくのを待っている。
     これがハンミョウで、さながら道案内をするように見えることから、ミチオシエとも呼ばれる。どぎつく虹色に光りすぎるため毒虫と思われているが、この虫には毒はない。ただサーベル虎のような大アゴをもっているから、うっかり?まえれば噛みつかれる。種類も少なくないが、美々しいのはナミハンミョウだけで、内地産の他の種類はいずれも灰色にくすんだ地味な色合をしている。
     ハンミョウはその竹馬のように細く長い肢にものをいわせて、敏速に地上を疾走する。それから鋭利な鰓にものをいわせてほかの昆虫を捕食する。一見優しそうな外形にひきかえ、やはり虎に似た存在なのだ。 
  • 参考動画:ハンミョウの捕食シーン - YouTube(高嶋 清明 / Kiyoaki Takashima)
  • 「人は見ようとするものしか見えない」
     ・・・ハンミョウと
    砂漠を緑に変えた医師・中村哲さん
     夏休み・・・虫ピンにさされている素晴らしく美しい虫を見せられた・・・「これは日本のですか」と聞けば、「どこにでもいるよ。今度その辺の山に連れて行って採ってあげるよ」という。その数日後、人里のまだある山の入り口で、小さなバッタのような虫が、私の歩く先を飛んで、数メートル先に降り立つ。そこに近づくと、また同じように飛び立つ。「あれが、こないだ家で見せた虫で、ハンミョウというんだ」と言って、捕虫網で捕らえて見せてくれた・・・まさしく例の美しい昆虫が逃げようともがいている・・・ハンミョウは捕まえると芳香を放つ・・・また、まるでこっちに来いと言わんばかりに人の歩く先を行くので、「ミチオシエ」とも言うのだと教えてくれた・・・一人の小学三年生にとって、これは決定的な出来事だったのである。「人は見ようとするものしか見えない」ということを昆虫の世界を通して知った。その後は、休日ともなれば必ず山に出かけ、いつしか小さな昆虫観察者になっていた。(写真出典:ウィキメディア・コモンズ
  • 巣のつくり方・・・♀は、やわらかい地面に腹部を差して地中の深さ1cmほどに卵を1個産む。それを何度も場所を変えて繰り返す。10~15日後、孵化した幼虫は、その場所で土を垂直に掘り下げて、丸い筒形の巣穴をつくって隠れる。穴の入り口から覗いて辺りを監視し、獲物が通りかかると、バネのように体をのばして飛び掛かり、巣穴に引きずり込んで食べてしまう。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ハンミョウの穴の狩りと釣り遊び
     ハンミョウの幼虫もまた猛々しい肉食虫である。彼らは土に井戸のような穴を掘って棲んでいる。直径二、三ミリ、深さ二、三十センチの穴で、幼虫はこの入口にがんばり、附近を通るムシをひきずりこんで食べてしまう。この穴のことを知っている子供たちは、細い草の茎をさしいれて、噛みついてくるハンミョウの幼虫を釣り上げて遊ぶ。その幼虫は白っぽい醜悪なウジだ。彼らは冬になると棲家の井戸を1メートル以上も掘り下げて入口を閉じ、翌春まで眠って過ごす。春になれば再び狩猟を開始し、初夏のころ、穴の底で蛹となり成虫となって地上に這い出てくる。 
  • 参考動画:ハンミョウ釣り - YouTube
  • ハンミョウ釣り・・・小枝の先に糸を結び付けて長く垂らし、その先の方を何度か結んで大きめの結び目をつくる。それを巣穴の入り口にいる幼虫の目の前に垂らして、ゆっくり動かす。幼虫は、獲物と勘違いして結び目にかみついて引っ張ったら、糸を上げる。穴さえあれば春から8月頃まで楽しめる。 
  • ニワハンミョウ・・・体は暗銅色~暗緑色、前ハネに白い小さな紋がある。平地の人家周辺、農道などの地表でよく見られる。体長15~19mm。 
  • コニワハンミョウ・・・ニワハンミョウはお尻の先が白くないが、コニワハンミョウはお尻の先に白い紋があるので識別できる。平地から山地の日当たりのよい河川敷や海岸などの砂地に生息し、稀に畑地にある小規模な砂地でも見られる。 
  • ミヤマハンミョウ・・・斑紋や体色がニワハンミョウによく似ているが、主に高山や北日本の山地に生息する。体長15~20mm。 
  • カワラハンミョウ・・・海岸や広い川原の砂丘で見られる。体色や前ハネの斑紋に個体差がある。
  •  ヒメツチハンミョウ・・・体は紺色で、ハネは退化して短い。腹は大きく膨れていて、その背中を丸出しにした格好で、地面をヨタヨタ歩いて移動する。捕まえると、脚の関節から嫌な匂いと共に油のような毒液を出すので、鳥も食べない。早春と晩秋に出会うことが多い。
  • マメハンミョウ・・・水田の畔や川の土手、草地で見られる。幼虫はバッタ類の卵塊に寄生する。体長12~18mm。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ツチハンミョウ
     ハンミョウがスマートなのにくらべ、こちらは不格好で不器量・・・早春、ようやっと暖かい日ざしが野にふりそそぎはじめたころ、畠の土くれ、土手の雑草の間を、藍色のかなり目立つ虫がよちよちと歩いているのが見られるだろう。甲虫というものは固い翅鞘でおおわれているものだ。それなのにこのツチハンミョウの翅鞘はごく短く、その下に畳まれている筈の後翅はすっかり退化してしまっている。だからツチハンミョウの腹部はむきだしだ。その腹もでぶでぶとふくれあがり、それをひきずるようにして這ってゆく。黒藍色の身体は一種不気味な光沢があり、美麗なハンミョウよりもっと毒々しい。事実、この虫を捕まえると、身体から黄褐色のなんとも嫌な臭いのする液を出し、この汁が柔らかい皮膚についたりすると水疱ができる。 
  • 参考動画:絶対に触ってはいけないツチハンミョウ - YouTube
  • ツチハンミョウとハナバチ・・・運任せの一生
     春の終わりころ、メスは、土の中に大量の卵を産む。卵から孵化した幼虫は、花の咲いている草に登り、花びらに潜り込む。次々と花を訪れる虫たちに、幼虫が飛びつく。運よくハナバチのメスにしがみついた幼虫だけが、ハナバチの土の中の巣に運ばれる。メスが花粉と蜜で作った団子に卵を産む時、その卵に乗り移る。幼虫は、その卵を食べ、脱皮してウジ虫のような幼虫になる。そして、花粉と蜜を丸めた団子を食べて育つ。7齢で脱皮するとサナギになる。再び夏が来ると、サナギから成虫になって地上に現れる。
     ツチハンミョウの一生は、運任せで、成虫まで育つのはごくわずか。まるでギャンブルのような一生だから、少しでも多く成虫になれるように大量の卵を産む。 
  • どくとるマンボウ昆虫記」・・・ツチハンミョウの幼虫とシロスジハナバチ
     早春、ツチハンミョウの雌は地中へおびただしい数の卵をうみおとす。三週間もすると幼虫が出てくる・・・彼らは地上に這いだすと活激に歩きまわり、特にタンポポやキンポウゲによじのぼってゆき、花の中へひそんでじっと何事かを待ちかまえている。
     あたかもその頃は春も盛りのにぎわいだ。羽音をぶんぶんいわせて、各種の蛇や蜂が花から花を訪れる。その中に蜜蜂の一種シロスジハナバチがいるが、この蜂こそツチハンミョウの幼虫が目ざす相手なのだ。シロスジハナバチが蜜を吸っている間に彼らは大腮と熊手のような爪でスッポンのごとく蜂の毛にしがみつき、そのまま蜂の巣へと運ばれてゆく。巣といってもシロスジハナバチのそれはミツバチのような共同社会ではない。一匹の雌が土中に孔を掘り、その底へ蜜と花粉をたくわえたプライベートなものである。ツチハンミョウの幼虫はそこに産みつけられた蜂の卵を食い破ってしまう。後に貯えられた蜜と花粉のご馳走はもう彼のものだ。そいつを平らげて成長し、何回か姿をかえ、蛹となり成虫となり冬をこしてから地上へ現われてくる。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・特別の幸運児だけが生き残る
     現実においては、事はこんなふうに簡単には運ばない。ツチハンミョウの幼虫はうまくシロスジハナバチにのみとびのるわけではない。蝶であろうが他の蜂だろうがハナムグリだろうが、体毛をもつ昆虫には片はしからしがみついてしまう。風がふいて花がゆれただけで、花の中にひそむ幼虫はいそいで花頂へのりだしてくるという。こうして縁もゆかりもない虫にとびのってしまった慌てものは、むろんのこと餓死する運命にある・・・
     雌にしがみついた幼虫だけが一か八かの冒険旅行を成功させるのだ。まずいことに、シロスジハナバチは雄のほうが早く出現するので、大半のツチハンミョウの幼虫は雄について空中へとびたってしまう。しかしまだチャンスは残っている。蜂の雌雄が空中で結婚するからだ。このときサーカスの曲芸のごとく雄から雌への移乗が行なわれるらしい。
     ツチハンミョウの幼虫が安楽な成育の場所へ辿りつくまでは、かかる難儀の連続だ。無事に行きつく確率がどんなに低いかは容易に想像がつくだろう。それゆえにこそ、ツチハンミョウの母親はあんなにぶざまにふくれあがった腹をひきずっているのだ。彼女は何千という卵をうむ義務がある。数えきれぬ子供たちのなかから特別の幸運児だけが、ツチハンミョウの歴史をになう一員となれるのだ。海の魚たちが無闇矢鱈と卵をうみ、あとは運命の手にゆだねるのと似ている。動物は高等になればなるほど少数の子孫をつくり、その代り親は子供がある程度大きくなるまで世話をやく。その最たるものはむろん人間で、母親は半永久的に子供の世話をやき、すっかり子供をダメにしてしまう。
  • ツチハンミョウ:英語では「オイルビートル」・・・「油のような毒液を出す甲虫」という意味。 
  • ファーブルの観察・・・ゲンセイの不思議な生態
     ゲンセイのメスは、後ろ向きにスジハナバチの巣に入り、巣の入口から3、4cmの所に、36時間もかけて卵の塊を産みつける。卵の数を数えると、何と2千個もあった。ファーブルは、なぜこんな危ない所に卵を産むのか疑問に思い実験室で観察を続けた。幼虫は1mm弱で、黒っぽくシャクトリムシのように歩く。何かに体を固定するのか、お尻からは粘着液を出す。ゲンセイの幼虫は、何も食べずに越冬し、その後もハチの幼虫も蜜も食べなかった。それなら、なぜゲンセイのメスはスジハナバチの巣の中に卵を産んだのだろうか。
     博物学者のレオン・デュフールから、「ハナバチの体にしがみついている小さな幼虫は、ゲンセイの幼虫にそっくり。それがツチハンミョウの幼虫だった」と教えられた。大きなヒントをもらったファーブルは、スジハナバチの巣の入り口辺りにいたハチを捕まえ、虫メガネで覗くと・・・ゲンセイの幼虫たちが、ハチの毛にいっぱいしがみついていた。お尻から出す接着剤のような粘着液は、ハチの毛に自らの体を固定するための道具だった。
     ゲンセイの幼虫たちは、春になって羽化したハチが巣の奥から外に出てくるタイミングで、その体にしがみつく。そして、新しく作られるハチの巣に侵入するのが分かった。巣の小部屋には、ハチの卵の上に1匹ずつゲンセイの幼虫が乗っていた。蜜の中では溺れてしまうからだ。幼虫は、卵に牙を突き立て、中身を吸い出した。こうして1回目の脱皮をすると、背中はまっすぐで、お腹が大きく膨れ、蜜の上に浮くことができる体に大変身した。今度は、ハチの蜜を腹一杯食べ始めた。こうしてサナギから成虫になった。後にツチハンミョウも観察したが、ゲンセイと同じような生活をしていた。だからゲンセイとツチハンミョウは同じ仲間の虫だったことが分かった。
     ゲンセイの幼虫は、生みたてのハチの卵しか食べない。ハチの幼虫も蜜も食べられない。ハチの卵の中身をたっぷり食べて脱皮した後、やっと蜜が食べられる体になる。何とも不思議な生態をもつことが分かった。 
参 考 文 献
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「天、共にあり アフガニスタン三十年の闘い」(中村哲、NHK出版)
  • 「日本の昆虫1400」(文一総合出版)
  • 「どんどん虫が見つかる本」(鈴木海花ほか、文一総合出版)
  • 「虫のオスとメス、見分けられますか?」(森上信夫、ベレ出版)