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昆虫シリーズ45 ゾウムシ

  • ゾウムシの仲間
     ゾウムシは、カブトムシなどと同じ甲虫の仲間で、世界には6万種以上。今でも未発見のものが多く、かなりの割合で新種が発見されているらしい。ある専門家によれば「極端に言うと、植物の種数と同じ数だけゾウムシの種がいてもおかしくない」と語っている。意外にも、ゾウムシの仲間は地球に存在する生物の中でも最大規模のグループで、未発見のものを含めた全体では20万種以上もいると推定されている。日本には、約1400種が知られているが、中には害虫として嫌われているものもいる。
     ゾウムシの名前は、細長い口吻をもつ姿を鼻の長いゾウにたとえたのが由来。木の実などの硬い植物の中に産卵するシギゾウムシの仲間は、木の実の中に産卵用の孔を開けるために、特に細長い口吻をもつ。例えば、クリシギゾウムシは、口吻をクリの実に突き立てて穴を開け、その中に産卵する。卵から孵化した幼虫は、クリの実を食べて成長する。口吻が短いものは、土の中や葉の上に卵を産む。体長1cm以下の小さい種が多いが、体が硬くて頑丈である。 (写真:コナラのドングリに穴を開けるコナラシギゾウムシ)
  • シギゾウムシの名前の由来・・・「シギ」とは、クチバシの長い水鳥のこと。海岸や池の岸辺で、砂の中をクチバシで突っ突きながらいろんな生き物を食べる。そのシギに似ていて、鼻がゾウのように長いから。この仲間は、ドングリなど木の実に産卵することから、その樹木の名前をとってコナラシギゾウムシ、クリシギゾウムシ、クヌギシギゾウムシ、ツバキシギゾウムシなどと呼ばれている。(写真:ツバキシギゾウムシ)
  • コナラシギゾウムシ・・・コナラ、クヌギなどのドングリに産卵するシギゾウムシの仲間。♀の口吻は大変長い。体色は濃褐色で褐色の鱗毛に覆われている。体長5.5~10mm。
  • コナラシギゾウムシの産卵・・・♀は、長いクチバシでコナラなどのドングリに穴を口吻の付け根まで深く開ける。そして体を反転させると、尻の産卵管を差し込み産卵する。産卵後、口吻を使って穴を削りかすでふさぐ。ハイイロチョッキリのようにドングリの枝を切り落としたりしない。 
  • 幼虫・・・孵化した幼虫はドングリの実を食べて育つ。 
  • どんぐりの穴・・・どんぐり内の子葉を食べて成熟した幼虫は、2時間ほどかけて穴を開け、外に出た際の穴である。幼虫の頭が余裕で通るように穴の直径は2~3mm。外に出ると、地中に潜り部屋を作ってその中で越冬する。翌年の6月頃、サナギになる。 
  • 参考動画:コナラシギゾウムシの産卵 - YouTube
  • クリシギゾウムシ・・・クリの実から出てくるのが本種で、クリの害虫として有名。口吻が長いのが特徴。背面は全体に濃い褐色で、灰黄色の鱗毛が密生している。7~8月頃、山地の林縁、雑木林、公園などで見つかる。♀はクリ、コナラ、アカガシなどの実に産卵する。
  • 口吻が一番長いツバキシギゾウムシ
     特に♀の口吻は体長よりも長く、日本のゾウムシの中で1番長いのが特徴。ヤブツバキの実に口吻で穴を開けて産卵する。孵化した幼虫はヤブツバキの種子を食べて育つ。近年、京都大学の研究者らが各地のヤブツバキの果実の大きさとツバキシギゾウムシの♀の口吻長にきれいな相関があることが分かった。
  • ツバキ果皮とゾウムシ口吻の軍拡競走・・・このゾウムシは、極めて長い口吻でツバキの果実を穿孔し、種子内に産卵する。これに対し、ツバキは果皮と呼ばれる分厚い防衛壁をもっており、果皮が厚いほどゾウムシの口吻が種子に届きにくい。その軍拡競争=共進化過程を地理的に比較したところ、気候が温暖な局所個体群ほど、ツバキの果皮が厚く、ゾウムシの口吻も長いという明瞭な傾向がみられた。
  • クロシギゾウムシ・・・背面は灰褐色の鱗毛に黄白色の鱗毛が混ざって斑になる。小楯板と中胸側板、第2、第3節両端は黄色い。クヌギやナラ類、カシの木の実に産卵する。
  • エゴヒゲナガゾウムシ
     夏、鈴なりにぶら下げるエゴノキの実にやってくるのがエゴヒゲナガゾウムシ。の顔は、白い毛が密生していて、のっぺらぼうで真っ平。角をもつ牛にそっくりなことから「ウシヅラゾウムシ」とも呼ばれている。体長3~8mmと小さい。(写真出典♂:urasimaru)
  • は、普通のゾウムシらしい顔をしている。その歯は鋭く、固い果実に穴を開け、深く掘り下げ、中心の種まで穴を開け、体を反転させて尾端を差し込んで産卵する。幼虫は、栄養価の高い種の脂肪分を食べ、種子の中で越冬する。(写真出典♀:urasimaru)
  • 参考動画:ウシヅラヒゲナガゾウムシ産卵/海野和男 - YouTube
  • ファーブルは、シギゾウムシを森で観察すると・・・カシのドングリの大きさに比べると、この虫は小さく、体長5mmくらい。脚の先の平たい部分には毛が生えていて、ネバネバした液が出る。だからツルツルしたドングリでも平気で歩くことができる。シギゾウムシは、硬いドングリの皮にクチバシを刺し込むと、そこを軸にして半円を描くように繰り返す。1時間経って、クチバシは根元まで入った。そして、そのままじっと休んだ後、クチバシを引き抜き、枯れ葉の中に潜り込んでしまった。 
  • 研究室での観察・・・ファーブルは、ドングリとシギゾウムシを採集して、研究室で観察を続けた。
    1. 木の枝についている青いドングリの表面を丁寧に調べる。それは、ドングリが先に卵を産みつけられていないかどうか、その中身が幼虫にとって良い品質かどうかの2点について、確かめる作業にじっくり時間をかけること。
    2. シギゾウムシのメスが穴を開ける場所は、ドングリのハカマの縁に近い部分と決まっていたこと。
    3. 穴を開け終わった後、クルリと後ろを向いて、穴をお尻にちょんと当てた。そして、お腹の中に隠していたクチバシと同じ長さの産卵管を穴に射し込み、ドングリの一番いい場所に卵を産みつけていたことが分かった。
  • シロコブゾウムシ・・・シロコブとは言うものの、全体的に灰褐色で、目立つコブが2つある。ヒメシロコブゾウムシよりひと回り大きく、背部に黒い筋がない。ハギ類やフジ類などのマメ科植物の葉に集まる。
  • 体長 13~15mm。
  • 羽化したばかりの個体・・・その名のとおり、全身が灰白色で白っぽい。
  • ゾウムシの得意技は「死んだふり=擬死」
  • ヒメシロコブゾウムシ・・・背部に黒い筋がある。平地から山地の林縁や草地に普通に見られる。ヤツデやシシウド、タラノキなどの葉に集まる。体長12~14mm。
  • オオゾウムシ・・・大形のゾウムシで、背面は凹凸があり、灰褐色の粉で覆われている。1~2年と長寿の個体は、背面の粉が落ちて黒色光沢を帯びる。体長は12~29mmと個体差が大きい。幼虫は枯れ木を食べて育ち、時にスギの丸太を食害することがある。
  • クヌギ、ヌルデなどの樹液に集まる。灯火に飛んでくることもある。幼虫は、マツ、スギ、ナラ、カシなどの弱った木や倒木に穿孔して育つ。貯木場などに発生した場合は、丸太に大きな被害をもたらことから、林業の害虫とされている。
  • クリアナアキゾウムシ・・・黒褐色で大きく深い点刻がある。まばらに淡色の鱗毛を生やしている。幼虫はクリの根を食べて育つ。 
  • クリアナアキゾウムシの腹面
  • トホシオサゾウムシ・・・体は赤褐色で、黒色の斑紋がある。成虫はクヌギ、ツユクサなどの葉を食べる。 
  • キスジアシナガゾウムシ・・・体色は黒色で、黄白色の筋が数本見られる。 
  • カツオゾウムシ・・・全体が赤褐色の粉に覆われ、「鰹節」のように見えるゾウムシ。イタドリやミゾソバなどのタデ科植物の葉を食べ、それらの葉の上にいることが多い。幼虫は同じ植物の茎の内部を食べる。 
  • ハスジカツオゾウムシ ・・・茶褐色に、ぼやけた灰白色の斜め線がある。幼虫は、キク科のアザミやヨモギなどの茎の髄を食べる。キクの露地栽培の害虫とされている。
  • 鳥の糞に擬態するオジロアシナガゾウムシ・・・お尻の方が白く、全体的に黒と白が色分けされている。表面には多数のこぶがある。この体色は、鳥の糞に擬態していると言われている。食草のクズの上で見られる。
その他不明のゾウムシ
  • 不明な種が多い・・・ゾウムシを撮影し、昆虫図鑑を調べても名前が分からないものが多い。ガの仲間と同じく、素人が検索できるような参考文献が乏しい。それだけゾウムシの調査研究が遅れているからであろう。
参 考 文 献
  • 「虫のしわざ観察ガイド」(新開孝、文一総合出版)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「子供たちに教えたいムシの探し方・観察のし方」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「別冊太陽 昆虫のすごい世界」(平凡社)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修岡島秀治、技術評論社)
  • 「昆虫のふしぎ」(監修寺山守、ポプラ社)
  • 「虫の顔」(石井誠、八坂書房)
  • 「Newton別冊 特殊撮影!甲虫の世界」(ニュートンプレス)