本文へスキップ

昆虫シリーズ46 狩りバチ

  • 麻酔の毒針を発見したのがファーブル
     1854年、ファーブルは、タマムシを狩るツチスガリの仲間についてのレオン・デュフールの論文を読んだ。その論文には、ハチがタマムシを捕まえて、土の中に埋め、幼虫のエサにする。その際、腐らないように特殊な防腐剤を注射するからだと説明していた。ファーブルは、そんな都合の良い防腐剤などというものをハチが持っているのだろうか?、と疑問を抱き、それを自分の観察で確かめようとして研究を始める。
     ファーブルが調べると、ハチの獲物の虫は、死んでいるのではなく、運動神経を麻痺させられているだけであった。つまり、狩りバチは獲物に麻酔手術を行っていることを発見したのである。1855年、ファーブルはコブツチスガリの研究を発表。大きな反響を呼び、フランス学士院より実験生理学賞を受賞している。 
  • 刺すべき場所(ファーブル昆虫記)・・・コブツチスガリという狩りバチは、ゾウムシの胸の、ある一点だけ刺すと、獲物が一瞬で動かなくなった。その獲物を解剖すると、刺したところには、ゾウムシの運動神経が全部集中していた。 
  • くびれた腰(ファーブル昆虫記)・・・獲物を生かしたままその動きを麻痺させるために、獲物の運動神経中枢の分布の仕方に応じて、必要な箇所を必要な回数刺している。その狙った場所を確実に刺すために、狩りバチの腰はくびれていることを突き止める。くびれた腰は、自由自在に曲げることができるので、獲物を刺すには確かに便利だ。
  • ジガバチが大型のイモムシを捕まえた時の観察・・・ハチは、巨大なイモムシの体節一つ一つに、丁寧に針を刺していった。その時、細長いくびれた腰紐のように、イモムシの体に巻きついているのを見て、くびれた腰の秘密が分かった。 
  • 参考動画:ファーブル昆虫記の虫たち2/海野和男 - YouTube
  • ジガバチ」の名前の由来・・・古代中国の詩経には、「イモムシの子を、ジガバチが自分の子として育てる」と書かれている。そのハチの体が穴の中に潜っていくと、底の方から、「ジジジ」という音が聞こえてくる。これを「ジガ(似我)、ジガ(似我)」と聞こえたことから、「我に似よ」と呪文をかけているハチに例えて、「ジガバチ」になったとの説がある。 
  • 江戸時代のジガバチの記録①「似我蜂物語」(1661年頃)・・・「何か人の役に立ちたいと思って書き残してきた著書を『似我蜂物語』としたのは、この蜂が他の虫の子を自分の巣に入れて教育し大切に育てると言われているので、それを見習ってのこと」と記されている。(図絵出典:栗氏千虫譜 - 国立国会図書館デジタルコレクション
  • 江戸時代のジガバチの記録②「慶長見聞集」・・・「似我(ジガ)という虫がいて、この虫はハチの一種である。このハチが他の虫を連れてきて自分の巣の中に入れ、゛我に似よ我に似よ゛と呪文をかけるとハチになる。だから似我蜂(ジガバチ)という。゛我に似よ我に似よ゛と祈る心が大切で、仏の世界でもこれと同じで、諸仏の名を一心に唱えることによって仏に近づくことができ救われると」と説いている。(図絵出典:同上) 
  • 巣穴掘り(ファーブル昆虫記)
     サトジガバチやギンモウジガバチの場合、土の中で巣を掘っているうち、日が陰ってくると、平たい小石を使って、作りかけの巣に蓋をする。まるで人間が道具を使って、穴に蓋をするように。さらにその石は、巣穴の直径より大きいものを選んでいる。留守の間にアリなんかが入り込むと困るからだろう。
     アラメジガバチの場合は、まず獲物を狩ってから巣穴を掘り、すぐにその獲物を穴の中に入れて戸締りしてしまう。また同じくケブカジガバチも、仮の蓋を使わない。(イラスト:ジガバチの巣) 
  • 参考動画:ジガバチ、盗む! - YouTube
  • クロアナバチ・・・体色は黒色で顔面と胸の側面、後胸の背面には白色毛が密生している。ツユムシ類やクサキリなどを狩り、乾いた土中に営巣する。6~9月に現れる。
  • クロアナバチの巣づくりと狩り
     ♀は、地面に3つ並んだ穴を掘る。3つのうち、両側の2つは浅く、真ん中の穴が深い。真ん中のトンネルが完成すると、両サイドから土砂をとって真ん中の穴を軽くふさいでから、狩りに出かける。獲物の虫を見つけると、微量な量の毒を打ち込み、長時間動きを止める麻酔をする。それを抱えて巣に戻ってくる。真ん中の穴を掘り返して、獲物をトンネルの中に運び込み、卵を産んで埋める。孵化した幼虫は、獲物をゆっくり食べて成長する。その際、殺さない程度に食べ進め、最後に一気に残りを食べて成長するのは、多くの狩りバチの幼虫に共通した特徴である。 
  • 参考動画:クロアナバチがヒメクサキリを巣穴に運ぶ 解説付き/海野和男 - YouTube
  • キオビツチバチ(ツチバチ科)(写真はオス蜂)
     夏にアジサイやヤブガラシ、ノブドウなどの花にやってくる。黒色で、腹部に大きな黄色い紋があるのが特徴。メス蜂は、オスに比べて短い触角・大きな大顎・太く頑丈な肢と胴体を備えた、地中での活動に適した体形をしており、地表から土中のコガネムシ類の幼虫の存在を感知し、地面を掘って捕らえ、幼虫に麻酔して産卵する。オスは、メスを求めて低空飛行で飛び回っている。体長15~25mm。
  • 器用に家をつくるトックリバチ(写真:キボシトックリバチ・ドロバチ亜科)
     昆虫の中でもハチは、器用にものを作る。トックリバチは、その名のとおり、お酒を入れるトックリのような形の巣をつくる。自分の牙で泥をこね、壺の形に似たものを作り上げていく。 
  • トックリ型の巣のつくり方 (写真はミカドトックリバチの巣)
    1. 巣を作る場所として、木の枝や石を選び、それを土台にする。
    2. 材料は、乾いた土と自分のツバだけ。ツバにはタンパク質が含まれているから、土はセメントと同じように固まって、雨に濡れても溶けない。
    3. 少し壁ができると、ハチは小石をはめ込んで補強したりする。その後、粘土の粒を伸ばしては足し、壁を少しずつ内側に傾けていく。
    4. 壺の入り口の所は、襟のように折り返す。これは、アリなどが壺の中に入りにくいようにしている工夫だ。こんな高度な建築職人の技を、親に教えられることもなく、一人で作り上げる。これには驚かされる。
  • ミカドトックリバチ(ドロバチ亜科)
     キボシトックリバチに似ているが、腹の黄色の斑紋はより小さいか、ない。壁や木の枝に泥でできたトックリ型の巣をつくる。 巣が完成すると、巣の中に卵を産む。そしてガの幼虫のイモムシを獲物として運ぶ。小さな巣の中に、多い時は10匹以上のイモムシが入っている。そのイモムシは、トックリバチに緩く麻酔されている。卵は巣の天井にぶら下がっているから、イモムシたちに潰されることはない。
  • エントツドロバチ(オオカバフスジドロバチ、ドロバチ亜科)
     巣は壁の隙間や竹筒の中など、土と唾液を混ぜ合わせた泥を運んでつくられる。何といっても特徴は、細長い煙突のような筒がのびていること。この筒は、アゴを使って泥を薄くのばしてつくられる。母バチは、この煙突のような穴から出入りする。巣は、平たいドーム型で、この巣の中の部屋に卵を1個ずつ産み付ける。幼虫の成長に合わせて、食べ物を運ぶ。最後の獲物を与えると、泥の仕切りで蓋をして、次の幼虫の世話をする。体長 16~20mm。6~9月に出現。竹筒の中に巣を作った時には、部屋の側面部分の壁塗りを省略する場合がある。
  • 参考動画:【アナバチ驚異の生存戦略】生きたまま昆虫を竹筒にすし詰め〜卵を産み付け幼虫たちに食べさせる【どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU】 - YouTube
  • スズバチ(ドロバチ亜科)・・・腹部に橙褐色の横帯がある。木の枝や石の表面などに泥を固めた巣をつくる。蛾類の幼虫を狩る。
  • クモバチの仲間(写真はベッコウクモバチのメス蜂)
     クモバチの仲間は、日本に100種類余り生息しているが、どの種もクモだけを獲物とし、1頭の子どもを1頭の獲物で育て上げる。このため母バチは、自分より相当大きな獲物と戦わなければならない。その戦略は、まずクモの背中側にとりつく。クモの脚は腹側にしか曲がらないので、背中にとりつけば押さえ込まれる危険が少ないからだ。クモの背にとりつくと、反射的に腹部を曲げ、尾端の針をクモの体の中に刺し、麻酔液を注入する。刺されたクモは、全身が麻痺して動けなくなる。
  •  巣穴を掘る場所までクモを引きずって行き、傍の草などに引っ掛けておいて巣穴を掘る。掘り終えると、クモを引きずり込み、その腹部に卵を1個産みつける。最後に(穴の口周辺の土を掘り崩したり土砂を掻き込んでは腹先で突き固めながら)入り口をふさぐ。開けた地表に巣を掘るキオビクモバチ等では、埋めた巣穴の上や周辺に木片や砂礫粒等を散らして“偽装工作”を施すような習性が知られている。ふ化した幼虫は、麻酔されて動けないクモを食べて育つ。中には、自然の穴を利用する種、さらには、狩りの前に泥等で瓶状の巣を築造する種もいる。
  • 参考動画:クモだけを狙う狩人蜂!ベッコウバチは獲物を麻痺させ巣穴へ引きずり込む【どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU】 - YouTube
  • ベッコウクモバチ(写真はオス蜂)・・・頭と脚、触覚が黄褐色で、胸と腹が黒色の狩りバチ。巣は、ネズミやモグラなどの穴、石垣の隙間のような奥まった隠れた場所の土を掘ってつくる。
  • ツマアカクモバチ(ツマアカベッコウ)・・・全身黒で、腹部の先端が橙色。アシダカグモを狩り、物陰や隙間に堆積した土に浅い巣を掘り産卵する。
  • オナガバチの一種(ヒメバチ科)・・・♀は体長よりも長い産卵管がある。この産卵管で朽木の穴に産卵し、朽木を食べるカミキリムシなどの幼虫に寄生する。 
  • キンケハラナガツチバチ(ツチバチ科)(写真はオス蜂)
     金色の毛が胸全体と腹部にびっしり生えている。上述のキオビツチバチ同様、本種のメス蜂もオスより太く頑丈な体形をしており、交尾後、土や朽木に潜り込んで、コガネムシの幼虫に産卵する。孵化した幼虫はコガネムシの幼虫を食べて育つ。
  • クロムネアオハバチ(ハバチ科)
     黒の縞模様と青白味のある薄い緑色。幼虫は、ササ類で発生し、成虫は肉食。上の写真は、シリアゲムシを捕食しているところ。
参 考 文 献
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)
  • 「狩蜂図鑑」(田仲義弘、全国農村教育協会)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「ジバチの系譜」(井上治彦、伊丹市昆虫館友の会)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
  • 「虫のしわざ図鑑」(新開孝、少年写真新聞社)
  • 「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(Gakken)