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昆虫シリーズ47 花に集まる蛾

  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・スズメガ
     スズメガは太い流線型の胴体に細い翅をもち、夕ぐれ咲く花から蜜を求めるジェット機にも似たすばやい蛾である・・・夏の夕べ、マツヨイグサの前に立って待っていると、たいていこの蛾がやってくる。コスズメ、キイロスズメ、メンガタスズメなど様々な種類がある。彼らは花に止まったりはしない。こまかく翅をふるわせ空中に浮かんだまま、長いクチバシをのばして蜜を吸うのである。ちょうど南米産の蜂雀のようだ。その飛翔は敏速を極め、あたりを閉ざす薄明とあいまってほとんど目にもとまらない。従ってスズメガを捕らえるときは、よほど早く網をふらねばならぬ。
ホシホウジャク
  • ホシホウジャク(スズメガ科)
     ハチドリのように空中で静止しながら花の蜜を吸うのは、ホウジャクというガの仲間。ホウジャクには、幾つもの種類があるが、都市公園などでもよく見掛けるのがホシホウジャク、オオスカシバである。ホシホウジャクは、茶色っぽく、後ハネのイエローが目立つ。胴体が太く、素早く羽ばたくのでハチのように見える。だからハチドリと間違える人がいる。ハチドリは、日本ではなく中南米に棲む小さな鳥だが、花の前でホバリングしながら蜜を吸う光景は、確かにホシホウジャクに似ている。 
  • 名前の由来・・・ホバリングしながら蜜を吸う様子がハチドリにそっくり。その腹部に丸い白い星があり、別名「蜂雀(ハチスズメ)」と呼ばれることから、「星蜂雀」と書く。
  • 特徴・・・全体的に焦げ茶色で、前ハネの内横線、外横線は濃い茶褐色。後ハネのイエローは比較的幅広く、飛んでいる時に良く目立つ。 
  • 年2~3化、7~11月。市街地や都市公園のアベリアやトチノキ(上の写真)、ハシドイ、キササゲなどの花々などで見られる。 
  • 食草・・・ヘクソカズラ、アカネなどのアカネ科植物。(写真:ハシドイの蜜を吸うホシホウジャク) 
  • 参考動画:ホシホウジャク burnt-spot hummingbird hawkmoth/FUMIHIKO HIRAI - YouTube
オオスカシバ
  • オオスカシバ(スズメガ科)
     羽化直後は、ハネに白い鱗粉がついているが、飛び立つ際にハネを震わせると鱗粉が落ちて透明になる。この大きな透明なハネをもつことから、「大透翅(オオスカシバ)」と呼ばれている。腹は緑色で太く、赤色帯があり、腹端に黒色の毛の束がある。腹面は白色。 
  • 仙台付近では普通に見られるが、秋田での記録は極めて少ない。梅津一史氏の採集記録によれば、2008年10月上旬、秋田市泉のクチナシについていた幼虫2頭を譲り受け飼育し、羽化させている。
  • 昼行性で、花に来る。年2化、6~9月。市街地でも見られる。 
  • 食草・・・クチナシ、アカミズキなどのアカネ科植物。幼虫は黄緑色で、尾に1本の角をもつ。大きな幼虫になるので、食欲旺盛。何匹もいたらクチナシの木などが大打撃を受けるほど。花びらもモリモリ食べる。 
  • 参考動画:オオスカシバの羽化~【Emergence of pellucid hawk moth】 - YouTube
参考:ハチドリ
  • 英語でハミングバードと呼ばれるハチドリ
     金属光沢のある美しい羽毛をもち、独特のホバリングで花の蜜を吸うことでよく知られている。ハチドリ類は、約350種もいる。その中で世界最小の鳥は、マメハチドリで、全長は6cm、体重はわずか1.6gしかない。特に南米のコロンビア、エクアドル、ペルーに分布するものが多い。
  • 名前の由来・・・ハチドリの名は、空中に止まるようにホバリングしながら花の蜜を吸う時、まるでハチのようなブーンと言う音を出す所からつけられた。英名のハミングバードも、羽音に由来する。
  • ハチドリ類は羽ばたきが非常に速く、ホバリングによって空中の一点にとどまることも、飛びながら後退することも自在である。このホバリング飛行は、花の前で前進・後退を繰り返しながら花の蜜を吸うためである。食物は花蜜以外に、花などに集まる昆虫類やクモを捕食したり、時には樹液を吸うこともある。
  • 深い花の蜜を吸う種は、クチバシが非常に細長い。一方、花の方では、形や色、匂いによって特定のハチドリを引き付けようとする。これは、ハチドリが花の蜜を吸う時に、花粉を媒介してくれるからである。
  • 参考動画:ハチドリの蜜を巡る戦い | ナショジオ - YouTube
  • ホシヒメホウジャク(スズメガ科)
     灰褐色に黒褐色の紋と地味な色で、アルミホイールのような角張ったギザギザ感があり、スズメガの仲間とは思えないような姿をしている。後ハネには、黄色い紋がある。ハチドリのように空中で羽ばたきながら止まって花の蜜を吸う。幼虫は、ヘクソカズラの葉を食べる。
  • キササゲの蜜を吸うホシヒメホウジャク
  • シモフリスズメ(スズメガ科)
     昼間は壁や樹幹などに止まって寝ているので、花の蜜を吸うガとは思えないが、夜になるとホバリングしながら花から花へ蜜を吸うという。灰色のハネに不連続な褐色条がまばらに入る。よく灯火にも来る。幼虫の食草は、イボタノキ、クサギ、シソなど。(写真:シモフリスズメの交尾) 
  • セスジスズメ(スズメガ科)
     コスズメに似ているが、本種は腹部背面に二本の白い筋があることで区別できる。全体的に直線的で、ハンググライダーや爆撃機のようにも見える独特な形をしている。成虫は夕方に花の蜜を吸う。幼虫は、サトイモやサツマイモの葉を食べることから、農家の人たちには害虫として嫌われている。非常に成長スピードが早い事でも知られている。
  • 名前の由来・・・背中の中心に明瞭な縦線があるスズメガの仲間だから。
  • 害虫として嫌われる幼虫・・・全身が黒く、眼のような形をした模様が背中に並ぶ。食欲が旺盛で、サトイモ、サツマイモの葉を食い荒らす。時には、数日で畑が全滅することもあるという。その他、ヤブガラシやノブドウ、ホウセンカなど、いろいろな植物の葉を食べる。
  • イモムシの名前・・・特にスズメガの幼虫の俗称で、サトイモやサツマイモの葉を食べることからイモムシと呼ばれている。
  • 参考動画:4K60P虫の眼レンズ セスジスズメ幼虫 - YouTube
  • ウンモンスズメ(スズメガ科)
     全体的に迷彩色のような薄い緑色の模様が美しい大型のガ。ただし茶褐色の個体もいる。後ハネは薄紅色。生きている時は美しい緑色を帯びているが、死ぬと色があせるという。灯火に集まる習性がある。
  • 成虫は5~8月に発生する。開張65~80mm。幼虫は、ケヤキ、ハルニレ、アキニレなどの葉を食べる。土の中でサナギになり越冬する。
  • キイロスズメ(スズメガ科)・・・腹の両側が黄色い。明かりに飛来するが、数は少ない。5~10月に現れる。開張50~120mm。本州以南に分布。
  • マドガ(マドガ科)・・・半透明な白色紋と黄色点がある小型種。5~10月に現れる。日中に訪花し、葉上でも見られる。
  • トラガ(ヤガ科)
     昼間に飛び、花に集まり蜜を吸う。前ハネの地色は黒色で、黄白色の大きな紋が並ぶ。外縁部には小紋列がある。後ハネは橙色で前縁中央から後角にかけて黒色となり、ハネ端部に黄白色紋があり、後ハネ基部と中央部に黒斑がある。
  • 年1化、5~7月に現れる。日中に活動する。食草は、シオデ、サルトリイバラ。 
  • チャマダラエダシャク(シャクガ科)
     低山地から山地に広く分布するが、個体数は余り多くないと言われている。秋田では、林道沿いのイタドリやオトコエシ、クサギなどの花々でよく見かける。白色と灰褐色の斑模様に明るい茶褐色の条紋が混じっている。♂の触角は櫛歯状で、♀の触角は糸状。
  • ・・・クロモジ、アブラチャンなど。 
  • 参考動画:チャマダラエダシャク【蝶のような大型の蛾】 - YouTube
  • トンボエダシャク(シャクガ科)・・・ヒロオビトンボエダシャクに似るが、本種は本体黄色模様が四角く規則的である点で区別できる。日中、穏やかに飛びながら、クリやヒメジョオン、シナノキなどの花で吸蜜する。開張48~58mm。北海道から九州まで分布。
  • 成虫は、6~7月に現れる。食草は、ツルウメモドキ。
  • ヒロオビトンボエダシャク(シャクガ科)・・・トンボエダシャクに似ているが、本種は本体黄色模様が不規則。6~7月に現れ、日中に飛翔する。食草は、ツルウメモドキ。
  • シロオビクロナミシャク(シャクガ科)・・・昼行性。ハネは黒地に白色の帯がある。山間部の渓流沿いや山道の湿った所に生息。* 年2化、5~8月に出現。
  • 食草・・・ツルアジサイ。
  • シロホソオビクロナミシャク(シャクガ科)・・・5~6月、8月に現れる。食草はルイヨウショウマ。
  • イカリモンガ(イカリモンガ科)
     茶色でやや角張った形のハネをもち、前ハネにはオレンジ色から赤色の鮮やかなイカリ状の帯があり、この特徴が名前の由来。ガの仲間だがチョウの仲間に似ている。日中に活動し、触角が細くハネをたたんで止まるなど、初めて見た時は、チョウの仲間だと思った。山間の渓流沿いでよく見られる。
  • 年1化、4~10月に現れる。成虫で越冬し春に見られる。新成虫は8月に出現する。
  • 食草・・・イノデ。何となくテングチョウに似ている。
  • キンモンガ(アゲハモドキガ科)・・・ハネの地色は黒で淡い黄色の斑紋がいくつも入っている。日中に活動するので、チョウだと思われることが多い。斑紋の大きさや形には個体差がある。さまざまな花を訪れ、蜜を吸う。幼虫はリョウブの葉を食べる。
  • 年2化、5~9月に現れる。食草はリョウブ。
  • キハダカノコ(ヒトリガ科)・・・昼飛性のガで、いろいろな草花の蜜を吸う。同じグループのカノコガと似ているが、腹部の黄色いバンドが2本なのはカノコガ、たくさんあるのはキハダカノコである。ドロバチに擬態している。
  • アゲハモドキ(アゲハモドキガ科)
     灰黒色で、翅の縁や尾錠突起は黒色、後翅に赤い斑紋がある。毒を持つジャコウアゲハに擬態していて、昼間に花の蜜を吸う。食草はミズキ、ヤマボウシ。 
  • ツメクサガ(ヤガ科)・・・初夏から初秋まで、日中は花を訪れ、よく動く。
  • 幼虫は、農作物の害虫・・・ダイズやアズキ、インゲンなどのマメ科作物のほか、テンサイ、アマなどを食害する。 
参 考 文 献
  • 「蛾の図鑑」(今井初太郎、メイツ出版)
  • 「日本の蛾」(岸田康則、Gakken)
  • 「ポケット図鑑 日本の昆虫1400」(文一総合出版)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「秋田市内のオオスカシバ幼虫の採集例」(梅津一史、2010年3月) 
  • 「イモムシの教科書」(安田守、文一総合出版)